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春の息吹と母の手



スズメとツバメの会話


朝の光が差し込む部屋で、光子と優子は高校に登校する準備をしていた。窓の外を見ると、電線の上でスズメの夫婦がピーチクパーチクと賑やかに鳴き交わしている。隣には、つばめの夫婦も止まっている。


「ねぇ、あれってどんな話しとると?」と優子。

頭の中で、自然とギャグ妄想が膨らむ。


――スズメの嫁さん:あんた、もうちょい仕事して稼いで来なさいよ!

――スズメの旦那さん:しょうがないじゃん。俺、リストラされたんやけん。

――スズメの嫁さん:ほんと、あんたってば…!毎日言うこと同じやん!


その様子を見ていたつばめ夫婦も、こそこそ話す。

――つばめの妻:あのスズメの夫婦、また喧嘩しよるんかいな。毎日毎日よー喧嘩のネタがあるもんやねぇ。

――つばめの夫:まぁ、ほっときゃええとよ。


優子は窓際でクスクス笑いながら、「もー、ほんと、スズメたちもギャグの天才やなぁ…」とつぶやいた。

光子も横で笑いをこらえながら、「うちも学校行く前に、こんな妄想で腹筋使いよるやん」と苦笑する。


こうして、まだ朝の準備の最中から、優子の頭の中は自然とギャグモード全開。スズメ夫婦もつばめ夫婦も、勝手に舞台装置として活躍してくれるのだった。




朝の福岡高校の教室。ホームルームが始まる前のわずかな時間、光子と優子は机に向かいながら、窓の外で見たスズメ夫婦とつばめ夫婦の妄想ギャグを始めた。


光子:「ねぇ、昨日見たスズメ夫婦、あんた毎日同じことば言いよるやん、言い訳ばっか!」

優子:「ほんなこつ、旦那さん、リストラされとったって毎日言い訳しよるもんね。嫁さん、あんたもうちょい働きんしゃいよ!」

光子:「いやいや、旦那さん、昨日も今日も言い訳ばっかで…『仕方ないっちゃ、リストラやけん』って!」

優子:「それでスズメの嫁さん、『あんた、いい加減学ばんと!』ってツッコミ入れよると。」

光子:「そんで横でつばめ夫婦が『またあの夫婦喧嘩しよるわ…毎日ネタ尽きんのかいな』って、冷静に観察しよると!」

優子:「つばめの旦那さん、『ほっときゃええっちゃ、うちも関わりたない』って。」

光子:「ほーら、もう朝から腹筋が限界やんか!」

優子:「もー、笑いすぎて朝ご飯食べられんばい!」


その声に反応して、教室の周りのクラスメイトたちも、こっそり耳を傾け始める。


光子:「じゃあ次は、スズメ旦那さんが嫁さんに『昨日も寝坊したやろ!』って怒られるとよ。」

優子:「そんで『そんなん知らんやん!』って言い返すと。」

光子:「さらに、つばめ夫婦が『また始まったわ、この夫婦の漫才』って呆れよると!」


あっという間に、クラス中の生徒たちは笑いをこらえられず、机を叩き、肩を揺らし、朝から腹筋崩壊の危機に陥った。


光子と優子は目を合わせてニヤリ。

光子:「ほら、朝からギャグでみんなやられとるやん。」

優子:「うちたち、これで今日一日のエネルギー、満タンばい!」


こうして、福岡高校の朝のホームルーム前は、光子と優子による“スズメ夫婦とつばめ夫婦ギャグコント”で、笑いの嵐に包まれたのだった。





光子と優子のギャグコントを聞いたクラスメイトの一人が、思わず声を上げた。


「なんちゅうネタのコントやねん!」


優子は机に肘をつき、にやりと笑う。

「ほんなこつやろ?でも、うちらの頭の中にはネタ帳が入っとるけん、無限に出てくるとよ。」


光子も負けじと続ける。

「そやけん、毎日こうやって朝から笑わせて、みんなの腹筋を鍛えよるばい!」


クラスメイトたちはあきれつつも、つい笑いをこらえられず、教室には笑い声が響き渡った。


優子:「ほら、笑いすぎて授業中寝られんごとなるやろ?」

光子:「うちたち、学校でギャグの授業まで始めた感じやね!」


こうして、光子と優子の“頭の中ネタ帳ギャグ”は、福岡高校の朝のホームルームを大混乱に陥れ、クラス全員の腹筋を破壊しつつも、笑顔を生む力となったのだった。






休憩時間。光子と優子は、教室の片隅で「パンクズのギャグコント」を開始した。机の上には、パンをちぎって並べた“パンクズアート”。


優子:「このパンクズの形、芸術的やろ?これ、家にやってくるスズメに食べさせよると。」

光子:「ほんなこつ、毎日食べてたら、スズメも高脂血症に高血圧に高血糖。メタボ一直線やけん!」


すると、先ほど電線で見かけたスズメ夫婦の声が、光子と優子の妄想の中から聞こえてくる。


スズメの嫁:「あんた、最近腹周りがめっちゃ出てへん?」

スズメの旦那:「そうかぁ?でも最近飛ぶのも結構しんどいかなぁ…」

スズメの嫁:「ほら見てみ。あんた、このままやったら、高脂血症に高血圧に高血糖、糖尿病なるで。どないすんねん!」


光子は小さく笑いながら、ツッコミを入れる。

光子:「ほんなこつ、スズメまでダイエットせんといかんやん!」


優子も負けじと続ける。

優子:「毎日ギャグが栄養になって、教室中みんな腹筋崩壊やけん、スズメも笑いすぎて運動不足かもね!」


クラスメイトたちは、教科書よりも目の前の“パンクズギャグ”に夢中で、休憩時間は笑いの嵐。パンくずアートとスズメ夫婦の妄想コントで、またしても福岡高校はカオスな空間と化したのだった。





昼休みが近づく頃、光子と優子の「パンクズギャグコント」は、教室の隅だけに留まらず、廊下を歩く生徒や他のクラスにも伝播していた。


優子:「ほら見てみ、こげな形のパンくず、毎日スズメにやったら、あんたも糖尿病なるっちゃけん!」

光子:「せやけん、嫁さんも旦那さんも、運動せんといかんばい!毎日飛ばなあかんとよ!」


廊下を通りかかった紗奈も、思わず足を止めて笑った。

紗奈:「うわ〜、ほんとにギャグの教科書作れそうやん。光子さん、優子さん、頭の中にネタ帳入っとると?」

光子:「うん、うちらの頭ん中、ほぼネタ帳やけん。」

優子:「それに、見てみ。ほら、春介と春海のギャグも真似して、これが次世代ギャグ師匠の修行になっとるとよ。」


教室の窓際、光子と優子が見上げると、例の電線でスズメ夫婦とツバメ夫婦が、またピーチクパーチクと会話しているのが見えた。


光子:「優子、あの夫婦の会話、今日もネタになりそうやね。」

優子:「せやけん、想像してみよ、あんた、もうちょい稼いでこいや!って。」


妄想の中で、スズメ夫婦は再びギャグバトルを展開する。


スズメの嫁:「あんた、また昼寝ばっかしとるやん!飛ばんと脂肪がつくばい!」

スズメの旦那:「いや〜、飛んだら疲れるったい。もうちょい休ませてくれんね?」

スズメの嫁:「ほら、見てみ。ほんなままやったら糖尿病まっしぐらやけん!」


優子:「これを見たら、スズメまで健康管理せんといかんばい!」

光子:「笑いすぎて飛ぶ暇もなかとね。」


そのとき、教室のドアが開き、三年生の吹奏楽部部員たちがやってきた。


佐伯拓也クラリネット:「ちょっと待てよ、なんちゅう休憩時間やねん…みんな笑いすぎやろ。」

大崎滋トランペット:「光子と優子、また廊下までギャグ飛ばしよるし…」

小春ピアノ:「ほんと、みっちゃん、ゆうちゃん、学校でもお母さんやね。」


そのまま昼休みが終わり、午後の授業が始まると、教室の笑いの余韻がまだ残る中、声楽科の授業が始まった。


声楽の先生、戸畑昌恵:「さあ、みなさん、声の出し方から確認しましょう。ウォームアップ!」

光子と優子は顔を見合わせ、小さくニヤリ。


光子:「ほら、またギャグのウォームアップやね。」

優子:「せやけん、腹筋も声もフル稼働やけん!」


授業中も、二人の妄想ギャグは声のアクセントに乗って、周囲のクラスメイトの笑いを誘う。小春もつられて笑いをこらえながら、ピアノの伴奏に集中する。


休み時間には、光子と優子が作った“パンクズアート”のギャグコントが、再び教室の端から端まで伝わり、みんなおやつを手にしながらも、笑いすぎてなかなか食べられない状態に。


光子:「みんな〜、食べさせて〜、笑いで腹減るばい!」

優子:「ほら、笑いすぎて味がわからんやろ?」


その日の放課後、吹奏楽部の練習に参加した光子、優子、小春は、今日の授業と休憩時間の爆笑ギャグの余韻を胸に、楽器を手にしながら真剣に音を合わせた。


光子:「優子、練習も笑いも両立やけん、今日も充実やね。」

優子:「せやけん、学校生活も部活も楽しいっちゃけど、スズメ夫婦ネタが頭から離れんばい。」


その夜、美香のマンションに戻ると、双子の春介と春海は眠りの中。光子と優子は、赤ちゃんたちの寝顔を見つめながら、心の中で今日のギャグコントを再現して微笑んだ。


光子:「せやね、明日も学校でパンクズギャグ、炸裂させよっか。」

優子:「うん、次はもっと笑いの破壊力あげて、教室中をカオスにせんばね。」


マンションの夜は、笑いの余韻と共に静かに更けていった。しかし、光子と優子の頭の中には、もう次の“スズメ夫婦とパンクズ”ギャグの構想が生まれ始めていたのだった。





部室に入ると、朝の光が木の床に差し込み、管楽器や打楽器の光沢がきらめく。今日から本格的に練習が始まるのは、ヴィヴァルディの『四季』より「春」。クラシックの名曲として名高いこの曲に、光子たちは胸を高鳴らせた。


光子はチューバを構え、低音の重みを感じながら息を整える。優子はスネアドラムとシンバルの位置を確認し、緊張しつつも心躍る表情。小春はピアノの前に座り、鍵盤の感触を確かめる。紗奈はフルートを軽く唇に当て、深呼吸。


「よっしゃ、みんな、今日から本格的に行くばい!」

光子が低音の響きとともに声を出す。


「小春、ピアノばしっかり聞きよるね!」

優子がスティックを振り上げ、軽くリズムを刻む。


「フルートの紗奈も、音程ば気張りんしゃい!」

光子がチューバの重みを感じながら指示を出す。


「ほんなこつ、今日はギャグなしで集中するばい!」

小春が鍵盤に手を置きながら笑顔でつぶやく。


最初の音が部室に広がる。チューバの低音が床に振動を伝え、パーカッションのリズムが心臓に響く。ピアノの旋律が全体を柔らかく包み込み、フルートが軽やかに空気を震わせる。


「おぉ、みんな、合わせんとあかんね!」

優子がリズムを確認しながら叩く。


「うん、光子の低音、どっしりしとるけん、安心するばい!」

紗奈がフルートの息を整えながら言う。


「小春のピアノがアクセントになっとるばい!」

光子が微笑む。


音が徐々に一つにまとまり、ヴィヴァルディの春が部室いっぱいに広がる。明るく軽やかな旋律が、まるで春のそよ風のように心を満たす。


「ほら、みんな、ここば丁寧にやろうや!」

光子がチューバを響かせながら指示。


「リズムは合わせんといかんばい!」

優子がシンバルを軽く叩き、全体を確認する。


「フルートも、もっと声ば伸ばしてね!」

小春が鍵盤を叩きつつ微笑む。


一度止めて、光子が部員全員を見回す。

「みんな、音程もリズムもばっちりや。次は曲の強弱や表情ば意識して、春の躍動感を出すけん!」


紗奈も息を整えながら頷く。

「うん、やる気出てきた!」


四人は笑顔で楽器に向かい、再び音を重ねる。ヴィヴァルディの春が、吹奏楽部の部室に息吹を与え、まるで小さなオーケストラのような熱気が溢れるのだった。





吹奏楽部の部室に響く音が、だんだん一つにまとまっていく。光子はチューバの低音で土台を支え、優子はパーカッションでリズムを刻む。小春はピアノで旋律の間を埋め、紗奈はフルートで軽やかに空気を揺らす。


「うん、他のパートと合わせたら、意外と合っとるばい!」

光子が低音の振動とともに笑顔で言う。


「初めてにしては、まぁまぁの出来やね!」

優子もスティックを置いて、胸を撫で下ろす。


そのとき、三年生の先輩が近づいてきた。

「おお、光子、優子、小春、紗奈。普段からファイブピーチ★で演奏しよるだけあって、筋がいいねぇ。」


「ありがとうございます、先輩!」

小春がぺこりと頭を下げ、笑顔で答える。


練習を終えて帰り道、いつものように三人で歩きながら、ギャグコントが始まる。


「ねぇ、ヴィヴァルディの『春』っちゅう曲、よく聞くとさぁ…音符が全部スズメの鳴き声みたいやん?」

光子が腕を振りながらふざける。


「ほんまや、あのチュッチュッいう音、スズメ夫婦が喧嘩しよるみたいやん!」

優子も頭を抱えて笑う。


「小春はピアノのこのトントンってとこ、あれ絶対パンくずば撒きよる雀の足音やん!」

光子が言えば、小春も負けじと返す。


「ほんとや〜、フルートのぴよぴよ音、まるで新婚スズメ夫婦のラブラブ囁きやん!」

紗奈も加わって、全員大爆笑。


「もう、腹筋がもたんばい!」

光子が笑いながら転びそうになる。


「ほら、見て見て、この即興コントば、毎日練習せんでも出来るやん!」

優子が手を叩いて笑う。


「これ、明日も学校で披露せんといかんやろ!」

小春が笑顔で言うと、紗奈も同調。


帰り道の空気は、クラシックの春の旋律と、彼女たちのギャグでいっぱいに満たされ、まるで笑いと音楽が同時に花開く春の午後のようだった。





拓実と一緒に




帰り道、春の陽射しが柔らかく照らす校庭の横を歩いていると、体育コースのジャージ姿の拓実が一人で歩いているのを見つけた。


「おっ、拓実、一緒に帰ろうや!」

優子が手を振って声をかける。


「おぉ、優子やん。声楽科はどげんな感じ?」

拓実が少し息を切らしながらも笑顔で聞く。


「めっちゃ楽しいよ〜。うちら、朝からギャグかまして、みんな大爆笑やけん!」

優子は両手を広げ、誇らしげに答える。


「まぁ、お前ららしいな…」

拓実が笑いながら首を振る。


「体育コースはどうなん?」

光子が聞き返すと、拓実は少し息を整え、肩で息をしながら答えた。


「結構きついぞ〜。何かしら体動かしよるけん。授業が終わったら、卓球部の練習もあるし。」

拓実は汗をぬぐいながら少し自慢げに言う。


「そっかぁ、体育コースも大変やね〜。」

光子が微笑む。


「でも、体育やっとるから、体力はつくばい。」

拓実が胸を張る。


「うちらはギャグと声楽で鍛えとるけん、腹筋だけは自信あるばい!」

優子がニヤリと笑い、みんなの笑いを誘う。


三人と一人で並んで歩く帰り道、声楽科の笑いと体育コースの汗と努力の両方が、春の夕暮れに混ざり合っていた。




拓実と優子、映画デート



日曜日の朝、空は雲ひとつない快晴。優子は少しそわそわしながらも、楽しみにしていたデートの準備をしていた。


「拓実、今日はどげんな映画観に行くと?」

「サスペンスものや。ハラハラスリルのある展開やけん、手に汗握るやろ。」

拓実はにこやかに答え、優子の手をぎゅっと握った。


映画館に着くと、暗闇の中、スクリーンに映し出される緊迫したシーンに二人とも釘付けになる。優子は思わず手に汗を握り、胸の奥がドキドキするのを感じた。拓実も真剣な表情でスクリーンを見つめていた。


映画が終わると、二人は少し気を抜き、近くのミスタードーナツへ。

「ほら、今日のおやつやけん、何でも好きなもん選びなっせ。」

拓実が優子に笑いかけると、優子も嬉しそうにドーナツを選んだ。ふたりで頬張りながら、映画のシーンを振り返って笑い合う。


その後、二人は美香お姉ちゃんのマンションへ。春介と春海の顔を久しぶりに見られるのが、優子にとっても楽しみのひとつだった。


「おお、美香お姉ちゃん!今日は光子は?」

優子が聞くと、美香は微笑みながら答えた。

「光子もなんか用事があるみたいやけん、今日はおらんとよ。」


優子は少し心配そうに、でもすぐに笑顔で言った。

「そうなんや。たくみくんとのデートやのに、いいと?」


拓実は優子の肩に手を置き、にこやかに答える。

「さっきまで映画館におって、おやつも食べてきたし、俺も優子と結婚して、子供が生まれたら、こうしたこともやっていくことになるやろ。春介くんも春海ちゃんもかわいいけん、ずっと見ときたいし。」


美香は嬉しそうに微笑み、赤ちゃんを抱き上げながら「ほんなら、今日は手伝ってくれるね?」と優子と拓実を見渡す。


優子と拓実は赤ちゃんをあやしたり、おむつを交換したり、初めての体験に少し戸惑いながらも笑顔が絶えなかった。春介と春海も、二人の優しさに安心した様子で、静かに手足をバタバタさせる。


「ほら、春介くん、気持ちよかろ?」

優子が笑顔で声をかけると、春介は小さな手を伸ばして優子に触れる。


「春海ちゃんもおむつ変えられて気持ちよかねぇ。」

拓実が春海を抱き上げ、優しくあやすと、春海はにっこり笑った。


優子はふと、赤ちゃんたちを見つめながら心の中で思う。

「うちらも、いつかこうして小さな命を守って、愛情注いでいくんやね…。」


時間はあっという間に過ぎ、夕方近くになると、二人は笑顔のまま美香に別れを告げ、帰路についた。手には、今日一日の思い出と、少しだけ育児の達成感が残っていた。




楽団に復帰



夕暮れ時、アキラが楽団の練習を終えて帰宅すると、美香はリビングで双子の春介と春海をあやしていた。赤ちゃんたちは穏やかな表情で笑っている。


「ただいまー!」アキラが声をかけると、春介と春海が小さな手を伸ばして反応する。


美香は笑顔で立ち上がり、アキラの方へ歩み寄る。

「ねぇ、アキラ。私もだいぶ体力が回復してきたし、そろそろ楽団の方に復帰しようかと思うと。」


アキラは少し驚いた表情を見せながらも、優しく答える。

「おお、そうなんや。無理せんとやけど、大丈夫なんか?」


美香は頷き、少し誇らしげに続ける。

「うん。もう、楽団内の託児所の入所手続きも済んどるし、来週から預けることができるようになると。」


アキラはふっと笑みを浮かべ、安心した様子で言った。

「そしたら、俺はいいと思うよ。お前が大丈夫ならな。」


美香も笑顔で応える。

「ありがとう。じゃあ、また私も演奏に戻れるばい。春介と春海も託児所で楽しんでくれるやろうし。」


アキラは赤ちゃんたちを見ながら、静かに心の中で思う。

「美香が戻るなら、楽団もまた活気づくやろうな。子供たちも、笑顔いっぱいで過ごせる。」


リビングには、双子の笑い声、美香の朗らかな声、そしてアキラの穏やかな笑みが混ざり合い、静かでありながら温かい空気が流れていた。




週明けの朝、美香は双子の春介と春海を抱えて、楽団内の託児所へ向かった。小さな手足をちょこちょこと動かし、まだ眠そうな目であくびをする二人を見つめ、微笑みがこぼれる。


「さぁ、今日からお利口さんにしとってね。お母さん、演奏に行ってくるけん。」


春介は小さく「あー…」と声を出し、春海も手をちょんと伸ばして美香の胸に触れる。見ているだけで愛おしさが溢れ、母としての覚悟がまたひとつ深まった。


託児所のスタッフに赤ちゃんを抱き渡すと、春介も春海も安心したように笑顔を見せる。美香は深く頷いた。


「よろしくお願いしますねー。お母さん、もう大丈夫そうですよ。」

「うん、ありがとう。じゃあ、行ってくるけんね!」


楽団の練習場に足を踏み入れると、久しぶりの空気と音に胸が高鳴った。仲間たちはすでに準備をしており、笑顔で迎えてくれる。


「おお、美香!待っとったばい!」

「おかえりー!」

その声に、自然と美香の頬も緩む。


この日は新しい曲の練習日で、光子と優子は高校で授業中のため参加していない。美香は彼女たちの分までしっかりと音を鳴らそうと決意を固める。チューニングの音、パーカッションのリズム、ベースとピアノの低音と旋律が重なり、室内が生き生きとした音で満たされていく。


「久しぶりやけど、やっぱりこの空気、ええなぁ…」

独り言のように呟きながら、美香は指揮者の合図に従い、音楽に集中する。


休憩時間には、仲間たちと即興で小さな笑いも交えつつ、演奏の合間にリズムやメロディの調整を繰り返す。光子と優子がいなくても、楽団の中で自然と笑顔がこぼれる。


午後の練習が終わると、美香は託児所に駆け戻る。春介と春海は少し眠そうな顔で、でも楽しそうにスタッフと遊んでいた。抱き上げると、二人の小さな手が美香の首に絡まる。


「ただいま、春介、春海。お母さん、頑張ってきたばい。」


赤ちゃんたちの温もりを胸に、美香はこの日一日の充実感を噛みしめる。授業で忙しい光子と優子が帰宅するまでの間、赤ちゃんと向き合いながら自分の役割を全うできる喜びが心に広がった。


夜、家族で夕食を囲むと、美香は今日の練習や赤ちゃんの様子を報告する。アキラは微笑みながら、「お母さん、よく頑張っとるね。」と一言。光子と優子は授業後に帰宅し、二人の笑顔で赤ちゃんを見つめ、また笑い声が家中に響く。


こうして、光子・優子は高校生活の学びに集中しつつ、美香が音楽と育児の両立をする日々が始まった。家族と音楽、笑いと愛に満ちた時間は、これからも少しずつ積み重なっていくのだった。




春の息吹と母の手




美香は春介と春海を車の後部座席のベビーシートに乗せて、福岡市内の小児科へ向かった。朝の空気が心地よく、車の中にはまだ少し眠そうな二人の呼吸が聞こえる。


「さぁ、春介、春海、今日も頑張ろうね。」

「ん〜…」と小さな声を上げる春介。春海も手足をちょこちょこと動かす。美香は微笑みながら、そっと背中をさすった。


小児科に到着すると、受付を済ませ、順番を待つ間に春介と春海の様子を見守る。やがて診察室に呼ばれ、医師が丁寧に赤ちゃんたちを観察し始めた。


「春介くん、春海ちゃん、順調に育っとりますね。体重も身長も標準です。」

美香は安心して小さく頷いた。


医師が優しく問いかける。

「お母さんは、何か不安なことや悩みはありますか?」


美香は少し息を吐き、正直に答える。

「夜中でも起きるけん、どうしても寝不足で…。体も疲れとります。」


医師は優しい笑みを浮かべて言った。

「それは当然ですよ。乳幼児期は特に夜泣きもありますから。ご自分の体調を一番に考えながら、周りに頼れる人がいたらサポートをお願いしてくださいね。」


美香は頷き、春介と春海の手をそっと握った。

「はーい、ありがとうございまーす。二人とも順調でよかったばい。」


診察を終え、待合室で少し休憩。春介と春海が笑顔を見せると、美香の疲れも一瞬だけ和らいだ。

「やっぱり、この笑顔のためなら、どんなに眠くても頑張れるばい。」


母としての実感が胸に広がる中、美香は再び車に乗り込み、二人を抱きしめながら家路についた。


マンションに戻ると、今日はあえて休みを取った美香は、リビングにクラシックのBGMを流す。ヴィヴァルディやモーツァルトの優しい旋律が部屋中に響き渡る。春介と春海は柔らかな音色に包まれ、次第にうとうとと眠り始めた。


「ほら、音楽ってええねぇ。」美香もそっと微笑む。双子と一緒に布団に入ると、手を握り合い、静かに目を閉じる。小さな胸の鼓動が伝わり、母としての幸福感が胸いっぱいに広がる。


部屋の時計が静かに時を刻む中、外の街の音も徐々に遠のき、室内には音楽と静寂、そして微かな呼吸だけが残る。美香は自分の心をゆっくりと解き放ち、双子と共に、春の午後の温かな夢の世界へと沈んでいった。




母の手料理




夕方の柔らかい光が差し込むマンションのリビングに、インターホンの音が響く。「ピンポーン」


美香が扉を開けると、そこには優馬と美鈴がにこやかに立っていた。


「お父さん、お母さん、ありがとう〜!」美香は笑顔で両手を合わせる。


優馬は部屋の中をちらりと見渡し、声をかけた。「春介と春海はどうしとる?」


「今はおもちゃで遊んどるよ。」


その瞬間、リビングから小さな鳴き声が響く。どうやら、二人のおもちゃの取り合いが始まったらしい。


美香は素早く春海を抱き上げ、やさしく目を見つめながら手を動かす。「よしよし、落ち着こうねぇ。」


春海は小さな手を伸ばし、まだぎこちない笑顔を見せる。美香はその笑顔に心がほころぶのを感じた。


美鈴が持ってきた紙袋をテーブルに置きながら、にっこりと笑う。「美香も疲れとるやろうから、晩御飯持ってきたとよ。一緒に食べる?」


美香は軽く首を振り、「私はいいけど、光子と優子は?」


美鈴は笑顔で答える。「二人には今日は自分で作って食べなさいって伝えてあるけん、大丈夫。二人で何か作って食べよるっちゃろ。」


美香も頷く。「光子も優子も料理上手やけんね〜。」


部屋の中は、柔らかな笑いと小さな赤ん坊の声が交錯し、優しい夕暮れの空気に包まれていた。


三人でテーブルを囲むと、美香はゆっくりと息を吐き、ほっと一息つく。「こうして、家族で過ごせる時間って、本当にありがたいなぁ。」


優馬はにっこり笑い、「今日も元気そうやね。春介と春海も、元気に育っとるみたいやし。」


美鈴は手際よく料理を取り分けながら、「赤ちゃん二人を見ながらの毎日、大変やろうけど、こうして家族がそばにおるけん大丈夫よ。」


美香は心の中で深く頷く。光子と優子、春介と春海、そして両親の愛に包まれた日常。それは、どんな困難も乗り越えられる力になる、かけがえのない瞬間だった。

 









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