ここからが本当の異世界ゾンビ映画だ
俺たちは砦を抜け出し、夜の森をさまよった。
松明の火は目立つから、闇の中を手探りで進むしかない。呻き声は絶えず聞こえ、何度も群れに見つかりそうになった。
途中、仲間の一人が噛まれた。
必死に「まだ助かる」と訴えたが、聖魔法は効かず、数分後には牙を剥いた。
俺は涙目の聖職者の代わりに、剣で頭を砕いた。
──これもまた、お約束だ。噛まれた仲間は、もう戻ってこない。
夜の間に、俺たちは幾度となくゾンビの波を退けた。
眠ることもできず、震える手で剣を握り、背中を壁に預けながら必死に夜を耐えた。
空が白み始めた頃には、生き残ったのは俺と数人だけだった。
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ラスト
夜が明け、街はほとんど崩壊していた。建物は燃え、瓦礫の隙間から呻き声が絶え間なく響く。生き残ったのは、俺と数人の冒険者だけ。
仲間の一人がぽつりとつぶやいた。
言葉はわからないが、聖職者が小さく訳す。
「……もう人間よりゾンビの方が多いんじゃないか?」
俺は静かにうなずき、握った血まみれの剣を見下ろす。映画だったら、ここで「希望の光」が差し込む展開があるはずだ。だが、この世界にはエンドロールは流れない。続くのは、現実の生存戦争だけ。
それでも、俺は笑ってしまう。
「異世界チートもスキルも、俺にはなかった。でも……ゾンビ映画を観すぎた知識だけで、まだ生きてる」
遠くの森から、また新たな群れが現れる。
呻き声の中には、鎧の軋む音、魔法の詠唱まで混じっていた。
空気が死と恐怖の匂いに満ちていく。
俺は剣を構えた。
──さあ、続きを始めよう。ここからが本当の異世界ゾンビ映画だ。