よかった……ここなら生き残れる
なんとか逃げ延び、俺たちは砦に辿り着いた。高い石壁に囲まれた拠点。冒険者や避難民でごった返しているが、ここなら安全そうに見えた。
「よかった……ここなら生き残れる」
聖職者が安堵したように話す。彼女の顔には、まだ希望があった。
だが俺はわかっていた。
ゾンビ映画で“安全地帯”って言葉は、だいたい破滅フラグだ。
数日後、そのフラグは盛大に回収される。
砦の中で発熱した兵士がいた。
「ただの熱だ」と周囲は言ったが、俺はすぐに悟った。これは“感染隠し”の典型パターンだ。聖職者は何度も隔離するように話しているが、怒号で返されていた。
「あいつはだめだ。できるだけ離れよう。あともしかしたら生存者の中に裏切り者が出るかもしれない」
「そんな…」
結局その夜、想像通り兵士はゾンビへと変わり、壁の中は地獄が広がった。
さらに、異世界ならではの“進化系ゾンビ”まで現れた。聖職者が鑑定!と叫ぶ。
聖職者が言うには鎧を着たまま死んだ兵士は「アーマーゾンビ」になったという。剣を振るいながら突進してきた。スケルトンと混じった奴は骨を鳴らし、頭を砕かれても這い寄ってくる。さらには魔術師がゾンビ化して、炎の魔法を唱えながら突っ込んできたときには、全員が絶望の顔をした。
「ちょっ、魔法使うゾンビってありかよ!? 映画じゃ見たことないぞ!」
俺が叫ぶと、聖職者も叫んだ。
「今まであんなゾンビでてこなかったのに!」
混乱の中、さらに最悪なことが起こった。
倉庫を守っていた男が仲間を騙し食料を独占しようと扉を閉ざし、挙句に火を放って自分だけ砦から抜け出した。裏切り者だ。
炎は瞬く間に砦を飲み込み、瓦礫と炎を背に“進化ゾンビ”たちが進軍してくる。
「壁が崩れる!」
「もう終わりだ……!」
俺は心の中でうなずいた。
──これもゾンビ映画のお約束だ。結局、人間の愚かさがトドメを刺すんだ。
俺たちは必死に逃げ延びるしかなかった。聖職者が泣きながら呟く。
「どうして、どうして誰も信じてくれなかったの」