頭を狙って!
気がつけば、俺は異世界にいた。
まあ、このセリフは異世界転生モノの冒頭テンプレだ。だが、俺の場合は違う。転移先が「ゾンビ映画の世界」だったのだ。
村の広場のど真ん中、俺の目の前で住民が食われている。しかも噛まれて倒れた奴が、数分後には立ち上がって「アアアアア……」とか呻きだす。完全にゾンビ映画のお約束じゃないか。
「な、なんでこうなるんだよ……!?」
「逃げろ! 聖魔法が効かねぇ!」
戦士らしき男が叫ぶが、背後からゾンビに抱きつかれて悲鳴を上げ、あっという間に地面に倒された。剣で胴体を両断しても、ゾンビは腕一本で這ってくる。頭を潰さなきゃ止まらない。
俺は震える手で拾った棍棒を握りしめる。
そうだ、ゾンビ映画で学んだじゃないか。
頭を狙え、音を立てるな、仲間が噛まれたら……。
もう、あきらめろ。
だが問題が一つあった。俺には、この世界の言葉がさっぱりわからない。
冒険者たちの怒号も悲鳴も意味不明だ。
もしかしたら俺が何か助言したとしても、同じように意味不明な叫びに聞こえないだろうか。
「あなた! 頭を狙って! それが唯一の止め方です!」
ただ一人、白いローブの聖職者だけが俺に向かって日本語で叫んだ。なぜか彼女だけは俺に言葉が通じるらしい。俺は心の底から思った。
頼れるのは、この人だけだ。
異世界だろうが関係ない。
ここからは俺が映画マニアとして生き延びてきた知識の出番だ。
そう思い、戦士に覆い被さるゾンビの頭目掛け、棍棒を振り下ろした。