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第8話【預言に頼って】

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ワネグァル王国南 集会所


 朝。柔らかなベッドと小窓から差し込む日差し。街からは、馬車の車輪が転がる音と人の声が微かに聞こえてくる。


「あぁ……いてぇ……」


 昨日の夜、一生記憶に残るであろう経験をした。その左足の傷が痛む。


「ジョン、起きろ。朝だぞ」


 隣のベッドで眠る親友に声をかける。伸びをしながら体を起こし、隣のベッドに目をやると、そこには誰もいない。


「ジョン……?」


 疑問に思いつつも、立ち上がり自分の身体を見回した。


(怪我もひどいが、汚れもひどいな。あいつこんな状態で何処に)


 疑問に思いつつも、部屋を出る。二階の廊下から受付の部屋を見渡す。依頼を受けに来た客一人と、受付嬢が話をしていた。それ以外は、誰もいない。階段を降り、客の背中に付き受付に並ぶ。


「お疲れ様でした。こちらが報酬になります」


「またくるよ」


 金の入っている袋を受け取り、客は外へ出て行った。前へ進み、ルウへ話しかける。


「あ、マイケルさん。おはようございます。よく眠れましたか?」


「あ? 悪い、何だって?」


「え? すみません、もう一度……もう、そうだった」


 双方一瞬の戸惑いを見せたが、相手の事を思い出すと納得した様子で頷いた。ルウはマイケルに向けて手をかざし、魔法を使う。


アウラメス(想いを伝える魔術)


「そういえばそうだったな」


 マイケルはすっかり受け入れ、自分を包む光が消えるのを待った。ルウは光が消えたのを見ると、改めて声をかけた。


「マイケルさん。おはようございます。よく眠れましたか?」


「おはよう。最高の寝心地だったよ。いきなりで悪いんだが、ジョン知らないか?」


「ジョンさんでしたら、奥の書斎にいますよ」


「どうも」


 直ぐ隣にある扉に手をかけ、開ける。一番手前には、本を積み上げて何かをメモするジョンが座っていた。直ぐ側に寄り、背後から声をかける。


「おはよう。小汚い格好で何してるんだ?」


 服の右肩の辺りには、穴が空いており、何かが貫通したということが分かった。血の滲んでいる肩の穴から、包帯が少し覗けた。


「ん? あぁおはよう。勉強だ勉強」


 A4サイズのノートを本の隣に置き、見慣れない形の何かを書き写している。その動作をみるに、痛みは無さそうだった。


「お前、ノート買う金なんてどこから」


「ルウさんに相談したらくれたんだ。俺も遠慮しようかとは思ったが、今は甘えるしかないんでね」


 紙が雑に束ねられたものだったが、書き物をするには十分なものだと言える。


「なるほどな。で、今は何の勉強を?」


「文字を覚えてる」


「あー……文字?」


「見てみろ」


 ジョンは重ねられた本の一冊をマイケルへ手渡した。マイケルは本を開いてみたが、一番最初のページから進むことはなかった。


「だめだ。全く分からない」


「だろ? 魔法ってやつでも、字は読めるようにならねぇらしい。元の世界のこと調べようにも、これじゃお手上げだ。だからまずは、基本的な文字の書き写し。さっきルウさんから、発音は一通り教えてもらった」


「それ、どのぐらいで習得できそうなんだ?」


「わかんねぇな。今はまだアルファベット覚えてるぐらいのもんだ。期間把握できるほど進んじゃねぇ」


 そういうジョンの顔には、笑みがこぼれていた。


「相変わらず勉強好きだな」


「おもしれぇからな。お前も読み書きぐらいやれよ」


「もちろんやるさ」


 マイケルは薄っぺらく返事をした。


「ったく、ホントかよ。まぁ丁度良い。勉強嫌なら外歩いて色々聞き回ってこい」


「了解。お前はずっとここでお勉強か?」


「いや、昼過ぎに教会で授業やってるんだとよ。ちょいとそこを覗いてみる」


 マイケルは勉強をサボる為、街へと歩いていった。


    ◇


 同時刻、南の王城内にて。


「ふむ……」


 ワネクは調査報告書に目を通し、思案に暮れていた。


(各国に現れた言語を発する魔物に関する情報……)


 現在各国には、同時多発的に言語を発する魔物が現れていた。基本的に魔物は知能が低く、喋るような事はない。しかし、魔物は特殊な身体構造と生態故に、外的要因で突発的な変体を起こしやすい。変体を起こした結果、混乱し町を襲うことや、反対に人間へ友好的になることもある。


(周辺の町や村にも確認された、か。)


 つまり言語を発する魔物とは、何かを原因に通常の個体が変体したものである。


(原因は不明。周辺の状況から、偶発的な物であると考察。再現性はなく、人の関与もない。ただし)


 言語を話す魔物。

 それだけであれば、問題はなかった。


(発見された個体はいずれも凶暴化状態であると断定。凶変個体と指定し、早急な討伐を要請する)


 突然変体に加え、凶暴化した魔物は非常に強力であり、討伐が困難なケースが多い。


(……過去がちらつくな)


 ワネクの経験上、そうした魔物が大量に発生する場合、大規模な環境異常が起こっている可能性が高い。環境異常の予兆でもある、凶悪なその個体は、凶変個体と呼ばれる。森林でマイケルとジョンが遭遇したスライムも、現在は凶変個体と認定されていた。


(我々の兵力を持ってしても、各国に散らばる凶変個体を凌ぐのは至難。しかし、何も考えず予言に従うのは更に危うい)


 ワネクが自らの目で見た予言の者は、ごくごく普通の人間であった。記憶も曖昧で、ただ元の世界に戻りたいと願う人間。それが予言の通りの働きをしてくれるとは、到底思えなかった。


(世に泰平をもたらし、魔王を再臨させるなど、予言でなければあまりに無稽な話だが……)


 しかし、今まで予言は外れたことがなく、信憑性は十分に高い。


(魔物を野晒しにして惨事を起こすより、藁にも縋るべきか)


 ワネクは決意した。

 予言に従い、異界の者を世界へ旅立たせると。


「サラ、緊急会議だ。三人を呼べ」


    ◇


 夜。ジョンは朝から勉強を続けていた。時折書斎にやってくる他の客と話をする程度で、休憩らしい休憩は無く、他は全て語学勉強に費やした。


(久々に一日中勉強したな。こんなん何年ぶりかね)


 伸びをして辺りを見回す。元の世界の癖で時計を探すが、この部屋には見当たらない。そろそろ今日は終わりにしようと、席を立つ。直後、扉が開き一人の受付嬢が現れた。


「ジョンさーん? ずっと勉強してらしたんですか?」


「あぁ。とりあえず、文字は読めるようになった。意味はわかんねぇが」


「凄いじゃないですか。一日で読みが出来るようになるなんて」


「ルウさんが助けてくれたからな」


 ルウは仕事の合間を縫って、ジョンの手伝いをしていた。客が一時的に途絶えれば、書斎に行き、文字の読み方や発音を繰り返し教えていた。そんな彼女は、今日の成果をみるべく、ジョンが離れようとしていた席まで近づく。


「いえいえ、これだけはやく習得できるのは、ジョンさんの努力があってですよ」


 ルウは開かれたノートを覗き、拙い字の並ぶページをみた。ルウのわかる文字の下には、アルファベットで発音や単語の意味が書かれていた。


「なんだ……その、ありがとう。んなことよりよ、マイケル知らねぇか?」


 ジョンは小っ恥ずかしそうに話題を変えた。それを聞いて、ルウは何かを思い出したようにハッとする。


「そのことなんですが、「夜には帰る。もしかすると進展があるかも知れない」と。お昼におばあさんを連れて、そう言っていました」


「ほう? アイツも適当にほっつき歩いてた訳じゃねぇんだな。なら、期待して待つか」


 ジョンはノートを持ち、肩を回した。


「今日もここに泊まると思うんだが、良いか?」


「はい。引き続き、あちらの部屋をお使いください」


「どうも。ああ、あと。今日の日付教えてくれるか? 年数も頼む」


「今日は王歴五百九十七年、夏期の二十三日です」


 ジョンは何月の何日、という返答が返ってくると思っていた為、もう一度聞き直す。


「夏の……? えっと、季節じゃなくて、月は?」


「月……? ……すみません、一度お互いの世界の一年をすり合わせをしましょう」


 部屋を出ようとしていた二人は、椅子に座る。ルウは思考を整理し、お互いの世界での、一年という概念のすり合わせを提案した。この世界に来てから、お互いに触れてこなかった話題である。その為、話がかみ合わないのにも理由があると、二人は考えた。


「そうだな。それが良い」


 ジョンは元の世界、地球での一年を教えた。一年は十二等分されており、一ヶ月は約三十日程、一週間は七日であるとルウに伝えた。


「……まぁ大体そんな感じだ」


「へぇ~! 何でそうなのかとか、色々聞きたいですが……今は私が話す番ですね。まず私たちの世界では、一年は四等分されています。春期、夏期、秋期、冬期の四つです。そしてこの期間が一つ終わるまで、九十六日。一週間はそれを十二等分した八日です」


 この世界では、四季によって期間を区切っているらしい。


「変な区切り方だな。一ヶ月が百日近くあるって長過ぎねぇか?」


「私達からすれば、一区切りが三十日っていう方がおかしく感じます。大体、何で一年のうちに十二回も区切りがあるんですか?」


「それは月の……まぁちょっとした目印があんだよ」


 ルウは、ジョンが言いかけた言葉を捕まえる。


「月が目印なんですか?」


「そうだ。多分、言っても理解ができねぇと思うから、知らねぇ方が良い」


 この世界では、まだ宇宙の開拓が進んでいないだろうと、ジョンは踏んでいた。宇宙を一切知らない人間に、公転や自転の話をゼロから説明するとなれば、相当な時間がかかる。


「うーん、そう言われると知りたくなってきますね」


「俺も何でこの世界の一年が四等分なのか知りてぇな。目印はあんのか?」


「ありますよ。世界樹様の葉の色が変わるんです。それが季節の変わる合図で、今は緑色ですが、次の季節になればオレンジ色になります」


「あの樹色変わんのか。じゃあ、冬と春は?」


「冬は真っ白に、春は桃色になります」


「イルミネーションみてぇだな。そりゃ綺麗そうだ」


「えぇ。とても綺麗ですよ。特に、季節が変わる瞬間の時は。ジョンさんも一度は見る事をオススメします」


「そんなにオススメなら、一回見てから元の世界に帰ろうかね」


「ふふ。今程勉強熱心でしたら、来期が来る前に帰れちゃうかもしれませんね?」


 内心、来期が来るよりはやく帰れたら良いと思っているジョン。二人で話していると、玄関口からルウを呼ぶ声が響いた。


「ルウさーん? いるかー? ジョーン?」


 マイケルが帰ってきたのだ。


「帰ってきたか」


「行きましょうか」


 二人は立ち上がり、書斎のドアを押し開ける。玄関口付近には、紙を筒状に丸めて持ったマイケルが立っていた。


「おかえりなさい。マイケルさん」


「いたいた。なんだ、ルウさんも一緒か。また勉強教えてもらってたのか?」


「そうだ。羨ましいか?」


「はいはい。羨ましいよ」


「何だオイ? メアリーに聞かれるぜ?」


「ここまで聞きつけて来てくれるなら、それもありだな」


 二人で挨拶代わりの冗談を言い合う。ルウはその傍ら、受付の部屋の掃除を始めた。


「んなことより、お前、なんか発見したらしいじゃねぇか?」


「あぁ、そうだ。町中で異世界について知らないかって聞き回ってたんだ。そしたら心当たりがあるってばあさんに出会ってな」


「そいつぁ幸先が良いが、よく変人扱いされなかったな」


 二人は話をしながら移動して、丸テーブルとセットの椅子に座った。


「そのことも話すか。俺達は今、新聞に載ってるらしい。これだ」


 マイケルは丸めていた紙をテーブルに広げ、そこに描かれている人の絵を指さした。


「おぉ、こりゃ上手いもんだな」


「文字はさらさら読めないが、異世界の人間来たる! みたいな事が書いてあるらしい。この新聞をくれた人が言ってた。これのおかげか、街をちょっと歩いたら結構話しかけられてな。気分はスーパースターだ」


「そんなにか。でも好都合だな。注目が集まってんなら、俺たちが元の世界に帰ろうとしてるって噂も広めやすいだろうしよ」


「そう、それだ。今日既にそれをやってきた。その結果、はやくも心当たりのあるご老人に巡り合えたってわけだ」


「やるじゃねぇか。流石だぜ兄弟」


 マイケルは真剣な表情で、日中に聞いた話を語り始めた。


「ばあさんから聞いた話だと、昔、神生時代に魔王ってやつがいて、そいつは異世界から色々な知識を学んでたって伝承があるらしい」


「ほう? それで?」


「ばあさんは過去に、その魔王が残したとされる迷宮(ダンジョン)の探索に参加したんだと。そしたらなんと、最深部には見たこともない魔道具があったそうだ。そういう物は見つけた人の所有物になるらしくてな。家にあるって言うから見せてもらったんだ。その魔道具っていうのが……」


 マイケルは今でも信じられないという表情で、その物の名前を口にした。


「俺達の世界でいう、リモコンだった。何のかは分からないが、リモコンだ」


「リモコン? あのボタンがついてるあれか?」


「あぁ、そのリモコンだ。細長いプラスチックの長方形に、ボタンが何個もついてる。目を疑ったよ。この時代感に、あんなものがあると思わなかった」


 ジョンは魔法を初めて見た時より、信じられないという表情をしていた。少なくともこの国では、リモコンで操作しそうなものは一つも見かけたことが無い。そもそもリモコンは何かを動かす為の道具で、自分で直接魔力を込めて魔道具を動かすという構造上、リモコンは使えないか、不要になるはずである。


「信じらんねぇな」


「他にも色々話を聞かせてもらった。リモコンを持って帰ってきたのは、持って帰ってこれるサイズのものがリモコンしかなかったから、とかな。気になる話だろ?」


「気になる事が多すぎるのも、考えもんだな。そもそも、魔王ってやつは何もんなんだ?」


「さあな。そこは聞かなかった」


「おい、なんでだよ」


「だって、今の俺達には必要ない情報だろ?」


「そうかもしんねぇけどよ……ルウさん、魔王って知ってるか?」


 掃除中のルウに話しかけ、答えを求める。


「魔王ですか? 魔王は我らが父のことです」


 予想外の返答が返ってきて、反応に困る二人。ルウは机を拭く手を止め、二人の座る席に寄った。


「じゃあ、なんだ? 魔王ってやつは神様ってことか?」


「そうですね。我らが父の別名が魔王です。ついでに言うと、我らが母は命王と呼ばれたりします」


 ルウも席に座り、会話に混ざる。


「でも今はその二人いないんだろ? せっかくいい情報を手に入れたと思ったんだが……」


「いえ、魔王様は今も生きていますよ」


 マイケルとジョンは一瞬にしてルウに視線を合わせる。手を机に突き、立ち上がってルウに迫った。


「ホントか!? そいつに会えれば、俺達帰れるかも知れないんだ! 何処にいるか教えてくれ!」


「俺からも頼むぜ! 重要な手がかりなんだ!」


 ルウは、二人の勢いにたじろぐ。両の手のひらを見せて、止まれのポーズを取っていた。


「お、落ち着いてください。順を追って説明しますから……」


「あ、悪い……ちょっと興奮し過ぎた」


「わりぃな。黙ってるから、説明頼む」


「はい。まず、現在の魔王様は、初代魔王とは別人です。生まれ変わり、というのが正しいですね」


「なるほど。じゃあ、俺があのばあさんから見せてもらった遺物とは、関係がないってことか?」


「そうなります。ですが、過去の記憶が残っていないとは限りません。別人ではありますが、同一の存在です。説明は難しいんですが……お二人の求めている情報を知っている可能性は、大いにあります」


 二人は希望を目に宿し、話を聞き続けた。


「加えて、魔王様以上に魔法が上手く使える人は、この世に存在しません。これは断言できます」


「そりゃ、つまりどういうことだ?」


「異世界への扉を開く、なんてことができる人がいるのなら、その人はただ一人、魔王様だけでしょう」


 マイケルとジョンの中で、また一つ、明確な目標が定まった。


「じゃあ、魔王に会いに行けば!」


「ただし、会うことは難しいでしょう」


「もうなんでだ」


 そう上手くはいかないと、出鼻をくじかれる。


「現代魔王様は、数百年前に魔大陸を封印しました。魔大陸を封印した際、その内に自らも入ってしまった為、現在に至るまで魔王様の姿を見たことのある人は居ません。何故魔大陸を封印したのか、理由も分かっていなくて……なんとも言えないんですが、人と関わるのが嫌になってしまった、なんて噂も流れてるぐらいです」


「そのー……魔大陸? を封印? とか、よく分からないんだが」


 規模の大きすぎる話のあまり、上手く話が飲み込めないマイケル。ジョンは顎を触り、深く考え込んでいた。


「そうでしたね。魔大陸というのは、魔王様が治めている大陸の名前です」


「一人で大陸全体を治めてんのか……?」


「はい。魔王様ですから。封印、というのは誰も干渉出来なくなるよう結界を張ることで、大陸全体に結界を張った、ということです。そうして魔大陸は、内側からも、外側からも通過することができない、不可侵の領域となってしまいました」


 ジョンは顎を触っていた手を力なく降ろし、脱力した。


「じゃあお手上げじゃねぇか。その結界とやらを通る方法はねぇのか?」


 ルウは、何かを言おうか迷っているようだった。


「……随分と昔の話なので、私が調べた限りでは、間違っているかもしれまんが、方法なら一つあります」


「教えてくれ。俺達には無理な手段でも、どうにかやらなくちゃいけないんだ」


 マイケルとジョンは、既に腹をくくっていた。どんなに長い年月がかかろうと、帰ると決めていたのだ。


「七つの秘宝を集めること。それが、結界を解く方法です」


「秘宝だぁ? また随分とそれっぽいもんが出てきたな」


「魔王様は魔大陸を封印しする前、我々の住む世界樹大陸に存在する主要な国と、周辺の島国に一つずつ秘宝を渡しました。自分達で対処できないほどの緊急事態が発生すれば、その秘宝を集め、封印を解けと」


「ジョン、七つの秘宝って、似たような単語、聞き覚えがないか?」


「ちょうど今その事を考えてた。預言の話だろ」


 預言では、七つの約束と聞いていた。確かに、魔王が人々に与えた約束として、受け取れなくもない。


「預言全部覚えてるか? 俺はちょっと……」


「確か、「変な体した頭いいやつらが来るけど、そいつらは平和主義者だ。そいつらに世界旅させると七つの約束集まって魔王が復活するぞ」みてぇな感じだったはずだ」


「いや、俺達は平和をもたらす存在、みたいな感じだった気がする」


「そうか?」


 大雑把な記憶のすり合わせを行い、これからの行動を具体的に考える。


「なら、預言に従ってみるか。俺等は魔王に会いてぇ。ついでにこの世界は俺等が平和にする。最高だろ?」


「あぁ。俺達が来る事を分かってたぐらいの奴なら、ある程度信用できるしな」


「世界旅行の為に、金稼ぎだ。明日から始めるぞ」


 二人は話がまとまったと思い、既に依頼のことについて考えていた。


「待ってください。そもそも、その秘宝は何処にあるか分かってないんです」


 しかし、再び出鼻をくじかれる。


「なんだって?」


「おいおいまた問題か……」


「この国に一つあることは伝承で分かっていますが、他の六つの所在は全く分かっていません。そもそも、分かっていたとしても、国が保管しているものですから、国家機密なんですよ。勝手に封印を解かれては、どうなるかわかりませんから」


 言われてみれば、緊急時の物をやすやすと知らない二人組に渡すわけもなかった。


「じゃあどうすりゃいいんだ……せっかくやることが決まったと思ったのによ」


「何だかずっと一歩ずつ遠ざけられてる感じだ」


「うーん……ワネク陛下から、お二方に秘宝を渡すよう協力指示を出してもらう、とか……」


「はは、流石にないだろ、そんな事。


「ルウさんも意外と冗談好きだよな。俺等ごときに秘宝を渡すって言ってきたら、変に疑っちまう」


「でもそれぐらいしかないですし……」


 結局、この日中には結論がでず、夜飯を済ませ、就寝時間となった。


「……そろそろシャワーが浴びたいな。服も洗濯したい。こんな汚れだらけだと流石に気になってくる。臭いも……」


「まぁ、金がねぇ内は仕方ねぇな。我慢しようぜ」


 そんな話をしながら階段を上り、部屋へと戻る。再び汚れた服装のまま、ベッドへ倒れた。

 少しモヤついた気持ちのまま、眠りに落ちていった。

 翌日。早朝、部屋の扉をたたく音がする。


「マイケルさん、ジョンさん、いらっしゃいますか」


 うるさく響く音と、聞き慣れない声に、体を起こす。


「あぁ…………なんだ?」


 マイケルは寝ぼけた声で、返事をする。ジョンも遅れて起床し、だるそうに答えた。


「なんなんだ……もうちょい寝かしてくれよ……」


「失礼します」


 扉が開くと、二メートルをゆうに超える巨大な全身鎧姿の人間が現れた。少し屈みながら扉をくぐり、部屋へと入ってくる。


「おぉ!?」


 マイケルはあまりの巨体に眠気が吹っ飛んだ。ジョンも眠気眼をこすりその姿を見ると、跳ね起きて姿勢を正した。


「な、何かようです?」


 寝ぼけている為、中途半端な言葉遣いが飛び出たマイケル。鎧は二人に手を向け、魔術を使った。


『……アウラメス(想いを伝える魔術)


 光が二人を包み、消えると、その鎧は感情がこもっていないかの様に、淡々と話し始めた。


「ワネク陛下がお呼びです。拒否することは許されません。早急に支度を済ませ、同行してください」


 声が鎧によってやや曇っているが、低い声の女性であることが伺えた。身を覆い隠している銀色の鎧は過剰に大きく、通常の人間であれば動く事すら困難な重量だろう。しかしその鎧を着ていながら、動きの鈍さを一切感じさせない。鎧には金色の線が刻まれており、身分の高さが示されていた、


「す、すぐ行く。特に持ってくもんもないからな」


「お、俺もだ」


「協力感謝します。ではこちらへ」


 巨大な鎧が身を屈め扉の外へ消えると、二人は大きく息をはいた。


「朝から心臓に悪いな……」


「全くだぜ……」


 そういいながら、ベッドから立ち上がり、受付へと降りて行く。すると何やら、鎧とルウが見つめ合っていた。


「サラちゃん……」


「…………」


 鎧がルウを見下ろし、沈黙している。ルウは僅かに怯えているようで、目を逸らしていた。鎧は二人が階段から降りてくるのを見ると、玄関口へ振り返り出て行った。


「……行きましょう」


「ルウさん、平気か?」


 ジョンはルウの様子をみかねて、話しかける。マイケルも近づき、顔色をうかがった。


「えぇ……大丈夫です」


「何かされたわけじゃないよな?」


「大丈夫ですよ。王国の兵士さんなんですから、何もするわけないじゃないですか」


 ジョンにそう言って笑いかけたが、何処か表情は引きつっている。吐いた言葉も、誰かに言い聞かせている様な言い方だった。


「そうか……」


 今はこれ以上踏み込むべきではないと思ったジョンは、マイケルを連れ扉から集会所を出て行った。

 出てくる二人を見た鎧が、集会所前に停まっている馬車へ乗り込むと、それに続き二人も馬車へ乗り込む。三人が揃うと、馬車は動き出す。会話は一切無く、今までで一番長く感じられる移動時間を過ごした。城に着いてからも、鎧は一切余計な事を喋らず、ただ淡々と歩いていく。二人を待たず、城内の階段をスルスルと登っていくため、二人はついていく途中死にかけた。苦労と無言の緊張感に包まれ、謁見の間にたどり着く。息に上がっている二人を労うこともなく、鎧は謁見の間の扉を押し開けた。


「ワネク陛下、件の者をお連れしました」


「うむ。ご苦労」


 四つの玉座のうち、三つは空席だった。前回の謁見の時にいた他の三人は、見当たらない。


「……そなた達、草臥れているな。傷も完全に治っていないと見える」


 マイケルは足に怪我を負っているにも関わらず、連日歩きっぱなしである。傷口が開きかけ、鋭い痛みがマイケルを襲っていた。


「いや…………気にしないでください……うっ……」


 それに加え、永遠にも思える階段を登り疲労が限界に達し、最悪の気分だった。


「俺は……いらねぇが…………マイケルには、椅子をやってくれ…………」


 ジョンはせめて親友だけでも楽な思いをして欲しいと、意味のない自己犠牲を提案した。


「サラ、椅子を」


「はっ」


 巨大な鎧は二人のそばに石の椅子を出し、座るよう促す。


「どうも……」


「助かった……」


 二人は椅子に思い切り寄りかかり、汗を拭った。


「ふむ……」


 ワネクは二人に手をかざした。二人の体を光が包み、心地よい感覚が体を駆け巡る。二人の疲労はみるみる回復し、呼吸は一定のリズムを取り戻す。


「話を、始めてもよいか」


「はい。ありがとうございます。助かりました」


 マイケルは丁寧にお礼を返し、姿勢を正した。ワネクは二人の様子が落ち着いたのをみて、話を始める。


「今日、そなた達を呼んだのは、一つの頼み事ゆえ。聞いてくれるか」


「もちろんです」


 マイケルは二つ返事で了承する。ジョンも首を縦に振り了承した。


「そなた達に、預言を遂行してもらいたい」


「そ、それって」


「そうだ。世界を旅し、七つの約束とされるものを、回収してほしい」


「ま、マジか」


 二人は王の言葉が信じられず、震える。王はその様子を見て、目を閉じため息を吐いた。


「そなた達が恐れ拒むのもわかる。何が起こるかわからぬ世界にて、旅をしろなどと……」


「ぜひ、やらせて下さい」


「任せとけ。俺等がとっとと回収してきてやる」


 王は自分の聞き間違いを疑い、二人に問い直す。


「…………今、なんと」


「ぜひ、やらせて下さい。俺達が封印を解いて、魔王を再臨させます」

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