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第4話【我が命の願いの儘に】

????年??月??日

??時??分

ワネグァル王国南 城下町


 集会所に向かうため、馬車へ最初に乗り込んだマイケルは、床板を見回して異変に気づく。


「おい、俺の銃はどこにやったんだ?」


 馬車に上がってすぐ、また地面へと戻る。


「俺は知らねぇぞ」


「ガン? さっきの棒状のものですか? 知りませんけど」


 馬車から降りる時は、座っていた席の直ぐ側に置いていた。しかし何処を探しても見当たらない。


「この馬車、俺たちが乗ってきたやつと一緒だよな?」


「えぇ。一緒のものですよ」


「なら、盗まれたとか?」


「王城に侵入できる人なんてそういませんよ。仮にいたとして、わざわざ馬車の中をのぞいて、よくわからない物を盗みますかね?」


「確かにな……」


「まぁ一応、門番さんに聞いておきましょうか」


 スラウが直ぐ側にいた門番に駆け寄った。


「失礼します。私達が謁見の間へ向かっている間、ここを通過した者の名前を伺ってもよろしいでしょうか」


 右の手で心臓の辺りを触れた後、素早く右下へ振り下ろす。この王国での敬礼である。


「理由を伺っても?」


「馬車内の荷物が紛失しました。疑わしい人物がいないか、確認したく」


「了解しました。その間ここを通過したのは、フラーシス一名のみです」


「ありがとうございます」


 馬車の元へ戻り、二人へフラーシスしかここを通っていない事を伝えた。


「なら、盗まれたってわけでもないのか……」


「まぁ良いんじゃねぇか? 城の中で無くしたって分かってんなら、いずれ見つかるだろ。スラウに話通してもらおうぜ」


 身の安全が保証された今、そこまで必要なものではない。ただ銃が誰かに渡ったということが、危険に思えて仕方がなかった。


(ジョンの言うこともわかるが、やっぱり手元に欲しいな……)


 マイケルがそう考えた時、ガタッと馬車の奥から音がした。


「誰だ!」


 いち早くスラウが反応し、二人が気づく頃には音の方へ移動していた。


「あれ? これって……」


 マイケル達も遅れて音の方へ移動する。固まっているスラウの視線の先を見ると、そこには少し前には見当たらなかったライフルが転がっていた。


「ライフルだ! 俺が持ってたやつと同じ!」


「なんだぁ? 空から降ってきたのか?」


 全員が辺りを見回すが、誰かがいる気配はない。


「何でまた……」


 不思議に思ったマイケルだったが、少し考えると一つわかることがあった。


(もしかして俺が欲しいと思った時に出てきてるのか? 何で一回消えたのかはわからないが……)


 マイケルが何もせずずっと考えていると、ジョンが銃を拾い上げて眺めていた。


「ただのM4だな」


 ジョンはふと思った事を口に出した。


「魔法でできてんのか? これ」


 予想外の言葉に、マイケルは固まった。確かに、そう考えると納得がいく。突然消えたり現れたりするのは、魔法以外ありえない。元の世界でも、物が突然消えたりすれば、魔法だ何だと騒いでいたのに、いざ自分達の眼の前で実際に起きると、考えが至らないものである。


「そうか、そうだよ。これ、多分魔法で出来てる。前、森の中で見つけた時も、俺が何か身を守れる物が欲しいって思った時だった」


「えっ? じゃあマイケルさん魔法使えるんですか?」


「おいおい初耳だぞ」


 ジョンは小馬鹿にするように笑いながら言った。


「だってそれぐらいしか考えられないだろ?」


「ちょっと見せて下さいよ」


「いや、先に移動しよう。後は馬車の中で」


「そうですね。とりあえず移動しましょうか」


 三人は馬車に乗り、行き先を馭者に伝えた。再び馬車は動き出し、門を出て街を走り始める。ジョンがライフルを抱えたまま、話し始めた。


「話してぇことは色々あるが、まず何でお前ついてきてんだ?」


 スラウに指を指し、疑問を投げた。


「案内役兼監視ですよ。ある程度常識を教えたとはいえ、まだ不安でしょう? 国のことを知らないどころか、この世界自体初めてなんですから」


「それはそうだが。お前の仕事もあるだろ?」


「それはご安心を。フラーシスさんから言われた準備しろって言うのは、二人の案内をってことなので。少なくともお昼すぎぐらいまでは一緒に行動できるかと」


「ほう。そりゃあ頼もしいな。ならお言葉に甘えて、ガイドしてもらおうかね」


「任せて下さい」


 嬉しそうに胸をポンと叩いて張り切るスラウ。


「そんじゃ、さっきの話の続きだ。お前、いつ魔法なんて使えるようになったんだ?」


「別に使えないぞ」


「でも、念じたらそれがでてきたんでしょう?」


「まぁ手元に欲しいとは思ったが」


「じゃあやっぱりそうじゃないですか」


「魔法ってこんなに何の感覚もしないものなのか? もっとこう、体から何かグッとくる感じがあったりとか」


「あー。それはありますね。胸の辺りから魔法を使う部位に向かって」


「じゃあやっぱり俺は魔法が使えてるわけじゃない。この銃が出てきた時、別に何も感じなかった」


「まぁ、僕がその銃ってやつ見たほうが早いですね。見せて下さいよ」


 ジョンが銃を渡すと、スラウは注意深く銃を観察した。ある程度観察し終わると、目を見開いて、ぶつぶつと語り始めた。


「これは……! 凄いですね、かみ合ってない所が一つもない! 美しさすらありますよ。素人の僕が見ても分かるぐらい……いやそれより」


 何を感動しているのか、二人にはさっぱりわからなかった。スラウからマイケルへ、マイケルからジョンヘ、同じように二人も触れて観察したが、特に何のことはない銃だった。


「これ、魔法で作られたものじゃないです。この世界の素材で作られた魔道具っていうものです。こういうものは魔法じゃ作れないんですよ」


「なんだって?」


「そうなのか?」


「えぇ。僕は見たことないものだったので、そっちの世界から持ってきた物だとばっかり」


 マイケルは当然、この銃の出どころなど知らない。元の世界から運ばれてきたのかどうかなど、知る由もない。しかし、この世界で拾ったものだということを考えれば、この世界の素材でできていると考えるのが妥当だろう。


「いや、こっちの世界に来た時はむしろ物がなくなってたぐらいだ。携帯も鞄もなくなってたし、向こうから持ってこられたのは今着てる服だけだな。これはあの森にいる時拾った」


「うーん……創造魔法じゃないのに出たり消えたりする物ですか……考えられる可能性としては、マイケルさんが空間に物をしまう魔法が使えるとか?」


「当然、それもないな」


 マイケルに、自分が魔法を使っているという感覚はなかった。ただ、森の状況と、城内での状況を考えると、やはり原因は自分にあるとしか思えない。


「じゃあ世界を跨いだ時に、力に目覚めちまった! とかな」


「なら、もっと魔法らしいものが良かったな。手から火を出せるとか」


 なんとなく、もうマイケルの力ということで話が進んでいる。しかし当の本人も、既にそれを受け入れ始めていた。まだ少しだけ納得がいかない中、気にかかった事が一つあった。


「それならジョン、お前はどうなんだよ? 俺と同じ世界で育って、俺と同じ様にこの世界に来たお前は?」


「あぁ? お前な、そんな都合良く二人揃ってスーパーパワーに目覚めましたって、あると思うか?」


「いいから、やってみろって」


「出来たらそりゃ、良いけどよ……」


 マイケルの話を聞いて、少し期待しているジョン。もしかしたら、という考えがふつふつと湧いてくる。


「やってみましょうよ。マイケルさんの言う事、一里あると思います」


「……まぁ、じゃあやってみるか?」


 気乗りしない、という雰囲気を醸し出そうとしているが、溢れ出る期待感が隠せていない。握っていたマイケルのライフルを返し、深呼吸して、浮かれ気分のまま腕を前に突き出して大げさに構えた。


「はぁぁぁ! 出でよ! 我が銃よ!」


 思春期真っ只中のような掛け声と共に、全員がジョンの手の先を見つめていた。


「…………」


「…………」


「…………」


 数秒間、馬車の音だけが大きく聞こえていた。全員がため息をつきそうになった瞬間、ガタッと、ジョンの隣に何かが落ちる音がした。


「おいおいおいおい! まじかよ!!」


「ほ、ホントにでやがった……」


「おぉ! これも銃? なんですか?」


 床に転がっていたのは、ショットガンである。


「俺のはショットガンか。レミントン870、サツが使ってるやつだったか」


 拾い上げ、周りに注意しながら状態を確認する。


「それも見せてください」


「ほらよ」


 スラウに銃を渡し、また何かを確認させた。


「やっぱり、これも魔道具ですね。こっちもマイケルさんのと同じぐらい凄いですよ」


 先程と同じように、二人にはわからない何かに感動して、ショットガンを眺めている。


「俺たちが銃を出せたってことは、こっちの世界に来れば誰でも魔法を使えるようになるってことか?」


「あり得るな。なら、晴れて俺達は魔法使いってことだ。実感ねぇが、これからが楽しみだぜ」


 スラウは足の上にショットガンを置き、何か考え事をした後、二人に話を始めた。


「いえ、恐らくお二人は魔法を使えるわけではないと思います」


「なんだ? ちげぇのか?」


「どういうことだ?」


「今ジョンさんが銃を出す時、特に魔法を使っているような感じはありませんでしたから。さっきのマイケルさんも、同じです」


「そうなのか? じゃあ、お前がこれを魔道具と間違えてるとか、そういう可能性は?」


「ありえないですね。ちょっとだけ魔力を流したりしましたが、ちゃんと反応があったので」


「そこら辺俺達にゃわからねぇからな。別に、何でもかんでも詳しく把握しなきゃいけないもんでもないしいいだろ」


「それはそうですが……」


 いつになく真剣な表情でスラウは語る。


「集会所の知り合いに色々聞きますか。詳しくはそこで話しましょう」


「ついでだしな」


「俺も特に異論はないな。一応これが魔法っぽいものだって分かった以上、詳しく知っておきてぇしな」


 三人は集会所につくまで、この現象について話し合った。スラウは、何とか二人が持つ銃と呼ばれるものの特異性を説明しようとしたが、どれも良い例えではなく伝わらない。二人もあれこれ電化製品や機械に例えて理解しようとしたが、スラウに伝わらず同意を得てもらえなかった。ちぐはぐな会話を続けて数十分、気づけば集会所の前まで到着した。


「ついたみたいですね。さ、行きましょう」


「集会所って、この館みたいなやつがそうなのか?」


「てっきり金持ちの家かなんかかと思ってたぜ」


 マイケルとジョンはそれぞれ銃を持ち、馬車を降りた。スラウは馭者に手続きを済ませ、馬車を城へかえした。三人揃うと、スラウは木製の扉に手を当て、押し開ける。


「失礼します! ルウさんはいらっしゃいますか?」


 二人は開けられた扉からつづいて入り、中を見渡す。やたらと広い空間に、丸いテーブルと四つの椅子が、セットで複数置かれていた。扉から向かって正面にはカウンターのような物があり、その両隣には扉が一枚ずつある。更にその扉の横には大きなかね折れ階段が付いていた。


「おぉ、なんかアレだな、西部劇のバーみたいな」


「確かにそんな感じだな」


 左手の壁には、スイングドアが端の方に一つ。そこから少し右の方に大きな掲示板が掛けられ、張り紙が六枚張られていた。


「すみませーん!! 居ないのかな……」


「はーい! 今行きますー!」


 カウンターの方から女性の声が響く。声が聞こえてから間もなく、カウンター横の扉からせかせかと現れた。


「スラウくんどうした、の……」


「どうもどうも、ちょっとお聞きしたい事がありまして」


 長く、透き通る様な銀髪の髪。光が強く当たる箇所は、明るい緑色がほんのりと顔を出す。肌は豆腐のように白くきめ細やかで、瞳は黒い。背丈は百六十センチ後半程の、若々しい女性だった。

 彼女を一言で表すなら、美しい。そんな言葉が似合う。ローマ彫刻に命を授けたかのようで、動いていることに違和感すら覚えた。


「なぁ、マイケル。これは流石に……」


「あぁ、流石にこれは……綺麗すぎる……」


 マイケルが容姿だけで女性に見惚れたのは、メアリーと出会って以来である。


「なん……で」


 驚いているのは、二人だけではなかった。


「わ、私は何も知らないよ……何も」


 彼女は額から急に汗を噴き出して、酷く狼狽えた。そんな彼女の言葉を途中で遮るように、スラウが焦って口を挟んだ。


「すみません、聞きたいことって言い方が悪かったです! この人達は犯罪者とかじゃなくて、ただの異界の方です。取調に来たとかそんなのじゃありませんよ」


「え? あぁ、えぁ? あ、あぁ! ご、ごめん、早とちりしちゃって、あはは……」


 言いたいことが色々あるのか、あまりにも動揺しているようで、スラウと二人を交互に見つめては目を疑っていた。


「そんなに動揺しなくても……大丈夫ですか? 前の取調そんな怖かったです?」


「い、いや大丈夫。ホント、大丈夫……それで、異界の方っていうのは……?」


 ひたすら吹き出てくる冷や汗をぬぐって、おどる胸をなだめている。


「お前、このレディに何しでかしたんだ? 随分と怖がってるみてぇだが」


 場合によっては容赦しない。そんな雰囲気を出しながら問い詰める。


「僕が何かしたわけじゃないですよ! 前ここらへんで事件が起きたときに、取調を受けてもらったんですけど、その時に担当した人が、ちょっと……」


「ホントか? 信じられねぇな」


「本当ですって! 誓って取調に必要な事しかしてません!」


 話がややこしくなる前に、ルウと呼ばれる女性が口を出した。


「すみません! 本当に、大丈夫ですから。ねぇスラウくん、今ここにいるって事は、王様からの尋問も終わってるってことよね? なら、本当に異界の方ってこと?」


 十分に気が収まっているわけではなさそうだったが、声を少し張り上げて場の収拾に努めた。


「あ、はい……そうです。すみません、本当に。なんとかサラさんに伝えときますから」


「もう、大丈夫だって。心配しすぎ。そりゃ、多少怖かったけど……」


 苦笑いしながらモミアゲを指でくるくると回す。


「ほら、そんなことより。そのお二方を連れてきたのには、わけがあるんでしょ?」


「えぇ、このお二人がこの世界について学びたいと仰ってまして。良ければ、奥の書斎をお借りしても?」


「なんだ、そんなこと。勿論どうぞ。まだ時間も空いてるから、他に必要なことがあったら言ってね」


 立ち去ろうとするルウを止めて、更にもう一つ申し込む。


「あと! お二人の話を聞いてあげてほしいんです。やっぱり、異世界から来たってことで知らないことがあまりにも多いので」


「なるほどねぇ。今は丁度お客さんも来てないし、良いよ。私が教えられることだったら」


「ありがとうございます。本当にいつも助かります」


 お礼を済ませて、早速カウンター隣の扉へと向かう。


「なぁ、お前とルウさんはどういう関係なんだ? 随分仲良さそうだったじゃねぇか?」


 肘でスラウをつつきながら、小声でジョンがからかった。


「なに想像してるのか知りませんけど、たぶん違いますよ。僕とルウさんは……親子みたいなものです。血はつながってませんけど」


 珍しく、少し不快そうな表情で答えたスラウ。その表情に、思わず謝罪が口をついて出た。この世界では、見た目が当てにならない。六十代ぐらいの見た目の男性が、五百年生きていたりするのだから。それをついさっき学んだばかりだったが、いまだ慣れず的外れな事を言ってしまった。


「おっと……わるかった。その……無神経過ぎた」


 それに加え、馬車内で聞いた両親の話と合わせて考えれば、不快になるのも当然だった。


「あぁ……すみません……怒ったわけじゃないんです。ただちょっと昔のこと思い出しちゃって……」


「そ、そうか?」


「気にしないで下さい」


 いつも通り振る舞うスラウだったが、ジョンは少ししょぼくれていた。扉を越えると、奥に本棚がいくつも並べられた広い空間へと出る。手前には木で出来た長い机があり、椅子が等間隔に置かれ、図書館のような作りになっていた。


「この館、大分広いな。ここのスペースと、さっきのカウンターのスペースだけでも二、三人は住めそうだ」


「ちゃんと壁がありゃ余裕だろうな」


 机に向かい、ジョンとマイケルは隣に座り、その向かい側にスラウとルウが座った。


「さて、何が聞きたいの?」


 気分が落ち着いたのか、胸を張ってどしっと構える。


「じゃあ、僕から。まず、このお二人は魔法のない世界から来ました」


「え? 魔法がない?」


「驚かれるのも、無理はないと思います。お二人の世界では、魔法が使えない事が普通で、おとぎ話のような存在だと」


「へぇ〜。世界が違うとそんなこともあるんだね」


「その代わり、モノ作りが秀でた世界らしく、車と呼ばれる他の生き物を必要としない乗り物や、機械と呼ばれる魔法を必要としない便利な物があるようです」


「神生時代みたいな話だね」


「そうなんですよ。今その技術の一部があって、彼らが今手にしているものなんですが……」


 マイケルとジョンは、話に合わせて机に銃を置いた。


「これが、お二方の世界のものってこと?」


「はい。僕が見た所、この世界の素材でできた、魔道具なんですよね。しかも、これをこちらのお二人が何処からかだしたんです」


「んー……」


 ルウが銃を一つずつ手に取り、じっくりと観察した。大方スラウと同じ様な反応で、二人にわからない何かに感動して、目を輝かせる。一連の動作を終えると、銃を置き、二人を見つめた。


「えっと、まずは自己紹介を。私はルウ・ソア。この集会所の受付嬢をやってます」


「俺は、マイケル・ウィリアムズ。この世界じゃ無職だ。よろしく」


「俺はジョン・ スミスだ。右に同じく無職」


「ふふ。マイケルさんとジョンさんですね。よろしくお願いします。それで、この銃についてですが」


 マイケルとジョンは、姿勢を正して話に集中する。


「スラウくんの言う通り、間違いなく魔道具です。それも、この世界の素材で作られた。それを出現させられたってことは、空間魔法が使えるか、魔法以外の能力があるってことになります」


 魔法以外の何か、と言われ、二人は顔を見合わせた。


「それって、どういう?」


「魔法ではないけど、自分の想像した道具を出せる手段です。こちらは確認が難しいので、先に空間魔法から確認しましょう。お二方、これを消すことはできますか?」


 言われてそう言えば、と思いつく。


「多分、出来る。俺がコイツを馬車の中において、王城に向かった時、帰ってきたら消えてたんだ。だからある程度離れれば消える、と思う」


「なるほど……なら、今ここで消すことはできますか?」


「ここで? 自分の意思でパッと消すっていうことか?」


「はい。自分の意志で消失、出現が出来るなら、本当にお二方の力ですから。ですが、消失が出来ないようでしたら……私にもお手上げかもしれません……」


 二人は、言われるがまま銃を消すイメージを始めた。すると銃が光の粉になり、消える。


「おぉ?! 消えたぞ!」


「こりゃあすげぇ! まさかホントに消えるとはな」


「うーん……」


 驚く二人と対照的に、考え込むルウ。


「もう一度、出していただけますか?」


 今度は銃を出すイメージを始める。すると、銃は机にのもとあった位置に現れた。


「……」


 ルウは無言で銃を手に取り、確認する。今度はすぐ終わったが、引き続き眉間にしわを寄せていた。


「お二方、魔法を使ってませんよね?」


「わからない。さっき、スラウにもそう言われたが……」


「俺もだな。よくわかんねぇ」


「見た限りでは、魔法を使っているような感じはありませんでした。つまり、魔法以外の何かである可能性が高いです」


「というと?」


 ルウは席を立ち上がり、本棚から一冊の本を取り出した。随分と古めかしく、ところどころ破れたり、傷のある本だった。しかし、ホコリを被っていることはなく、頻繁に手入れをしていることが伺える。それを持って元の席に座り直し、とあるページを開いた。


「私達には、この世界に産まれた時、必ず授かる特別な才能があります。瞬間移動ができたり、永遠に魔法を使う事ができたり、物の効力を高めたり。人によってそれが何なのかは異なりますが、個人の持つ力最大限引き出す才能」


 開いたページの一節を指さしながら、名前を読んだ。


「その才能を命儘(めいじん)と呼びます」


「えっと、つまりどういう?」


「お二方が使っているのは、命儘かもしれないということです。魔法じゃないなら、私の知る限りこれしかありません」


「でもよ、俺らはこの世界出身じゃねぇぞ?」


「命儘は、後天的に増えることもありますから。この世界に来た時に、世界樹様から授かったとか。そういった可能性があります」


 魔法ではないにしろ、この世界の力であることには変わりないらしい。しかし、ルウは変わらず考え込んでいた。


「それで、何か問題があるのか? なんか、まだ悩んでそうだが……」


「……命儘自体、よくわかっていないんです。この世界で産まれた私達は、当たり前みたいにそれが使えるんです。魔法より法則性がなくて、不思議な力が。ただ、異界の人がこの力を使えるとなると……」


 それがどれだけ凄いことで、特別なことなのか、二人には知る由もない。


「よくわからないが、とにかくそれでいいんだな? その、命儘とかいうやつが俺達の力ってことで?」


「えぇ。今はそういうことにしておきましょう」


「なら、俺達は魔法は使えないくて、手から火出したり空飛んだりはできないってことだな?」


「はい。そういうことです」


 少しだけがっかりする二人だったが、この能力がなんなのか分かっただけでも、進展とすることにした。


「なら、お次はコレの威力を試してみましょう。見た所、何かを撃ち出すもののようですし? どういうものなのか気になります」


「僕も! 僕も見てみたいです!」


「良いが、ここじゃちょっと危ないかもな。壁が傷つくだろうし、何より耳栓がない」


「耳栓が必要なんですか?」


「あぁ。コイツはちっとばかしうるせぇんでな。必須って訳じゃないが、あったほうが良いぜ」


 マイケル達はやめたほうが良いと勧めるが、スラウは聞く耳を持たない。


「耳栓も壁も用意できますから! 受付戻りましょ!」


「ホントかぁ? まぁ、確かに魔法で作れんなら、アリか」


 乗り気じゃないまま、二人はカウンターの部屋へと移動した。ルウ達は机や椅子を端へ寄せて、スペースを確保する。スラウが空いた広い部屋に、魔法で直径三十センチ程の分厚く丸い木の的を作り出した。


「アレだけだと、まだ危ないな。後ろに岩でも出してくれ」


「えぇ? ルウさん、できます?」


「任せて」


 言われた通り、今度はルウが大きな岩を壁全体に沿うように作り出した。


「これなら流石に大丈夫じゃねぇか?」


 念の為、ジョンが岩の壁をペシペシと叩く。当然、岩の様に固く、強めに殴ると拳に鈍い痛みが走った。


「いって……大丈夫そうだ。じゃあ、構えてくれ」


 スラウは合図を聞き、粘土状の耳栓を作り出す。四人全員が耳栓をつけ終えると、マイケルが的から五メートルほど離れ、ライフルを構える。標準を合わせ、セーフティを外す。引き金に指を掛け、一呼吸の後、引く。

 ダンッと、乾いた短い破裂音と共に、木の的には二、三センチ程の穴が空いた。


「うわっ!」


「きゃっ!」


 銃を知らない二人は、その音に肩を浮かせた。


「久しぶりに撃ったが、中々良い狙いだったろ?」


「んん~。ちょっと真ん中からはズレちゃいるが、良い。やるじゃねぇか」


 慣れた様子で二人は弾痕を確認する。木の的を貫通した弾は、岩の壁に当たり、黒い跡を残していた。


「い、今の一瞬で的を貫通して、この岩に傷つけたんですか? とんでもないじゃないですか! これ!」


「凄いですね……! 魔法でも、こんなことできる人は少ないですよ!」


 弾痕を確認している二人に駆け寄って、ルウ達は騒ぎ立てている。


「これが僕達の標準装備になれば、魔物の掃討も楽なのになぁ」


「ホントに凄い火力……あんなに簡単な動作で……」


「ジョンさんのも見せて下さいよ! ほらほら! 的用意しますから!」


 スラウはウキウキでもう一つ的を作り出す。


「わーった。落ち着け。すぐに見せてやる」


 ここまで期待されると、流石にジョンも浮かれてしまう。マイケルと同じ様に、的から五メートルほど離れ、狙いを定めセーフティを外す。引き金に指を掛け、引く。先程より少し大きな音と共に、的の中央に十センチほどの大きな穴が空く。大きな穴の周りには、小さな穴が点々と空いていた。


「こっちはなんか飛び散ってますね! マイケルさんのより、威力が高そうな感じといいますか!」


「やっぱり少し怖いけど、凄い……」


 目をキラキラさせてはしゃぐスラウと、少し怖気ながらも、興味を持つルウ。こういうのは、何処の世界でも同じものなのだなと、二人は感じた。


「なぁ、そう言えば」


「なんだ?」


「弾はどうなるんだ? メンテナンスとかも定期的にしないと壊れるだろ?」


「あー……そうだなそういや……」


 こうして試し撃ちしている余裕はないのではないかと、二人は思考が固まる。


「まぁこれから先、銃をそう何度も使うことなんて、ねぇと思うけどな」


「万が一あったら?」


「剣の練習でもするか?」


「俺達多分この世界じゃ力不足だぞ?」


 人が生身で車より速く走る世界で、この二人が使う剣など意味はないだろう。


「……」


「まずいか?」


「まずいな」


「消して出したりすれば弾も復活したりとか……」


 マイケルは手元にあったライフルを一旦消し、再び手元に出す。


「おいおい、バカ言ってんじゃ……」


 マガジンを外し、中を確認すると撃ったはずの一発が込め直されていた。


「おい! 弾が補充されてるぞ!」


「おいおいマジかマジか!」


「じゃあメンテナンスも試すか?」


「どうやって?」


「そうだな……おらっ!」


 マイケルは銃を地面に叩き落とし、力いっぱい踏みつける。銃身が少しばかり曲がり、使い物にならなくなった。


「あぁ!! 何してんですか!! 勿体ない!!」


 スラウから今にも罵声が飛んできそうな状況だったが、気にせず銃を消す。マイケルの中には、半ば確信のような物があったのだ。


「お前これでもし治んなかったらどうすんだよ?」


「その時は、その時だ」


 緊張の中、マイケルは再び手元に銃を出す。すると何ということか、銃は新品同様の状態で戻ってきた。


「ほらな! この銃、一度消せば、弾も状態も新品で戻ってくるんだ!」


「すげぇ!! こいつぁすげぇぞ!」


「はぁ……びっくりさせないでくださいよ!」


「やっぱり命儘だとしても、かなり珍しい能力ですね。特殊な出身が関係しているとか……?」


 メンテナンスも不要で、銃弾も不要。それはこの世界で過ごしていく上で、とてもありがたいことだった。銃の存在しない世界では、当然銃弾は販売されておらず、各種パーツやメンテナンス用の道具も売っていない。となれば、一度の故障は致命的なものになりうる筈だった。

 

「この銃は、俺達にめちゃくちゃ都合が良いってこった」

 

「あぁ。これが分かったのが、一番大きいかもな。さて、色々分かった所で……」


 一旦冷静になり、二人は見つめ合った。


「元の世界に帰るために、しばらくこの世界で暮らさなきゃいけない訳だが……」


 この世界も人の世界である以上、金銭でのやりとりは発生する。実際、街を馬車から眺めていた所、貨幣のような物で取引している所が見えた。

 大きな溜息が、二人の口から漏れる。


「まずは仕事でも見つけねぇとな……」

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