第21話【分断】
王歴597年 夏期 30日
8時32分
ワネグァル王国西
貨車と同じ殺風景な長方形の中で、レンチやバールのような物を携えたサヴグマの群れは、三人を見つめて固まっていた。マイケル達も同じ様に、サヴグマへ警戒を向け固まっていた。
「なぁ、チェド。銃返してもらってもいいか?」
「あぁ、好きにしてくれ」
手に握っていたピースキーパーは一度消え、マイケルの手元にライフルとして姿を現した。マイケル達は銃を構え、サヴグマ達へむける。
「こいつらどっから来やがった?」
「こいつらが何処から来たか分かるか?」
マイケルはジョンの疑問をそのままチェドに流し、伝える。
「恐らく凶変個体のヤツが連れてきた手下だろう。今列車の最後尾が占領されててねェ。推測だが、そこから列車の中にコイツらを流し込んでる」
「じゃあ、今からそこに向かうってことだな?」
「そうだ」
「そこにお前だけ先に向かうっていうのは?」
「無しだ。車両にくっついてやがるからな。そこごと吹き飛ばしたいが、それにはお前さんの武器が必要だ」
「正面突破しかないってことだな」
「そういうことだ」
より一層マイケルは銃を固く握り、中央にいる一匹へ狙いを定めた。
「合図頼む」
現在マイケル達のいる車両に乗っているサヴグマは、十三匹。その全てが、一メートル半程度の大きさを持っていた。
「…………行くぞ!」
チェドは合図と同時に、サヴグマ達へ距離を詰めた。マイケルは合図を聞き、チェド付近のサヴグマへ一発放つ。それに続いて、ジョンは同じ的に引き金を引いた。一匹の纏まったサヴグマをバラバラにすると、それらが地面へ着く前に、チェドは炎の魔法でサヴグマを焼き尽くす。
「一匹!」
「次行くぞ!」
サヴグマ達は一匹がやられたことに気づくと、すぐさま床へ潜り始める。
「待ちな!」
チェドは潜り始めたサヴグマを、足の届く範囲で薙ぎ払った。潜ろうとしていたサヴグマは、下半身のみが地面へと溶け込み、上半身は地上に残された。そこへすかさずマイケル達は銃弾を撃ち込む。何十匹かのサヴグマが体を散乱させ、床へのたうち回る。
「残りは潜った! 壁と床に気をつけろ!」
残った十匹と少しのサヴグマが一斉に影になると、壁や床は黒一色に染まる。その影からは至る所から腕が伸びており、工具をしっかりと握っていた。
「避けろ!」
その様子から先の光景を予想したチェドが、声を上げる。しかしその声が二人に理解される前に、サヴグマ達は握っていた工具をマイケルとジョンへ投げつけていた。鉄製の棒状の物が、時速百キロを超える速度で二人へ迫る。かろうじて二人は反応するが、回避しきれず銃を使って防ぐ。
「いっ!!」
「マイケル!」
頭への命中は避けたものの、四方から迫る物を全て防ぎ切る事は出来ず、マイケルの左腕に命中する。
「平気か?」
チェドは壁にある影を殴り、サヴグマをあぶり出して燃やしていた。その傍ら、二人の安否を確認する。
「平気だ……ただの内出血ですんでる。多分」
「ビビらせんじゃねぇよ!」
二人は曲がった銃を出し直し、影のある壁や床に銃弾を撃ち込んだ。そこから数十匹のサヴグマがあふれ出し、それをすかさずチェドは潰していく。
「悪いが、俺は治癒魔法を使えない。なるべく下がってくれ」
「まぁどのみち俺達には効かないらしいからな。関係ないさ」
痛みに冷や汗を垂らしながら、マイケルは笑う。
「おい、アレ!」
ジョンは声を荒げて、指をさす変わりにショットガンで発砲した。発砲した先は後部へと続く車両の扉であり、そこから新しいサヴグマが迫っていた。
「冗談だろ……」
「予想通りではあるが……最悪の展開だな」
現在マイケル達が乗っている車両は五車両目であり、凶変個体が張り付いている車両までは六車両空いている。その六車両すべてに、今対峙している以上のサヴグマがいるとなれば、三人では手に負えない状況だった。
「仕方ない。一旦、またレビニンに列車を切り離す様頼むか」
「俺達が逃げ帰ったら追ってくるんじゃないか?」
「俺が抑える。お前さん達は、急いで報告に行ってくれ」
「切り離すんだろ?! お前はどうするんだ!」
「安心しな、列車が切り離される時はデカい音が鳴る。見計らって飛び移るさ」
「分かったが……死ぬなよ!」
「それはお前さん達にかかってる。切り離し終わったら、また最後尾に帰ってきてくれ」
「ああクソ! ジョン! 列車を切り離してもらう為に一回運転室に行くぞ! 説明は走りながらする!」
「了解!」
マイケルとジョンは、銃を持ったまま先頭車両へと走り出した。先頭車両へとたどり着く僅かな時間に、マイケルはジョンヘ現状を説明する。
「今、最後尾の車両が凶変個体に占領されてるらしい! そこからサヴグマが出されてるんだとさ!」
「つまりあの先もサヴグマの箱詰めが続いてるってのか?」
「そういうことだ!」
「そりゃ切り離したくもなるってもんだぜ全く」
「後、切り離したらまた最後尾に行くぞ」
「はいはい」
運転席へつくと、マイケルはすばやく運転室をノックし、要望を手短に伝えた。
「客車から四車両より後ろの車両、全部切り離してくれ! もうあそこからはダメだ!」
「何ですと!? ぐぅぅ、仕方がない!」
レビニンが何かのボタンを押すと、チェドの乗っている車両は金属音を響かせ離された。
一方、チェド。サヴグマの前に立ち塞がって気を引き、先へ行かせまいと門番をしていた。そんな中、自身の背後からブザーの様な音が鳴り響く。
(来たな)
速く飛び移ってしまえば、サヴグマに付いてこられてしまう。しかし遅すぎれば、止まった鉄箱の中で、サヴグマの餌になってしまう。
(まだだ)
サヴグマの相手をしながら、離れる瞬間を見極め、扉から動く車両へと乗り移る。その想像を、頭の中で何度も繰り返す。
(今だ)
正面へ炎の魔法を散らし、背後の扉を開ける。扉を開けた一メートル先、動く列車の扉にすばやく飛びつき、ドアノブで体を支えた。なんとか扉を開け中に入ると、置いていかれる車両に手を振った。
「達者でな」
サヴグマ達は後を追おうとするが、列車の速度に追いつけず、その姿は小さくなっていく。
「チェド! 無事か!」
マイケルとジョンが合流し、チェドはこれからの作戦を話す。
「マイケル、銃を貸してくれ」
「ほらよ」
マイケルはライフルをチェドに手渡した。ライフルがチェドの手に渡ると、再び拳銃へと姿を変えた。
「直にヤツが追いついてくる。できるだけ、列車に張り付かないようにしたい。ジョンにもそう伝えてくれ」
「了解」
マイケルは頼まれた通り、ジョンに今の内容を伝える。チェドは二人が話している間に、窓から列車の屋根へと登り線路を見渡した。すると予想通り、巨大な丸い影がこちらに向かっていた。
「来るぞ!」
説明を聞き終え、窓から体を出していたジョン。言われるより先に、その存在を捉えていた。今列車に追いつかんとしているその
影へ、一発撃ち込む。しかし何事もなかったかのように、ソレは列車を追い続ける。
「本当に効かねぇとはな」
「姿を晒した時が狙い時だ。見逃すなよ」
ジョンは銃を再出現させ、リロードを済ませる。凶変個体は既に列車の横へ並んでおり、地面からチェド達を睨んでいた。
「どうした? かかってきな」
列車の上から凶変個体のサヴグマを見下ろし、挑発する。当然、サヴグマはそれに何の反応も示さない。挑発も虚しく、サヴグマは速度を上げ列車の中央へ向かっていった。
「……もしかしてまずいんじゃねぇのか!?」
「分断するつもりか!」
三人はサヴグマの狙いに気付き、急いで客車へと向かう。しかし凶変個体の速度に追いつくことはできず、中央の車両を乗っ取られてしまった。上からそれを見ていたチェドは一時的に列車の中に戻り、マイケル達へこれからの行動について話した。
「いいか、俺は上から急ぐ。こいつは返すから、お前さん達は死なないようにちこたえてくれ。頼めるか?」
「了解」
チェドは再び屋根へと戻ると、急いで客車へと走り出した。
「……随分と器用な真似できるんだな」
サヴグマが他纏わりついている車両の屋根には、アンテナの様な黒い体が伸び、その先端に目玉が一つ。チェドを監視し、ここを通さないという気を感じられた。
「悪いが急いでるんでねェ。どいてもらおうか」




