第19話【魔力機関車と】
王歴597年 夏期 30日
7時09分
ワネグァル王国西 イソルゼ
列車が停止している駅に着くと、マイケルとジョンは目を疑った。
「おいおい、まんま蒸気機関車じゃねぇか」
「ここまで見た目が一緒だとは」
細い煙突のついた、丸い顔をもつ先端の車両。その後ろには、黒光りする貨車が山程付いていた。
二人が列車に見とれている間に、チェドとベダルズは近くにいる駅員へ声をかける。
「すみません」
「あぁどうも、ベダルズさん。何か御用でも?」
「つい先日、凶変個体の討伐が完了しました」
「本当ですか?!」
「えぇ本当ですとも。それで、本日中に試運転をしたいのですが、可能ですか?」
「勿論! 多分列車の運転席でレビニンさんが寝てるので……そうだ鍵。鍵を取ってくるので、ちょっと待っててください」
駅員は駅の事務所へ入っていくと、鍵を手に走って戻ってきた。
「丁度一昨日修理が終わったとこなんです。調整ももう終わってますし、いつでも行けますよ」
駅員は鍵を操縦席の扉に使い、操縦室を開けた。すると中には、椅子に反り返って眠っている男が居た。
「レビニンさん、レビニンさん! 起きてください! 念願の試運転出来るらしいですよ!」
駅員はその男の肩を揺らした。
「ふごっ!? 試運転? 試運転だと!?」
短い剃り残しのヒゲがまばらに生えた顔は、長らく手入れをしていない事が伺える。茶色の髪はバサバサになっており、砂が混じっていた。
「なんだ? 化け物の方は終わったのか?」
寝ぼけた声と表情で、駅員の方を見つめる。
「えぇ。この方が討伐してくれたようです」
駅員は向けられた視線をチェドに誘導し、挨拶するよう促した。
「どうも」
チェドはハットを軽く持ち上げ、挨拶をする。それを見ると運転席に座っていた男は立ち上がり、胸に手を当て深く頭を下げた。
「いやぁ~すみません。いや、ありがとうございます。私はプレドレビニンと申します。この列車の運転士をやってます」
「こちらこそ、アンタには何回かお世話になってる。俺はチェドゴリオン。今は飲んだくれの無職だ」
チェドが挨拶を返すと、レビニンは髪をワシャワシャと掻く。
「チェドゴリオン……もしやシャスプールで話題の?」
「まぁ……そうかもな」
チェドはまたいつものだと思い、少し表情を曇らせる。それとなく返答を濁しつつ、男の質問を受け流す。
「ふむ……その様子を見るに、ワケアリですな。ま、男には秘密が一つ二つあったほうが色気があるってもんですわ! はは!」
しかし予想していた反応と違い、チェドは片眉を上げる。珍しい反応をする男に、思わず笑った。
「ハッ、助かるよ」
「自己紹介が済んだことですし、早速動かしましょうや。討伐が済んだなら、一先ずシャスプールまで動かせるか試さないとですな」
「それに俺達も乗せてほしいんだが」
「ほう? 町長とチェドゴリオンさんも?」
「いやァ、乗るのは俺とあっちの二人だ」
チェドは運転室から体を出し、外で列車を眺めているマイケル達を指差した。レビニンはその指の先を見ると、男が二人、物珍しそうに列車を眺めているのが見えた。
「何故?」
「討伐しきったとは思うが、安心安全とも限らないんでねェ。万が一ってやつさ」
レビニンは僅かに眉間にしわを寄せたが、直ぐ笑顔へ表情を戻した。
「……なるほど。では、是非」
「理解が早くて助かるよ」
「準備ができたら、声かけますんで。駅内のどっかにいてくれれば」
「なら、あっちに座ってるとするよ」
「了解です。オメェら! 支度だあ!」
肩を回し、運転室から出ていこうとするレビニンを、チェドが止める。
「あぁ後、悪いが動力用の魔晶石を山程積んでくれないか?」
「ほう? 言われなくてもそうするつもりですが、何故?」
「こいつも念の為だ。魔物が出た時に、囮として使えるかもしれないだろ?」
「はぁ……? うーん…………」
レビニンはチェドを不審に思い、訝しげな眼差しを向ける。
「失礼申しますが、神経質になりすぎでは?」
「あいつはそれぐらいのヤツだったのさ」
「それなら調査してもらったほうが……」
「殺したのは間違いない。討伐はした。その必要はない。だが、万が一だ。わかるか?」
「はあ……」
無理やり納得させられているような感覚を覚えながらも、渋々了承する。
「わかりました。一応他の奴らにも伝えときますが、無理かもしれないんで、そこだけ」
「助かるよ」
今度こそレビニンは運転室から出ていき、駅員達を集め始めた。チェドはそれを見届け、二人に作戦が一歩進んだことを伝えた。
「……で、今のところは良い感じってわけだ」
「いいじゃねぇか。マイケル、今んとこ上手くいってるってよ」
「そうか。それはよかった」
三人は駅に用意されてあるベンチに座り、試運転の準備が進められていくのを眺めていた。車輪や扉、各部の動作や積荷の確認など、全てがすばやく済まされていく。全員が手慣れた様子で指を差しながら、点検を済ませるとレビニンが三人へ歩いて近寄って来た。
「お待たせ致しました。お二人がチェドゴリオンさんのお連れの方ですね。私はプレドレビニンと申します。この列車の運転士をやらせてもらってます」
お辞儀をされ、二人は急いでベンチから立ち上がる。
「どうも。俺はマイケル・ウィリアムズ。こっちは、ジョン・スミスです。ジョン、この方は運転士のプレドレビニンさんだ」
「どうも」
二人も軽く自己紹介を済ませ、頭を下げた。挨拶が終わると、レビニンは左手を列車に伸ばし、右手を回して中へ誘導する動作を取る。
「自己紹介も終わったことですし、こちらへ」
「待ってたぜ。こっちの世界の列車はどんなもんかな」
「椅子が柔らかいと良いな」
三人は招かれるまま客車へと乗り込んだ。
「おぉ! コイツは良い!」
「洒落てるな!」
外から見える武骨な鉄製の外見とは違い、中は木製のシックな内装だった。天井には洒落た電球がついている。並ぶ座席は何かの毛皮でできた、赤を基調とするクロスシート。試しに触ってみると、柔らかく、僅かに沈み込むような感触があった。
「どうやら腰の心配をする必要はねぇらしい」
「長時間座るのは辛いかと思ってたが……これなら大丈夫そうだ」
早速マイケルとジョンは座席に座り込み、そこへ身を任せた。チェドは一つ隣の座席に座り、辺りを見回していた。三人以外、誰もいない列車にどこか特別感を覚え、ジョンは座席の背もたれに腕を乗せて足を組む。
「でも、アイツが来れば座ってる時間なんざねぇんだろうな。今のうちに味わっとこう」
「そうしよう」
マイケルもジョンの真似をして、背もたれへ腕を回す。
「ご満足いただけたようで何よりですわ。それじゃ、乗務員が集まり次第発車しますんで。そのまま座ってお待ち下さいや」
三人は各々返事をして、運転席へと向かっていくレビニンを見届ける。客車からレビニンがいなくなると、三人は座ったまま体を寄せ、作戦を振り返り始めた。
「いいか、アイツはまず発車したら後部に積まれた動力用の魔晶石を狙ってくるはずだ。それを必要に応じて囮にしつつ、攻撃を続ける。この列車は先頭を除いて十二車両ある。こっから後部のヤツを狙うとなれば、大体二百メートルぐらいはあるだろう。魔法じゃちと心許ない。そこでマイケル、お前さんからピースキーパーとやらを借りたい」
「ちょっと待ってくれ」
ジョンは作戦の振り返りをマイケルに伝え、ピースキーパーを使いたい旨を伝える。
「……ってことでマイケル、銃を貸してくれだってよ」
「それは昨日聞いたが、渡す時の合図は?」
「それは……いや、こっからはお前にネックレス渡しといたほうがいいな」
ジョンはネックレスを首から外し、マイケルに渡した。
「……よし。それで、どういう時に貸せばいいんだ?」
「お前さんに言葉が伝わるなら、必要な時に声をかけるさ。所で、お前さんのそれは、出せる距離が決まってるのか?」
「どういうことだ?」
「手元以外にも出現させられるのかってことだ」
「あー……わからないな」
「じゃあ試しにあそこの席に出してみろ」
チェドは後方に見える席を指差した。マイケルは指し示された、車両の一番端にある席に向かって、銃を出すイメージを浮かべる。するとそこにはいつもの銃が現れた。
「お、出たぞ」
「ふむ。何となくでいいんだが、出せる距離の限界は分かるか?」
「そうだな……多分、しっかりと目に見える範囲だったらどこでもって感じじゃないか? 詳しく試したことはないから、何とも言えないが」
「いや、これがわかっただけで十分だ。少なくとも、十メートル先には出せるってことにしとくよ。俺が合図した時、遠くから確実に渡せるなら、かなり自由が利く」
「そうか。ピースキーパーを渡した後は、俺はジョンのそばにいるってことで良いんだよな?」
「あぁ。自分を守る手段が一時的になくなるしな。列車内に飛び込んでこないとも限らない。十分気をつけてくれ」
「了解」
二人の会話が終わると、丁度レビニンの雄叫びが響く。
「しゅっぱぁぁぁぁぁつ!!」
列車は汽笛を勢いよく鳴らし、ゆっくりと動き始めた。
「いよいよだ」
「あぁ。これでようやくアイツと決着が着く」
窓から見える景色が少しずつ動いていき、次第に加速して町を置いていく。
「お前さん達、いつでも動けるようにしておきな。もうつけられてたっておかしくないからな」
チェドは席から立ち上がり、軽く体を節々を回し始めた。
「何してんだ?」
「準備運動だよ。もう襲ってきてもおかしくないからだと」
「俺等もやっとくか?」
「そうしよう」
二人もそれにならい、全身の関節を適度に回し、足や腕を伸ばした。チェドは一足先に、窓を開け外の景色を眺める。辺りに怪しい動きがないか、特に後部を注視しながら警戒を強めていく。
「今のとこ、怪しい影はないな」
「そういえば、でてこなかったらどうするんだ?」
マイケルは準備運動をしながら、チェドに質問する。
「出てこなけりァ、それに越したことはない。どっかに住処を移したってことだからな」
「なら、出てこないように祈ってるよ」
二人も準備運動が終わり、椅子に座って外を眺める。チェドと反対方向の窓から頭を出し、目を凝らした。
そうして列車が出発してから数十分が過ぎた頃、マイケルとジョンは睡魔に襲われていた。列車の音は既に意識の外にあり、静かにさえ感じられる。心地よい揺れと自分の体温で温まった椅子が、より眠気を誘った。あくびをして目を潤ませていた頃、客車後部から乗務員が扉を割る勢いであられた。
「はっ!?」
「なんだ!?」
二人は後部から突然鳴ったからの音に、身を震わせた。
「あ、すみません! お騒がせしました! レビニンさん!」
乗務員はすばやく頭を下げて、正面の運転室へ向かっていった。
「……なんかあったのか?」
思わず椅子からこぼれ落ちそうになったマイケルは、椅子を掴んでゆっくりと座り直す。
「さあな。何かあの駅員がやらかしたんじゃないか」
チェドは興味を示さず、変わらず窓の外を警戒していた。しかし、乗務員がレビニンを連れて戻ってくると、視線をそちらに向け話しかけた。
「何かあったのか? 運転は?」
「運転は補助のヤツに任せましたが……いやあね、こいつが貨車に人が乗ってるって言うんですわ。そんな訳無いとは思うんですがね」
「……ついて行こうか?」
「ええ是非。本当にいたら、捕まえちゃって下さいや」
「わかった。マイケル、こっちの警戒を頼んだ」
「了解」
チェドを引き連れ、乗務員とレビニンは後部の貨車へと歩いて行った。
「何があったんだ? マイケル」
「後ろの方に人が乗ってるかも知れないんだと。何を根拠に言ってるのか知らないけどな」
「この世界にも無賃乗車なんてあんだな。しかも、よりによって試運転の時に」
二人は軽い雑談をしながら、眠気に襲われないよう外の警戒を続けた。
◇
レビニンとチェドは乗務員に連れられ、人がいると言われた貨車まで来ていた。コンテナの様に、四方が鉄で囲まれた空間。荷物を積むだけのスペースであるため、積荷以外は飾りも何もなく、非常に殺風景だった。しかし、死角になる場所は多く、人が隠れるには絶好の場所と言える。
「で、ソイツは何処にいんだ?」
「勘違いじゃなければ、あの箱の奥に……」
「第一、なんで人だと思ったんだ?」
「その、頭が見えまして。髪が生えてましたし、形も人のそれだったと」
乗務員と会話するレビニンをよそに、チェドはその箱まで近づいていった。
「コイツか?」
乗務員が指を差した箱を軽く叩き、確認を取る。
「はい。誰もいませんか?」
「あぁ。誰もいないね」
その周囲を見渡したが、人はおらず、人らしい形をした物も見つからない。箱を開けようとしたが、鍵がかかっているため、開かなかった。
「アンタの見間違いって線は?」
「いや、こんな所で見間違いはしないと思うんですけど……」
「そうでもねぇよ。暗いとこは色々見違える。若造がよくやる失敗だわな。気張ってる証拠だ、そう怒鳴りつけたりしねぇよ」
「……申し訳ないです。でも、うーん……」
乗務員は納得のいかない様子で、辺りを探し始めた。
「ま、ここまで来たんだし念の為だな」
レビニンも同じ様に、積荷の隅や空いている死角を探し始めた。三人がかりで荷物を動かし、あらゆる箇所を調べ回る。
「こっちの箱、随分とパンパンだな……危ないなぁ全く」
乗務員が一つの積荷を見て、愚痴を垂らした。
「ん? さっきの……なあ、コイツには何が入ってんだ?」
その独り言を聞き、レビニンは一つの積荷の違和感に気づいた。先程ずらした積荷がやけに軽かった事を思い出し、再びその箱を引っ張り出す。
「その箱は、動力用の魔晶石か石炭だと思います」
「にしちゃ、随分と軽い。それに中も、デカいのが一つって感じだぞ?」
レビニンはその大きな重い箱を持ち上げ、軽々と二回振った。
「うっ」
「お? なんだ!?」
すると、箱の中から人の声が聞こえた。思わず手を離し、箱を地面に落とした。
「これで間違いねぇ! こん中に人がいるぞ!」
「鍵貸しな」
チェドは乗務員から箱の鍵を受け取り、鍵を回す。
「離れてろ」
二人を箱から遠ざけ、魔法をいつでも出せるよう、腕を構えて警戒態勢をとる。不意を突かれないよう、一気に蓋を外し、中を明らかにした。
「ミナ?!」
中には涙ぐんでいる見覚えのある少女が、縮こまっていた。
「その反応、まさか知り合いとか?」
「……ああ」
「チェド……?」
「とりあえず、そこから出な」
チェドは少女に箱から出るよう命令し、構えている腕を下げた。少女は気まずそうに箱から出ると、手を固く握りしめて俯いた。
「なんでこんなところにいる?」
片膝をついて視線を合わせ、握りしめていた手を取る。
「……」
「答えろ」
「……」
口を固く噤んだミナは、目を潤ませるだけで一切返事をしない。
「はぁ……」
「レビニンさん、どうします?」
「まぁチェドゴリオンさんに任せよう。俺たちゃ仕事に戻るぞ」
レビニンは乗務員の肩を叩き、他の車両に移るよう指示した。
「チェドゴリオンさん、その子の処分は任せますわ。それじゃ、私達は仕事に戻るんで」
「迷惑掛けたな」
「お気になさらず。むしろ、こちらこそ気づけず申し訳ない」
レビニンは軽く頭を下げると、車両から出ていった。
「チェド、嘘ついた」
二人が貨車から出ていくと、ミナは小さな声でしゃべり始めた。
「あ?」
チェドはその言葉に、思わず低く冷たい声を出す。
「……悪い。なんでそう思った?」
本意でなかった為、謝りミナの言葉の意図を聞く。
「列車は……明日動くって言ってた。それか明後日ぐらいだって。なのに今日動いてるじゃん。私のこと置いてこうとしたの?」
ミナはついに涙を流し、一粒の涙が頬を伝って床へ落ちた。
「今日は試運転だ。明日から本格的に稼働するようになる。安全確認のためだ。分かるか?」
「なら言ってよ。なんで毎回ごまかすの?」
「それは……悪かった。ただ、試運転だって言えば、ついてくると思ったんだ」
ミナはまた押し黙り、涙を床にポロポロ落として俯いてしまった。
「危ない可能性があるから、下手に教えたくなかった。だが……言ったほうが良かったな。悪い」
チェドはミナを抱きしめて、背中を撫でた。
「なんで誰も、何も教えてくれないの……」
ミナはチェドに抱きついて、肩で涙をぬぐった。
「……俺達も、どうすれば良いのか分からないんだ」
ミナが泣き止むまで、チェドは背中を擦っていた。しゃくりあげる少女が次第に落ち着いていくと、チェドは肩に手を当てて、目を合わせる。
「いいか、恐らくこの列車は魔物に襲われる。だから、先頭の客車でおとなしくしてるんだぞ。いいな?」
「うん」
チェドは立ち上がり、ミナの手を握る。歩幅を合わせて、客車へと歩いて行った。
◇
客車で退屈をしていたマイケル達は、後部の扉からチェドが帰ってきたのを見て、すかさず声をかける。
「帰ってきたか。レビニンさんが本人が来たら聞いてくれって言うから何が……」
何があったのかと問う前に、チェドが手を握る少女が目に入った。
「その子! なんでここに?」
「なんだ? おお、その子お前の家にいた子か」
二人がホラー映画のような出会い方をした少女がそっぽを向いてチェドの隣に立っていた。
「自己紹介しな」
「……ミタリナ」
「ミタリナか。よろしく」
「いい名前じゃないか」
少女は扉近くの席に座って、二人から姿を隠す。
「悪いな、人見知りなんだ」
「そうか。うちのこより少し大きいな。今いくつだ?」
「確か、今年で十一だ」
「なるほど。大変だな」
「まぁな」
マイケルは一人の娘をもつ父として、チェドに共感していた。
「そんな事より、どうだ? サヴグマはいるか?」
「いや、全く。平和そのものだよ」
マイケルがそう言った直後、ジョンが声を荒げて二人を呼んだ。
「おい! あれ!」
二人は急いで駆け寄り、窓から体を出してジョンの視線を追った。すると列車後部のそこには、直径十メートル程の黒い円が迫っていた。
「レビニンに報告! マイケルはアイツに狙い付けといてくれ!」
「了解!」
マイケルとジョンは銃を出現させ、窓から体を出して銃をサヴグマに向けた。
チェドは運転室の扉を叩き、レビニンに伝わるよう大声を出して報告する。
「魔物のお出ましだ! 凶変個体! 乗務員を客車に集めてくれ! 後部は危険だ! ついでに速度もあげてくれ!」
「は!? 了解!」
レビニンは言葉を聞き返さず、信じられないまま運転室に積まれた魔道具を使い、乗務員達に連絡を取った。
「あーあー聞こえるか!? 列車後部に、凶変個体の魔物が出現! 各員、客車に集まり、チェドゴリオンの支援をされたし!」
連絡を終えると、運転室の複雑な操縦桿
乗務員の持っていた魔石からレビニンの声が響き渡り、瞬く間に列車に乗った数十人が客車へと集まる。
「これで全員か? 集まった奴は、適当に席に座ってくれ」
全員が緊迫した表情で、チェドの指示を冷静に聞き座席へと座る。
「凶変個体の討伐は、俺達三人がやる。お前さん達は、なるべく気を引かないよう最低限の自衛で収めてくれ。いいな?」
「はい!」
「いい返事だ」
命令を終えると、突然、チェドは座席隣の窓を開けた。
「ちと通るぜ」
開けた窓から勢いよく飛び出し、列車の屋根へと乗る。
「チェド! もう地上に出てるぞ!」
マイケルは屋根へと叫び、チェドへ注意を促す。
「ああ、わかってるさ。フ、元気そうで何よりだ」
直径六メートル程の丸い巨体に、大きな一つ目と十の腕を持つ黒い魔物。十ある腕をせわしなく動かし、列車の最後尾に追いついていた。
「さあ、決着つけようか」




