第17話【サヴグマ討伐作戦 その二】
王歴597年 夏期 29日
15時31分
ワネグァル王国西 イソルゼ
(マイケル達が来るまで二、三分か? いやもっとかかるだろうな。どうしたもんか)
ジョンは相対する二匹のサヴグマに視線を泳がせた。二匹はジョンに向かって真っ直ぐと迫っている。
(こっち見てくれてんならマイケルは無事かね。魔法使いの野郎が言ってた事が当てはまらないなら、ひたすらぶっ放しまくって何とかするしないか)
ジョンは後退りしながら、先程上半身を吹き飛ばしたサヴグマに照準を合わせる。するとサヴグマは狙われていることを理解したのか、合体していた体を崩し、数百匹の小さな群れへと変化した。
「なんだよおい……」
狙いが定まらず、正面を向いて走り速度を上げた。背後からは黒い小さなウナギの大群が、波をつくり迫りくる。しかしその速度はジョンの走る速度と同じ程度であり、そのままで追いつくことはない。
「おせぇぞクソ野郎!」
振り返りざまに数百匹の群れの波へ、容赦無くショットガンを放つ。散弾は波を作っている数十匹を貫き、木っ端微塵に吹き飛ばす。しかし、その勢いは一切の衰えを見せない。
(なんで影になって追ってこない? 足は遅ぇし弾は当てやすい。多少ダメージが軽減できるのかも知れねぇが、合体してる時は吹き飛んでるだけで無傷だったよな? 一回最初っから考えてみるか)
自身を追いかける魔物に違和感を覚えたジョンは、走りながら思考を巡らせた。一番初めに遭遇した時、ジョンは一縷の望みにかけ、銃を遠くへ投げ捨てた。それは魔法使いの助言の上で行った賭けである。実際、その狙いは上手く行き、一度は難を逃れた。
(その間に俺等は距離取って離れた。確か、銃ぶっ壊した後潜水艦みてぇに目ん玉だけ伸ばしてこっち見てたな。その後正面にいる筈のアイツを撃ち続けてたら横から奇襲された。多分体が縮んでた事を考えるに、半分ずつ体を分けて追いかけてたんだろう。その間俺達は銃撃ってたな。魔力探知が出来るなら、横から来てるやつが地面に潜伏しててもバレる。その後銃消して走ったが、地上に出てこられて追いかけられてる。てことは潜ってる間は魔力探知はできるが景色は見えねぇってことだな)
ジョンは一つずつ過去の状況を振り返る。思考を巡らせながら、振り返りショットガンを一撃放つ。再び数十匹がバラバラになるが、勢いは変わらない。
(後は調査の時か。あん時はもっと足が速かったな。二ヤードちょいあったのに、随分と速かった。いや、待てよ。デカい時は合体してる数が多いってことなら、あん時は山程くっついてたってことだ。つまり量が多けりゃ強く、デカく、速くなってくのか? そう考えりゃ、マイケルが町長から聞いた、列車を襲った七ヤードぐらいのバケモンってのは納得がいく)
数百匹のサヴグマの群れは左に逸れ、一メートル程の足の遅いサヴグマへ向かっていった。
(結構いい線いってるかもな。となると今するべき事は……)
ジョンは中々良い推理が出来ていると頬を緩ませた。そんな事をよそに、一匹の大きなサヴグマと、数百匹のサヴグマが近づいていく。
(あいつらくっつけたらヤバい!)
元々二メートル程の大きさを持っていたサヴグマが、別れてジョンを襲っていたのが、直前の状況である。しかし、今はそのサヴグマ達が元に戻ろうとしていた。
「させるかよ!!」
ジョンは足を止めて振り返り、正確に一メートルのサヴグマを狙った。それにギリギリでサヴグマは反応し、僅かに身を反らす。しかし完全な回避とはいかず、体の半分をかすめて散らばった。
「森のやつは余裕で避けてたぞ!! そんなもんか!? あぁ!?」
すかさずジョンは煽りを加えながら続けてサヴグマを撃ち抜いた。そのまま連続で射撃しようとトリガーを引くが、ショットガンからの手応えはない。
(クソ、リロードか)
トリガーを引いても反応のない銃を消し、再び手元へ出す。
(五発だったな。忘れてバカスカ撃ってるといつかやらかしそうだ)
ショットガンの装填数を思い出しながら、銃を構え直しサヴグマへ向ける。今度は転がっている小さな数十匹のサヴグマへ向けて、間隔を開けずに三発放った。
(案外順調だな。油断せずに行けばあいつらが来るまで耐えられそうだ)
サヴグマ達が身を寄せ合体しそうになる度、ジョンは引き金を引いて止めた。弾丸がなくなれば、銃を消して出しリロードを済ませる。ひたすらにその作業を繰り返し、着実に数を減らしていった。
「おいおい随分と小さくなったな? さっきまでの威勢はどうした?」
気づけばサヴグマは、全て合わせても丁度百匹程度の群れになっていた。先程の波を作るような勢いはもう無い。
「ジョン!!!」
突如、遠くからマイケルの声がする。振り返って確認すると、見慣れた男を隣に勢いよく走ってくる姿が見えた。
「こっちは無事だ! そっちは!?」
変わらずサヴグマから視線を外さないよう、後退りしながら二発サヴグマに撃ち込む。段々と三人は近づき、合流する。
「良かった! お前……随分と頑張ったな!」
マイケルが、目の前のサヴグマの群れを見て驚く。自分がチェドを呼びに行った時よりも、数倍小さくなっている。
「まぁ一つわかった事があってな。それより、コイツを……」
片づけよう。そう言おうとした瞬間、ジョンの傍らを風が吹き抜ける。何事かと思い、周囲を見渡そうとした時には、目の前にチェドが立っていた。驚いて声をかけようとするジョンより先に、百匹程度の群れを炎で焼き尽くす。あまりに一瞬の出来事で、ジョンは少しの間固まった。
「…………いや、何でもない。今終わった」
ジョンは額の汗を拭い、一息ついた。
「まだだ。親玉がいない」
一方でチェドは周囲を見渡し、警戒を続けていた。
「長がいないってことか?」
「あぁ。もっとおびき寄せなけりァ、出てこないかもな」
「馬車で追われてる方は? そっちにもいないのか?」
「わからねェ。一先ず、馬車を呼ぶぞ」
「了解。ジョン、馬車を呼ぶ」
「はいよ」
マイケルは銃を一定のリズムで三発地面に撃ち込んだ。
「聞こえるのか? これ」
「俺も試しとくか」
ジョンもマイケルと同じ様に、一定のリズムで三発地面に撃ち込んだ。
「後は到着するまで待つだけだが、何か出来ることは?」
ジョンはチェドに聞くよう、マイケルを肘でつついて促した。
「チェド、何か俺達に出来ることはないか?」
「今のでサヴグマが寄ってこないなら……一旦休みだ。馬車の方は……」
チェドは遠くで走っている五台の馬車の位置を、見渡して把握する。そのうち二台は、既にサヴグマを討伐し終えたようで、町に向かっていた。残り三台の馬車は、後部から魔法を使ってサヴグマと戦っている最中ではあるが、追いつかれそうな様子はなかった。
「二台は済んでる。残りの奴らも順調そうだ。上手く行き過ぎてる感じもあるが」
「じゃあ、今は休憩してればいいんだな?」
「あぁ。ジョンにも伝えてやってくれ」
「やることないってさ。今は休憩時間にあてろって」
「了解。マジで疲れたぜ」
ジョンは地面に尻もちをついた。楽な姿勢になるよう足を崩し、ショットガンを消す。
「お前、足は?」
「チェドが魔法で手当てしてくれたよ。見てくれ、もうカサブタができそうだ」
マイケルは破れたズボンを少し捲り上げ、傷口を見せた。傷口は既に出血が止まり、赤い光沢を持った肌が残っているだけだった。
「凄いな、魔法ってのは。俺の肩の傷も、殆ど塞ぎかかってるしな」
左肩を撫でながら、元々穴の空いていた位置を見る。服の上からで傷は見えないが、何となく傷のあった位置を見つめていた。
「一、二カ月はかかると思ってたんだが」
「俺の方も傷が浅かったとは言え、もう完全に治ってる」
スライムに切られた左足を撫でながら、マイケルも地面へと座った。チェドは変わらず、立ったまま周囲を見渡している。
二人が座ったまま雑談をしていると、チェドが手を振り声を上げた。
「バーボット! こっちだ!」
二人は叫び声を聞いて立ち上がり、チェドが向いている方へ視線を向けた。馬車が遠くに小さく見えており、こちらへ迫ってきているのがわかる。
「後は帰るだけか」
「何事もなく終わりそうで良かったぜ」
尻についた土を叩いて払い、近づいてくる馬車を待った。
「……待て、おかしい」
チェドが馬車を見つめながら、顔を顰めてそう言った。
「どうした?」
マイケルはそんな言葉に嫌な予感がして、問いかける。
「気のせいかも知れないが、バーボットの野郎……」
チェドは目を細め、更に注意深く一方を見つめた。馬車との距離はみるみる縮まり、次第に三人全員がハッキリと目視出来るようになると、チェドの言っていることがわかった。
「追いかけられてるな」
「なんで!? アイツはもう残って無いはずじゃ?!」
「マイケル、俺の見間違いじゃねぇよな? バーボットの馬車が追いかけられてるんだが?」
「見間違いじゃない! チェドもそう言ってる!」
「はぁ……そうあっさりと返してはくれねぇか」
迫りくる馬車の背後に、サヴグマが見える。三メートル程の、今まで相手した中では一番大きな群れだった。後部から誰かが反撃しているのが分かるが、サヴグマはその攻撃を物ともしていない。
「二人とも、構えな」
言われずとも二人は銃を手元に出し、準備していた。馬車は勢いを落とさず、三人の方へ迫りくる。
「あの中に長がいるか……もしくは……」
チェドも馬車の方へ手を向け、構える。馬車と三人の距離が五十メートル程に近づくと、馬車の方から呼び声がする。
「……ぉぉぉぉぉい!! おぉぉぉぉぉい!! 三人共!! 助けてくれ!!!」
声を聞き、更に三人はぐっと体に力を入れる。馬車が三人の横を通り過ぎる、その瞬間。三人は馬車の背後につくサヴグマへ向けて各々攻撃を開始した。
最初に、チェドが馬車とサヴグマの隙間を狙い、石の壁を作り出した。サヴグマは壁に衝突し、壁を破壊しながら、体を大きく崩す。マイケルとジョンは、バラバラになったサヴグマに狙いを付け、連続で射撃を繰り返した。数百数千の群れに弾丸が降り注ぎ、無慈悲に体を貫いていく。サヴグマは一時的に地面へ潜り直し、影の状態へと姿を変えた。
「馬車の方に走るぞ!」
チェドが一時的に二人の射撃を止め、走るよう提案する。二人はそれに頷き、銃を抱えたまま走り出した。一方で馬車の内部では、後部から一人の女性がその様子を覗いていた。振り向いてバーボットへ合図を送り、馬車を止めるよう指示する。走っていた馬車は速度を落とし、完全に停止した。
「アンタら! 危ない!!」
その女性が三人へ叫んだ。すかさず三人は振り向き、背後から迫るサヴグマへ反撃。口を広げ噛みつこうとしていた既の所で、何とか体勢をずらすことに成功した。三人はそのまま走り続け、馬車の後部から内部へと上がり込む。
「アンタらやるじゃないか! 流石この作戦の立案者なだけあるよ! バーボット、出していいよ!」
短くそろえられた赤色に近いピンク色の髪。そして屈強で肩幅が広く、左目に切り傷のある女性が、馬車の中で三人を迎えた。三人が乗ったことを確認すると、素速くバーボットに合図を送った。
「ビレンダか。何でここに」
馬車でサヴグマの対応をしていたグループの内の一人である。
「アタシらの班ははやく終わっちまったからねぇ。流石に一人で行かせるのは、万が一があるだろう? だから乗ってきたのさ」
「その万が一が起きたってことか」
「そう。感謝していいよ」
ビレンダは、走る馬車の後部から引き続きサヴグマを見張り続けている。
「まさか、あの巨体で馬車に追いついてくるとは思ってなかったけどね。うらやましいもんだよ、全く」
「ちょっと共有したい情報があるんだが、いいか」
ジョンがようやく一息つけると言った所で、一人で戦って気づいたことを話し始める。
「なんだい? 私は語学は学んでなくてね」
「あーちょっとまってて下さい」
マイケルがジョンにネックレスを渡すと、それを首にかけ話を続けた。
「聞こえるよな?」
「おぉ、なんだ話せるじゃないか」
「……とりあえず進めるぞ。俺の予想が合ってれば、サヴグマは合体すればするほど強くデカく速くなってく」
「何だって?」
ジョン以外の三人が驚き、同じ言葉を上げる。
「そんなスライムみたいな事があり得るのか? いや、合体できる時点でもしやとは思ったが……」
「吹き飛ばせば直ぐに分裂するから、デカい状態の強さが分かりづらいんだ。そこは大して問題じゃねぇんだが、速度も上がるってとこが問題だ。あの地上に出てるヘビみてぇな状態で馬車に追いつけてるのは、十分な数が集まってるからだ。影になってる状態はデカさ関係なく速いが、地上にいる状態じゃ、あいつらは遅いし弱い。上手く合体しないよう分裂させ続ければ、無力化出来る」
「なるほどねぇ。蹴散らすだけでも、食われなくなるからそこそこ効果はあるってことだね?」
「そういうことだ。ついでに、俺達二人の体には魔力が流れてない。魔力探知されなくなるのも強みだ」
「そりゃホントかい? まぁ今冗談を言うわけがないね、わかった。とりあえず、アイツをこっからひっぺがそうか」
気づけば、サヴグマは馬車のすぐ近くまで迫っていた。
「任せとけ」
ジョンは馬車からショットガンを構え、サヴグマに向けて放った。サヴグマは避けようと体を反らすが、やはり躱しきれず命中。少し散ったサヴグマは馬車の速度についていけず、置いていかれた。
「うひゃ~……なんて音と威力! 今度アタシにも貸しておくれよ」
「今度な」
「ジョン、手伝うぞ」
マイケルも銃を構え、サヴグマに向けて連射する。すると巨大な体から、数匹ずつポロポロと落ちていく。その個体達も、馬車の速度に置いていかれ、距離が離れていく。
「時間稼ぎにはなるが、はぐれたヤツを殺せないんじゃァ意味がねェ。地面に潜ってまたくっつくぞ」
「そうだねぇ……アタシが降りて潰してこようか?」
「途中から馬車と離れて意味がなくなるだろ」
「そうか……うぅん……もっと魔法が使えるやつがいればねぇ……」
「……それだ。バーボット、まだ周囲に走ってる馬車はいるか?」
「一台だけいるぞ! 何すんだ!?」
「アイツらに近づけてくれ!」
チェドの思いつきに従い、バーボットはもう直討伐の終わりそうな馬車に進路を定めた。
「じゃ、二人とも時間稼ぎ頼むよ」
ビレンダが二人の肩を叩く。二人は少し肩に痛みを覚えながら、引き続きサヴグマに狙いを定め、射撃を続けた。
「時間稼ぎ頼むだとよ」
「了解」
馬車に対し真っ直ぐ向かってくるサヴグマは狙いやすく格好の的だった。弾丸の殆どが外れず、合体している個体を着実に減らしていった。ある程度の大きさになると、サヴグマの速度を馬車が上回り、距離が離れていく。
「良い感じだね! あっちと合流する頃にはだいぶ距離が空いてそうだよ!」
二人の背後からビレンダはサヴグマを覗き、テンションを上げる。
「そいつァ都合がいい。止める時間が必要だったんだ。もっと離しといてくれ」
「もっと距離離せだってよ!」
「指が痛くなってきた!」
射撃し、弾が無くなれば消して出す。そしてまた射撃し、弾が無くなれば消して出す。命がけでありながら、単調な作業をただ繰り返し、十分が過ぎた頃。サヴグマは三十センチ程に小さくなり、距離は十分に離れていた。
「もう当てられねぇ」
「あれは軍人とかでも難しいんじゃないか?」
目を凝らしてみても、視認できるかどうか怪しい程の距離。
「こんだけ離れれば十分だよ! アンタら頼りになるねぇ!」
「どうも。しっかし耳がいてぇ……」
「同感だ……元の世界に戻る頃には、難聴になってそうだな」
二人は銃を消し、馬車の壁にもたれかかった。休み始めた直後、二台の馬車は出合い、並走し始めた。
「よう兄ちゃん! そっちの仕事は終わったか!?」
バーボットは隣の馭者に大声を出して会話を試みる。
「今丁度終わった所です! 貴方は三人の回収に向かうはずでは?」
「三人は乗ってるが、ちと面倒なのに絡まれちまってな! 見てくれ!」
バーボットの隣の馭者は体をひねり、後方を見る。しかし、そこには何もいなく、面倒なの、の正体は掴めない。
「何もいないじゃないですか!」
「なんだって? なら止めてくれ!」
「……はぁ!? 意味がわかりませんよ!」
「色々あんだ! とにかく止めてくれ!」
「……わかりましたよ! 納得のいく説明をお願いしますよ!」
馬車はゆっくりと速度を落とし、停車する。二台が横並びに止まると、チェドとバーボットは馬車から降りた。チェドはそのまま隣の馬車へ歩いて行き、馬車の後部から顔を覗かせた。バーボットは馭者へ現在の状況を説明し、理解を得る。
「ようお前さん達。調子はどうだ」
チェドが中を覗くと、中には魔法を使い続け、疲労した人間が五人乗っていた。
「チェ、チェドさん……」
「時間がないんで端的に言おう。この中でまだ元気のあるやつは手を挙げろ。二人連れて行く」
チェドの声を聞くと、五人の中から丁度二人、女と男が手を挙げた。
「よし。ついて来い。説明はあっちの馬車に乗ってからだ。残りは町に帰って休みな」
チェドは手早く指示を出し、一つの馬車を町へ向かわせた。残った馬車へ二人を連れて乗り込み、席に座らせる。バーボットはその様子を見ると、馬車の前部に乗り込んで、再び馬を走らせた。
「確か名前は……ピスラとデイだったな」
緑色のボブを携えた女のピスラと、ほんのり赤の混ざった黒髪の男のデイ。マイケル達の目からは、二人は二十歳丁度といった年頃に見える。双方の確認を取ると、説明を始めた。
「今回、作戦に不備があった。そのせいで俺達を回収する馬車にサヴグマがくっついてやがった。今からソイツを殺しに行く」
「えっと、それが本当に最後のサヴグマなんでしょうか?」
ピスラは不安そうにチェドを見つめる。
「今回は間違いないはずだ。元々アイツらは、町の建物の影に潜んでる。恐らく俺達が町で馬車を用意した時点で、底に潜り込んでやがったんだ」
「な、なるほど。でも私達の馬車とか、他の馬車にはついてきてませんでしたよ?」
「それは恐らく、俺達の誘導が上手く行き過ぎたせいだな。俺は調査の段階でサヴグマをだいぶ殺してる。警戒されててもおかしくはない」
「馬車についてたサヴグマが、狙いを変えて、三人を狙ったってことですか?」
「そういうことだ」
「なるほど……」
ピスラは納得した様子で頷いた。一人の質問が終わると、チェドはもう一人の方へ視線を向けた。
「デイは?」
「え?」
何で自分に、と分かりやすい表情で訴えるデイ。
「聞きたい事があるなら聞くが」
「いや、特にありません。ただ僕は、役に立てたのか不安で……」
チェドは微かに笑い、デイに慰めを与えた。
「安心しろ、お前は俺が選んだ男だ」
デイの肩を掴み、顔を真っ直ぐ見つめる。真っ直ぐな視線を向けられたデイは、唇を噛み眉間にしわを寄せた。それは自身の情けなさと、覚悟のなさを悔いる表情だった。
「……そうですよね……僕が自分で望んだことなのに……すみません! 頑張ります!」
気合を入れ直したようで、デイは自分の胸を一度強く叩いた。
「お前さんは炎が得意だったな」
「はい。全力でも、後五回ぐらいはいけるかと」
「そいつァ頼もしい。ピスラは電気だったな」
「はい。私は、後三回が限度だと思います……」
二人の残り魔力を聞き、作戦を話す。
「十分だ。こっちの二人が攻撃するのと同時に、お前さん達も魔法を使って欲しい。魔力が底をついたら、俺とビレンダに交代だ。そっちでもやったことだろうから、分かるな?」
「わかりました!」
「了解です!」
二人は同時に返事を返し、力強く頷いた。
「もう直ヤツが来るはずだが……」
チェドが予想を立てた直後、バーボットが声を荒げて叫ぶ。
「正面だ!!!」
「頭下げな!」
チェドは誰より速く声に反応し、バーボットの頭を左手で押し下げた。右手で魔法を構え、そのまま石の弾丸を放つ。サヴグマは反応する余地もなく、石の弾丸を食らった。上半身が吹き飛び、小さなサヴグマが積み上がる。
「曲がるぞ!」
バーボットは押し下げられた頭を上げ、手綱を強く引いた。馬車が横転しないギリギリの進路変更を見事に成し遂げ、サヴグマに衝突しないよう逸れる。馬車内は大きく揺れたが、数人が椅子から落ちただけで外傷はない。
「こっからはさっきと同じ筈だ! あんちゃん達、思う存分……」
バーボットは言葉の途中、地面を見て口を噤む。先程まで窮地を脱し笑っていたのに対して、今は青ざめているという言葉がピッタリ似合う。
「どうした? バーボット」
チェドは対照的に、地面を見てニヤリと笑った。
「おい、なんだよコレ……」
バーボットがチェドに問う。二人の視線の先には、同じ物が映っていた。バーボットにとっては、絶望の存在。しかし、チェドにとっては追い続けていた標的である。
自分達を突如下から取り囲んだ、直径十メートルの黒い円。その中にある、どうなっているのか分からない平べったい目玉が、地面から馬車を見つめていた。馬車の真下には、絵で描いたようなギザギザの歯が生えた口が笑っている。
「長のお出ましだ」
チェドは、地面の標的へ手を向けた。




