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第16話【サヴグマ討伐作戦 その一】

王歴597年 夏期 29日

14時56分

ワネグァル王国西 イソルゼ


 ワネグァル壁内へ向けた町の出口に、大勢の人間が集まっていた。そこに集まる人々は、かつてない程に滾り、今か今かと武者震いを起こしている。町はその熱気にさらされ、緊迫した雰囲気に包まれていた。


「全員、準備はいいか」


 一人の赤いスカーフをした男が、声を上げる。それに呼応し、三十人の益荒男は地面が揺れるほどの怒号を上げた。


「おおおおおおおお!!!」


「作戦は昨日通りだ。俺達の合図を待て」


 赤いスカーフの男は二人の風変わりな男を連れ、先陣を切って歩く。二人の風変わりな男は、これまた風変わりな武器を担いでいる。


「凄いやる気だったな。全員殺気立ってるっていうか」


「アイツらは多分、シャスプールへ旅行に行く予定だったのさ。そんな奴らからすりァ、こんな町に一週間も縛り付けられたのは、相当なストレスだったろうな」


「そうか。いいとこだと思うんだけどな、ここ」


 赤いスカーフの男と風変わりな男は雑談をしながら、荒野の道を歩いて行く。


「さて、お前さん達。作戦を改めて振り返るぞ。マイケルは翻訳を頼む」


「了解」


    ◇


 前日の昼。普段は閑散としている集会所に、この日はごった返す様な人混みが出来ていた。理由は単純で、止まっている列車を再度動かそうとする男達が現れたからだ。


「これで全員か?」


「はい。招集をかけた方は、これで全員です。入りきらない方は、外で待機してもらっていますが……」


「まだいるのか……凄いな」


 この町で腕に自信のある人間は、現在ほぼ全て集会所に集まっている。


「なら、ここにいるやつらも外にでな。審査は外でやるぞ」


 チェドが声をかけると、集会所にいた人間の殆どが外へと移動する。チェドとマイケル達は固まって動き、外に出る。外で待機させられていた者達と合流し、チェドは集まった人々を道に並べた。


「名前を呼んだやつから前に来い。来なかった奴は飛ばすからな」


 鞄にある大量の手紙から一通を取り出し、封を破った。


「カタディラ。水の魔法が得意なやつだ。来い」


「俺だ! すまん、ちょっと通してくれ」


 人混みをかき分け、細身の男が現れた。細身でありながらも、体には十分な筋肉がついており、鍛えていることが伺える。


「どうもどうも。そこに書いてある通り水の魔法が得意で、治療魔法も多少使える。後は……」


 集会所の依頼形式は、大きく分けて二種類存在する。一つは、開放型と呼ばれるもの。これは集会所に依頼を張り出して報酬を預け、誰かを問わずとにかく依頼を達成してもらうというものである。この形式は、依頼を張り出してから達成までの時間がはやいというメリットがある。人を選ばない為、基本候補者が多く、迅速に解決出来ることが多い。依頼達成時の報告は集会所が依頼人へ手紙を出す為、依頼を受注した者と会う必要が無く、受注した者もまた依頼人と会う必要がない。報酬の受け渡しや、依頼の確認が全て集会所内で済む為、揉め事が少なく人気も高い。ただし、その形式上依頼人が現場へついていく事ができない為、依頼の内容によってはこの形式は向いていない。

 もう一つは、応募型と呼ばれるものである。依頼人が何らかの理由で受注者を選別したい場合、この形式が選ばれる。依頼に応募する人間は、自分のスペックを集会所に提出し、その手紙が依頼人の元へ届けられる。時間に余裕があり、内容を問わず確実に依頼を達成したい場合は、こちらが適している。この形式は依頼人が同行する事が多い為、働きによっては追加報酬が期待でき、依頼で生計を立てている人間からは好まれやすい。しかし、求める人材を絞る為、人数は集まりにくい。

 そして今回チェドが出した依頼は、応募型のものである。人の集まりにくい形式であるにも関わらず、ここまでの人数が集まったのは、一概に皆列車の運行再開を望んでいるからであろう。

 そして大勢集まった内の一人、カタディラの自己紹介が終わり、チェドは判断を下す。


「……と、こんなもんだ。どうだ? 役に立てそうか?」


「なるほど、よく分かった。悪いが、アンタは休んでてくれ」


「なんだよ、ちくしょう。まぁいい。頑張ってくれや。列車が動くの待ってるからよ」


「あぁ。応募してくれてありがとな。アンタの分まで、俺達が働くよ」


 チェドはカタディラと握手を交わし、次の手紙の封を破った。


「次。ヴラヌ。土の魔法が得意なやつだ。来い」


「これを七十人近くやるのか……」


「何やってんだ今?」


「面接だよ。今回の作戦にいる人材を絞ってるらしい」


「ほぉ。それを七十人近くねぇ……こりゃ実行は明日だな」


 マイケルとジョンはチェドの近くに立ち、ただぼーっと人が入れ替わる様子を見ていた。一人が去り、また一人。それが終われば、また一人。決して遅くないペースで進むものの、人数が多く時間がかかる。そうして面接が終わると、残ったのは半分程度の三十人だった。


「……以上だ。後は俺達で話を進めるぞ」


「あー……終わったっぽいな」


 マイケルはジョンに様子を伝え、状況を把握させた。


「そこそこ残ったじゃねぇか」


「これで……三十人か? 半分未満って考えれば、結構減ったほうだろ」


「確かにな」


 マイケルとジョンは足首を回し、立ちっぱなしだった足の疲労を和らげる。これから始まる作戦会議に向け、顔を軽くたたいて気を取り直した。


「まずは、協力に感謝する。お前さん達がいなけりァ、アイツは倒せないだろうからな。ただ、考え無しの奴を連れて行く訳にもいか無くてね。確認するが、相手は一筋縄じゃ行かねェ。お前達は、それを承知の上でここにいると思ってるが、違いないな?」


「勿論だ!」

「今さらだぜ」


 チェドが軽い確認をすると、残った者達は声を張って返事をした。


「重傷を負うか、最悪死ぬかもしれねェ。それでも、覚悟は決まってるか?」


「当たり前よ!」

「当然!」


 さらに念を押した確認に対しても、一切怯むこと無く全員が声を上げた。


「こいつァ頼もしい。それじゃァ、作戦会議といこうか」


 その言葉を聞くと三十人全員が黙り、姿勢を正した。


「本当に、中々気の利く連中だ……まず、あの魔物の名前はサヴグマに決めた。以降は魔物の事をサヴグマと呼称する。頭に入れといてくれ。作戦についてだが、始めに俺達三人がこの町を出て行く。馬にも馬車にも乗らずな」


 チェドはマイケルとジョンを親指で指さし、指された二人はなんとなく頷いた。作戦を聞いている三十人の間で、僅かに疑問の声が上がり始める。


「戸惑うのは分かるが、一旦聞け。勿論、そのまま俺達が暴れた所で、食われて終いだ。そこで、アンタらの出番だ。今回は六人、馬車を動かせる奴がいる。俺達が音を立ててサヴグマを引き寄せたら、合図を聞いて馬車を五台、バラバラの方向に出してくれ」


 説明の途中、一人の男が手を挙げる。


「なんだ?」


「合図、というのは?」


「マイケル、一発行けるか?」


「了解」


 マイケルは指示に従い、ライフルを出し、一発地面に撃ち込んだ。作戦を聞いている者達は皆体を一瞬浮かせ、驚きの表情を作った。


「サヴグマは音と振動に敏感な、魔力感知を中心に動く魔物だ。馬車が出りァ、必ず追いかける。それもかなりの数な。それを五台の馬車で分散させ、少しずつ狩ってくって寸法だ。馬車一台に馭者を含めて六人、乗ってくれ。そんだけいれば、サヴグマに追われても対処出来るはずだ。ただそのうち一台は五人になる。俺達三人を回収する馭者が一人必要だからな。その一人は、バーボット、お前だ」


 チェドの親友である、バーボットアープ。チェドと同じく、過去に王国兵として働いていた。今は引退しているが、王国兵時代に騎兵と馭者をやっていたことがあり、その腕は確かである。


「お前さんが応募してくるとは思ってなかったが……正直、助かる」


「なぁに言ってんだ! ダチが大死一番やろうってんだ。付き合わねぇ道理がねぇよ」


 最前列にいるガタイの良い毛むくじゃらの大男は、気持ちよく豪快に笑った。


「俺達がコイツを等間隔で三発ぶっ放したら、迎えに来てくれ」


「りょーかい。それまでにおっ死んじまうんじゃねぇぞ?」


「俺を誰だと思ってやがる」


「ハハッ! こんだけ元気なら心配ねぇ!」


 チェドの肩を叩き、自分の長い髭を撫でる。


「作戦は以上だ。後はサヴグマの見た目と特徴の共有、馬車の乗組員の提案ぐらいか。他に質問のある奴は?」


 人混みの中央辺りにいる男が、手を挙げる。


「そこ、マールズか? 何だ?」


「サヴグマが襲ってくる際、陣形など組んでくる可能性は?」


「最初に囮になる俺達のことは、円形状に囲ってくるだろうな。ただ馬車で扇動するアンタらに対しては、ケツを追っかけるだけだと思うが」


「なるほど。もう一つ、お伺いしても?」


「なんだ?」


「知性があるのであれば、我々の扇動に気づかれる可能性もあるかと思うのですが」


「そこは安心しろ。気づいてたとして、アイツらは追わないとならねェ。ここらへんを餌場にしてる以上、俺達以外に食い物がないからな。二週間馬車の出入りがない今は、相当飢えてる筈だ」


「なるほど。以上です。ありがとうございました」


「他には?」


「はい」


 後方にいる女が、手を挙げる。


「ミナスティ、なんだ?」


「サヴグマは巧妙に姿を隠して奇襲してくると聞きました。その為馬車の使用は禁じられているのだと。隠れ身を見破る方法はあるのですか?」


「アイツは地面の影に擬態しててね。不自然に動く影がありァ、それだ。慣れれば案外分かりやすいもんだ」


「なるほど。ありがとうございました」


 その後も質疑応答は続き、全員の疑問を丁寧に解決していった。更にその後は作戦の詳細を詰め、全員の動き方や考え方をまとめていく。そうして全員がこの作戦を完全に理解し、実行に移すのみとなった時、チェドは一時解散を言い渡した。


「……よし。これだけ詰めれば十分だろう。実行は明日の昼。集会所で昼食を取った後だ。それまでに、諸々の準備を済ませてこい」


「了解!」


 夕暮れの近い時、町に戦士達の声が響き渡った。


    ◇


 そして現在、チェドとマイケル達は町から遠く離れた荒野の中心に立っていた。


「緊張してきたな……」


「俺もだぜ……」


「心配するな。俺がついてる」


 二人の緊張する男をよそに、ガンマンの様な男は胸を張って荒野に立っていた。


「今日は快晴、風も悪くない」


 全身で風を感じて、目を瞑る。体に当たる風を意識の外へと追いやり、体内の命力へ意識を飛ばす。血の流れと共に体を巡るそれが、ハッキリと分かるように。深呼吸し、流れをより鮮明に感じ取る。より洗練し、想像と一寸の狂いもなくなるように。


「準備はいいか」


「……ああ」


「……いけるぜ」


 瞑想にも近いその時を終え、足に命力を集めていく。力を込めるのと近い感覚を足に覚え、足が熱を帯びた瞬間、それを大地へ振り下ろす。

 男の一脚は荒野に確かな足跡と、僅かな振動をもたらす。

 そして、災いを引き寄せた。


「来るぞ」


 突如として、三人の周囲を囲むように黒い線が出来上がっていく。それを見て、マイケル達は銃を出し固く握る。かつてないほどに大きく分厚いその円形状の線は、じわじわと三人に近づいていた。


「まだだ……」


 半径百メートル。


「まだだ…………」


 半径八十メートル。


「まだ………………」


 半径六十メートル。


「……」


 半径五十メートル。


「今だ!!」


 マイケルはなるべくその黒い線を目掛け、素早く射撃した。すると黒い線はピタリと動きを止め、近づくのを止めた。その音に怖じけているのではない。関心が他に移ったのだ。まるで三人には感じ取れない何かを感じ取った様に。


「ウマそうなメシだろ? 飛びつかずにはいられないよな」


 二週間は待った。サヴグマの飢えを刺激する、甘美な振動。それが、今、五つ。

 サヴグマはチェドに調査されていると気づく程、知能が発達している。それほどの知能があれば、同じ人間が同じ危険な行動をしていることの違和感に気づく。そんな中に発生した五つの振動。これは罠だ。そう気づく。しかし、魔物には理性がない。欲が大きく刺激されれば、それに飛びつくのは、必然だった。

 円形状の黒い線は大きく形を崩し、分散していった。各自がそれぞれ五台の馬車を食い尽くさんと、餌のたんまり乗った箱を食い尽くさんと、散っていった。


「上手く行き過ぎたかねェ」


「ひとまず作戦開始だな」


「あとは俺達がコイツら何とかして逃げ切ればオーケーか?」


 しかし当然目の前の三人を逃すわけも無く、一部のサヴグマはチェド達を取り囲んだ。先程よりは幾分か小さい黒い線が、三人に迫る。


「今回はお前さん達も好きにやってくれ」


「了解。ジョン、構えろ」


「了解」


 三人を中心として、円が半径二十メートル程に迫ると、最初にチェドが動き出した。黒い線に向かって得意の石の魔法を使い、線の一部に穴を開ける。空いた隙間にすかさず走り込み、円形状の包囲から抜け出そうとする。しかし、サヴグマは以前の調査でこの男の動きを学習しており、円形状の包囲を一瞬にして崩し、改めてチェド一人を囲い込むことに成功した。


「チッ」


 チェドは舌打ちをしつつ、マイケル達から離れるよう走り続けた。マイケルは離れるチェドの足元に対し、一撃放つ。乾いた発砲音と共に、チェドを囲んだ黒い線の一部から、小さいウナギの様な生き物が数十匹溢れ出した。


「助かったよ」


 チェドは満足そうに笑うと、溢れ出したサブグマを瞬間的に撃ち抜いた。以前には見られなかった、二人の男による攻撃にサヴグマは戸惑う。そこへ更に追撃を仕掛けるように、チェドは地面の黒い線へあえて近づき蹴り飛ばした。砂埃と共にサヴグマが数十匹宙に舞い、それらを魔法で焼き払う。


「こっちだ。ついてきな!」


 そのまま包囲の崩れたサヴグマを挑発し、マイケル達と引き離すよう走り抜ける。黒い影は取り囲むのをやめ、二つの丸い大きな影へと別れた。一つは引き続きチェドを狙い、もう一つはマイケル達の方へ移動する。


「そっちに行ったぞ!」


 チェドは二人へ注意を促す。


「わかってるよ。ジョン、走るぞ」


「アイツのとこにずっといてくれりゃ楽だったのにな」


 二人はチェドと反対の方角へ走り出し、影の群れを引き離す。影の移動は速く、馬車に迫る速度で移動している。


「ちょっとは遊んでくれよ!」


 森林の時とは違い、相手は全力である。一切の容赦がない殺意。それでいてどこか楽しんでいる様な、向けられたことのない感情に身の毛がよだち、反射的に反撃を行う。走っている最中に振り返り、一撃。しかし走行中と相手の移動速度により、射撃の狙いは大きくブレる。


「追いつかれるぞ!」


「狙うのに集中!」


 ジョンも立ち止まって振り返り、十メートル程の距離まで迫っていた影に一撃放つ。その弾丸は辛うじて影の端を捉え、数匹のサヴグマを地面から弾き出した。しかし、影の勢いは止まらない。


(どうする……)


 残された時間は一秒にも満たない。次の一手を誤れば、確実に負傷する。そんな危機的状況の中、ジョンの頭は鋭く研ぎ澄まされていた。コンマ数秒という時間で、最適解を導き出す。


「マイケル、銃投げろ!」


 突如として、ジョンは銃を自分達が向かっていた方向へ投げ捨てた。マイケルは理解し難いその行動に戸惑ったが、判断するより先に体はジョンの行動を真似ていた。二つの銃が空を舞い、数メートル先へ着陸する。


「動くな」


 ジョンは迫る影に対し、動かないという選択をとった。マイケルを腕で制止しながら、影を見つめる。距離は瞬く間に縮まり、攻撃されると思えたその瞬間。

 二人を追っていたサヴグマは、その銃を追いかけた。


「は……?」


「っしゃ!」


 マイケルが口を開けて呆けている隣で、ジョンは静かに小さくガッツポーズを取る。


「説明してくれ! 何がどうなって……」


「しっ! 静かにしろ。チェドが言ってたんだろ? アイツは魔力探知を中心に動いてるヤツだって。後は魔法使いの授業思い出せ」


「何を……あぁ、なるほどお前天才だよ!」


 魔物は魔力を探ることに長けており、通常では隠れることは不可能である。しかし、異世界から来た人間である二人には、魔力は流れておらず、魔力で居場所を探ることはできない。そしてこの世界の素材でできており、魔道具である銃には、微弱ながら魔力が流れている。つまり、今の行動はそれを利用したデコイ戦術である。

 見事にそれは成功し、銃の真下に影は移動していた。


「ただ、アイツには目ん玉がある。機能してんのか知らねぇが、見られたら終わりだ。おまけに、音と振動にも敏感っていうじゃねぇか。静かにしてねぇと、また狙われるぞ」


 マイケルは黙って頷き、黒い触手によって銃が粉々に破壊される様子を見ていた。


「出すタイミングは? どうする?」


「言われただろ? 距離を取って、身を隠せる場所を……」


 マイケルとジョンは周囲を見渡すが、隠れられるような都合の良い遮蔽はない。


「ないな……」


「クソッ……ひとまず、撃ったら消すの繰り返しで距離を取りつつ戦うぞ。いいな?」


「了解」


 銃を破壊し、異常を感じたサヴグマは影から体を形成し、周囲を見渡した。すると先程まで攻撃していた筈の対象が、何故か遠くに立っている。自分の足元に散らばっているはずの肉を見下ろすと、それは金属の塊だった。


「ジョン! 見られた!」


「走るぞ!」


 サヴグマは走り出した二人を、地上にでたまま追いかける。地上に姿を現した状態では、さほど速く動けない為、距離は縮まらない。しかし何をしたのか把握しなければ、再び騙されると考えていた。何故魔力が感知できないのか、詳細に知る必要があった。


「アイツ遅いな。今が狙い時じゃないか?」


「だな。体出してくれてる内に狙うぞ」


 全力で走り距離をとった二人は、銃を手元に出し、振り返ってサヴグマを狙う。対象の大きさは二メートル。距離は三十メートル程。二人は一斉に引き金を引き、撃ち続けた。弾は多く外れる物もあったが、体を削るには十分な弾数が命中する。サヴグマの体から幾つもの小さなサヴグマが散り、体のサイズを縮めていった。しかし、鉛の雨を浴びながらも、サヴグマは一切歩みを止めていない。


「バケモノが……リロードするついでに、距離取るぞ」


「了解」


 二人は教わった戦術通り、銃を消し、再び距離をとるよう走った。何の問題もなく、このまま続けていればいつかは勝てる。そう思えた。だが、その行動は悪手だった。

 正確にはサヴグマが地上に出ている間に銃を消す、ということが悪手であった。サヴグマは、魔力が二人の手元から消えるのを目で捕らえていた。目による魔力の探知は、感覚による魔力探知とは違い、正確に魔力の形を捉えることが出来る。その為、サヴグマは勘違いしていた事に気付く。あの二つの魔力は、あの生き物の魔力では無いと。そしてあの生き物は魔力を隠しているのではなく、体内に魔力が存在しないのだと。それに気づいたサヴグマは群れを二つに分け、一つは地面の影に戻した。もう一つは引き続き、地上を進ませる。


「ふぅ……こんぐらいか。やるぞマイケル」


「はぁ……息上げてる場合じゃないな」


 全力で二回走り、既に息が切れかかっている二人。疲れを何とか抑え込み、進んでくるサヴグマに銃を向ける。


「なんか……小さくねぇか?」


「離れ過ぎただけだろ」


 先程削ったサイズより、僅かに小さいサヴグマ。それは距離によるものだと二人は考え、再び射撃を開始する。しかし距離は三十メートル程で、先程と同じである。ひたすら射撃し続け、体を縮ませていく。勇敢なのか、恐怖心がないのか、サヴグマは一切進行を止めずに鉛の雨を受け止めながら、二人へ真っ直ぐ進む。一方で、二人が射撃している間に、地面を一つの影が迫っていた。


「やっぱおかしいぞ。小さすぎる。なんか……マイケル!!」


 ジョンは何かがおかしいと感じ、マイケルの方にふと視線を移した。すると、素速く動く影が、既にマイケルの隣へ迫っていた。マイケルを引っ張りどけて、地面の影に一撃放つ。すると地上にサヴグマが打ち上げられ、数十匹が溢れ出す。


「な、なんでこんなとこに!」


「距離取るぞ!」


 銃を消し移動を始めようとした二人だったが、近づいていた影がそれを許さない。打ち上げられたサヴグマ達を回収するように、残った影からサヴグマは地上に姿を現した。一メートル程の黒い一つ目ウナギが、人間の様な腕を側面から生やし、上体を持ち上げてマイケル達を睨む。


「駄目だ! 見られてる!」


「魔法使いの野郎……! 目でも魔力を追ってるんじゃなかったのか!?」


 殆どの魔物は、目玉が付いていたとしても、物体や生き物に流れる魔力のみを見る。魔物はあらゆる物から魔力を摂取し、栄養としているからだ。脅威となる存在にも、必ず魔力が流れているため、それで問題はない。しかし、凶変個体はその限りではない。凶暴化した魔物は、生き物全てを襲う。栄養にならないものでさえ、動いていれば狙いを付ける。そうした不要な事にも目を付けるため、二人の存在にも簡単に気づいた。


「クッソ!」


 ジョンはショットガンを取り出し、迫るサヴグマに一撃放つ。意外にもその一撃は命中し、上半身を大きく吹き飛ばした。下半身は動かなくなり、バラバラになったサヴグマ達はそのまま地面に転がる。


「今のうちに……」


 小さく分離した数十匹のサヴグマは素速く動き、その状態のままマイケルに噛みついた。


「いっ……!」


 特に素速く動いた四匹が、マイケルの右脹脛に噛みつき、体を捩らせている。


「マイケル!」


 ジョンはマイケルの前へ立ち、更に進行する小さなサヴグマ達を撃ち殺す。庇うような形で他のサヴグマを撃ちつつ、マイケルの様態を確認する。


「大丈夫か?!」


「大丈夫だ……! このッ……!!!」


 ライフルを足に噛みつくサヴグマに向け、放つ。よじる体が勢いよく分断され、遠くに吹き飛ぶ。他の三匹も同様、撃ち殺そうとすると、銃を向けた瞬間に足から離れ、地面へ潜っていった。


「アイツ……! ケツに目がついてるのは、齧りついてる時に周りを見渡すためか!? クソ……!」


「走れるか!?」


「いける……多分傷はそこまで深くない……」


 一匹十五センチ程の長さがあるサヴグマではあるが、口は小さい。歯も小さく、皮膚を一度で貫通するような鋭利さと咬合力は備えていなかった。


「肩かせ!」


「あぁ……クソ……」


 ジョンはマイケルの肩を持ち、二人は走り始める。サヴグマは腕で体を引きずらせながら、二人を追い続けた。


「うまくいかないな……はは……」


「あぁそうだな! ホントに最高だぜ全く!」


 ジョンは振り返りサヴグマとの距離を目視で測る。距離は遠ざかるどころか、縮まってきていた。


「マイケル、一人で歩けるか?」


「あぁ」


「なら、チェドに合流してくれ。アイツなら、そろそろ片付いてるだろ。相談してバーボットを呼ぶように頼む」


「お前は? 一人でやるなんて言うなよ?」


「悪いが、俺は今反抗期になった。何言っても聞かねぇぞ」


「…………必ず間に合わせる」


「信じてるぜ」


 ジョンはマイケルから肩を外し、背中を押して送り出した。迫るサヴグマ達に向き直り、ショットガンを構える。


「ホラかかってこい! 美味しい鉛玉のプレゼントだ!」

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