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第15話【荒野の魔物】

王歴597年 夏期 28日

0時26分

ワネグァル王国西 イソルゼ


 サヴグマはチェドの声には反応せず、未だ三人の周囲でじっと止まっている。動きはなく、これから動くような素振りもない。

 それに対し、堂々と魔物に宣戦布告をしたチェドは、前へゆっくりと歩を進める。それに合わせマイケルとジョンは、チェドから一定の距離を保ちながら歩く。


「いいか、お前さん達。コイツらは昼行性だ。基本的に夜は眠ってる。だが、それは群れの中心である長の話だ。今みたいな夜、長が眠ってる間は、こういう下っ端どもが見張りをしてるわけだ」


 声を潜ませながら、二人へサヴグマの習性を説明する。その間も、一切視線を敵から外さずに歩いていた。


「つまり、長がいなくて連携の取れない今が好機ってわけだが……お前さん達のソレを使っちまうと、長が起きちまう」


「なるほど。ジョン、今はボスが眠っててチャンスだが、俺達がデカい音を立てたら起きてくるらしい。だから銃の使用は避けろってさ」


「あぁ……分かったよ……」


 歩き続け、三人を取り囲む黒い線が足元へと近づいた。するとチェドが下を向き、その線に向かって手をかざす。


「俺がここに魔法を使ったら、町まで走るぞ。逃げながら、コイツを削る。良いな」


「あぁ、分かった。ジョン、走る準備しとけ。俺達にあわせろ。町まで走るぞ」


「了解」


 チェドは一呼吸置いた後、手に魔力を集めて小さな石の弾に変換し、構えた。


「行くぞ……三……二……一……」


 石の弾が、地面へと発射される。すると三人を取り囲んでいた黒い線は、一度大きく乱れ、すき間が空いた。弾が直撃した地面の周囲から、黒いウナギのようなものが数十匹飛び出す。


「走れ!」


 三人はほぼ同時に駆け出し、黒い包囲網から抜け出した。町への距離はおよそ二から三キロ。チェドからすれば走って二、三分程度の距離である。


「お前さん達、随分と遅いな。このままだと追いつかれるぞ!」


 が、しかしマイケル達には走ってもせいぜいが十分。実際は疲労の具合や怪我の具合により、それ以上の時間がかかると予想された。


「そうは言っても、いきなり足は速くならないんだよ!」


 チェドは二人に合わせてなるべく遅く走るが、それでも二人にとっては速すぎる。


「このままじゃァ、町に着くまで十分かそこらはかかる……先行きな」


 チェドは一度足を止め、振り返る。視界の先で、先程まで影に潜んでいた魔物たちが、地上に姿を現していた。以前の偵察の時とは大きさが段違いであり、二メートル程の巨体が三人を追いかけていた。細長く、ウナギのような粘性を持った黒い体。先端には目玉がついており、さらに側面には腕が六本生えている。人の腕に近い造形をしたそれが、長い体を引きずって運んでいた。

 その魔物へ目掛け、チェドは魔法を放つ。石の弾丸は魔物の体中心を捉え、貫通。合体していた複数の個体が散り、速度を落とした。


「さすがだな!」


 後方を見ながら走っていたマイケルが、後ろから追いつくチェドに称賛を浴びせた。


「そりァどうも。だが、あんなのじゃァまだくたばらない。これから俺が定期的に足止めするが……」


  サヴグマは散った個体とともに、巨大な体を崩して地面へと沈んだ。地面の黒い模様になったサヴグマは、その状態のまま三人を追いかける。


「消えた!?」


「おい嘘だろ!?」


 突然目の前で液体のようになり崩れ落ちたサヴグマに混乱し、二人は思わず足を止めた。


「止まるな! 追いつかれるぞ!」


 しかしその一瞬で、黒い模様が三人の足元を通過する。影は三人を追い越すと、目の前で再び形を取り戻し、立ち塞がった。


「チッ……面倒な野郎だ」


 現れたウナギの様な魔物にチェドは再び魔法を使用する。石の弾を撃ち出し、先程同様体の中心に穴をあけた。黒い小さなウナギ達は辺りへ飛び散り、地面に馴染んでいく。


「……二人とも、足元に注意しな。小さい影は、夜に見づらい」


 生まれた影は、何処かへ素早く姿をくらました。


「恐らく隙を見て噛み付いてくるはずだ。一匹程度だったら、踏み潰せる。目を凝らしておけ」


「了解」

「了解」


 二人は同時に返事をし、辺りの地面を見回す。正面の巨大なバケモノはチェドに任せ、足を引っ張らないよう小物に専念する。


「来な」


 チェドは人さし指を二回曲げ、挑発した。サヴグマは魔物故、そのハンドサインは分からないが、タイミングが噛み合いチェドに襲いかかった。

 目玉のあった頭を素早く後ろへ回し、反対の位置にある口を正面にして、チェドへ飛びかかる。その瞬間、チェドは大きく開けた口に対して、魔法を放つ。当然目は後方にあり、何も見えていない為、命中、したかに思えた。サヴグマは弾が放たれた瞬間、歯のところへ来た石の弾丸を噛み砕いた。


「ハッ! やるねェ」


 チェドはその行動を見て、推測を始める。


(目玉のある魔物ってとこばかり気にしてたが、よくよく考えればアイツは普段地面に潜んでる。合体の時も目玉がそのまま増えるんじゃァなく、一つのものに作り直してたな。俺の魔法は音が出るわけでもない。風切り音だけで反応してるってなら、俺達がここに来るまでの足音に反応しないのはおかしい。てことは、魔力感知が鋭いな。視力がどんなもんかわからねェが……どのみちずっとこっちを向いてられないだろうしな。ちと体術を混ぜてみるか)


 チェドは王国兵時代に培った、魔物との戦闘知識を思い出す。魔物と対峙する際は、まず見た目から特徴を把握することが重要であるということ。その中でも特に、目がついているか、ついていないか。これはまず最初に確認すべき事であるということを。

 目の存在する魔物は、視力に頼る特徴がある。どんな状況でも、必ず対象から目を離さず、警戒する。その為、体術や剣術といった正面からの攻撃は避けられやすく、効果が薄い。しかし、魔法を使った視界外からの奇襲や、背後を取る動きなどは効果的である。

 対して、目のついていない、或いは視力の弱い魔物は、魔力を頼りに周囲を把握する。目玉がついていたとしても、それがあらぬ方向を向いていたり、対象の魔法に対して過剰に反応するといった特徴が見られる。こちらは体術や剣術といった正面からの攻撃に弱く、逆に奇襲や背後を取る動きの効果が薄い。

 最も、魔物は例外とされるケースが多く、全てが必ず以上の特徴に当てはまるわけではない。対峙した際の行動から、実際はどういった特徴を持つ魔物なのかを見極めることが重要である。


(にしても、なんであんな体してんのかねェ……)


 それらを踏まえた上で、今三人が対峙している魔物は、特に外見が異質であった。棒状の体の端と端に、目玉と口がついている。何故そのような体になったのか、チェドはそこが分かれば弱点も把握できると考えていた。


「アンタ、何処から来たんだ? シャスプールには四年いたが、アンタみたいなのは見たことがない」


 チェドは大声でサヴグマへ語りかけるが、返事はない。突然大きな音を出したチェドに対して、サヴグマは警戒を強めていた。


「そんなに立派な口があるのに、喋らないのか? それとも、単に人見知りなのか?」


 言葉をいい終えると同時に、地面を蹴り飛ばし距離を詰める。しかしサヴグマも警戒していた為、直ぐ様地面へ溶け込もうと体を崩す。


「待ちな」


 命法を用いて身体を強化し、逃さぬよう上から溶けていく体の下半分を蹴り飛ばす。すると合体していた複数のサヴグマが散り散りになり、横の地面へと転がった。溶け始めていた上部は下部を失い、地面へと叩きつけられ、数十匹が現れる。


「こりァ大量だ」


 すかさずチェドは地面に転がっているサヴグマ達に炎魔法を浴びせた。岩の魔法程の勢いはないが、広範囲に散らばったサヴグマ達を効率よく燃やし、死滅させる。


「チッ、逃したか」


 残った少しのサヴグマ達は地面に同化し、姿を消した。


「チェド!」


 マイケルの声が、後方から響く。チェドは一瞬にして振り返り、状況を確認する。背後では、マイケルとジョンを追い込むように、四つの影が迫っていた。


「さっき踏めるって言ってたよな!? やるぞ!」


「待て!」


 地面に潜んだ状態のサヴグマに、マイケルは足を振り下ろす。するとその瞬間に影に無数の歯が生えた口が出来上がり、足を迎えようとしていた。そうなることを見越していたチェドは、マイケルの足が地面につくよりはやく、石の弾丸を撃ち出した。サヴグマの口は形を崩し、数十匹の個体へとわかれた。マイケルは口が見えた瞬間足をずらそうとしたため、体勢を崩し地面に尻をつく。


「た、助かったよ」


「この状態になったら踏めるってだけだ。俺の伝え方が悪かった」


 説明しながらサヴグマを燃やし、処理する。


「それは……言ってほしかったな……」


「まだ来るぞ!」


 ジョンが声を上げ、地面の一点を指さす。言葉が分からずともチェドは理解し、指し示された地面を警戒する。しかし既に遅く、残った三つの影は、三人それぞれの足元へ潜り込む。影は足元から腕を六本伸ばし、それぞれの両足を掴んだ。


「クソッ、何だこれ!」


「気持ちわりぃなクソ!」


 マイケルとジョンが慌てふためく中、チェドは目を凝らし冷静に辺りの地面を見回した。先程逃した数匹がこのタイミングで帰ってくるだろうと読んでいたからである。予想は的中し、迫りくる二つの小さな影が見えた。


「伏せな!」


 マイケルとジョンのいる方角から来ていた為、二人に命令する。マイケルがジョンの頭を掴んで下げさせ、視界が開けるとチェドは石の弾丸を二つの影に放つ。その弾丸は命中し、サヴグマが数匹地面に打ち上げられる。その隙に足を掴んでいるサヴグマにも弾丸を放った。


「これは踏んでもいいんだよな?!」


「あぁ。やってくれ」


「ジョン踏むぞ!」


「は!? あぁクソ!」


 二人は力を目一杯込めサヴグマを踏みつけた。不快な感触が足に伝わり、二人は身を震わせる。


「う……ごめんよ……」


「最悪の気分だ……」


「慣れろ。死ぬよりマシだろ?」


 一言言い残し二人から離れ、遠くで転がっているサヴグマに近づき、燃やす。それが終わると、落ち着いて周囲を見渡し、サヴグマがいないかを確認する。独りでに動く影がないことを確認すると、歩きながら二人の元へと歩いて行く。


「ふぅ。終わったぞ。長がいなけりァ、こんなもんだ」


 余裕といった表情で、チェドは首を回す。しかしマイケル達にとっては、必死の出来事であった。


「ジョン、終わりだってよ……はぁ、何がこんなもんだ……俺達からすれば、事故に巻き込まれて生還したぐらいの感覚だ……」


「はぁ……何もせず守られてるだけって、結構神経使うんだな……マジで疲れたぜ……」


 冷や汗を拭い、二人は息を整えた。チェドは二人が這々の体であることを見ると、笑いを抑えきれず吹き出した。


「フッ、フハハハ! お前さん達、凶変個体に挑むなんて大見得切った割には、随分と臆病なんだな」


 笑われた二人は顔を見合わせ、お互いに眉を潜める。


「そりゃ、自分で抵抗できればまだ何とか気を保てるが、今回は何もするなって言われてたからな……お前が少しでも遅れたら、俺達死んでたんだぞ?」


「マイケルの言う通りだぜ。なんも抵抗せずに死んだら笑いもんだろ」


 二人は大きく溜息をつき、頭を振った。


「でも、遅れなかっただろう?」


「ああそうだな。あんたは最高の働きをしてくれたよ。どうも……」


「どうせ、でも遅れなかった、とか言ってんだろ? ったくよ……」


 二人は呆れつつも、町へ歩き出した。チェドは背後を見渡しながら、二人の後ろを歩く。周囲への警戒を怠らず、三人は夜の荒野を進んだ。町に着くまでサヴグマが襲ってくることはなく、三人は無傷で町に帰ってきた。


「意外と帰り道はすんなり行くんだよな」


「アイツらは、この町に来るやつは襲わないからな。出て行く所を狙う習性上、この町に来るやつは獲物ってわけだ」


「なるほど。罠にかかるのを待ってるわけか」


「そういうことだ」


 雑談をしながら、同じ帰り道を歩く。マイケル達が泊まっている集会所とチェドの家は近く、途中までは同じ道程の為、二人の護衛も兼ねてチェドは歩幅をあわせていた。


「今日は中々多量だったが、次はあれより多くなるかもな。明日から調査は一旦休みだ」


「もう調べたいことはないのか?」


「あぁ。十分アイツの動きは分かった。ここでわざわざ危険を冒す意味はない。後は明日、人が集まるかどうかで、作戦の詳細を決める。ひとまず、また朝お前さん達を迎えに行く。それまでは、宿にいてくれ」


「了解。明日の朝が楽しみだな」


 チェドとマイケル達は、とある道で別れる。チェドは家に帰り、二人は集会所に戻った。

 チェドは家に着くと、二階へ上がり客間に入る。部屋の隅にある戸棚へ手を伸ばし、木の箱を取り出す。中には幾本かの葉巻が入っており、その内の一本を手に取った。合わせて収納されているギロチンを使い、葉巻の先端を切り落とす。魔法で火をつけ、それをくわえた。


「ふぅ……」


 窓に寄りかかって煙を吐き出し、星の輝く夜空に雲を一つ作り上げる。夜の遅い時間で、外を出歩く人間はいない。チェドにとってこの時は、至福の時間だった。


「チェド……?」


 そんな時間に、一人の少女が訪れた。


「誰かいるとわかってんなら、扉は叩くもんだぜ」


 優しい声音で軽い説教をしながら、チェドは振り返る。少女がやって来ているのを知っていたが、この時間を楽しみたいがために、あえて気づかないふりをしていた。


「ごめんなさい」


「いいさ。それで、どうしたんだ?」


「それ、くさい」


「ハハ……随分と鼻が利くんだな」


 チェドは苦笑いしながら、葉巻を手に持った。一度吸うのをやめ、少女に言い訳をする。


「眠ってるとばかり思ってたが、夜更かししてると背が伸びないぞ?」


「寝てたけど、それで起きた」


「そいつは……悪かったな。ただ、コイツは一度吸い始めちまうと、途中でやめられねェんだ」


「最悪」


「わざわざ外に流してやってるんだ。そう邪険にしないでくれよ」


 少女は文句を言いながらも客間へと入り、椅子に座った。それを見ると、チェドは再び葉巻を吸い始める。窓からまた一つ、夜空に雲を浮かべた。


「箱はおしゃれ」


「いかしてるだろ?」


 少女は、机に置かれて空いたままの箱を自分に近づけ、葉巻を一本手に取った。筒状にまとまった葉を見回し、試しに側面の臭いを嗅いでみる。すると、今室内に燻る香りとは違い、甘い葉の香りがした。


「全然違う」


「何がだ?」


 また少女の方に振り返り、ちょっとした会話に付き合う。


「におい。こんなに臭くない」


 一本の葉巻をチェドに見せつけて、疑問を口にした。


「吸ってみれば分かるさ。意外に、同じ様なもんだ」


 少女は首をかしげ、手に取った一本を箱に戻した。


「ねぇ、チェド」


「ん?」


「いつお母さんに会える?」


 チェドは、少し考える。


「そうだな、もう少しだ」


「嘘つき……前もそんな事言ってた」


 つまらなそうに返事をした少女は、足をふらつかせながら机に突っ伏した。


「……ミナ、なんでお母さんに会いたいんだ?」


 突っ伏す少女に、疑問を投げかける。


「会ったことないから」


「…………仕事でシャスプールにいるんだったか?」


「うん」


 腕に埋めていた顔を上げ、チェドに視線を向ける。


「仕事で忙しくて、帰ってこれないからって。会いに行きたいって言うと、邪魔しちゃ悪いって……皆そうやって言うから、私から会いに行こうと思って」


「そりァ名案だな。父親達に何も言わず飛び出してきたってことを除けばな」


「うるさい」


「もうちょっと家族を信用しろ。血の繋がりってもんはな」


「何回も聞いた。うるさい」


「はぁ……若い頃の俺そっくりだな」


「似てない」


「はいはい」


 少女は溜息をつき、愚痴をこぼす。


「皆嘘ばっかり……」


 腕の中に顔を埋めて、小さく呟いた。


「……まだ寝ないのか?」


「ここで寝る」


 いじけて、そのまま目を閉じる。寝心地は悪かったが、妙な安心感を感じながら、眠りについた。


「全く」


 少女が眠りについた後も、チェドはしばらく葉巻を吸っていた。灰皿へ幾度か灰を折って落とし、長さが無くなると、そこへ残りの葉巻を置く。二本目には手を付けず、机で寝息を立てている少女を抱き上げた。


「おやすみ」


 少女を寝室のベッドに横たわらせると、寝室を後にした。客間に戻り、いつもの椅子に座って、眠りに落ちる。

 そうして、朝を迎えた。チェドは腰の痛みを伸びて和らげつつ、椅子から立ち上がった。身支度を整え、一階に降りると、デスクに大量の手紙が置かれていた。


「こいつは……」


 その手紙達を持っていく為、鞄を持ち手紙を詰め込む。そして約束通り、二人を迎えに行くため集会所へと向かった。そして集会所につき、中へと入る。集会所内は早朝にも関わらず、人でごった返し賑わっていた。


「おい見ろ! チェドだ!」


 一人の大男が入り口にいるチェドを指さし、叫んだ。すると周囲にいた人間達が、一気に入り口へ押し寄せる。


「アンタがチェドゴリオンか! よくあの町長を説得してくれた! これでようやく列車が動くぜ!」


「魔物をぶち殺すんだろ? どうやってやんだよ? はやくおしえてくれ!」


 荒くれ者の様な男たちは、もみくちゃになりながら詰め寄る。思わずチェドはたじろぎ、ドアの前で立ち止まった。


「取り敢えず落ち着きな。お前さん達が協力者か?」


「あぁ! 今から依頼に応募しようとしてたとこだ。ここにいるほとんどのヤツがそうだろうよ」


「そいつァ頼もしい」


 一人の大柄な男がチェドの肩を叩き、ニカッと笑った。周囲の人間はその言葉に頷き、チェドを見つめている。


「取り敢えず、中に入っていいか?」


「おう、すまねぇ。ほら、上がりな」


 チェドは開けられた道を堂々と歩き、カウンターにいる受付嬢へ声をかけた。


「ようお嬢さん。昨日ぶりだな」


「あ、こんにちは……昨日はすみませんでした」


 申し訳なさそうに頭を少し下げ、受付嬢は謝罪した。


「いい、気にしてないさ。そんな事より、確認したいことがある。依頼に応募した奴は何人ぐらいだ?」


「そうですね……現在は五十七人ほど受付されています。ここにいる方々も含めれば、七十人ちょっとは集まるかと。一つの依頼でこれだけ人が集まったのは、初めてじゃないでしょうか」


 想定以上の人数に、思わずチェドは笑いがこぼれる。


「ハハッ、そうか。なら今ここにいるやつらで依頼の受付を締め切ってくれ。これだけいりァ十分だ。受付が終わったら、一度受付した奴全員を集めてくれ」


「かしこまりました。皆様! チェドゴリオン様からの依頼の受注を、ここにいる方々で締め切ります! 依頼へ応募したい方は、こちらに並んでお待ち下さい!」


 受付嬢が声を上げそう宣言すると、荒くれ者の様な男達がカウンターへ列を作って並び始めた。そうして空いた席にチェドは座り、マイケル達を待つ。この騒がしさが部屋まで届いていたのか、直ぐにマイケル達は姿を現した。二階からこの光景を見下ろし、何が起きているのかと眺めている。視線がチェドにあうと、チェドは手を振った。マイケル達も手を振り返し、階段を下りてチェドの座る席へと近づいた。


「チェド、この人達は協力者か?」


「あぁ。今申し込んでるんだと」


「マイケル、どうだ?」


「お前の言う通りだった。協力者の人達らしい」


「な? 言っただろ?」


 マイケル達はここに来るまでの廊下で、この騒ぎが何なのかを話し合っていた。


「にしてもすげぇな。どいつもこいつも厳つい見た目してやがる」


「今にも銃撃戦が始まりそうな雰囲気だ」


「だな。これで銃撃戦が始まらねぇのはおかしいぐらいだ」


 殺伐とした雰囲気があるわけではないが、ここにいる男達の威圧感は別格だった。筋骨隆々の肉体と、そこに刻まれた無数の傷。傷が直ぐに治せるこの世界で、これほどの傷跡がついているのを見ると、普段から戦っているのだろうと考えられた。


「ここの連中の受付が終わったら、受付した全員を招集する。それまでに朝飯は済ませる。全員が集まったら、作戦会議だ。いいな?」


「了解」


 マイケルはジョンに翻訳し、これからの流れを伝える。計画通り、三人は朝食をとり、その間に受付が完了した。


「……後は昨日受付した奴らが集まれば、作戦会議始めだ。それまで、お前さん達はここで待っててくれ」


 チェドは声を上げ、この場にいる数十名に説明をした。数十名が真剣な表情で頷き、これからの戦い覚悟を決める。


「さてと、準備万端だ。待ってろよ、バケモノが」

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