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第10話【授業、そして出立】

王歴597年 夏期 24日

11時13分

ワネグァル王国 南の王城 会議室


「魔法使い?」


 マイケルはその名前に違和感を覚えた。


「ほう。フラーシスからそなた達の世界には魔法がないらしいと聞いていたが、魔法使いという単語はあるのか」


「おとぎ話で架空の存在として、って感じです。そんな事より、こっちの世界は誰でも魔法を使えるって聞いてたんですけど、何で魔法使いなんて呼ばれてる奴がいるんです?」 


「言えてるな。魔法が使えること自体、別に大したことじゃねぇんだろ?」


 馬車内でスラウから聞いた話によれば、魔法を使えない人間は存在しないとのことだった。日常的に魔法が活用されている世界で、特定の人間を「魔法使い」と呼ぶことが、マイケル達にはおかしいと思えた。


「中々良い疑問だ。事は単純で、あやつは魔法の才が秀でておる。それが認められ、その呼び名が浸透した」


「鬼才ってか?」


「左様。そなた達から見ても分かる異質さであると思われる。ついて参れ」


 ワネクは席から立ち上がり、部屋の扉を開けた。二人はワネクの背中についていく。扉の前に立っていた鎧は、扉が開くとワネクに向かい敬礼した。


「どちらへ」


「これから「魔法使い」と話をしてくる。お主も来い」


「はっ」


 ワネクは自分より少し背の低い鎧を連れ、歩き出した。マイケルとジョンは二人の背後につき歩く。王と鎧は身長が異常に高く、恰幅もよい。こうして二人並んでいると、得も言われぬ威圧感があった。声を潜め、二人はその巨体について話す。


「マイケル、すげぇ迫力だな」


「あぁ。壁が動いてるみたいだ」


 巨体の二人は迷わず城の中を歩いていく。城内は広く、廊下も長い。道中メイドの様な人間とすれ違ったり、鎧を着た兵隊とすれ違った。入り組んだ王城を抜け、渡り廊下のつながっている高い塔までたどり着いた。


「ここだ」


 塔の扉の前で止まり、王は振り向いた。


「一つ、忠告せねばならん。奴は少々、好奇心が過ぎる所がある。そなた達が異界の者だと知れた時、不快になる行動、或いは言動をするやもしれん。許せよ」


「まぁ、頭の良い奴には変人が多いしな。気にしねぇよ」


「殺されたり怪我させられたりしないなら何でも良いですよ」


「感謝する。では」


 王は扉を三度叩き、声を上げた。


「「魔法使い」、入るぞ」


「どうぞ」


 中から男の声が返ってくると、ワネクは扉を押し開ける。塔に入ってまず目に入るのは、大量の本だった。三百六十度、壁に沿って本棚があり、そこにびっしりと本が詰め込まれている。それが四十メートル以上ある高さの天井まで、ずっと続いていた。本棚近くの外周には、上に上がれるよう階段と足場がついてる。


「サラを連れているなんて、珍しいね。何か……おや。なるほど」


 しかしその階段や足場を使わず、中央上空からゆっくりと半裸の男が降下してきた。

 その「魔法使い」は、宙に浮いていたのだ。


「冗談だろ……おいマイケル、アイツ浮いてるぞ……」


「この世界の人間は空飛べるのか」


 二人は目を点にして、降りてくる男を凝視していた。


「「魔法使い」、服ぐらい着ないか。客人の前だぞ」


「まさか君が客人を連れてくるなんて思っていなくてね」


 王と対等に話している様に見えるその男は、濁った青い髪をしていた。


「ちょっと失礼」


 男は地面に着くと、大きな麻袋のような服を拾い上げた。それを身にまとい、バサついた床につきそうなほど長い髪を服から通す。


「逆さになると落ちてしまうんだよ。不便なものだろう?」


「我が支給したズボンと服を着れば良いだろう」


「あれは動き辛い。その上、着るのに手間がかかる」


 マイケルは、その風貌に何故か見覚えがあった。王との雑談に割り込んで、魔法使いに話しかけた。


「あの……俺達どっかで会ったことあるか?」


 その声がけに魔法使いはクスリと笑った。


「ふふ、よく覚えていたね。でも確か、君達と出会った時はこの私では無かったはずだ」


「……どういうことだ?」


「また失礼するよ」


 魔法使いはそう言うと、小刻みに身体を震わせた。続いて全身が光ったかと思えば、段々と身体を歪めていく。


「なんだ!?」


「おい冗談だろ……ちょっとグロ過ぎるぜ、こいつは」


 歪んだ身体は少しづつ縮み、マイケル達と同じ程の背丈であった男は、一回り小さい中性的な人間へと変わった。


「私達が出会った時はこれだった筈だ。どうだい? 見覚えがあるだろう」


 マイケル達は目の前の光景に驚き、固まっていた。声も変わり、別人となった魔法使い。しかしその人間の問いかけに記憶が刺激され、わずかな出会いの瞬間を思い出す。


「あ、あぁ! 思い出した! 魔道具屋のところにいた! ラビナと話してたやつだ!」


「そんな奴いたか? 覚えてねぇな」


「お前マジで言ってるのか? あれだよ、杖とかを丸めて消してた奴」


「あー……いたかもな」


 ジョンはなんとか思い出そうとするが、そんな光景は記憶していなかった。


「無理もないさ。店でただすれ違っただけの人間を覚えている方が稀だよ」


 縮んだ魔法使いは、会話が終わるとワネクに向き直る。


「で、ワネク。今回はなんのようだ? この二人がどうかしたのかい?」


「明日、預言に従い二人を世界に旅立たせようと思ってな。この世界の最低限の知識と、補助用の魔道具を誂えてやってくれ」


「これまた随分と面倒なことを……何故ゆとりを持った期日にしなかったんだ。最低でも一週間は欲しいとこだがね」


「森林の魔物の討伐に際して、長期間馬車を使う。そうなれば、長期滞在用の馬と車は一つと貸せなくなってしまうのでな。先んじて一台出せば、誰も文句は言えまい」


「また強引な。君のそういう所は直したほうが良い」


 魔法使いは髪に指を突っ込み、荒く頭をかいていた。


「預言に従い、ということは、この二人今噂の異世界人か。ラビナの店で会った時、薄っすらそうではないかと思ったがね。となれば、この世界の文字一つすら知らない人間に、何を教えるべきか……」


 魔法使いはブツブツと独り言を言い始めた。口を止めず、部屋の中央にある大きなデスクに向かい、分厚い本を手に取る。


「まずは歴史からだろうか。世界を知るなら、それが良い。そうしよう」


 教える内容を決める為、ページをめくっていた。


「うむ。後は任せる。サラ、部屋で警護を頼む。何かあったら、止めろ」


「はっ。ワネク陛下はどちらへ」


「庶務を済ませる。森林の魔物の対処があるのでな」


「了解しました」


「ではな、マイケルウィリアムズと、ジョンよ」


「俺もマイケルで良いですよ」


 ワネクは扉を開け、外へ出ていった。扉が閉まると、その前でサラは立っていた。魔法使いは椅子を二つ魔法で作り上げる。木でできた高級そうな椅子をマイケルとジョンの前に差し出し、手をたたく。


「さて、では授業を始めようか。時間はあまりない。この僅かな限られた時間で教えられることと言えば、軽い歴史の話と、魔法の話だけだ。聞きたいことがあるなら、そちらを優先しようと思うが、どうかな」


 二人は椅子に座り、改めて聞くことを考える。本来であれば、言語を習得したいところではあるが、今日限りで習得は難しいだろう。そんな事をジョンが考えている時、マイケルが手を挙げた。


「はい、先生」


「マイケル君、何かな」


「名前を教えてください」


 魔法使いは、僅かな沈黙の後答えた。


「……私は名前で呼ばれるのが好きじゃなくてね。魔法使い、と呼び続けてくれたまえ」


 何か理由がありそうだったが、マイケルは深く踏み入ることをしなかった。


「そうですか。失礼しました」


「良いさ。当然の疑問だからね。他に聞きたいことがなければ……」


 マイケルは再び勢いよく手を挙げた。


「素晴らしい意欲だ、マイケル君。ただ、授業に関することでたのむよ」


「今度は授業内容についてです」


「聞こう」


「俺達、戦い方を知らないんです。その、護身するための。俺達の世界には魔物なんていなくて、動物とかはいたんですが、襲われるようなことなんてありませんでした。だから、そういう事を教われたらって」


「ふぅん……なるほど」


 魔法使いはニヤリと笑い、顎の下を親指で押していた。


「マイケル、そういうのはスラウとかに聞くもんじゃ……」


「いいや、ジョン君。私の事を舐めてもらっては困る。私は魔法戦術や戦闘用魔法に自信があってね。何を隠そう、兵達に魔法を用いた戦術を広めたのは私なのだよ。必ず役立つ知識を教えると保証しよう」


 ジョンは半信半疑で魔法使いを見つめていた。


「それでは、歴史、魔法基礎、そして魔物の知識に基づいた護身術について、今日は授業していこう。他に、何かあるかな?」


 二人は首を横に振った。魔法使いはそれを見ると、二人にノートとペンを創り出して渡した。


「真剣に覚えたかったら、それに記すといい。君達、筆記は出来るかい?」


「出来ます」


「お気遣いなく」


「なら、始めよう。まずは世界の創生からだ」


 そう言うと魔法使いはデスクに座り、語り始めた。


「時間の都合上大雑把な話しになる。気になる所があっても、多少は我慢してくれたまえよ。まず、我らが母と父は知っているかい?」


「はい。知り合いから教えてもらいました」


「この世界の有名な事はある程度知ってるぜ。知らなかったら口挟むから、続けてくれ」


「了解した。その我らが母と父は、あの世界樹から産まれたということも、知っているかな?」


 二人は驚き、首を勢いよく横に振った。


「なんだって? それは初耳だ」


「樹から産まれるだぁ? ガキに聞かせる嘘じゃあるまいしよ」


「ふむ……やはり色々聞きたいことが多いが……ひとまず進めよう。世界樹から産まれてきた二人は、ご存知の通り神として扱われている。無限の命を持った我らが母と、永遠の魔力を持った我らが父。その二人は産まれて以降、世界に大きな変化をもたらした」


「先生、無限の命と永遠の魔力とは何でしょうか」


 マイケルは手を挙げ、質問する。


「無限の命とは、軽く言えば不老不死ということだ。他にも効力はあるが、今はそう考えてもらえば良い。次に永遠の魔力とは、不老ではあるが、死にはする。しかし、死んでも別の個体として産まれ変わり、その力は受け継がれるというものだ。こちらも同様他の効力があるが、今はこれで良い」


「その無限と永遠のなんちゃらは命儘ってやつなのか?」


「命儘とはまた別だ。我らが母と父の持つ独自の力だと思ってくれたまえ」


 二人は渡されたノートにメモをしながら話を聞き続けた。


「本題に戻そう。ついでに、我らが母と父のことは、以後命王(めいおう)と魔王と呼ぶよ。命王と魔王は世界に太陽や月、空といったものを生み出した。それからしばらくして五人の子を授かり、世界にさらなる変化をもたらすこととなった。神と五人の子が力を使い続けた影響か、各地で新たな生命が産まれたんだ。現在動物や、魔物と呼ばれているものだね。更にその後、動物と魔物、どちらにも属さない、神達によく似た、我ら人間が大地より産まれた。人間は命王と魔王、そして五人の子の奇跡を真似、命法(めいほう)と魔法を習得した」


「命法ってのは?」


「命法は知らないのだね。命法は自身の身体を強化するものだ。極めれば、馬車より速く走れるようになったりもする」


 ジョンの頭の中で、何かが繋がった。二日前スラウと出会ったばかりの馬車内で、聞いた話。僅かな会話ではあったが、気になっていた事だ。


「なるほど。スラウが言ってた厳密には魔法と違うってのはこれのことか」


「こちらも魔法と同様、この世界では皆が当たり前にしていることだ。覚えていてくれたまえよ」


 二人は引き続き熱心にメモを取る。


「人々はそれらを活用し、大きな技術の発展を遂げた。命王と魔王の指示により、一人を除く四人の子が人々をまとめ上げ、各地に国を作った。しかし、四人の子は何を思ったか、各国と戦争を始めたのだ。戦争は苛烈を極め、多くの命と技術が失われた。それをよく思わなかった命王と魔王は、自らの命と引き換えに戦争を止めた。これを神子大戦(しんしたいせん)と呼ぶ。そうしてなんとか世界に平和が訪れるも、残された大地と人々は悲惨なものだった。それでもなお諦めず、なんとか立ち上がろうとした結果、現代に至る」


「おい、命王に関しちゃ、不老不死なんだろ? なんで死んだんだ?」


「神の子四人だ。死なずを殺すぐらい、容易かっただろう」


「そもそも不死じゃなかったとか、そういうことじゃねぇのか?」


「さぁね。そう語り継がれているから、そう思うしかないのさ。あまりに遠い昔のことだ。正確にわかる人間なんていない」


 魔法使いは一瞬、何処か寂しそうな表情をしていた。しかし直ぐに気を取り直し、話を続ける。


「さて、ここまでで何かわかることはあるかい?」


 突然の質問に悩みながらも、マイケルは一つ気づいたことを答える。


「あー……人の前で神の子の名前出すのはマズイとか?」


「何故そう思った?」


「だってほら、色んな国に迷惑かけたのはその神の子なんだし、よく思わないだろ?」


「ふむ、正解だ。はるか昔の話でも、未だ傷跡の残っている国は多いからね。ただそんな中でも、人々の文明の発展に大きく貢献した神の子らを祀る国もある。詳しいことは、その国に着いたら現地の人々に聞いてみると良い」


「そうなのか。意外と国によるんだな。一応、五人の名前を教えてくれ。メモしておく」


「長女メイリア、長男ヴォルサド、二女ニシャミール、二男バリジオ、三男フルーゼビル。今挙げた順番が、そのまま産まれた順番だよ」


「メイリア森林ってのはそこから名前とってたんだな」


 ジョンは森林の名前を思い出し、ふと独り言を口にした。


「次は魔法の基礎を話そう。準備はできているかい?」


「ちょっと待ってくれ。一旦まとめる」


 二人は今聞いた話を、分かりやすくノートにまとめた。


「よし。じゃあ魔法について頼む」


「俺も準備オーケーだ」


「では、魔法について。先程も話した通り、魔法というのは魔王の力を真似て生み出されたものだ。当時の人々は魔力が体内に流れていることを知らず魔法を行使していたが……」


「質問です。魔力とはなんでしょう」


 マイケルはさっそく手を挙げ、質問した。


「魔力というのは、様々な物に存在する力の源だ。地面や石、木に水、それから魔物や人間といった全てのものにね。命法を用いて操る命力(めいりょく)と呼ばれる物も同様、あらゆる物に存在する。我々はそれに干渉する力、或いはそれらを創造し思いのままにする方法を魔法や命法と呼んでいる、というわけさ」


「ありがとうございます」


「では、魔法の話に戻ろう。魔法は体内の魔力を消費することで働く。それを知らずに昔の人間は魔力を使い続け、今日はまだちょっと動いていないのに疲労が酷い、なんて言っていたそうだ。魔力とはそもそも魔素を体内で活性化させたものであり、魔素とは大気中に存在する「願いを叶える物質」を変換したものでね。それらは呼吸によって体内に取り込まれ、変換され、排出されるという一連の運動を繰り返して循環している」


「ちょっと待ってくれ。話に置いていかれそうだ。ノート取ってるから待ってくれ」


「なら、もう一度言おう。「願いを叶える物質」というものがこの世には存在し、それを呼吸によって取り込み魔素へ変換。更に魔素になったそれは我々の魔力器官によって活性化し魔力となる。そして初めて我々が魔法を行使しようとすることで、魔力は消費され体外へと放出される、というものだが、ここまではわかるかい?」


「まぁ、なんとか」


 マイケルはなんとかノートに情報をまとめ、話を自分なりに理解していた。一方ジョンは一言も発さず、ただノートに文字を書き連ねていた。


「そして体内には魔力が一定量なければならない。体内の魔力が不足した場合、幻覚、混乱、頭痛、吐き気などに襲われる場合がある。これらの症状は安静にしていれば大抵数十分から数時間で治癒する。重度である場合は、後の魔法に大きな影響が出たりするが、まぁそこまで自分の意志で魔力を放出出来る者は存在しないだろうね」


「願いを叶える物質ね……魔法なんてもんがあるぐらいだ。今さらな話だとは思うが、随分と都合のいいもんがあんだな」


「そうだね。私も初めて知った時には、驚いたものだよ」


「詳しい事は分かったが、魔法を使うにはどうすんだ?」


「それがこれからの話だ。魔法を発動させるには、想像力が必要になる。ただ頭の中にぼんやりと思い浮かべるだけでは駄目だ。例えば火を出したいなら、火の色、形、熱、動き、全ての要素を明確に、目の前に幻覚が見えそうなほど、想像しなければならない。得手不得手もあるが、これが中々に難しい」


「俺等の周りのやつはみんな平然とやってたが、そんなに難しいことなのか?」


「そうとも。まずは火を見て、色を知る。視界の何処を見ても、その色に染まるほど、強く見つめる。次に目を閉じても形が思い浮かぶ程、目に染み込ませる。まぶた越しにそれを見つめられるほど、形が染み付いた次は、触れて熱を感じる。火傷を負う程に手を近づけ、その熱をいつでも手に思い出せるよう焼き付ける。手がひりつき痛みだすほどの感覚を覚えれば、次は動きだ。どう風を当てればどう動き、どう封じればどう消えるのか。視界の中で何かが揺れているような感覚を覚えたら、最後に身体からそれをおこす想像だ。全身を何かが巡っているのを感じて、それが手のひらに集まるよう想像する。魔力が十分にたまれば、手のひらで力を込めているような感覚になる。そうなれば、火のことを思い出す。色、形、熱、動き。全身を巡り手に集まる感覚と、火の想像を絶やすことなく続ける。すれとそれは現実となり、手のひらから溢れ出す。それでようやく、一つの魔法が使えるようになる」


 そういった説明をしながら、魔法使いは簡単そうに手のひらから炎を出していた。


「そいつぁ随分と……大変そうだな」


「まぁ、実際はもっと楽に出来ることが多いがね。子供の頃から水や炎、土などに触れていれば自然と生み出せるようになっている事が大半だ。近年では得意な魔法の系統なるものもあると言われているしね」


 手のひらにある炎を消し、軽く笑っていた。


「んだよ」


「ただ、どうしても特定の物体を魔法として使いたい場合は、そうやって触れ合うことが有効という話だ。つまるところ、魔法は使う者の人生を表していると言っても過言ではない」


 何処かで聞いたことのあるような締め方を聞き、ノートへメモをする。


「そして最後に、魔法の最も重要な点を話そう。それは感情が魔法に大きな影響を及ぼすことがあるということだ。例えば火の魔法を使う時、興奮状態にある人間が火を撃ち出せば、普段以上の火力になったりするのだよ。これが面白い所でね。特に窮地に陥り、それでもなお足掻こうとする激的な感情が、最も魔法を強くする。その時の感覚を掴んだ者は、窮地から脱した後も、平均的な魔法の出力を大きく上回る結果を残すことが多い」


 魔法使いはデスクに置いてある分厚い本を撫でていた。


「さて、これで多少はこの世界に対する理解が深まったかな。この世界は、こういうところだと。最後に、君達の戦術指南だ」


「もうこれ以上詰め込んだら頭が破裂しそうだ」


「でもよ、一応聞いておかねぇと自分達の身が守れねぇぞ」


「まぁまぁ、これが最後だ。まずは君達に何が出来るか、教えてもらおう」


 マイケルとジョンは椅子から立ち上がり、銃を手元に出した。


「今、どうやってそれを出した?」


「俺等もよくわからんが、命儘ってやつらしい。そんで、コイツは銃ってもんだ」


「ふむ……」


 ジョンは魔法使いへ近寄り、銃を手渡した。


「このとっかかりを引けば、先端の穴から弾が飛んでく。それもすげぇ音とスピードでな」


「なるほど。試してみよう」


「待て、持ち方はこうで……」


 不慣れな動きで銃を動かそうとする魔法使いに腕を重ね、持ち方を教える。その他注意事項を説明すると、魔法使いは地面に分厚い木の板を創り出した。


「このぐらいでどうかな?」


「こんぐらいあれば十分だ。やっていいぞ」


 三人は耳栓を入れ、音に備えた。魔法使いは木の板に向け銃を構える。引き金を引くと、大きな音と共に木の板に穴が空いた。


「おぉ。これは素晴らしい。火力としては十分期待できるものだね」


 魔法使いは空いた穴を観察し、それが終わると銃を見つめ直していた。


「そっちも似たようなものかい?」


「そうだな。こっちのほうが連射できるって感じだ」


「そっちも試させてくれないか?」


「どうぞ」


 魔法使いは持っていたショットガンをジョンに返し、マイケルから新たにライフルを受け取った。同じ様な構えで、地面にある板に向け、撃つ。破裂音が響き、同じ様に銃痕と銃を見つめていた。


「分かった。これならば、君達にも十分魔物に対する勝機があるだろう」


「本当か?」


 マイケルは身を守る方法があるとわかり、わずかにこれからの旅に安心を覚えた。


「弾に限りはあるのかい? それだと、厳しい戦いにはなるだろうが」


「いや、ねぇ。故障の心配もしてくれなくていいぜ」


「ならばこれは強力な武器と言える。まずは基本の戦術から話そう。分かっているとは思うが、この威力とこの速度ならば距離を取って戦うのが良い。身を隠しながら戦う、奇襲戦術のようなものが基本となるだろう。そして重要なのは位置がバレた後、或いは先に見つかってしまった時だ」


 二人はより話に集中し、のめり込む。


「そうなった場合、ジョン君、君が前に出る必要があるな」


「まぁそうか……」


 薄々分かっていたことではあるが、ジョンは自信の無さに肩を落とした。


「この武器は近い距離でこそより効果を発揮するように見える。おおよその魔物はこんな火力のものを食らえば、ひとたまりもない。急所を狙えば致命傷は免れないだろうね」


「そうなのか? 森の中で戦ったやつには全く効いてなかったんだが……」


「これほどの火力が効かない……? もしやあの森のスライムのことをいっているのかい?」


「多分それだ」


「森林で襲われた民三名とは君達のことだったか……アレは忘れていい。あんなのは論外だ。話を戻すよ。もしジョン君の一撃で仕留められなかった場合は、ジョン君は再び距離をとるといい。距離をとるまでの間、マイケル君は援護をしてやってくれ。恐らく、そっちは距離が相当に離れていても問題はないだろう?」


「それはそうだが、ジョンに前行かせて俺は安全なとこから見てろって言うのか?」


「そうだ。それがどちらも生き残る為には必要な事だ」


「……わかった」


「気にすんなよ。俺が死ぬかどうかはお前にかかってるってだけだ」


「おい……」


 マイケルは重くのしかかる責任に、そんな事訪れなければ良いと願うばかりだった。


「そしてここからが重要だ。これは身を隠せる環境に限った話にはなるが、大事な事だ。もし一撃で仕留めきれず、まだ抵抗してくるようなら、ソレで一撃当てて相手が怯んだ隙に、ソレを消して身を隠せ。君達の体は魔力が流れていない上に、命力も流れていない。簡単に言えば、相手から見つけられる手段がないということだ。そうなれば、再びこちらから奇襲できる可能性が大いに上がる」


「そんな簡単にいくか?」


「あぁ。魔物というのは魔力を頼りに獲物を探る事が殆どだ。目がついている魔物でも、魔力を頼りに景色を見ていると言われるほどにね。通常であれば、魔力の流れる我々の体は身を隠しても無駄だが、君達は違う。魔力が流れているのは、その武器のみ。つまるところソレを出した瞬間に射撃すれば、再び奇襲が出来るというわけだ」


「隠れる場所がない時はどうすんだ?」


「そうだね……その時は火力で押すしかないだろうね。そうできるほどの火力が、その武器にはある。頑張ってくれ」


「なんか自信ないな……」


「アイツと戦った後だとな……」


 その後も、様々な話をした。さらなる歴史や、魔法について。様々な種類の魔物の急所や、明日向かう国の気をつけるべき場所。治安の良さや人の特徴など。話し合いは夜まで続き、知識を万全にしていた。


「……そうだ。君達に渡すものを一つ。私が迷宮で見つけたものだ。翻訳する魔術が無くとも、相手の言っている言葉が分かるという優れものさ」


 一頻り教えることは無くなった頃、魔法使いがどこからか一つのネックレスを取り出した。緑色の宝石が一つ紐でくくられたシンプルなネックレスで、特段変わっていることはないように思えた。


「そんな便利なもんがあるのか? なら、そいつはマイケルに渡してくれ。俺よりこいつのほうが人好きなんでね」


「ならばマイケル君、これを首にかけたまえ。神生時代の遺物だ。大事にしたまえよ」


「な、マジか……壊さないよう、気をつけるよ」


 やや頭を下げ、魔法使いからネックレスをかけてもらう。


「さて、私から出来るのはこれぐらいだ。そのノートは持っていってもらって構わない。そろそろワネクが仕事を終えて戻って来る頃だろう。明日に備えて、ゆっくり休みたまえ」


「色々ありがとう。結構自信ついたよ」


「万能になった気分だぜ。また話せる機会があったら、いろいろ教えてくれ」


「いや、今度は私が君達から話を聞きたいな。異世界のことを、色々聞かせてくれ」


「いいぜ。約束だ」


 約束を交わすと、突然扉が開き、大きな男が現れた。


「お疲れ様です。ワネク陛下」


 三人が話している間微動だにしなかった鎧は、突如立ち上がり、敬礼した。


「うむ。サラもご苦労。して、マイケルとジョンよ。勉強のほどはどうだ」


「今丁度終わったところです。これからどうしようかと」


 マイケルとジョンは椅子から立ち上がり、ワネクの方へ向き直る。


「都合が良いな。風呂と夕餉を用意した。ついて参れ」


「おぉ! やっとシャワーが浴びられる……ここ数日体洗えて無くて……」


「マジで助かるぜ……もう自分でも臭いが気になり始めてたとこだ」


「そうであろうな。その服と汚れ具合をみればわかる。城のものに洗濯と部屋を用意させよう。今日はここに泊まっていけ」


 願ってもないもてなしに、二人は芯から感動する。


「城に泊まらせてくれるんですか……!?」


「良いのかよ!? マジで何から何まで助けられてるな」


「世界を旅するのだ。これぐらいのもてなしはさせてくれ」


 その日、二人は想像できる限りのもてなしを受けた。穴の空いた服は丁寧に縫われ、元の姿を取り戻していた。部屋は豪華絢爛と呼ぶにふさわしく、気分が高揚しかえって眠りにつくのに時間がかかってしまった。

 そして時は流れ、出立の時がくる。


「では、頼んだぞ」


「あぁ。任せてくれ」


「準備万端だ。秘宝ってやつとっとと持ち帰ってきてやるよ」


 馬車から別れを告げ、国外に向け走り出す。向かうは西の荒野、イソルゼ。


「さて、どんな場所なのかな」

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