episode 3 好きなものとか?
『好きな食べ物教えてください』
紡はメールで李羽人に尋ねた。
案外すぐに既読はつき、返信が来た。
『……全部です』
「全部〜…」
紡は頭を抱えた。
「全部…ねぇ、嫌いなものはない感じだしなぁ…ハンバーグでいっか」
前にお母さんが聞いた時もこれと言って苦手なものはあげなかった。
「食材買いに行こうかな」
紡は財布とスマホをカバンに入れて家を出た。
___スーパー___
ミンチに卵、牛乳に…。
ハンバーグの材料以外の食材も買って行く。
あ、これ安い…。
紡はついでにとあるものを買った。
宿としている家に着くと、人の気配がなかった。
「時間あるな…」
李羽人は腕時計を見てそう言った。
まだ時間は午後6時を指していた。
部屋に戻り、ブレザーだけ脱ぐと李羽人は持ってきていた小説を手に取った。
しばらく読み込んでいると、ガチャッと玄関を開ける音がした。
「ただいま〜」
李羽人は少し迷った後、玄関に行った。
「…その、…おかえり、なさい?」
「え、っと…ただいま」
2人の間に特に意味のない沈黙が流れた。
いたたまれない李羽人はこのまま回れ右をして帰りたくなった。
「ハンバーグって和風おろしでもいい?」
「はい…その料理…貴方がするんですか?」
李羽人は恐る恐る聞いてみる。
「うん、そうだよ」
ダメなのか、と内心思いつつ紡はそう答える。
「俺、も料理していいですかね?」
ぎこちない会話が繰り広げられる中、李羽人はここ最近で1番勇気を出した。
すると…
「出来るの!?」
と紡が目を輝かせたのだった。
いきなり、キラキラエフェクトが溢れ出したので、その雰囲気に押し負けかけた李羽人だったが、コクリと軽く頷いた。
「料理…得意です」
この一言に紡は何か良からぬことを思いついたような顔をしたがすぐに満開の笑みを咲かせた。
リズミカルな鼻歌が響き渡るキッチンでは、それと共鳴するように野菜が切り刻まれていた。
「大根おろし作っておきます」
「ありがと〜、私料理あんまり好きじゃなくて…たから、今度お母さんがいない日とかは交代で作ってもらうことって出来ない?お願い!」
両手を合わせ、懇願してくる。
「一応、客…けど、料理ならしても良いです」
控えめな性格の李羽人が今日、自分から話しかけてきてくれただけでも感無量なのに…まさか、料理までしてくれるとは…。
「今泣いてるのは玉ねぎのせいですよね?」
嬉しくて泣いてる紡は気づかなかったがいつの間にか気づかれて引かれてしまっていたらしい。
「う、うん」
「…」
あんまり喋るタイプではない李羽人と、距離の詰め方が分からない紡の間には必然的に静かな間ができてしまう。
数分間の沈黙の後、話し出したのは紡だった。
「佐原くんの趣味って何?」
話題に困った時の常套句。
趣味を聞く手段に出た紡。
「……………好きなものとか?ですか」
長い間を使った後、また考え出した。
「読書?それで言うと料理…とか」
「そうなんだ〜どんなジャンルの本が好きなの?」
「ミステリー」
今度は即答だった。
確かにそんな感じがする。
「つ、紡…さんは?」
紡はなんとなく聞き逃しかけていたが、名前で呼ばれた気がする。
「苗字はあれなので、紡さんでも良いですか?」
「え、ウェルカムだよ!」
「じゃあ、紡さんの趣味は?」
「私は〜ゲームしたり、漫画読んだりするかなぁ」
「そうなんですね」
李羽人の顔が少し綻んだ。
本人も少し自覚していたのだ。
案外…ここは少し落ち着くな、と。




