episode 1 同じ高校の制服を着た人
「今日からのお客さんはできれば数ヶ月は泊まりたいそうよ」
突然、母親の葉織は神楽 紡に楽しそうに言ってくる。
何がそんなに嬉しいんだろうか…。
うちでは民宿をしていた。
なのでお客さんが泊まりにくる事はいつもの事なのに、いつもよりハイテンションな母。
そんな母にため息をついた。
なぜなら、母のハイテンションはいつも波乱を呼ぶからだ。
「最近、お客さん少なかったからありがたいわ」
「良かったねー」
そういうことかと紡は適当に返す。
杞憂だったなら良かった。
「明日から来るみたいだから、仲良くしてね」
「はいはい」
この時、適当に答えたのが悪かった。
よく話を聞いていなかったのだ。
それ故…次の日に後悔したのだった。
「…よろしくお願いします」
やって来たのは…紡と同じ高校の制服を着た男子高校生だった。
「娘の紡よ。貴方と同じ、南高校の1年生よ」
驚きすぎて、口をあんぐり開けたまま固まってしまった。
1年生よ、じゃない!!
内心、地団駄を踏みたくなる。
なんで、同じ高校ということを教えてくれなかったのだろうかと思ったが葉織の悪い癖で説明不足なことが多々あった。
いや、どこかで言っていたような気が…。
紡は頭を抱えた。
「紡、仲良くしてね」
「うん」
「それじゃあ、案内してあげて」
「うん」
未だに驚きが減らない紡に母は少し眉をひそめた。
お客様の前よ、と目が語っている。
そして紡はゆっくりと男子高校生の顔を見た。
しかもさぁ…イ、イケメンだし?
ダメだ、ダメ。
相手はお客さんだもんね。
節度を持って行動しなければ…。
とりあえず、名前を書いておこうと紡は恐る恐る聞いてみた。
「お名前は…?」
「…佐原 李羽人。3組」
3組…隣のクラスか。
そう言えば、休み時間の叫び声が絶えないので事件でも起きているのかと思っていたところだった。
叫び声は叫び声でも黄色い声の方だったかぁ、と納得した。
「よ、よろしくね。私のことは紡でいいから」
「…はい」
紡は少し首を傾ける。
クールな人だ。
目線が冷たくて感情が見えない。
「えーと、うちは見ての通り二階建てで佐原くんに泊まってもらうのは一階の…渡り廊下を渡った先にある部屋だよ」
渡り廊下を通り、お客さん専用の建物に入る。
「…はい」
「それでここが佐原くんの部屋。そしてこれが鍵」
李羽人に鍵を渡して、マスターキーを預かっているのでそれを使って部屋に入る。
「備え付けのテレビと冷蔵庫は勝手に使って良いから。朝昼晩の食事は…あ、平日の昼は弁当か。とりあえず、ご飯は母屋の方で食べることなってるから」
お客さんの人相の確認のためもあるし、お客さんのメンタルを見るためでもある。
「…それ、絶対ですか?」
「まぁ、できればお願い」
「…善処します」
「まぁ、できればお願い…ね?」
「はい…」
「はい」
この人暗いなぁ…。
紡はどうやってこの人と上手く接するべきか考えた。
結果、一旦退散することにした。
「…それじゃあ、またご飯の時に呼び来るから」
紡は相手の逆鱗に触れないうちに母屋に戻ったのだった。
母屋に戻った紡はダイニングテーブルの上のクッキーをつまみ食いする。
「あら、案内終わったの?」
「うん。けど…嫌われてるっぽい」
まぁ、嫌われていてもさほどに気にならないのだが…。お客さんだし。
「確かに女子苦手そうだものね」
うんうんと頷く母。
勘なのだろうか。
紡には女子関係なく苦手そうに見えたが…。
「それで、付き合いだしたら甘え出すみたいな」
いきなり目を輝かせる母。
男子を見ると恋愛スイッチ入る癖はなんなのだろうか。
「そーお?」
「とりあえず大丈夫よ。母に任せなさいって」
「んじゃ、よろしくね」
それから波乱は始まったのだった。




