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第8話 決着

 アクア、マーリン、アンジーが家に戻るとラインハルト家は騒然とした。


「……お嬢様方⁉︎」

「お帰りなさいませ。どうしてこちらに?」



 なんの連絡もなく、屋敷に帰ってきた3人を執事長やメイド等が出迎えた。

 執事長はいつも通りの様子だったが、メイド達は平静を装いながらも声には驚きと不安が入り混じっていた。

 

「お父様に用事があって帰ってきたの。お父様はどこかしら?」

「2階の書斎室にいらっしゃいます。」

「そう。ありがとう。」

 

 執事長から父親の場所を聞いた3人は中央にある大階段を上り、父親のいる書斎室へと向かった。

 

「何かあったのか?」


 3人が階段を上っていると、騒ぎを聞きつけた3人によく似た背の高い青年が2階から様子を見にやってきた。


「姉さん達⁉︎急に帰ってきて一体どうしたの?」

「お父様に用事があるの。」

「父さん今、仕事中で忙しいんだ。だから悪いけど明日まで待ってくれる?」


 離縁届の提出は明日の正午。明日まで待って、間に合う保証はない。


「時間がないの。悪いけど、そこどいてくれる。」

「ちょ、ちょっと。」



 弟の制止を無視して3人は書斎室へ向かった。


「失礼します。」


 3人が部屋に入るとお父様は仕事をしていた。

 最近は鍛えているのか以前よりもがっちりとした印象で昔よりも若返って見える。しかし藍色の髪から見える白髪が老年の雰囲気を漂わせている。

 そして、その顔は相変わらず無表情である。


「ミライか?全くノックもせずに……。」

「お父様。」

「アクア、マーリン、アンジー、3人そろって一体なんのようだ?」


 お父様はお面のような無表情で3人に問いかける。



「「「離縁の承諾をいただきに参りました。」」」


 3人がそう宣言すると、3人によく似た紫の目が見開き一瞬ギョッとした表情になる。

 しかし、すぐにいつものような鉄仮面のような冷たい表情に戻ると、お父様はため息を吐いた。



「お前らは揃いも揃って馬鹿なのか……。政略結婚だぞ。離縁なんて認めるわけがないだろう。」

「なんだとっ‼︎」

「落ち着きなさい。」


 マーリンは今にも殴りかかりそうなアンジーを諌め、一歩前に出た。


「お父様なら私のことはもちろん。アクア姉さんとアンジーについてもご存知のはずです。この婚約が政治的意味をなさないことはお父様もわかっているでしょう?お願いです。離縁を認めてください。」


「断る。アクアは資源、マーリンは権力、アンジーは外交、お前達の婚約は我が領がさらに成長するために必要不可欠なものだ。……アンジーのことについては男爵家宛に抗議の手紙は出しておく。とにかく!俺は離縁なんてもの認めんからな。それに婚約者との関係なんぞお前達が多少我慢すればいくらでもどうにかなるものだろう?」


 マーリンの不安は的中した。


 お父様はどこまでも自分勝手な人だった。

 娘達の現状と気持ちを知ってなおこの態度である。

 もしかしたら、お父様が私たちの意思を尊重して、家紋印を押してくれると思っていたけど、少しでも期待した自分が馬鹿だったみたい。

 結局、お父様にとって自分たちは領地や商会を大きくするための道具でしかないのだろう。

 このままでは婚約破棄でき(自由になれ)ない。

 マーリンは自分の視界が一気に暗くなったのがわかった。

 すると、今まで黙って話を聞いていたアクア姉さんが口を開いた。

 

「素直に家紋印を押してもらたかったのですが仕方ありません。もし、今この場で家紋印をくださらないのでしたら、私たちはお父様との縁を切ります。」


 マーリンは困惑していた。

 屋敷に入る前に3人で作戦会議をしたが、アクア姉さんからこんな話は一度も聞かされていなかったからだ。

 隣の方を見ると、アンジーも困惑しているみたいだった。


「なんだと……。」

 

 怒気のこもった声と共にお父様の眉間に皺がよってみるみる険しい表情になっていくのがわかった。

 しかし、アクア姉さんは意に介さず、淡々と続けた。

 

 

「貴族の地位を返上してラインハルト家からマーリンとアンジー籍を抜きます。そうしたら、私はすでにニードレッド家の人間ですし、二人もラインハルト家の人間ではなくなる。それにより契約者がいなくなるため。契約する意思がないとみなされ、契約は無効になり離縁が成立します。」


「ふざけるなっ!!そんなこと俺が許すわけないだろう。」


「どうして、お父様の許可がいるのですか?」


 激昂するお父様に対して、アクア姉さんは臆することなく言い放つ。


「……当然だろ?籍を抜くには貴族家当主の承認が必要だ。父親の俺以外、こんな面倒なこと誰が手伝うと思っているんだ?」


 そうはっきりと話すお父様をアクア姉さんは鋭い眼光で睨みつけた。



「何か、勘違いしていませんか?確かに籍を抜くには貴族家当主の証人が必要ですが、それは私がやれば済む話です。本来なら、お父様にお伺いを立てる必要はないんですよ。」

「さっきから、勝手なことばかり言っているが……。アクア、お前。なんの権限があってそんなこと言っているんだ?」


 嘲笑を浮かべるお父様に対して、アクア姉さんは頭を抱え、大きくため息を吐いた。


「お忘れですか?仮とはいえ今の私はニードレッド家当主の後見人です。籍を抜くことなんてお父様にお伺い立てなくてもできるんですよ。」

「……っ!」

「ここに来たのは、これまで育ててもらったことに対する筋を通しただけです。……けど、来て良かった。妹達がこんな目に遭っていたなんて私は知りませんでしたから。」

「……」

「ちなみにお父様の書いた私の婚約届はなんの法的権利のないものなので当然無効ですから。」

 

 アクア姉さんのあまりの迫力に反対していたお父様の声もみるみる小さくなっていっていった。

 そしてお父様は灰のようにサラサラになった。

 いつも眉間に皺を寄せ威厳に満ちていたお父様がそんな姿になっているのを見て、正直、胸の空くような思いがした。

 


「アクア姉さん。本当にありがとう。」

「ううん。本当は家族の関係を壊したくなかったから。ここまでしたくなかったんだけど。……ごめんね。」

「謝らないで。」

「そうだよ。私たちを助けるためにしたんだろ。アクア姉さんは悪くないよ。」

「ふふ。そう?」

 

 アンジーと二人でそう言うとアクア姉さんは強張っていた表情を緩ませ笑った。


「3人とも大きくなったみたいだね。」


 マーリンの耳に懐かしい声が聞こえてきた。

 でも、その人は今ここにいないはず……。

 マーリンは半信半疑ながらも、声の聞こえてきたドアの方を向く。

 すると、そこにいたのは病気で倒れているはずのお母様だった。



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