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第4話 突然の婚約破棄 4

 マーリンは、マテオから隣にいる女性に視線を移した。

 見たことのある顔である。

 マーリンは、記憶の中から名前を思い出す。

 彼女の名前は、確か……レイネ・シェノン。シェノン子爵家のご令嬢だ。

 


 シルク生地のように淡い金色の髪。潤んだ大きな瞳と小柄な体。

 守りたくなるような可愛らしい女の子。

 マテオは、ああいう子が、好きなのかということを初めて知り、とても驚いた。

 背も高く目付きもシャープでいかにも強そうな見た目で一人でも生きていけそうなマーリンとは真逆のタイプだったからだ。




「最初から縁なんてなかったのね。」

 

 

 婚約破棄されたら普通、怒ったり泣いたりしてもいいはずだがマーリンには怒りや悲しみの感情はなく、あったのは彼と結ばれることはないことに対する落胆の思いだけだった。

 マーリンは俯き、ため息をつく。

 今すぐ、眠りについて何もかも忘れてしまいたい。

 が、いつまでもこうしているわけにもいかない。

 これからのことについて話さないと。

 とはいえ騒ぎも大きくなってきて、ここだと、周りの目が気になって話しづらい。

 どこか人気のない場所に移動しないと。

 

「ここだと話しづらいですし。着いてきてください。話の続きはそちらでしましょう。」


 マーリンは、二人を連れ、誰もいない場所へと向かった。


 


 授業に使われていない旧校舎の中庭。ここに来る人はほとんどいない。ここなら誰にも邪魔されずに話せるだろう。



「……これからどうするつもりですか?」

「彼女と結婚する。」


 レイネの手を握りしめるマテオを見て胸に重くなる。

 彼に対して恋愛感情がなかったとはいえ、自分の婚約者が目の前で他の女性の手を握りしめている姿を見るのはくるものがあった。


「そう……。だったら、婚約破棄の書類を作らないといけないわね。」

「なぜだい?これは僕たちの問題。二人の話し合いで解決することだろう?」


 そう平然と言うマテオに思わずため息が溢れる。

 

「……婚約の際に枢機卿の前で交わした契約書を書いたことを忘れたの?」

「そういえば。」



 

 恋は人を盲目にするというけど……。

 以前の聡明さが見る影も無くなってしまったマテオを見て、マーリンは苦笑した。

 婚約する際に、教皇庁の枢機卿が立会人として、結婚した際の取り決めを婚約届に記入して契約魔法を使用した。そのためこういった契約の解除をしなければならない。


「婚約届には、一方的に婚約破棄をできないように契約魔法が施されていて、両家の家紋の印が入った離縁届を提出しないと再婚約できないようになっているし。あなたが婚約するなら、規則に則って、円満に別れないと。」

「離縁届か、そうだな。」

「婚約破棄するなら早いほうがいいでしょう。明日、教皇庁に提出しましょう。12時でもいい?」

「分かった。」


 マテオとの話し合いは済みました。あとは……。


「レイネさん!」

「マーリンさん!マテオに婚約者がいることを知っていたのに。私のせいで。ごめんなさい!」

「マーリン、悪いのは私だ。彼女を攻めないでやってくれ!」

 

 

 

 

 レイネさんは庇護欲を掻き立てるあの可愛らしい顔が別人のように青ざめた顔がひきつっていて、マテオは、彼女を庇いながらぶるぶると震えている。

 別に彼女には、1ミリも怒っていないですし、二人を攻めているつもりはないのですが…。

 きっと二人からみたら自分は婚約破棄され怒りに満ちた令嬢に見えているのでしょう。

 普段からよく怒っているように見えると友人にも、言われていたので普段は気をつけてはいるのですが、初めての人と話すときは、緊張してどうにも顔が強ばってしまいます。


「マテオのことよろしくお願いします。彼のことを支えてあげてください。」

「……はい。」

 

 マーリンは、今できる最大の笑顔で言った。

 レイネは驚いた顔をしていたが、やがて小さく頷いた。


「マテオは、自分の立場というのを自覚してください。今日みたいなことは、貴方の名声に傷をつけ貴方の周りの人たちも不利益を被ることになります。その事をくれぐれも忘れないでください。」


 マテオには、恥ずかしい思いをさせられたので意趣返しとしてマーリンは皮肉をたっぷりと混ぜて告げた。


「さようなら。」


マーリンは、そう言い残しその場を後にした。


「婚約破棄をしたら、この学校に通い続ける理由もないし、こうなった以上私はここには居られない。帰ったら、すぐに荷物を片付けないと。」


 これからのことを考えながら歩いていると寮に向かう道すがら、すれちがう人たちが驚いた表情でこちらを見ていることに気づく。


「もしかして、私の顔になにかついてる?ーーあれ?」

 

 顔をさわると、目元がぬれているのが分かる。

 すると、涙がボロボロと溢れてきた。


「あれ?どうしたんだろう?おかしいな……。止まんないや。」


 目から零れ落ちた雨は、暫くやむことはなかった。






 




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