第13話 お気に入りの店
マーリンは服飾店で購入した格好に着替えて、服飾店を出た。広場の時計台を確認すると時刻は12時すぎ。
ちょうど、お昼時であるため。
二人は、ランチに向かった。
マーリンは大通りから外れた、細い路地を進んでいく。
建物が入り組んでいて中々、陽の光が入って来ない。
薄暗いので少し怖い雰囲気だ。
「ねえ。マーリン?本当にこんなところで美味しいランチが食べられるの?」
「安心して!確かに、飲食店なんてなさそうだけど、今から向かう店は、私が今まで食べた店で一番美味しかったんだから。」
「そ……そうなの。」
サランの心配をよそにマーリンはさらに路地を進んでいく。
「ついたわ。この建物に美味しいビストロがあるの。」
建物は地上三階、地下一階の全四階建てである。
一階は商店、二階と三階は居住地になっていて、お目当てのビストロは地下一階にある。
二人は建物の地下に続く階段を降りていく。
足音が小さくこだましていた。
地下一階に着くと一つだけあるドアを開け、二人は中に入る。
開けた反動で、ドアについていたベルがチリンと微かになった。
店内には、カウンター席が七席と、四人が座れるテーブル席が二つある。
薄暗く灯るランプの明かりがいい感じの雰囲気を醸し出している。
カップルの記念日にも、ぴったりな隠れ家的な店である。
「よぉ!お嬢ちゃん久しぶりじゃねえか!!」
カウンターで食事をとっていた常連の男たちがマーリンに声をかけてきた。
マーリンは軽く挨拶を交わし、奥にあるテーブル席に座る。
続いて、サランはマーリンの正面に座った。
席に着くと、店員が水と、メニューを持ってきた。
「嬢ちゃんに連れがいるのは珍しいじゃねえか。」
「マスター。今日はお母様を連れてきたの。」
「おお、そうか。これはどうも。娘さんにはいつも当店をご贔屓にして頂いてまして……。」
マスターがニカっと笑う。
「私の一番好きな店だから。お母様を一度、この店に連れてきたかったの。」
「嬉しいこと言ってくれるね。こりゃあサービスしないとな。」
「楽しみです。」
「それじゃあ、マスター。いつもの二つお願いします。」
「あいよ。」
マーリンはメニューを見ずに注文をする。
注文を受け取ると、マスターは、席を後にする。
「元気になったみたいでよかったわ。今朝からずっと、難しい顔をしていたから。」
「そ、そう?」
「そうよ。こんな風に眉間に皺を寄せていたんだから。」
確かに、最近は色々なことがあったから難しい顔をしていたかもしれない。
なんとことを考えていると、サランの指が、マーリンの頬に触れる。
「ごめんね。私がしっかりしていなかったから。あなたたちには迷惑いっぱいかけたと思うわ。……辛いことも苦しいこともいっぱいあったと思う。」
サランの声がか細くそして、微かに震えている。
「だからこそこれからは娘たちには幸せになって欲しい。今度は、何があっても私が守るから。」
「お母様!」
サランは暖かく柔和な眼差しで、マーリンを見つめる。
その視線がなんだか照れ臭さく、マーリンは思わず目を背けてしまう。
「ありがとう、お母様。もう大丈夫。確かに辛いこともあったけど私には叶えたい夢があるから。」
「夢?」
「魔術士になって、魔法で世界中の人を幸せにするのが私の夢なんだ。だから、くよくよなんてしていられない。」
サランは小さく笑う。
「ふふ……昔からあなたは、魔法が大好きだったわね。私もあなたの夢応援するわ。それじゃあ、編入手続きしないといけないわね?」
「え?」
「魔術学園にいくんでしょう。」
「うん!……ありがとう。お母様!」




