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第11話 婚約破棄の成立

 マーリンは母親の後に続いて部屋に入った。

 部屋には、マテオの他に、教皇庁から立会人の枢機卿とマテオの父親、アンデルソン王国国王 キリアン・アンデルソンがいた。

 大きなテーブルの向こう側に国王様とマテオが座っており、その横には枢機卿が座っている。

 マーリンと母親は、マテオたちの対面の席に座った。


「久しぶりだな。キリアン。」


「サラン……。ルイスはどうした?」


「あいつはお休み中でね。今日は私が代わりに来たんだ。何か問題あるか?」


「いや、別に。」


 どうやら、お母様と国王様は知り合いみたいだ。

 お母様も昔、貴族学校に通っていたので、きっとその時に知り合ったのだろう。

 それよりも……マーリンは母親と国王の関係より俯いて顔を上げないマテオのことが気になっていた。

 マーリンは左に視線を移しマテオを見る。

 マテオは右の頬が真っ赤に腫れ上がり、その目は虚ろだ。

 とても、愛する人との婚約を控えた、幸せな男には見えない。

 マーリンはすでにマテオの何の感情もない。

 しかしそんな彼女でも、今のマテオの姿は嫌でも気になってしまっていた。

 


「おほん。これより、アンデルソン王国第一王子、マテオ・アンデルソン様とラインハルト候爵家の次女、マーリン・ラインハルト様の婚約破棄の手続きを始めたいと思います。立会人として、アノデウス教会枢機卿、ガノン・ランドロスが務めさせていただきます。」


 ガノンは、軽く会釈する。


「それでは、マテオ・アンデルソン様、マーリン・ラインハルト様、離縁届の提出をお願いします。なお、離縁届の提出に伴い、婚約破棄の承諾とさせていただきます。」


 マーリンは、持ってきた離縁届をガノンに提出する。しかし、マテオは俯いたままで離縁届を提出するそぶりがない。


「マテオ様?」



 ガノンの問いに、俯いて動かないマテオの代わりに、父のキリアンが口を開く。


「枢機卿。私たちは婚約破棄を撤回したいと思う。」


「は?」


 キリアンの想定外の言葉にマーリンは思わず、間の抜けた声を出した。

 

「マーリン。うちのばか息子がすまなかった。今は息子も反省して、もう一度君とやり直したいと思っている。なぁ……。マテオ。」


 キリアンの視線にマテオの体がビクッとなる。


「っ……マーリンすまなかった。もう一度やり直してくれないか……?」



 目線を逸らし、左手で首を触っている。

 この仕草は彼が嘘をつくときの癖だ。

 

 一応、元婚約者だ。

 マテオの表情や仕草から彼の気持ちが自分に向いておらず、マテオが今もレイネさんを愛していることくらい、わかる。

 ただ、すでに気持ちがないとはいえ、元婚約者からやり直したいと嘘を言わせるのは心にくるものがある。

 



「息子もこう言っているし、許してやってくれないだろうか?」

「お断りします。」 

「………なにっ⁉︎」


「私はもう彼と婚約を続けるつもりはありませんし、マテオには、愛する人がいます。そうよね。」


 マーリンは、マテオに視線で促す。

 マーリンの視線に気づいたマテオは、俯いていた顔を上げ父、キリアンの顔を真っ直ぐに見つめて宣言した。


「ああ。俺にはレイネという愛する女性がいる。だから、この婚約を破棄したい。」

「……マテオ!!キサマァァ!!!!」


 すごい剣幕で詰め寄る父親にも、マテオは一歩も引かずに応戦した。

 先ほどまでの生気の抜かれたような目に力が宿り、威圧感を放っている。その姿には為政者の風格の片鱗が垣間見えた。


「見苦しいぞ。キリアン。」


 二人の激しい口論にお母様が割って入った。


「っ……サラン!」


「この婚約を望んでいるのはお前だけだ。お前は、ラインハルト家の財力と、諸外国とのパイプが欲しいのだろうが諦めろ。……そもそもこの婚約は元々成立すらしていないんだからな。」

「どういうことだ?」


 キリアンの顔が曇る。


「枢機卿。契約の保証人が捕まり犯罪者になった場合どうなる?」

「はい……?」


 変な質問に枢機卿が戸惑っていると、サランはさっさと答えろと言いたげな視線を向けた。

 その視線に慌てて、枢機卿は続ける。


「どんな罪状であろうと犯罪を犯した者は保証人としての資格を失うため、当然、契約は無効となります。」

「だから、なんだって言うんだ!!そんなの私には関係ない。」

「…ルイスは殺人未遂の現行犯で捕まったんだよ。」


「なにっ!!!」

「……なんと!」


 どうやら、二人はお父様が捕まったことを知らなかったみたいだ。


「だから、当然この婚約は無効。勿論、マーリンがマテオくんとの婚約したいと思わない限り、再婚約も認めるつもりはない。」


「くそっ……。」


「本当なら今日、来なくてもよかったんだが、話がこじれないように、わざわざ離縁届を提出しに来たんだよ。だからもう、お前は大人しくしていろ。」

 


 観念したのか…。

 国王様は俯いたまま、その後、一言も発することはなかった。


 それからは早かった。

 あっという間に手続きが進み、あっという間に婚約破棄が認められた。

 マーリンは、枢機卿にお礼をいい、席を立ち上がる。


「マテオ、レイネさんを幸せにしなさいよ。」

「……そのつもりだ。」


 マテオとレイネが婚約できるのかはわからない。

 ただ、今のマテオなら、なんとかするんじゃないかと思う。

 そんなことを考えながら、マーリンは母親と一緒に部屋を後にした。


 

 

 

 

 


 



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