第10話 教皇庁
翌日、教会に離縁届を出すために、マーリンは朝早くに家を出た。
迷惑をかけたくなかったので裏口からこっそり家を出たが、なぜかお母様に見つかってしまった。
「教会に行くのよね?……私も一緒に行っていい?」
「……うん。」
お母様の提案を当然、断れるわけがなく、今はお母様と一緒にラインハルト家の馬車に揺られながら教皇庁に向かっている。
「娘とお出かけなんて本当に久しぶり。楽しみだわ。」
「……はは、そうだね。」
お母様とのお出かけは楽しみだけど……。
会う相手が相手なだけに気分はかなり憂鬱だ。
しばしの間、馬車で揺られていると、街の中心で聳えたつ王城が見えてきた。
その隣にある真っ白い石材でできた教会に、マーリンの緊張感が増す。
教皇庁ーーアノデウス教会を統括する中央機関であり、同時にアンデルソン王国の行政府である。
白大理石を切り出して作られた柱が建物を1周囲んだ周柱式の神殿で、その外観は周囲とは異なる装いで、とても目立っている。
教皇庁の職員は、全員、白いローブとマントを着用しているためとてもわかりやすく、位が上がるにつれロープが艶やかになっていくので位が一目でわかるようになっている。
マーリンは入り口にいた職員に軽く会釈をしてから中に入る。
一階は相談窓口になっている。今回は1階には用はないため。二階へと進む。
二階以上は、教会でも位の高い者や王侯貴族だけが立ち入ることができる。
主に、貴族との談合や教会の会議の場として、使われることが多いが貴族同士の秘密の契約の際に使われることもある。
もちろん、使うには事前の予約が必要である。
「マーリン様ですね。お待ちしておりました。」
二階に上がると、若い女性職員が出迎えてくれた。
成人にも満たないようなとても若い女性に見えるが、白いロープに派手な華の装飾が施されていることから、司教であることがわかる。
「マーリン様お一人でご覧になると聞いていたのですが……。お隣の方は?」
「まさか司教が出迎えてくださるなんて。驚きました。」
「ラインハルト家の皆様に粗相をするわけにはいきませんから。」
「失礼しました。ではこちらにどうぞ。
司教の女性に案内され、後ろをついていく。
階段を上がり上へと向かう。
「他の連中はもうきているのか?」
「はい。他の方たちはすでに到着なさっています。」
五階まで上がると、司教の女性の足が止まった。
「……着きました。この部屋です。」
五階には大部屋が一つだけで、他に部屋はない。部屋には防音の魔道具が備え付けたられているため万が一にも声が漏れることがないらしい。
「では、他に仕事がありますので。私はこれで。」
司教の女性は一礼すると、階段を降りていった。
「それじゃあ、入るよ。」
「うん。」




