第二話 「パブロネの瞳は”こかねいろ”」
「ぷっあはは、君面白いね。僕の名前はパブロネだよ」
そういって救世主の彼女は人の良さそうな笑顔で答えた。
こんな暗いのに笑顔が見れるのは、傘の内側にいくつかついている小型のライトがぼんやりと照らしているかららしい。
そこで彼女の瞳がかすかに発光してることに気づいた。
アバンに住んでいる人間だったらこれが普通なのだろうか、助けてくれたしどうでも良くなってきた。
「あ、ありがとう。死ぬかと思ったよ」
「いやほんとにね、あんな速度でぶっ飛んでくるなんてね、ほんと君どこからきたの?」
「それは」
あれ・・・思い出せない、どこかの記憶に霧がかかっているみたいに。
「やっぱりそうかー。大丈夫、一時的なやつだと思うし僕の家で直せるよ。歩ける?」
「家?」
「うん、この道路をずっと真っ直ぐ行くと、T字路の突き当たりにあるよ」
肩まであるふんわりとしたウルフカットを撫でつけながら子供みたいに自慢げに話す眼の前の女性は、意外と厳しいらしい。
昔から体力に自信があるといえど、ここでそう返してくるのは少し怖い。
「いや、ちょっと休みたいんだけど」
「えーーでも君さぁ、ちゃんと話せてるし、大丈夫そうなんだよね。血も出てなさそうだし、なんか慣れてるっていうかさぁ」
そう言いながら急に自分の濡れた前髪をかきあげてきた、いや大胆すぎるだろ。
てゆうかなんでこいつ髪濡れてないんだよ。
それと自分より背が高い、自分が170センチだとしたら176センチくらいありそうだ。
「え、今ちょっとビクってしたよね、大丈夫?」
そう言って彼女は俺の反応が心底面白いかのように、嘲笑っている。
「いや、お前ちょっと距離感近いって、離せよ」
「お前はひどくない?ちゃんと名前で呼んでよ」
「分かったよ、パブロネ。これでいいか?」
「いいよ、レオゼ」
小悪魔的なことをされて少し動揺してしまった。
「お前なんてひどいことゆうよねえ、せっかくカマキリ以外に会えたと思ったのに」
「カマキリ?」
「え?知らないの?君相当運いいよだってs」
「いやいい、今思い出すから」
話が長引きそうだったからとりあえず話を遮ったが、今の状況のヤバさに今更気付いた、一時的な記憶喪失で、眼の前には変な奴がいて、知らない土地で、そうだでかいカマキリもいるんだった。
まだなにか忘れてる気がするが、結局こいつの家に行って休むしかないのか。
「ていうところもあるしーー、やっぱりあれだよねあr」
「なんか頭いたくなってきたし、さっき言ってた家にいかないか?」
「あ、僕、喋りすぎちゃったね」
少し申し訳無さそうな顔しているが、それはこっちの体調を心配してくれているのか、気分が良さそうに喋ってたところを遮ってしまったから不満なのかどっちなんだろう。
だめだほんとに頭が痛くなってきた。
「いやいいよ、俺も悪かった」
「そう? じゃあ出発進行ーーー!」
俺達の会話、結構ズレてる気がする。不安だ。
さっきから隣の青インナーカラーウルフカットの他愛のないカマキリトークを聞きながら、なぜこやつが大雨の中濡れていないのか、それはほぼ全てが見たこともない金属で構成されているこの傘に秘密があるらしい。
冷めた体が温められている、まるで晴天の日に草むらで昼寝をしてるようで、とても安心感がある。
「てゆうか、いま傘のことすごいと思ったでしょ、そうだよね」
「なんで分かったんだよ」
「いやー昔からこうなんだよねぇ」
そういって彼女は少し透き通った茶色のサングラスをかけ始めた。
「昔からってことは、パブロネの他にも誰か人がいるのか?」
「そうだよ、僕の家って言っちゃったけど他にも結構いるよ、今頃みんな寝てると思うけど」
こいつ以外にも人がいるのか、それなら少し安心した。
こんな奴と二人っきりになるのはカマキリと添い寝するより危険そうだし、でもここで森から来たことを明かすと良くない気がする。勘だけど、一応やめておこう。
「にしてもこの傘重くないのか?さっきから持ってもらってるが、そろそろ代わろうか?」
「いや大丈夫、でも重いってのは事実だよぉ、なんせ色んな機能がつまってる超万能な傘だからね」
「悪いな」
そういってニヤけた面で自慢されても悪い気はしない、相合い傘の中に入らせてもらってるが、実際こんな重そうな傘持ってるやつ怒らせたらやばい気がする。
お前とは二度と言わないようにしよう、だめださっきからなにかと頭が痛くなる。
「あともうちょっとかかっちゃうけど、レオゼはまだ行けそう?」
「うん、もうちょっとなら大丈夫だ」
にしてもパブロネの目と目を合わせると、せっかく夜目が聞いてきて周りが見えてきたのに、目の輝きのせいでまた周りが暗くなってくる、大丈夫だとは言ったけどさっきから単調なビルばかりの景色で、進んでいるかどうかもわからない。
さっきからこの光景に既視感がある。
「なぁパブロネ、デジャブって知ってるか」
「うん知ってるよ、僕はなったことは一度もないけど、なんかこの感じ見たことあるなぁ、って思うんでしょ?」
「なったことないのか? 一回も?」
「うん、僕記憶力いいから」
右手でピースしながらドヤ顔をカマしてきた、ムカつくからちょっと言い返してみるか。
「いやぁ記憶力がないから覚えてないだけなんじゃあないか?」
「そんなことはないね、例えばさー僕、眼の前でぐちゃぐちゃにされたルービックキューブを渡されたときに、十秒もかからずに元に戻せたんだよねぇ」
「すご」
「そうでしょ、そう言うと思ったよ」
思わず心の声が漏れてしまった。
「いや、でも動体視力というか、目がいいから元に戻せたんじゃないか」
「ありがとう、僕も自分の目結構気に入ってるんだよね」
「そ、そうなんだ」
「うん、綺麗でしょ」
正直すごい綺麗だ、万華鏡のような吸い込まれる瞳だと思う。
「確かに、なんかザ・黄金色って感じだよな」
「え、こかねいろ?」
「いや、こがねいろだって」
「あぁ、そうだよね…」
そう言って彼女は、笑いながら聞き返した時とは、声のトーンを明らかに落としながら、遠くを見つめるような感じで前を向いた。
まさか黄金色が地雷だったのか、全然わからなかった、途端に雨の音が嫌に耳に入ってくる。
てゆうかまだ着かないのかよ、とりあえず話を戻さないと。
「ついたよ」
「いやでもすごい綺麗な目だと思うよ、なんか髪の毛の青と似合ってるs ついたの?」
「うん、じゃあちょっと奥の方にある電気つけてくるね、転んじゃうかもしれないから、レオゼは待っててもいいよ」
また無邪気な笑顔に戻った彼女は傘を右手に持ち替えたと思うと、傘が音もなくコンパクトに折りたたまれ、光沢のない黒い折り畳み傘になった。
傘が畳み終わったと同時に、彼女は建物の中に入っていった。
辺りがぼんやりと見えてきた、この建物はなんというか他のビル群とは違って横に長いタイプだ。
高級そうな鳩の模様が刻まれている玄関のドアには、質感の良さそうな木も使われていて、なんだか公共施設という感じだ。
月の光が玄関の形で部屋の中に漏れ出して、長方形の光が闇を切り取っている、その光の中に小さい自分のシルエットが浮かび上がっている。
「もう入れるなら、入ってもいいよー」
向こうの方から軽快な足音とともに彼女の声が聞こえてきた、自分より少し高い安心する声だ。
「お邪魔します…」
そう言って俺が闇の中に消えていったとき、誰かがこう囁いた。
「レオゼ、お前がルラリアを殺したの?」