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プロローグ

 




 少年のレオゼはなかなか眠れずにいた。




 その夜はひどい嵐で、ベッドのすぐそばにある窓には大量の雨粒が打ち付けてきて、風で外れていしまいそうなほどガタガタという音が鳴っている。


 眠れない原因はこの雨のせいではなかった。

 いつもなら布団を頭まで被っていたら音もあまり聞こえないし、すぐ眠ることができる。

 目の前の現実を受け入れることができず、ベッドに横たわりながら、窓に張り付いてくる水滴が流れ落ちるのをずっと見ていた。


 新しく窓に張り付いた水滴は一つまた一つと下っていき、他の水滴と合流してより大きな水滴をつくり、あっという間に見えなくなるところまで流れ落ちていく。

 その動きは予測不可能で右に行ったと思ったら、次は左へまた次は右へと、窓をつたっていく。だが心の中のある焦燥や不安感は消えることなくべったりと張り付いている。


 もう慣れてしまった手つきで小型の通信機を操作し、いままでここで一緒に暮らしていた少女、ルラリアの位置情報を確認した。

 しかしその通信機の画面に表示されている情報はまた裏切られたような結果を示していた。


 つい一週間前からルラリアの行方がつかめなくなっていた。

 彼女はアバンという都市に出かけてしまったきり帰ってこなくなったのだ。

 このようなことは前にも何度かあった。だが最低でも5日間ほどであり、位置情報はある程度動いていたのに。


 彼女はアバンを危険だからといって行かせてはくれなかった。

 アバンはこの森に囲まれた家からかなり遠くにあり、快晴の日に背の高い杉の木に登ってやっとその端のビル群がぼんやりと見えるくらいだ。

 昔、気になってアバンについて訪ねてみた時、彼女はこう言っていた。

 アバンとは大昔に栄華を誇っていた都市だが滅んでしまい、今や自分と彼女だけしか生き残りはいない。

 

 それを教えてくれただけでそれ以上ルラリアは何もアバンについての話たがらなかった。

 なぜ自分にとって危険なのか、なぜ一緒に行かせてくれないのかを問いかけても、「ごめん」という一言とあの悲しそうな顔をされたらとてもそれ以上を聞く気にもなれなかった。


 その日の夕飯では大好物の鹿肉のローストもなにも味がしなかった、適当な話題を振ってみても会話は続かず、リビングには長針の音が嫌なほど鳴り響いていた。

 その日以来、アバンについて聞くことはなくなった。

 別に自分も今の生活に満足していた、それ以上を望んで彼女をまた悲しませることもしたくなかったのだ。

 木こりをして、たまに鹿を捕まえて、鶏小屋を覗いて。卵を生んでいたらいつもよりちょっぴり豪華な料理をルラリアが振る舞ってくれる。

 それだけの生活しか知らなかったし、それだけで良かったのだ。


 もし自分がアバンに干渉してしまったら、彼女を裏切ることになる。

 それを理由にして楽な生活にふけってしまっていた。

 今こうして持っている通信機もこの家にある何もかもか弱い少女が危険を冒して、アバンからここへ持ってきてくれていたものだ。


「フゥー」


 ため息を一つつく、それをスイッチにしてランプに火をつけ、リュックの中に旅に必要であろう荷物を詰め込む。雨がまた強くなってきて、窓を叩くような音もより激しくなってきている。

 このままではルラリアを失ってしまうかもしれない、もしそれが今まで自堕落な自分への罰なのだとしたら、悔やんでも悔やみきれる気がしない。

 やっと荷物を詰め込み終わったタイミングで部屋を突き刺すような大量の閃光が強く辺りを照らした。

 なにかとても嫌な予感がした。


 窓を開けて外を見ると、アバンがあるあたりでとても黒く大きな暗雲が渦巻き雷光が頻繁に瞬いている。


「ルラリア・・・」




 闇に発せられた少年の微かな呼び声はしきりに降り注ぐ雨の音によってかき消された。

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