忘れモノ ⑧
「私は何も聞いていないさ。さて、到着まで少し休ませて貰うよ。霊力を少しでも……」
小姫は言葉の途中で目を閉じると俺にもたれかかる。
車の走る音に混じって聞こえる寝息、少し疲れた様子で小姫は眠ってしまっていた。
「寝顔も素敵なんだがな。まあ、惚れた相手だから素敵な相手が更に素敵に見えるんだろうが……」
一瞬だけ小姫の肩が動いた気がするが、じっと見ていても起きる様子はない。
そのまま俺達が乗る車が山の中に入って行き、暫く進んだ時、反対側からけたたましい音を立てながらバイクがやって来る。
「止めて下さい!」
俺が叫ぶが、殆ど同時にブレーキが踏まれたのは運転手さんも零課の一員である証拠。
俺も完全に止まる前に飛び出せばバイクの姿がよりハッキリ見える。
暴走族が乗っていそうな派手な改造バイクで、ペイントは錆が混じってハゲ掛けだ。
そして、サイドミラーの反対側には血走った目が存在していた。
『会うのよ会うのよ。私は彼に会うのよぉおおおおおおおおおっ!』
「伏柄流古武術奥義……鳴き打ち」
前輪を持ち上げウイリー走行をするバイクは俺に迫ると同時に前輪を振り下ろそうとする。
だが、先に届いたのは俺の攻撃、振り抜いた掌底打ちが胴体部分に叩き込まれると同時にバイクの動きは止まり、俺が飛び退きざまに蹴り飛ばせば宙で内部から弾け飛んだ。
「こっちに気が付いて送った尖兵って所かな。お早う、寝起きに面白い物を見せて貰ったよ。術が使えないなんて嘘じゃないか。隠すだなんて水臭いよ」
「いや、だから古武術だって」
「いやいやいや……嘘だろう?」




