第99話:デウス・エクス・マキナ
勇斗に翼を斬り飛ばされて墜落したガルーダ。
しかし精霊であり自己補完可能な魔力があるうちは何度でも再生出来る為、ガルーダはすぐに翼を生やして勇斗に応戦していた。
規模のでかい鎌鼬——風刃を次々と発生させて勇斗を追い立てるガルーダと、それを魔剣で弾きながら反撃の隙を窺う勇斗。
風刃は所詮風であるため軽く、飛ぶ斬撃としては勇斗の軌道斬りの方が高威力だが、手数が桁違いなのだ。
風属性の精霊であるガルーダは周囲の風全てをまるで自分の体の一部であるかのように操っており、あらゆる方向から無数の風刃を繰り出してきている。
勇斗はほぼ目に見えないその風刃を魔力感知と精密な剣技でギギギギギギィンッッと弾きながら駆け、この風刃が荒れ狂うガルーダの支配空間からの突破口を探る。
(本体が飛んでるのも厄介だな……無理矢理やるしかないか……!)
直後、勇斗が下に弾いた風刃が地面を抉ってザフッッッと土煙を巻き上げた。
視界が悪くなり、足を止めた勇斗に無数の風刃が襲い掛かる。
——ズドドドドドドドドドドドドドォォッッッッ!!!
好機とみたガルーダが止めを刺す為、ヘリ相手にも見せた急降下攻撃で爪を光らせながら接近してきた。
その勢いの風圧で舞い上がった粉塵が吹き飛んだ時、手傷を負うどころか居合いの構えでガルーダを迎え討つ勇斗の姿が見えた。
足元の地面には無数の浅い亀裂がある。
勇斗はわざと足を止めて攻撃を喰らったフリをし、全て叩き落とした風刃で巻き上げた土煙を目隠しに利用したのだ。
そしてまんまと誘い込まれたガルーダはもう落下の勢いを利用した突撃をキャンセル出来ないスピードに達している。
だがハメられたことに気付いたガルーダも即座に風のブレスを放とうと口腔に魔力を収束させた。
ブレスを勇斗への牽制と逆噴射ブレーキのように使う為だ。
「遅いッ!」
縮地+超音速斬撃の乱れ打ち。
キキキキキキキキキキキィンッッッと今度は勇斗が無数の剣筋を閃かせ、ガルーダを八つ裂きにした。
だが精霊だけあってまだ完全に倒し切るには至らず、キロッと勇斗を睨んだガルーダが突風で勇斗を遥か彼方まで吹き飛ばそうと翼を広げた時——
「魔力放射砲っ!」
——ズドォォォォオオオオオオオォッッッッ!!!!
ゼロ距離から放たれた愛奏音の魔力放射砲がガルーダに直撃した。
愛奏音はただの魔力弾や狙撃弾では空を自在に飛ぶガルーダに避けられるだけだと踏んで伏兵として好機を伺っていたのだ。
まだ勇斗ほど共鳴同調を扱えない愛奏音でも魔力を大出力でそのままぶつけるこの技なら精霊の魔素量を大きく削れる。
——キィィェェェエエエエエッッッ!!!
悲鳴のような叫びを上げたガルーダはそれでもバサァァアッッッッと翼をはためかせ、突風と共に逃げようと空へ飛び立った。
が、勇斗があっという間に遠ざかっていくガルーダに剣の切先を向ける。
——狙撃突き。
ヒュガッッッッッッッッッッッと空を切り裂く音。
勇斗が繰り出した突きの動作と同時に魔剣の刃が延伸し、既に300m上空まで飛び去っていたガルーダを串刺しにした。
引き抜く動作と共に刃を元に戻した勇斗は力なく堕ちていくガルーダを見て今度こそ決着がついたことを悟る。
「ありがとう愛奏音ちゃん。愛奏音ちゃんのおかげであいつを削り切れた」
「ううん、倒せて良かったわ。さあ、次の相手に行きましょう」
「そうだね。まだまだ敵は多い」
♢
湾岸でラムやガルーダが討伐されている間、ギルド管理局の局員達は自陣の中盤まで入り込まれた地竜に苦戦していた。
「そっちに行ったぞ! 真下に注意しろォッ!」
ゴゴゴゴゴゴッッッと局員達の足元が揺れ——ズガァァアアアンッッッッと地中に潜っていた地竜が角による突き上げと共に地上へ飛び出してきた。
吹っ飛ばされた局員達が地竜の威容に改めて恐怖を抱く。
地竜は翼がなく飛行能力がない代わりに、異常に硬く分厚い鱗とその巨体で猛スピードを発揮する程の脚力に特化したドラゴン。
その姿は大型の肉食恐竜を倍に巨大化させてさらにイカつくしたような見た目だ。
防御力が高い上に土属性の魔法で大地を操って地中を移動する為、今の突き上げ攻撃で局員達は一方的にやられていた。
この地竜の鱗には麗色の魔導砲や魔導剣も効かず、マキナのクローン兵も数体破壊された程だ。
「くッ、銃も魔法攻撃も、俺達の火力では何も通用しない……ッ!」
また地中に潜った地竜がゴゴゴゴゴゴッッッと大地を操作する余波で地鳴りを発生させる。
さらに付近の別のポイントからもドズゥウンッッッ、ドズゥウンッッッと地響きが鳴った。
地竜に続いて攻め込んできた四つ腕の巨人と太った巨人の足音だ。
「待てコラ。まだ終わってねぇんだよッ。お前の相手は俺だデブッ!」
ギルド管理局局長、天前峰史郎が太った巨人に猛烈な勢いで殴りかかった。
異界産の遺物である籠手で大幅に強化されているはずの打撃は、しかし太った巨人の巨人の中でも一際大きな巨体と分厚い脂肪に阻まれてダメージを与えるには至らない。
それどころか、力任せに腕を振るった太った巨人の反撃をまともに喰らい、遥か後方まで吹っ飛ばされていった。
四つ腕の巨人には巨人化した鴻上仁が掴み掛かるが、2本の腕を抑えてももう2本の腕で攻撃される為、次第に押されていく。
仁も細胞増殖能力で腕を増やそうとするが、その前に太った巨人が迫ってきて、大質量による圧殺で押し潰されてしまった。
「私達もあれを止めるわよ!」
「応ッ!」
このままでは押し切られると思った緋彩が火弾、水弾、石弾、風弾を同時に放つ四元素波状撃を、武琉も無数の刃を殺到させる刀剣乱舞を発動して地竜を仕留めようとする。
だがそれすらも地竜の鱗は全てを弾き返し、一切のダメージを受け付けない。
「退いていろ小童共。此奴は我が片付けてやろウ」
助っ人に来たのは、美しいモデルウォークとチャイナドレス姿で現れた司 美羽蘭だった。
「不肖の弟子に後方を頼まれてしまったからナ」
やれやれといった台詞の割には少し嬉しそうな表情の美羽蘭はまず太った巨人を見据えると、ドウッッッッと魔力を集中させて高めた脚力で駆け出した。
「——穿貫ノ勁」
美羽蘭は瞬時に肉薄した太った巨人の腹に掌底を打ち込んだ。
無敵の脂肪に守られているはずの太った巨人だが、衝撃と魔力の波動が内部に浸透する穿貫ノ勁にはなす術なく——ズドォォォォオオオオオオオオンンッッッッとその巨体が吹っ飛ばされた。
その先でドボォオオオオオンッッッッと派手な水飛沫を上げて東京湾に落ちた太った巨人は自重のせいで浮かぶことが出来ずバシャバシャと暴れながら沈んでいった。
「あのデカすぎる巨人を生身で……素手でブッ飛ばしやがったッ……!」
近くで見ていた武琉が驚愕の声を上げる。
仲間がやられて怒ったように暴れ出した四つ腕の巨人が美羽蘭に殴り掛かるが——
「流連ノ勁」
ヒュラッッッッと力の方向を変えられた四つ腕の巨人の拳は美羽蘭が誘導した通りに地面へ潜ろうとしていた地竜をドガァァァアアアンッッッッと殴り付けた。
「哈哈哈ッ、どこを狙っておル!」
挑発された四つ腕の巨人は反対のニ本腕でも殴りにかかるが、捉えたはずの美羽蘭は幻のようにすり抜け、またもや地竜を殴ってしまう。
「今度は残心ノ勁ダ。注意力が散漫だゾ」
まるで修行でもつけるかのように敵を弄ぶ美羽蘭の後ろでは、マキナのクローン兵が21体集まり——なんと合体を始めた。
人体より大きな機甲義肢がガシャガシャと変形していき、それぞれ4体ずつが右脚、左脚、胴体、右腕、左腕を形作っていく。
そして最後の1体が頭部に合体し、特撮モノに出てきそうな巨大ロボが完成した。
それぞれ持っていた魔導砲は変形して背部と脚裏に装着されて推進器になり、魔導剣は21本が全て融合して1本の巨大なブレードとして右手に握られている。
「あれ……麗色ちゃんの発明か……? か、カッケぇぇェェェェッ!!!」
左肩にペイントされた『deus ex machina Mark II』という文字を見ながら武琉が興奮した様子で叫んだ。
ラテン語で『機械仕掛けの神』の名を冠するこの巨大マキナロボは武琉のような少年の心を持っている男子なら誰もがロマンを感じるメカメカしさとサイバー感を醸し出しているのだ。
どうやら千金楽麗色はそっち方面の美的センスも持ち合わせていたらしい。
これには総軍級である美羽蘭も、
「哎呀ー! 高达かこれハ!」
と驚いている。
その場にいる全員の視線を釘付けにしたマキナロボは魔導剣を大上段に構えたかと思うと、背部の魔導推進器をバシュバシュバシュゥゥッッッッと起動させて一気に加速し、地中に潜ろうとしていた地竜を斬りつけた。
小型クローン兵では遅れをとったマキナだったが、単純に21倍の魔力出力となったブレードは防御力特化の竜鱗を容易く斬り裂き、地竜を一刀両断した。




