第98話:テスラ・レール・カノン
麗色との通信を切り、活性化を発動した晃生は爆発的な加速でジャックへと駆ける。
天衣無縫を習得し魔力操作感度を大幅に向上させた今の晃生の活性化は以前と比べ物にならない強化倍率を誇る。
以前は30%が制御限界だったその数値は今や78%……79%……80%にまで達した。
「決着をつけよう、ジャックッ!」
人知を超えた身体能力でジャックに肉薄した晃生が拳を振るう。
なんとか躱したジャックだったが、ヴァンッッッッと空気が破裂するような音と共にジャックの右耳から血が噴き出した。
音速を超えた晃生の拳が衝撃波を生み出し、鼓膜を破裂させたのだ。
さらに右裏拳、左正拳、右ハイキック、後ろ回し蹴りと流れるように打撃を繋いだ晃生の技は全てヴァンッッッ、ヴァンッッッッと衝撃波を発生させ、ギリギリで躱しているはずのジャックにダメージを蓄積させていく。
(この活性化に魔力の身体強化だけでついてくるのか……!)
ジャックの膨大な魔力量に改めて驚愕する晃生。だが確実に押されているジャックも肉弾戦は不利だと即座に判断し、ファイアブレスを放って距離を取る。
活性化状態——つまり常時超回復発動状態の晃生はそのブレスに真っ向から突っ込んで距離を潰しにかかるが、魔力共有によって無数の手札を持つジャックは逐次閃光や音響攻撃、土の壁、ブレス等を使って晃生を足止めする。
瞬時に回復できるとはいえ、その数瞬の隙のせいであと一歩、ジャックに拳が届かない。
(身体能力に頼りすぎるな、師傅の言葉を思い出せ……!)
——先覚ノ勁。
魔力の起こり、予備動作からジャックの次の行動を予知する晃生。
(水圧カッターで俺の脚を切断後、バックステップをキャンセルして俺の心臓を抉り取る——!)
予知通りジャックが水魔法で水球を超圧縮し、水のレーザーを放つその瞬間、晃生は急激な方向転換と前宙、回転受け身、側宙等の複雑な動きで攻撃を回避。
「——ッ!?」
ここまで晃生は超回復による耐久で正面から突っ込んできた為、これも確実に決まると踏んで足を止めたジャックは虚を突かれる。
「ッ舐めるな!」
肉薄してきた晃生に対し、肉弾戦でも負けはしないとジャックが拳を振るう。
だが晃生は流連ノ勁で受け流し、軌道を右下方に変えられたジャックの打撃は爆破したように大地を抉る。
体勢を崩し隙だらけのジャックの腹を蹴り上げ、遥か上空までぶっ飛ばした晃生は自分もドンッッッッッと跳躍して後を追う。
空中姿勢を立て直したジャックはぐるっと前に回って回転踵落としで下から迫る晃生を迎えうつが、身を捩って躱した晃生はジャックの胸ぐらを掴んで頭突きを見舞った。
そして両脚で胴体を固定し、空いた両手でジャックをズガガガガガッッとタコ殴りにする。
視界が空に地面にと激しく回転し落下速度もどんどん増していく中、ジャックも防御を無視して晃生とほぼ同等の威力・手数で殴り返す。
徐々に地面が近づいてきて——ジャックが脚を首に掛けて晃生を引き剥がした。
だが晃生はすぐさまその足首を掴み、グルッと思いっきり回転して下に投げ飛ばした。
地面に叩き付けられた直後のジャックに晃生の渾身の一撃——天墜ノ勁が直撃する——!
ズドォォォォオオオオオオオオンンッッッッ!!!!
派手に土煙を巻き上げた晃生の一撃。その煙が晴れ、徐々に見えてきたクレーターの中心には——晃生の拳を両腕で防いだジャックの姿があった。
決めきれなかったが、未だ馬乗り姿勢で有利な晃生が追撃しようとした時、ジャックを助けるようにダイナとカゲロウが高速で飛翔してきて晃生は攻撃を中断して跳び退いた。
(くそッ、天衣無縫×活性化でも攻めきれないのか……!)
着地した晃生が立ち上がるジャックを見た時、これまでダイナとカゲロウを抑えていた大我と雄理もやって来た。
「チッ、急に逃げんじゃねェよクソ蟲野郎がッ!」
2人もやられはしないまでも、限られた時間の中で倒し切るには至らないようだ。
「おい中川晃生、あと何分だ?」
「……10分ちょい。ここからは3対3で攻め切ろう」
雄理の問いに晃生が答える。大我は『3対3で』という部分を気に入らなさそうな顔をしたが——そうも言っていられない事態が起きた。
ズォォオオオオッッッッとジャックから禍々しく強烈な魔力反応が湧き出てきたからだ。
「認めてやるよ晃生。お前には本気を出さなきゃいけないらしい」
その膨大な魔力は徐々に3箇所に集まっていき、それぞれ鳥、蛇、人のような輪郭を象っていく。
顕現したのは——霊蛇・摩虚羅、霊鳥・迦楼羅、霊鬼・阿修羅。
三大都市圏である東京、大阪、名古屋を半壊に追い込み、日本で確認された中で最も強力とされている3体の精霊。
魔素生命体であるこの精霊達はジャックの奥の手として体内に内包される魔力に混ざり合ってここまで身を潜めていたのだ。
(くそッ、急がないといけないのにッ……!)
核ミサイル着弾まで——あと9分41秒。
♢
タイムリミットが迫る中、後方の兵士達も未だ散在する強力なモンスター達に苦しめられていた。
というのも、麗色の情報通り救助に来た輸送ヘリによって自衛隊員達が撤退中だからだ。
「近衛大隊長! 早く乗って下さい! 一刻も早く離脱しないと!」
「私は残ります。ヘリを出して下さい」
近衛操華は副隊長に急かされるが、ヘリには背を向けて襲ってきたバトルコングを念力で捻り潰した。
「統合幕僚長の命令に逆らうんですか!」
「まだ国民の為に戦っている人達がいるのに、能力のある私が逃げる訳にはいきません」
人々の為であろうと勇気ある行動であろうと、軍隊という組織においては上の判断が絶対。命令違反は重罪だ。
懲戒処分もあり得るが、操華は自身の正義に従う覚悟を決める。
「いや操華! お前はヘリに乗れ!」
だがそこにやって来た吉良アンナが操華の首根っこを掴んでヘリの中に放り投げた。
「ちょっ、何をするのですか!」
操華は慌てて降りようとするが、雅楽川一凜が操華の持つ銃等の鉄製の装備と搭乗席に引き合う磁力を発生させて拘束する。
「学園長から聞いたが、あと少しでここら一体が吹っ飛ばされるんだろ? だったら自衛隊は逃げ遅れてる市民がいないか周囲を確認してこい」
「フン、そんな命令違反をさせない為の建前を言わなくとも、私の磁界からは逃れられん」
「う、うっせーな! 建前じゃねーし! と、とにかくここはアタシらに任せとけよ。おいパイロット! さっさと出せ!」
アンナに急かされ、操華が何かを言う間も無くヘリは急上昇していった。
それを見上げたアンナが安堵するのも束の間、自衛隊員達を乗せた10機の輸送ヘリは不自然な強風に煽られてガタガタと不安定な軌道を飛ぶ。
原因はヘリのさらに上空を旋回する暴嵐ノ怪鳥——ガルーダだ。
バサァッッッ、バサァッッッと巨大な翼を羽ばたかせるだけでヘリを揺らす程の悪風を発生させている。
さらにそこへラムの巨大な触手が東京湾から伸びてきて逃げ遅れているヘリを握り潰そうと迫ってきた。
「まずいぞ! 早く迎撃しろ!」
搭乗部の窓から目視でラムの触手を確認した副隊長が部下に叫ぶ。
「む、無理です! このCH-47Jは輸送ヘリで武装はブローニングM2機関銃くらいしか積んでいません! あれを吹き飛ばす火力は……!」
「総員ベルトを締めて耐衝撃体勢! あの触手は私が対処します!」
窓に駆け寄った操華が念動力で触手の動きを封じる。そのまま捩じ切ろうとする操華だったが、バシャバシャバシャッと触手の上を駆け上がって来る男がいた。
魔剣を引いて構えた勇斗だ。
その狙いは——猛禽類が獲物を狩る時に見せるような急降下でヘリに迫るガルーダ。
バシャッッッと跳び上がった勇斗はガルーダがヘリに激突する寸前——キィインッッッッッッと居合い斬りのような動作で魔剣を振るった。
目にも止まらぬその剣速は一筋の青い軌跡だけを残し、ガルーダの片翼を両断した。
精霊であるガルーダを斬ったということは、勇斗は緋彩と訓練していた魔力の共鳴同調を完全に物にしたということだ。
落下後は切り刻んだ地面をクッションにして着地しようと思っていた勇斗だったが、操華が念力で落下速度を和らげてくれて……余裕が出来た勇斗はついでに軌道斬りでヘリに伸びたラムの触手を切断しておく。
それに怒ったラムが体内の水を超圧縮し、ヘリに向かって大海砲を放つ準備をするが——地上から、何かとんでもない殺気が自分に向けられるのを感じ取る。
「ハッハァッ! ガキ共! アタシらに雑魚を近づけさせるなよォ!」
「アンナ、魔力制御に集中しろ」
殺気の正体はアンナと一凜。
2人はアンチマテリアルライフルを2回りも3回りも巨大化し、長い銃身を近未来的に改造したようなゴツい銃を左右から支え合ってラムに向けている。
——キュゥゥウンッッ——ヂヂヂッッ——バチバチバチィッッッッとエネルギーが充填される音と共に銃身と銃口が青白い光を放つ。
その攻撃の威力を野生的な危機察知能力で感じ取ったか、周囲にいたバイコーンライノが鋭い2本の角を向けて爆発的な突進力で突っ込んできた。
「クソ犀共ッ! ここは通行止めだッ!」
武琉が魔力武装で巨大盾を展開し、バイコーンライノの突進を真っ向から受け止めた。
動きが止まったバイコーンライノに隼矢の魔力矢が突き刺さる。
他の魔物も緋彩の雷撃や玲旺の火炎放射で迎撃され、アンナと一凜に近づけない。
「なかなか良い生徒達だな。私の部隊に欲しいくらいだ」
「やんねェよアタシの生徒達だ。バカなこと言ってないで、さぁブッ放すぞ——荷電粒子電磁加速砲」
——荷電粒子電磁加速砲。
それは、アンナの能力で電荷を帯びた魔素粒子やイオン化した原子のエネルギーを砲弾にして、一凜が強化する電磁場に働くクーロン力を利用しレールとなる長い銃身内で電磁加速させて撃ち出すエネルギー兵器。
電力と磁力という同一の相互作用能力を持つアンナと一凜が協力して初めて実現した、現代科学より一歩未来の技術だ。
ラムもやられる前に破壊しようと大海砲を放つが——
「「発射」」
——ゥゥゥゥゥキュドォォォオンッッッッッッッッッッッ——!
タイミングを合わせる為の掛け声と共に放たれた荷電粒子の砲弾が電磁加速によってマッハ20の超速度で飛び出した——!
バチュンッッッッと大海砲をただの水鉄砲のように弾き飛ばした荷電粒子砲はラムに直撃し——バシャァァァァアアアアアアアアアアアアンッッッッッッッッッッ!!!!!
海水を取り込んで山よりも巨大に隆起していたラムが消し飛び、横浜から見える太平洋——東京湾の海が真っ二つに割れた。
バヂバヂバヂバヂィィッッッッと発生した電撃がラムの肉体の隅々まで行き渡り、再生する余地がない程のダメージを与えていく。
一部蒸発した海水が水蒸気を発生させ、電撃の余波を喰らった魚達がプカーっと浮いてきた。
「ハッハハハッ、コイツぁ凄ぇ! 流石学園長。完璧な設計だな」
自衛隊の輸送ヘリが無事に戦線を離脱していくのを見上げながらのアンナが豪快に笑った。
「フン、お前と協力しなければならないのが難点だがな」
「難点は市街地に向けて撃てない所だろーが! さっさと他の魔物も片付けるぞ!」




