第97話:タイムリミット
晃生達がジャックを含めた敵の精鋭を相手に奮闘する中、それでも躑躅森亜凰不在の連合軍は窮地に陥っていた。
ジャックの群勢にはダイナや炎凰以外にも化け物のような配下が複数残存しているからだ。
有象無象のモンスター達は数こそ未だ脅威であるものの、千金楽麗色開発の最先端魔導兵器を装備したマキナのクローン軍団によって前線を押し返している。雑魚を殲滅出来るのは時間の問題だろう。
問題はやはり、精霊クラスの怪物達。
クローン兵に続いて勢い付く自衛隊員や管理局局員を一瞬で氷漬けにした氷雪ノ巨狼。
天空から落雷や竜巻を発生させる天雷ノ魔竜と暴嵐ノ怪鳥。
さらに——
「おいおいおいッ……なんだあれ……ッ!」
「津波かッ?」
「海底火山の噴火!?」
東京湾の海面がズズズズズズッッと山のように持ち上がっていく。
地震が発生していない為、これは海底の地形変化による海面上昇ではない。
それは、莫大な量の海水を取り込んだスライムの突然変異体。
晃生と木乃香が最初にジャックと出会った時、ラムと名付けたスライムだった。
「これ全部が……たった1匹のモンスターだってのかよッ……!」
識別名称を付けるなら、バハルスライム。海そのもののような、全てを飲み込む怪物だ。
「くそッ、どうやって倒せってんだよあんな奴ッ!」
援軍で到着した自衛隊の16式機動戦闘車がドォォオオオオンッッッと轟音を上げて52口径105mmライフル砲を放つが、当然砲弾はバシャンッと水飛沫を上げただけに終わる。
その攻撃とも言えない攻撃にラムがズズズズッッと巨体を鳴動させ、何本もの太い触手を生やした。
天高く振りかぶられたその触手は勢いよく地面へと叩きつけられ——ッバッッッッシャァァァァアアアンンッッッッッと局所的な洪水を引き起こす。
20t以上ある戦車や装甲車をまるでおもちゃのように破壊した触手はすぐに海水を取り込んで再生し、再度上空に振り上げられる。
「た、退避ぃッ! 第二波来るぞォォッ!」
自衛隊員がすぐさま湾岸から撤退する中、その流れに逆らって勇斗が駆けていく。
「軌道斬りッ!」
抜刀術のような動作で魔力を飛ばす斬撃を放った勇斗。
それがラムの振り上げた触手7本を全て切断し、途端に制御を失った触手はただの海水に戻ったようにバシャァァァアアアンッッと降り注いだ。
(倒し方は分からないけど、斬れる……!)
この怪水を放置すれば連合軍が壊滅すると判断した勇斗はとにかく斬りまくって被害を抑えようと決めるが、触手を切断されて怒ったラムが深海のような圧力を一点に集中させ、次の瞬間——ッバシュウゥッッッッッッッッと大質量の水が超高圧・高速で放たれる。
ドボォオオオオッッッッッッッと大地を抉ったその攻撃は瞬時に魔剣を振るった勇斗を蟻同然に吹っ飛ばした。
水魔法の使い手や水属性の魔物ならレーザーのような水圧カッターを攻撃手段としてよく使うが、今のは規模がまるで違う。
深海の超圧力で海そのもののエネルギーを放つかのような大砲——大海砲だ。
「ぐッ、うぁ、、、!」
地面を転がって呻く勇斗に2発目の大海砲が放たれるが——バチィイイイッッッッッッと勇斗の後ろから撃ち返されたもう一つの魔力の大砲がなんとか大海砲を弾いて逸らした。
「勇ちゃん! 大丈夫!?」
勇斗を守ったのは愛奏音の魔力放射砲だ。
「う、うん。ありがとう。助かったよ」
愛奏音に支えられた勇斗が魔剣を構えて立ち上がる。
♢
(くそ、あっちもヤバそうだな……こっちも灯真と雄理の合わせ技で吸血鬼を倒せたけど、ジャックを含めてあと4体……どうする……!)
晃生が一旦前線を離脱して後方の援護に行くべきか、ジャックを倒すことに集中するべきか逡巡していると……ピピッと通信が入る。
『晃生、よく聞け。太平洋を航行中のミニッツ級原子力空母、カール・ヴィンソンから1分前にF-35A改が緊急離陸した。アメリカ海軍が保有する最新鋭のステルス多用途戦闘機だ』
ハッキングしたのか、ジャケットの内ポケットに入れていた学園支給の携帯が勝手にスピーカーになり、麗色の声が聞こえてきた。
「麗色ちゃん……え……米軍の戦闘機? まさかそれがこっちに向かってるとか言わ——」
『そのまさかだ。到着予測時間は17分45秒後。空対地ミサイルを装備している。常時世界中の軍事・諜報機関をハッキングさせているマキナの情報だから間違いない』
「そんな……俺達が負けると踏んで、焼夷弾で焼き尽くそうとでも……?」
『いや、巡航ミサイルに搭載されているのは——核弾頭だ』
「は!? 核!? 神奈川県ごと俺達を消し飛ばすってことですか!? 自衛隊の迎撃システムは——」
『国内の動向も探ってみたが、横浜に出動している全自衛隊員に統合幕僚長から直接撤退命令が下った。間も無く輸送ヘリが到着し、そっちにいる隊員達は戦線を離脱するだろう。つまり、首相はこの件を黙認しているということだ』
「そんな馬鹿な……どれだけの命が失われると思ってるんだ……!」
『日本を金融市場としてしか見ていないアメリカの思惑は言うまでもないが、今の行き過ぎた親米政権ではアメリカの圧力に逆らうことは難しい。もっとも、流石に初期段階では決断しかねていたようだが、躑躅森亜凰が敗れた時点で我々を少数の犠牲と切り捨てたようだ。万が一にでも日本全土がモンスターに支配されるようなことになれば取り返しがつかないからな』
「麗色ちゃんの兵器で迎撃出来ないんですか?」
『そこをお前に相談しようと思って通信したのだ。巡航ミサイル発射前の戦闘機を撃ち落とせばパイロットの命のこともだが、日米関係に亀裂を入れることになる。最悪日米安全保障条約の破棄すらあり得る事態だ』
「戦争になるってことですか?」
『ああ。魔力覚醒者の発生によってそれぞれの国力が不自然に上昇してしまった今、国際情勢はそれだけ逼迫している。従って発射後のミサイルを迎撃するしかないが、それでは距離が近過ぎて被害を抑えられない。上空で核爆発を起こした場合、地球磁場の磁力線に沿って電磁放射線が拡散してしまうからだ。その放射能汚染をお前の超回復で除去出来そうか?』
「……多分、としか……蒸発しない限り命は守れると思いますが、汚染範囲全域をカバー出来るかは定かではありません。それに、被曝した人間や物質の回復は出来ても放射能自体の浄化まで可能かはやってみないと……」
『やはりそうか……だが他に選択肢がない以上、お前の超回復に賭けるしかない。タイムリミットはあと16分だ。被害を最小限に抑えられる位置を計算して迎撃するから、お前はそれまでに東京湾の近くへ——』
「いや、それじゃ最小でも最善でもない。麗色ちゃん、ミサイルは俺がなんとかする。迎撃せず、俺を信じて下さい」
『……良いだろう。晃生、お前に賭ける』
「ありがとう。ただ着弾までに敵を倒さなきゃならない。麗色ちゃんのクローン兵団でどこまで戦況を引っくり返せそうですか?」
『フン、私の兵力はマキナだけではない。こっちは任せて、お前は敵の親玉を叩け』
「了解です」
腕時計のタイマー機能を15分に設定しながら頷いた晃生は改めてジャックを見据える。
「おいゾンビ野郎! 高みの見物は終わったかよッ!」
「疲れたなら休んでても良いぞ」
カゲロウと高速戦闘しながらの大我とダイナの攻撃をアダマンタイトで防ぐ雄理が晃生に嫌味を飛ばす。
「みんな聞いてくれ! あと15分以内にコイツらを倒さないとマズい事になる!」
「あァ!? なんだそりゃ! どういう事だッ!」
「説明してる時間はない! とにかく速攻でぶっ倒すぞ!」
「チッ、まァ良い。どの道15分も掛かんねェよッ!」
大我は降魔を発動。体内に眠る悪魔を完全顕現させた。
雄理も金剛騎士を、晃生も活性化を使って短期での決着を狙う。
「さあ、ここからが本番だ」




