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第96話:激突

「ようやく、そこまで至ったか……コウキ」


 弟子の急成長に対し嬉しいような、だがどこか(くや)しいような表情を見せる美羽蘭。


師傅シフ。敵のボスは、俺が異世界で出会った……友達だった奴なんだ。俺に戦わせてくれ」

「ほォ、良かろウ。だが相手はあの亜凰アオですら敗れた戦力を従えていル。彼奴あやつ単体でも、天衣無縫(てんいむほう)で向上した魔力効率を嘲笑(あざわら)うかのような魔力量を感じるゾ。勝機はあるのカ?」

「ああ。1人じゃないからな」


 そう言った晃生の元へ、回復してすぐに戦線へ復帰していた灯真と勇斗が駆け付けてきた。


「遅いんだよヒーロー。中華美人との異世界バカンスは楽しかったか?」

「素直じゃないなぁ灯真君は。晃生君、無事で良かった。それと、おかげで助かったよ。ありがとう」


 ツンデレっぽく文句を言う灯真とストレートにお礼を言った勇斗。その掛け合いに懐かしさを感じ、久しぶりに地球に戻ってきたことを実感した晃生が笑みをこぼす。


「ちょうど2人を呼ぼうと思ってたんだ。遅くなって悪かったよ。俺が回復させるまでお腹に穴空いてたのが見えたけど、良く耐えたな」

「ハッ、あの程度でくたばるかよ。俺の炎で無理やり止血して、気合いで耐えてやったぜ」


 灯真はカゲロウに腹部を貫かれた後、すぐに自身と勇斗の受傷部位を炎で焼いていた。


 原始的だが、この焼灼(しょうしゃく)止血法なら医療設備の無いあの状況でもタンパク質の熱凝固作用を利用して出血を止め、失血死を(まぬが)れられる。


 それでも傷付いた内臓はそのままだし、周囲の皮膚が焼け(ただ)れて傷口の縫合が出来なくなるため遅かれ早かれ死に至る、あくまでも一時的に生き長らえるだけの賭けだったが——間一髪で晃生が間に合ったのだ。

 

「マジかよ……激痛でショック死してもおかしくないし、感染症のリスクもある。滅茶苦茶すぎるだろ……」

「僕らが無茶出来たのは、晃生君が来てくれるって信じてたからだよ。そして実際に来てくれた。まあ、もうちょっと早い到着でも良かったけど」

「それは麗色ちゃんに言ってくれ……人工的にゲートを作り出すとか、あの子にしか出来ないし」


 灯真によるとんでもない応急処置を聞いていると、大我(たいが)雄理(ゆうり)もこの最前線へとやって来た。


「よォゾンビ野郎。派手な登場しやがって。この間の借りは忘れてねェからな。鴻上(こうがみ)(じん)は俺の獲物だったってのによォ」

「中川晃生、藤田勇斗……お前らの剣はいつかアダマンタイトでぶった斬るよ」

「はいはい……それより、今は目の前の敵だろ。共闘ってことでいいのか?」

「ふざけろ。早いモン勝ちだ」

「同意」


 晃生の共闘の申し出に対しても喧嘩腰ではあるが、以前は対立した他ギルドのマスター同士、今は同じ方向を向いている。


 パキッと指を鳴らした晃生の左右では、灯真がボゥッと拳に炎を(まと)い、勇斗がチャキッと魔剣を静かに構える。

 さらにその横では大我が両腕を悪魔化させ、雄理もアダマンタイトを剣の形にして握り込む。


 並び立った五人が見据えるのは——ジャックの軍勢。


 治癒効果を持つ光る(ちょう)によって亜凰に斬られた部位を回復させたジャック、カゲロウ、そしてヴラド、炎凰、ダイナ。


 全員が持つ桁外れの闘気がその場を満たしていく。


「お前達では俺に勝てない。さっきの女もあの通りだ。死ぬと分かっていてまだ戦うのか?」


 ジャックが亜凰を視線で示しながら脅すように言った。


「ジャック……なんでこんなことをしてるのか、今は聞く気にもなれない。ただ一つ——お前は俺が止めてやる」


 言い終わると同時——晃生がドウゥゥッッッと地面を破裂させるように蹴って飛び出した。


 ほぼ同時にジャックも駆け出し、互いに鏡合わせのように拳を振りかぶる。


 莫大なエネルギーが宿る拳同士が衝突し——ッドッッッゴォォォォオオオオオオオオアアッッッッと鳴り響く轟音と衝撃波を開戦の合図に他の者達も動き出した。


 瞬時に晃生の背後に回ったのはカゲロウ。

 虫特有の瞬間移動のような瞬発力でジャックとの挟撃を仕掛けようとするが——大我がそれを許さない。


 常人の10倍以上の臨界融合頻度によって高い視覚処理速度を誇る魔眼を持つ大我はカゲロウの動きを正確に捉えており、蠅のような透明のはねによる高速飛翔で飛びかかったのだ。


 カゲロウと同様近距離での瞬間的な速度に有利な機動力を持つ大我はその悪魔の力で空中を駆け、カゲロウのカブトムシのような鉤爪と魔爪で斬り結ぶ。


 ギンッッ、ギギィンッッ、ガギギギィンッッッと爪の衝突によって至る所で火花が散る中、その下では弾かれた晃生と入れ替わるように灯真と勇斗が前に出る。


 だが縮地で一気に距離を詰めてジャックを斬り伏せようとする勇斗に対し、ヴラドが体を無数の蝙蝠のような群体に変化させて飛びかかった。


 視界を塞がれて立ち止まった勇斗にバサバサバサッッと群がる蝙蝠の群れは一匹一匹が翼を微細に振動させており、鋭い切れ味で勇斗の全身を切り刻む。


 声帯の震えを翼に伝えるヴラドの技——高周波振動刃ヴィブロウィングだ。


 その蝙蝠の群体が尋常ではない数に増えていき、勇斗だけではなく晃生達全員に襲い掛かる——


「お前らッ! しっかり耐えろよッ!」


 灯真が全方位に向けて高熱の波動を放つ——!


 ゴウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!


 爆燃デフラグレーションのさらに上位、熱の伝達速度が音速を超えた爆発的燃焼——爆轟デトネーション


 その圧倒的な火力によって蝙蝠の群れが焼き払われていく。


 味方をも巻き込む広範囲攻撃だが、晃生は熱耐性と回復で無傷。勇斗は火炎を斬り裂き、大我は炎を魔力ごと喰い、雄理もアダマンタイトの盾で防いでいた。


「テメェ俺ごと焼き払うつもりだっただろ燃えカス野郎ッ!」

「そうして欲しいなら今すぐやってやるよクソ悪魔」


 以前と同じような罵倒で喧嘩しながらも、互いの能力を信頼し合っているからこその連携。一度戦火を交えたことがあるゆえのある種の信頼関係だ。


 だが今のでヴラドは追い払えたが、精霊であるためそこまでのダメージは期待できない。そしてダイナやカゲロウ達も鱗や外殻で爆轟を受け切っている。炎凰はそもそも炎属性のため無効化していた。


 群体モードをやめて人型に戻ったヴラドが今度はこっちの番だとばかりに力を溜めるような仕草をした後——ガァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッと強烈な叫びを上げた。


 ヴラドを中心として大地がビキビキビキィッッッと割れ、その絶叫が耳に届くと同時——トラックに()ねられたような衝撃が晃生達を襲う。


 今のは音響衝撃波パルスショックウェーブ

 単純な超音圧と振動によって全方位を破壊する技だ。


 その技を知るジャック達は予備動作の溜めの段階で瞬時に距離を取っており、灯真達だけが衝撃で吹っ飛ばされたが、晃生だけは敢えて突っ込んで無理やり衝撃波を突破し、ヴラドに肉薄している。


 攻撃後の隙、そして灯真同様味方も巻き込む範囲攻撃をしたせいで仲間のジャック達も離れたタイミングで、晃生の拳がヴラドの顔面に突き刺さる。


 本来なら精霊に対するただの打撃はすり抜けるだけ、魔力を籠めていても多少の魔素を削るだけだが、晃生は魔力の共鳴同調シンクロでヴラドの実体を捉えており——ドッゴォォォオオオオオンッッッッとヴラドをブッ飛ばした。


(まずは一匹ッ……!)


 集中攻撃して一体を片付けることで数的有利を作ろうと晃生がヴラドに追撃を仕掛けるが、殴られる直前にまたもヴラドは体を無数の蝙蝠に変化させ、晃生の拳は空を切る。


 蝙蝠の群体は細かく鋭い牙で晃生を噛みちぎりながら後ろへ通り過ぎ、その背後でまた人型へと戻った。


「ハァーッ! 美味い! なんだこの血は! もっと! もっと寄越せ!」


 元々だったのか今晃生の血を吸って喋れるようになったのか、ヴラドが初めて発した喋り声は人間の可聴音波ギリギリの高い声と低い声が同時に喋っているような、なんとも不快で不気味なものだった。

 

 上位精霊だけあってヴラドの牙は群体に分裂してもなお最新防楯(ぼうじゅん)繊維で作られた学園の制服を貫いてきた。

 晃生の高密度化した筋繊維までは引き裂かれず薄皮を切られた程度だが、それでも出血してしまった為に吸血を許し、血とともに魔力を奪ったヴラドはパワーアップした様子だ。

 魔素によって構成される存在の密度が高まっており、晃生に殴られたダメージも回復している。


(伊達に精霊じゃないな……)


「こんなにも生気に満ちた血は初めてだ。お前は戦闘力を奪った後、私の血液パックとして死ぬまで飼ってやろう」

「あっそ」


 恐怖を煽ろうとしたにも関わらず自身の能力を気にも留めていないかのような晃生の反応が気に入らなかったヴラドは額に血管を浮かべながらガパァァッと口を開く。


 ——ギィィィイイイイイイイイィィイイイイイイイイインッッッッ!!!!


 三半規管や脳にダメージを与え、あの亜凰相手でさえ一時的に思考力を奪った超音波増幅砲メーザーノイズが晃生を襲う。


 だが晃生は喰らう前から超回復を発動し、状態異常を無効化して突っ込む。


 音響衝撃波パルスショックウェーブのような物理的な波動を無理やり突破してくるのとは訳が違う捨て身の特攻に虚を突かれたヴラドは慌てて体を蝙蝠の群れに変化させて躱そうとするが——


「遅い」


 その前に晃生の裏拳がヴラドを派手にぶっ飛ばした。


 その先にいた灯真が超高熱の火炎球でヴラドを包み、さらにそれを雄理がアダマンタイトで囲っていく。


「おいよせッ! 私は吸血鬼ヴァンパイアの始祖で——」


 台詞の途中でガチンッッとアダマンタイトの壁が球体を形成し、ヴラドが完全に閉じ込められた。


 中では今でも灯真の超高温の炎がヴラドを構成する魔素を削りながらその身を焼き続けている。


 アダマンタイトは振動を吸収する性質も持っているらしく、音波どころか断末魔さえ外には届かない火炎の牢獄だ。



 ヴラドを助けようと、ダイナが龍の爪(ドラゴンクロー)で球体をガギンッッッと斬りつけるが……アダマンタイトには傷一つ付かない。


 雄理はヴラドを仕留めるだけでなく寄ってきたダイナも串刺しにしようと球体の表面に無数の棘を突き出させる。

 ダイナは瞬時に躱したが、掠めた左腕には浅くない傷を負った。


 生物界では異界でも屈指の硬度を誇る龍の鱗だが、世界最硬の物質であるアダマンタイトの刺突には耐えられなかったようだ。


 その傷を狙って勇斗が魔剣を振るい、ダイナも強靭な爪でギギギギギギィンッッッと斬り合う。


 上空では翼の生えた炎人型から(あお)く燃え盛る鳥のような形態に変化した炎凰が旋回飛行しながら高熱の炎弾を放ち、同属性で火を無効化出来ると踏んだ灯真がその身で空襲を防ぐ。


 しかし——


「ぐぁぁあああアアアッ!」


 火炎系攻撃に対する耐性を持つはずの灯真が、炎凰の蒼い炎に包まれて苦悶の叫びを上げた。


「灯真君ッ!」

 

 身を挺して自身への空襲を防いでくれた灯真の身を案じて勇斗が叫ぶ。


(灯真君が火傷……? 一体どうなって——)


 だが懸念する間もなくダイナが襲い掛かり、勇斗も応戦するしかない。

 

(チッ、俺が熱いなんて感じたのはいつぶりだオイ……!)


 灯真は火傷を負った左手を開閉して動作に支障がないか確かめつつ、炎凰の蒼い炎を見つめる。


 炎の色が青い、ということはつまり、炎凰は1万度以上の炎を発現しているということ。

 それは太陽の表面温度を遥かに超える超高温の炎だ。


 今の灯真は全力でも白炎を数回出せる程度。それでも約6500度はあるとんでもない火力だが、炎凰との差は歴然だ。


「クソッ、あの焼き鳥野郎……絶対叩き落としてやるッ……!」


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