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第92話:双頭

「クソッ、目立ちやがってあのバケモン共がッ!」


 九尾が放つ狐火——超高熱弾を部分的に悪魔化した右腕の不気味に開く大口で魔力ごと喰らって吸収する大我(たいが)亜凰(あお)達の暴れっぷりを見て悪態(あくたい)をつく。


「別に良いだろ……敵が減っていくんだから」

 

 雄理(ゆうり)もそうボヤきながらダメージで動けない灯真や勇斗の(そば)で抜けてきた魔物達をアダマンタイトソードで斬り払っていると……


 ドズゥンッッ、ドズゥンッッと巨大な足音が迫ってきた。


 巨人、ではなく、巨人それと同等のパワーを秘めるモンスター、ラーテルとゴリラと恐竜が融合したような怪獣——ドレッドノートだ。


「行って! ここはうちらが守るから!」

「ええ、勇ちゃん達には指一本触れさせないわ」


 灯真達の護衛は自分達が引き受けると、氷の槍や魔力弾を展開する舞桜(まお)愛奏音(あかね)

 それにコクっと首を縦に振った雄理は剣を構えてドレッドノートを見据(みす)える。


 ゴァァアアアアアアッッッとえたドレッドノートは巨体の怪力に任せて殴りかかるが、雄理が防御に使ったアダマンタイトはどれだけ衝撃や圧力がかかろうと1μミクロンすら変形することはない。


 雄理は攻撃を盾で防ぎながら右手に持ったアダマンタイトソードの刃を延伸(えんしん)させ、(むち)のように振るってドレッドノートを攻撃する。


 ——しなる刃ソードウィップ


 アサルトライフルの銃弾さえ豆鉄砲のように弾くドレッドノートの分厚い皮膚と毛皮だが、世界最高硬度を誇るアダマンタイトを鋭く形成した刃はその天然の鎧を容易(たやす)く斬り刻んだ。


 それでも流石にその巨体を両断することは出来ず、ダメージは表面止まり。


 恐れ知らずドレッドノートという名前の通り傷を()ってむしろ興奮状態となったその怪獣の攻撃は激しさを増す。


 巨大な手を無理やり地面にじ込んだドレッドノートはちゃぶ台返しのように大地をひっくり返して岩や土の塊を雄理に浴びせかけた。


 雄理は迫り来る巨岩をぶった斬るが、その隙に突進してきたドレッドノートがそのままの勢いで体当たりチャージを繰り出してくる。


 雄理がアダマンタイトを巨大化させた盾で受けるが——ドガァァァアアアンッッッッという衝撃と共に押し込まれ、盾ごと雄理が吹き飛ばされた。

 アダマンタイト自体に傷は付かないが、やはりそれを操作する雄理の魔力出力以上の運動量が加えられれば完全に止めることは出来ない。


 雄理を排除したドレッドノートはその凶悪そうな眼を灯真達のいる連合軍の方へ向け、ドドッッ、ドドッッと四足走行で駆け出した。


 だがその進路を、今度は(とげ)を生やしたアダマンタイトの壁が阻む。


 ドレッドノートはギリギリで足を止めるが、雄理が操ってその壁をぶつけ、ドシュシュシュッッと棘の刺突で分厚い毛皮と皮膚を(つらぬ)いた。


 痛みに()えたドレッドノートはその口腔内に大量の魔力を収束させていき、ボッッッッッと無属性のエネルギー弾——咆哮撃(ほうこうげき)を放つ。


 質量の大きいアダマンタイトは今ドレッドノートの近くにあり、手元の質量分ではどう形を変えても自身を守れないと判断した雄理は両脚にアダマンタイトを(まと)い、それを操作しての回避を選択。


 咆哮撃は着弾と同時に魔力エネルギーが弾けて大爆発を引き起こし、盛大に土煙を巻き上げる。


 だがその程度では獰猛(どうもう)なドレッドノートの攻撃は止まらず、ドウッッッ、ドウッッッ、ドウッッッ、ドウッッッと咆哮撃を何発も撃ち続ける。


 連続して巻き起こる大爆発の中に棘の壁にされていたアダマンタイトの塊が引き寄せられていったが、爆発が激しすぎて雄理がどれだけダメージを負っているのか、それとも負っていないのか外からは分からなくなってしまった。


 ようやくドレッドノートが連続爆撃のような攻撃を止め、徐々に土煙が晴れていくと……


 そこには、アダマンタイトの全身鎧フルプレートアーマーが両手剣を構えて立っていた。


 高速で振るわれたしなる刃ソードウィップを巨体に似合わぬ俊敏(しゅんびん)さで(かわ)したドレッドノートはまたもコォォォッッと口元に魔力を()め、咆哮撃を放つ——!


 雄理はアダマンタイトの防御力を利用してむしろドレッドノートに向かって直線的に駆けた。


 ——ドウウウゥゥゥッッッッと魔力エネルギー弾が至近距離で炸裂し、またも土煙が巻き上がる。

 視界が塞がるが、関係ないとばかりにドレッドノートがガパァァッと大口を開けて追撃のエネルギー弾を撃とうとした時——()()()()()()()()()雄理が小さなアダマンタイトの球を操作してドレッドノートの口にぶち込んだ。


 異物を放り込まれて『ゴァァアアッ!?』と苦しがるドレッドノートは咆哮撃をキャンセルしてジタバタとのたうち回る。


 雄理は突進チャージで吹っ飛ばされた後、空っぽのアダマンタイトの鎧をあたかも中に入っているかのように操作して自分自身はドレッドノートの死角に隠れ、毛皮と皮膚に守られていない口から体内への攻撃を確実にぶち込める瞬間を狙っていたのだ。

 

 無敵にも思えるアダマンタイトの全身フルプレート装備だが、弱点として爆発や放射系の攻撃に対しては関節部分や目の部分の隙間からダメージを受けてしまう。

 鎧ではなく自身の周囲を全てアダマンタイトで覆ってしまえば攻撃は防げるが、それでは外の状況が完全に見えなくなる為、解除直後に攻撃されるリスクが高い。


 だから雄理は鎧のダミーで咆哮撃を喰らい続けるフリをして土煙を巻き上げさせ、ドレッドノートが大口を開けている溜めのタイミングでアダマンタイトの塊を飲み込ませた。


 そして今ドレッドノートの体内にあるソレが雄理の操作によって無数の棘を突き出し——ドシュシュシュシュシュゥゥッッッと内側から滅多(めった)()しにされたドレッドノートはそれでも(しばら)く暴れてから……ドズゥゥウンッッッと倒れた。


「はぁ、疲れた……」


 ドレッドノートの体内からアダマンタイトを回収した雄理は一息つき、次に迫る魔物の群勢を見て……またため息をついた。



    ♢



 雄理がドレッドノートと戦っている間、大我もまた九尾狐ナインテイルズとの激闘を繰り広げていた。


 狐火(きつねび)を扱う九尾の白銀の毛皮は炎に強い耐性があり、大我が悪魔の口から吐き出す火炎放射をほぼ無効化している。

 大我も九尾の狐火による攻撃を尽く喰らって魔力を吸収するため、互いに肉弾戦へと移行していく。


 両者爪による斬撃で相手を切り裂こうと暴れ回り——ザグンッッ、ズバァンッッ、ギギギギギギイィンッッッと広範囲に爪痕(つめあと)を刻む。


「ハッ、狐ごときがッ!」


 魔物よりも好戦的な大我が叫び、両腕を悪魔の腕に変化させて攻め続ける。


 九尾も識別個体だけあって身体能力は相当高いが、こと高速戦闘に関しては魔眼を持つ大我の方が有利だ。


 常人の4倍以上のフリッカー融合頻度を持つ魔眼の動体視力は九尾の動きを正確に捉え、時に先回りして魔爪を振るう。


 ピッッ、ブシュゥッッと九尾の体に細かな切り傷が増えていき、大我が徐々に九尾を追い込み始めた。


 九尾が少しずつ魔物側へと後退させられる中、大我が振るった魔爪が九尾の両前脚を大きく弾く。

 ようやく作ったその隙を逃さず大我が悪魔の大口を開けて九尾を頭ごと喰い千切ろうとみ付くが——ガチンッッとすり抜ける感触と共に九尾の姿が揺めきながら掻き消えた。


「あァ!? ンだこれァッ!」


奏葉(かなは)みてェな幻影……いや、蜃気楼(しんきろう)かッ……!)

 

 一度消えた九尾の姿がユラァっと背後に現れ、さらに大我を取り囲むように2体目、3体目、4体目と九尾の虚像が増えていく。


「見たことあんだよ……そのウゼェ技はよォッ!」

 

 以前灯真の熱光学虚像(フレアミラージュ・)分身(デコイ)にまんまと引っ掛かった時の事を思い出してイラつく大我は最初に喰らって吸収していた九尾の狐火——超高熱の火球を吐き出した。


 灯真や九尾が使うこの蜃気楼による分身技は空気の温度差による光の屈折を利用して虚像を生み出すものだ。

 これを実現させるには極めて精密な熱操作で屈折率を調整する必要がある。

 僅かでも狂えば上手く結像出来ずに実体ではないとすぐにバレてしまい、子供のイタズラにしかならないからだ。


 感知能力が大雑把な大我は高熱の火球を乱射することで九尾の熱操作を乱し、温度差を滅茶苦茶にすることで虚像を掻き消したのだ。


「そこかクソ狐ッ!」


 唯一結像が崩れなかった本体を見破り、すかさず突っ込んだ大我が魔爪を振るった。


 ドシュゥッッッッという貫通音に続き、九尾の純白の毛並みが赤く染まる。


 胸部を深々と貫いた大我の右腕を伝ってぽたっ、ぽたっと血が(したた)り落ち、九尾が力なく倒れる——かと思われた次の瞬間、ガルゥウウゥゥウウッッッと九尾が大我の上半身に噛み付いた——!


 死に際の必死さで牙を()く九尾の大口は大我の頭部と左肩を丸ごと口腔内に収めており、大我の上半分を喰い千切ろうとしてガブッッ、ガブゥゥッッッと何度も何度も噛み付いてくる。


 だが咄嗟(とっさ)に悪魔化した大我の上半身はそう簡単に噛み切れず……


「この俺を喰おうってのかよッ! あァ!?」


 大我はこれまで吸収してきた九尾の狐火を大口に(くわ)えられた左手からボウウゥッッッッッッと吐き出した。


 自身が火を使う九尾は毛皮に強い耐火性を有していても体内から燃やされればひとたまりもなく、ゴァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッと苦しそうな叫び声を上げて——今度こそ力なく倒れた。


「喰らい合うより、炎で(バト)った方がまだ良かったな」


 覆い被さるように倒れてきた九尾を完全に燃やし尽くした大我はその灰を悪魔の口に吸い込み、肉片すら残さず喰い尽くした。


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