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第87話:熾天使

 かつてない規模で集結した能力者の連合軍がジャックの軍勢と相対する。


「不気味ね。魔物達はどうしてこっちの準備が整うのを待っててくれてるのかしら」

「オスプレイの火力にビビったんだろ」


 愛奏音と灯真の会話に、勇斗が首を横に振る。


「いや、アレだ」

 勇斗が視線で示した先——ゲート直上でバサァッッ、バサァッッと巨大な翼を羽ばたかせて滞空するドラゴンの背には、1人の男が立っていた。


「ジャック……」

 

 灯真が、かつてゴーレム戦の時にも魔物を連れて現れた、晃生がそう呼んだ男の名を呟く。


「僕達と同じで、相手の戦力を見極めているんだろうね」

 勇斗はジャックを見上げながらチャキッと魔剣の柄を握り締める。


「あの男が、この魔物の大群勢を統率していると言うのですか……」


 『魔物を統率する男』という操華の言葉を聞いて、天前がハッと何かを思い出したような顔をする。


「おいおい……あの野郎まさか『魔人』か……? 管理局の識別個体ネームドリストでもトップページに載ってるような、超危険指定生物だぞ……!」


「よく見ればあのドラゴンも、3年前にアパッチですら仕留め切れなかったと報告に上がっていた個体と特徴が一致していますね。そしてそのドラゴンを含めたこの場の魔物全てを合わせても、()()()()()()()()


 遥か上空でドラゴンに乗っているジャック。

 これだけ距離が離れているにも関わらずビリビリと伝わってくる圧倒的なプレッシャー。


 だがそんな敵を前にしても臆していない男が1人いた。


「ハッ、睨み合っててもしょうがねぇだろ。俺が全部燃え散らしてやるよッ!」


 そう言った灯真が、「おい待てッ!」と制止するアンナを無視して排熱噴射機動ジェットエンジンでドウウゥッッッと飛び出した。


 一旦高度を上げて飛んだ灯真は熱噴射を切り、モンスターが密集する地点に落下すると同時に超高熱の波動を全方位に放つ——!


爆燃デフラグレーションッ!」


 ——ドォォォォオオオオオオオオンッッッッ!!!!


 空気中の酸素の燃焼を高速で伝播させる、爆発にも近い猛烈な火炎による全方位攻撃で灯真の周囲にいた魔物が燃え散りながら吹き飛んだ。


 だがその空白を塗り潰すように、爆燃の効果範囲外にいた魔物がすぐに灯真へと殺到する。


軌道斬りバーンブレード

魔力放射砲サージランチャー!」


 そうはさせないと、勇斗の遠距離斬撃と愛奏音の魔力光線が灯真の左右を飛び、魔物達を近付けさせない。


 この3人の攻撃を合図に魔物の群れと人間側の連合軍が一斉に駆け出した——!


 ——オオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!

 ——ギャァァァアアアアアアアアアゥッッッッ!!!!


 連合軍側から戦国時代の合戦時のような(とき)の声が上がり、同時に魔物側からも(おぞ)ましい叫び声が響き渡る。


 ズドドドドドドドォォッッと双方とも地鳴りのような足音を上げ、両軍が——激突する。


 舞桜が前列にいる魔物の足元をパキパキッと凍らせて拘束し、そこへ自衛隊のアサルトライフルが放つ銃弾、愛奏音の魔力弾、緋彩の風刃、唯花の矢羽ウイングアロー、玲旺が口から吐き出す火炎放射、隼矢の魔力矢等の遠距離攻撃が雨あられと浴びせかけられ、最前線の防御力を担っていたハイオークの隊列を崩したところに連合軍がなだれ込む。


「ハッハァーッ! 久しぶりに暴れるかァ!」

 元リライフの超克者達が手柄を立てようと、高い身体能力を活かしてハイオークとり合う。


「どきやがれ豚共がッ!」

 ハイオークに跳び付いてその太い首を両手で捻り折った超克者の1人、班目(まだらめ)恭夜(きょうや)が叫ぶが——


 一際(ひときわ)筋肉の膨れ上がったハイオークが現れ、ドズンンッッッと強烈な一撃で殴り飛ばされた。


 それはハイオークの中でも戦闘経験を積んだ上で生き延びてきた強化個体。

 よく見ればハイオークの群れの中に何匹か、コイツと同じように他よりも強そうな個体が紛れている。


 ハイオークは班目(まだらめ)恭夜(きょうや)をブッ飛ばした後、その硬い皮膚と筋肉をものともせず同胞達を斬り伏せていく勇斗の方を見た。


 そのハイオークへ、パラサイトスライムの赤黒い肉体に変身した宮沢が掴みかかる。

 

「生徒には手出し無用で頼みますよッ!」

 普段よりも低くくぐもったような声を出しつつ、宮沢は背中から複数の触手を生み出してズドドドドドドドォッッッとハイオークに激しく打ち付けた。


 強酸性の追加効果もあり、強靭な毛皮と分厚い皮膚を貫通して腐食ダメージが入ったことでハイオークはなす術なく倒れる。


 だがその背後から、ゴァァァッッと()きながらもう一体のハイオークの強化個体が両腕を叩き付けるように振るってきた。


 宮沢はクロスさせた腕で受けるが、ドゴォォォォンッッッという衝撃で両足がアスファルトの地面に埋まる。


 宮沢の足が固定されたのを見て、ハイオークが悠々と拳を振りかぶり——


 ——バチバチバチィィッッッ!!!


 宮沢が殴り飛ばされる直前、強烈な電撃がハイオークを襲う。


「大丈夫か? 宮沢センセイ」

 援護したのはアンナの高圧電流だった。


「これは恥ずかしいところを見せてしまいましたね」

「センセイの外皮なら喰らってても問題無かったろうけどな」

「いえいえ、助かりました、よッ!」


 台詞の最後で(りき)んだ宮沢がお返しとばかりに痺れて一時的に体の自由を奪われているハイオークをドゴォォオオンッッッと殴り飛ばした。


 さらに宮沢はその他のハイオークも触手でドガガガガガガガァッッッと叩き潰していく。


 だがそのハイオーク達の死体を乗り越え、ブルーリザードが素早い動きで宮沢や生徒達を取り囲む。


「気を付けて! このリザードマン、前に戦ったやつよりも速いよ!」

 舞桜が氷の槍を生成し狙いを付ける視界の中で、敵よりもさらに速く駆けるれいが白銀に輝く魔銀石ミスリルの短剣でブルーリザードを斬り裂いていく。


「はやっ、こーき君みたい……!」

「俺らも負けてられねぇなぁ!」

 並び立った舞桜と灯真が氷槍と火球を構え、精密な魔力操作でブルーリザードを次々と仕留める。


 灯真もかなり火力を上げているが、舞桜も以前見たフェンリルの氷槍コールドスピアと同等レベルの攻撃力を実現していた。


 だがブルーリザードの中にも、その氷槍と火球を掻い潜って接近してくるレベルの素早さを持つ強化個体がいた。


 その強化個体の、爬虫類に特徴的な湾曲した鉤爪と零の短剣が斬り結ぶ。


 ギギギギギギギギィンッッッと両者が高速で斬り合う中、愛奏音の狙撃弾スナイプが精密にブルーリザードの脚を撃ち抜き、バランスを崩した隙を逃さず零が敵の首を斬り飛ばした。


 それら仲間の魔物の死体をも喰い荒らしながら蟲型のモンスターの大群が迫り来る。


 同時にワイバーンと共に降下してきた火竜が挟撃を仕掛けてきて——


 ——ッドッッッゴォォォオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!


 細胞増殖能力によって巨人化した仁が()()()()()()()()()


 ドッッッズゥゥウウウウウウンンンッッッッとドラゴンの巨体が蟲達を下敷きにして落下する。


 さらに——


「ルカによる福音書二章九節——すると主の御使いが現れ、主の栄光が彼らをめぐり照らしたので、彼らは非常に恐れた」

 聖書の一節をそらんじた女性、天羽(あもう)詩聖里(しせり)が天使の軍勢を召喚する。


「天軍九隊——恐れなさい。主の御使いの力を」


 天使エンジェル大天使アークエンジェル権天使プリンシパリティ能天使エクスシーア力天使デュナメイス主天使ドミニオン座天使スローン智天使ケルビムに加え、学園の編入試験の時には見せなかった最上位天使、熾天使セラフィムをも顕現させた詩聖里がネックレスの十字架を持って祈るような仕草をすると、天使達が一斉に動き出した。


 落ちた火竜の圧殺プレスから逃れた蟲達——人を超えるサイズの蜘蛛、蜂、ゴキブリ、カマキリ、蝶、バッタ、カブト、クワガタ、百足、蟻など、本能的な嫌悪感と恐怖感を覚える魔物に対し、その感情を持ち合わせない天使達が迎え討つ。


 天使エンジェル(たずさ)えた大きな弓で光の矢を速射し、能天使エクスシーアが周囲の空間に展開させた浄化弾を放った。


 それらを掻い潜って抜けてきたゴキブリや百足を権天使プリンシパリティが盾を巨大化させて堰き止め、その間に大天使アークエンジェルの槍が斬り払い、力天使デュナメイスが素手で叩き潰す。


 起き上がってきた火竜が突撃し、仁が竜の頭を抱え込むように押し留めるのを背景に、主天使ドミニオンが自然を支配する能力で風の刃を縦横無尽に放つ。


 ただの鎌鼬ではなく、魔力が籠もって威力を増した風刃は風とは思えない斬れ味と重さでズドドドドドドドォンッッッと蟲達の硬い外骨格さえ切断した。


 しかし蟻の大群を筆頭に、無限にも思える程湧き続ける蟲達がまるで蠢く絨毯のように大地を埋め尽くし、徐々に天使達を呑み込んでいく。


 だが——そこで遂に上位天使が動き出した。


 唯一神の戦車を運ぶモノ——座天使スローン

 楽園エデンの東に炎の剣と共に置かれた——智天使ケルビム


 下位、中位の天使達と違い、この2体は一般的に『天使』としてイメージされる姿とはかけ離れた異形(いぎょう)の姿をしているが、3対6枚の大きな翼を広げた熾天使セラフィムは、まさに神の御使いと呼ぶに相応しい荘厳な光を纏うイメージ通りの天使だった。


 炎の車輪である座天使がその身を高速で回転させながら突撃し——ズガガガガガガガガガガァァッッッと蟲達を()き殺し、焼き殺していく。


 智天使は燃え盛る巨大な剣を頭上に掲げ、大上段から一気に振り下ろした。

 ——ッドォォォォォォオオオオンッッッと大地を割る斬撃と共に猛烈な火炎が放たれ、直線上にいる蟲を全て吹き飛ばす。


 そして残った蟲に対しては——


 突如、熾天使セラフィムが頭上に浮かべる光の輪の光量が強まっていき、その光に照らされた蟲達がボッ、ボボッッ、ボウッと燃え始めた。

 その発火現象が急速に広まっていき、大地を埋め尽くしていた魔物の絨毯(じゅうたん)が野焼きの映像を早送りするように一掃(いっそう)されていく。


 熾天使の熾とは、『火が燃え盛る』という意味。それを冠するに相応しい、熾烈(しれつ)な業火だった。


「魔を焼き尽くす天上の光で召されることを、光栄に思いなさい」


 天使達の圧倒的な力をみせた詩聖里が胸の前で十字を切る。


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