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第85話:人口ワームホール

 晃生と美羽蘭が異界で修行に励む中、灯真達も総軍級である亜凰に稽古を付けてもらっていた。


 その訓練中でもあまり身が入らず、休憩中の今も木乃香は異界に置き去りにしてきてしまった晃生のことを心配し続けている。


「晃生君……」

「もぉー、ねこちん心配し過ぎじゃん? こーき君ならあっちでも余裕でしょ。回復あるから変な虫に刺されても効かないし、病気にもならないし」

「ええ。それに総軍級の(スー) 美羽蘭(ミウラン)も一緒なんだから……」

「それが心配なの!」


 元気づけようとする舞桜と愛奏音につい本音が出てしまった木乃香が「あっ」と照れるように口を押さえるが、時すでに遅し。


 にや〜〜っと笑を浮かべる舞桜と愛奏音が2人同時に木乃香に近付いていく。


「えっと、今のは違くて……」

「ん〜何が〜? うちらはちゃーんと分かってるよ〜。ねこちんはこーき君があの中華美人と異界の地で2人っきりなのが心配でしょうがないんだよね〜?」

「ち、違うからっ……! 何言ってるのかなっ」

「隠さなくて良いわよ? 木乃香ちゃん、乙女って感じで可愛いわ〜」

「だから違うって! もうっ……」

「でも、それこそ心配ないでしょ。うちらから見ても晃生君って……」

「舞桜ちゃん。それは私達から言うことじゃないわ」

「ホント危っぶなっ。ねこちんマジごめん! 後は自分で考えて〜、みたいな?」

「え、え……?」


 そんな女子トークが繰り広げられている間も、灯真と勇斗は亜凰との戦闘訓練を続けている。


「貴方達は休まなくてもいいの? 必死にやり過ぎても、いざという時に全力が出せないわよ」

「ハッ、この程度でへばるかよッ!」

「僕もまだまだやれる。亜凰さんの斥力場もぶった斬ってみせますよ」

「あら、頼もしい」


 ——ボボボボボボボボボボゥッッ!!

 ——ヒュガガガガガガガガァッッ!!


 炎弾と斬撃の嵐が飛び交い、その全てを亜凰の斥力場(リパルサーフィールド)が受け止める。


「2人とも魔力量が多いし単一技の熟練度もなかなかだけど、連続技になると魔力操作がまだまだね」

 灯真と勇斗の攻撃にアドバイスをしながらの亜凰がそれぞれに片手ずつ掌を向ける。


 その両手から強烈かつ見えない斥力波が放たれ、灯真と勇斗の腹部を()()()


「……?」


 学園制服ごと人体を貫通させる程の威力は出していなかった為、亜凰が少し驚いた顔をする。


 その後ろから、


「これならッ——!」

「——どうだッ!」


 攻撃に意識を向けた亜凰の隙を突く火砲と斬撃が飛ぶ。


「ちょっと甘いかな」

 だがそれすらも防いでみせた亜凰が灯真と勇斗の間で引力を発生させ、互いに勢いよく引き寄せられた2人はゴチンッッと頭をぶつけ合い、その衝撃に目を回して倒れた。


「痛ってぇッ……!」

「やっぱりダメか……」


 昏倒しながらも悔しそうにする2人に亜凰が近寄り、引力で上に引っ張って立たせてくれる。


「僕達に斥力を使って攻撃してる瞬間なら無防備だと思ったんですが……」

「それな。どんな魔力操作の精度してやがんだよ……!」

「フフ、蜃気楼(しんきろう)で隙を突く作戦は良かったわ。後は攻撃に転じるまでをもう少し早く出来ると良いかもね」


 まだ何度でも付き合うといった雰囲気の亜凰だったが、ここでピコンっと亜凰の携帯に通知が入った。


「はあ、また任務が入ったわ。残念だけど、訓練はここまでね」

「チッ、今日こそその斥力場(バリア)を突破してやろうと思ってたのによ」

「フフフ、貴方達なら次会う時までにさらに強くなってるわ。まあ私も強くなってるけどね」

「追い付いてみせます。訓練、ありがとうございました」


 頭を下げる勇斗に軽く手を挙げて応えた亜凰は、バシュゥゥゥッッと一瞬で飛び去っていくのだった。


「……凄いね。亜凰さんは。いつ追い付けるんだろう」

「すぐ追い抜いてやるよ」 

「そうだね。これからはどうする? ギルドに戻って——」

「待ちなさい! 今度はこっちの訓練にも付き合って貰うわよ!」


 勇斗の提案の途中で声をかけてきたのは、柚木園(ゆきぞの)緋彩(ひいろ)

 その横には——


「オレモマゼロ」

 百獣の王、ライオンの肉体を持つ獅童玲旺。


躑躅森(つつじもり)亜凰(あお)とだけ訓練してはいさよならってのはないんじゃねぇか?」

 魔力武装を展開した(やまと)武琉(たける)


「私も入れて欲しいな」

 さらには魔力の翼(マジックウイング)を天使のように広げた一葉(ひとつば)唯花(ゆいか)


 そしてその後ろには魔力矢(マジックアロー)を扱う九条隼矢や元いじめっ子の千石将也、落ちこぼれの清水健太まで勢揃いだ。


「みんな……」

「お前ら、既にギルド持ってるプロの冒険者の俺らについて来れんのか?」

 灯真がこれみよがしに麗色から貰ったギルドのことを自慢する。


「逆だろ。お前らがヌルい任務で遊んでる間も俺らは訓練してんだ。ついて来れなくなってても知らねぇぞ」

 だが武琉も以前勇斗に剣で負けてから悔しさをバネにして必死に鍛えてきた自負からそう言い返した。

 

「おもしれぇ。かかってきやがれ」



    ♢



 ——リライフビル、跡地。

 地下秘密施設——セクション8(エイト)


「これは……凄いですね……」

「まさか実現出来るとは……」


 スーツを着た2人の男——政府の役員達が、そこにある巨大な円形のリングを立てたような装置を見て驚愕の声を上げる。


 リライフ壊滅後、鴻上仁が違法に行なっていた研究の一部を政府監視のもとで千金楽(ちぎら)麗色(れい)が引き継いだ。

 その研究の中には晃生が脱走時に研究区画で盗み見たゲートの人為的コントロールもあり、これはその人工ワームホール発生装置なのだ。


 装置にアダプターコードで繋がれたパソコンのキーボードをカタカタと叩きつつ、説明役として呼び出された麗色が口を開く。


「一般相対性理論の応用だ。惑星のような大質量の物体は強大な引力——重力を持つ。重力とは物体を引っ張る力ではなく、時空に関与する力。強烈な重力が働けば空間が歪み、時間は遅れる。そして重力は力を時間で積分する『運動量』と空間座標で積分する『エネルギー』だ。つまり膨大なエネルギーがあれば時空に関与することが出来る。これは魔力(マナ)融合炉(リアクター)によって増幅させ電荷を()びさせた魔素粒子同士をぶつけ合わせて時空に穴を開ける仕組みで——」


 麗色(れい)が装置の説明を続けていると、その高度な理論を理解出来ない役員達は慌てて話を止めに入る。


「お、お待ち下さい。今回お聞きしたいのはこの装置が機能するかどうかと、機能する場合どのように使うかということで……我々に専門的な話をされても分かりかねます。とにかく、これは作動出来るんですよね?」

「いや、まだ実用段階には至っていない。1番の問題は魔力(マナ)融合炉(リアクター)()ってしても要求される魔力量には到底足りないということだ。今この装置に充填(じゅうてん)している魔力でも極短時間のゲートを開くことは可能だが、異界に繋がるかどうかも定かではない。出口の設定——座標の特定は困難を極める。理論上では魔素粒子の()()()が起き、対となる粒子(EPRペア)に情報が転送される為、その魔素粒子が存在する場所——異界の相対位置に同様の現象が起きて時空が繋がると考えられるが、現段階では机上の空論だ。もしかしたら、太陽やブラックホール付近の宇宙空間に繋がるかもな」

「素晴らしい。短時間であれば実現可能性があると。それが聞ければ十分。後はこちらの科学者にも分析させ、完成を急ぎます。この装置と研究資料、それから魔力(マナ)融合炉(リアクター)とやらも政府に提出して下さい」

「……やめておいた方が良い。私以外に扱える代物じゃない」

「この研究はそもそも我々政府の許可があって初めて可能なものです。それを独占しようと言うのなら、貴女も鴻上(こうがみ)(じん)と同様、犯罪者になりますよ?」

「今の説明を聞いてもまだこの研究の危険性が理解出来なかったのか? ヘタに(いじ)れば地球規模でどんな被害を(もたら)すか分からないんだぞ」

「こちらにも有能な研究員は多くいるのですよ。自分だけが天才だと思っているようですが、所詮1人の頭脳では限界がある。まだ完成に至っていないのがその証拠です」

「……好きにしろ。ただし、リライフから共同開発を引き継いだのは人工ワームホールの研究だけだ。個人的に発明した魔力(マナ)融合炉(リアクター)を渡すことは出来ないし、誰にも渡す気はない」

「……良いでしょう。では、今後許可なくゲートの研究はしないようお願いしますね? (わたくし)(ども)としましても、貴女とはこれからも良い関係でいたいですから」


 最後にそう言い残し、役員の男達は去って行った。

 麗色(れい)に呆れた目を向けられていることにも気付かずに。


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