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第79話:ダイアウルフ

 晃生達6人はゴブリンロードを片付けた後、すぐに次の救援要請地点へと向かう。


 マキナが表示する最適なルートに従い、バイクの晃生と木乃香だけが細道に逸れた時、目の前から禍々(まがまが)しい狼のモンスターが現れた。


 黒い体毛と赤く光る不気味な眼が悪魔を思わせることから、デビルウルフと呼ばれる種だ。


(くそッ……(かわ)せないッ……!)


 細道に向かい合う形で接敵した為、左右に車体を振るための幅が無いこの状況ではデビルウルフの捨て身のような突進も避けようがない。

 既に晃生達自身もデビルウルフに向かって突っ込んでいってる状態だ。


(一か八かッ!)


「木乃香! 掴まってろよ!」

「え! ちょっ、何するの!?」


 一刻を争う状況の中、木乃香の疑問を無視して後ろから胴に抱き付くようにされていた腕を首に回させて木乃香をおぶるような体勢にした晃生はステップをダンッッッと踏んで跳び上がった。


「きゃっ!」

「マキナ! バイクをそのまま走らせといてくれ!」

入力(インプット)


 前方から大口を開けて跳びかかってきたデビルウルフの頭に手を付いた晃生は前方宙返り(フロントフリップ)ですり抜け、ジャンプ時に背中で跳ね上がった木乃香を今度は前で抱き合うような形で受け止める。

 デビルウルフをやり過ごした先で、下をそのまま走り抜けたバイクを晃生達と並走するようマキナが微調整し——バッとシートに舞い戻った晃生はすぐにハンドルを握る。

 だが……空中での姿勢のまま進行方向に背を向けた木乃香と抱き合うように着地した為、晃生は照れて運転に集中出来ない。


「ご、ごめん、咄嗟のことで……えっと……」

「ぁぅ……ううん、だいじょぶ……」


 今のアクションでただでさえ晃生にドキドキしている木乃香も余計に顔を赤くしていっぱいいっぱいになる中、人工生命体ながらも空気を読んだか、マキナが代わりに事故らないようバイクを操作する。


 晃生達を現実に引き戻すかのように、そのバイクがウォンッッとエンジン音を鳴らすと同時に薄暗い細道を抜けて明るい大通りへと飛び出した。


 ハッとなってハンドルを強く握り直した晃生の耳に、ドドッドドッドドッと獣の足音が複数聞こえてくる。


「晃生君! さっきの狼が追いかけてきてる! 全部で7匹!」

 後ろ向きに乗ったままの木乃香が晃生の肩越しに目視で確認して報告する。

「ああ。マキナ、そのまま操縦を頼む。狼と今の距離を保ちながら走ってくれ」

入力(インプット)

「木乃香は右側、俺は反対だ。同時に撃つぞ」

「任せて!」

「5秒後だ……3……2……1……今ッ!」

 

 ——ドドドドドドドォッッ!!!


 一般車両の隙間を抜け出して市民を巻き込まない、かつ蛇行から直線走行になって車体が安定するタイミングで晃生と木乃香の魔導銃が火を噴く。


 振り返った晃生が右後方の4匹を、反対向きに座る木乃香はそのまま右側に見える3匹をそれぞれ1ショット1キルで撃ち抜いた。


「ナイスショット。マキナもありがとう。あとはこっちで運転する」

入力(インプット)手動(マニュアル)操縦に切り替えます』


 マキナと運転を代わった晃生は即座にアクセルを捻って加速する。


 近付いてきたスカイツリーの根元で、建物の隙間にチラッと横切った巨大な狼が晃生の眼に映る。


「今のが情報にあった識別個体(ネームド)……ダイアウルフか」

「強そうだね……」


 マキナの情報を事前に確認していた晃生は、実物を見てその脅威を実感する。


 ダイアウルフ……それは古代に実在した史上最大の狼の名だが、今晃生が見た巨狼は化石から推測されている体長とは比較にならない程のサイズだった。

 

 このダイアウルフや晃生が以前深海で遭遇したメガロドンのように、稀に地球上の絶滅種が魔力を纏って異界から現れることがある。

 その他の魔物も地球の動物と酷似した特徴を有していることがあり、この奇妙な共通点の謎は解明されていないが……


「一応、灯真達と合流してから行こう」

「そうだね。灯真君また先に1人で突っ込みそうだし」


 解明されていない、ということはどんな能力を隠し持っているか分からないということ。

 魔力を持つ生物を魔物と呼ぶ。同じ名を冠するにせよ、ダイアウルフがどんな魔力特性かも分からない。魔物の生態の多くは謎に包まれているのだ。

 謎、ということはそれそのものが脅威となる。晃生もそれをよく分かった上で、全員揃って戦うという安全策を選択したのだ。


 バイクだけが通れる細道を利用した最短距離で表示してくれていたマキナのルートを外れ、大通りを走る灯真達と合流した晃生。

 

「なんだ晃生! 心細くなったのか!」

「狼の親玉がチラッと見えたけど、思ったよりヤバそうだ! 全員で行くぞ!」

「ビビってんじゃねぇよ。デカいだけの狼なんざまた俺が1発で仕留めてやる」

「晃生君はうちらが怪我した時のために合流してくれたんじゃない? 特にとーまは猪突猛進だし」

「いや、まあ念の為だよ。一応、ギルドマスターなんてもんを任されてるからな」


 そうこう話しているうちに到達したスカイツリーの根元——ソラマチ付近で、数十匹のデビルウルフを統率する(くだん)の巨狼、ダイアウルフが商業施設を破壊しながら姿を現した。


 周囲に民間人の姿はなく、十数人の警官達が力無く倒れている。晃生の能力でももう手遅れだろう。


(警視庁の警官達……ゲート封鎖に失敗したのか……それにしても……)


「近くで見るとこれは……」

「大きい……だけじゃないね。魔力も……」

 大型恐竜のようなサイズとその巨躯に詰め込まれた多量の魔力に、晃生と木乃香が言葉を失う。


 デビルウルフとは対照的な純白の毛並み、体毛の上からでも見て取れる強靭な筋肉、掠めただけで内臓まで切り裂かれそうな爪と牙、その全てが神秘的で強烈な存在感を放っている。


 そのダイアウルフが——魔力を感知したか、嗅覚で嗅ぎ付けたのか、晃生達に気付いてその巨大な顔を振り向かせた。


「気付かれたか。ま、隠れる気もないけど」

「周りのデビルウルフも相手しないとね。愛奏音ちゃんは——」


 晃生の台詞に続き、勇斗が何かを言おうとした次の瞬間——ダイアウルフの巨躯が掻き消え、ズバァァァァァアアアアアンッッッッと晃生達が車とバイク、さらにはアスファルトの道路ごと切り裂かれた。


 晃生達の背後へ瞬間的に駆け抜けたダイアウルフがその刃のような爪を振るったのだ。


 だが——真っ二つにされた晃生達の姿もまた、ボヤけるように掻き消えていく。


 灯真が作り出した空気の温度差による虚像(デコイ)——蜃気楼だ。


「やるな灯真。そこまで繊細なコントロールが出来るようになってたのか」

「いや、あの野郎、犬公の分際で偽物だと気付いてやがった。それを確認するために攻撃したんだ。嗅覚か魔力で感じ取ってやがるな。多分次は通用しねぇぞ」

「あのスピードを確認出来ただけでも十分だよ。巨体からは想像もつかなかった速さだけど、知っていれば対応出来る」

 

 晃生、灯真、勇斗が車体から降りながら言葉を交わし、ダイアウルフを見上げる。


「木乃香達は車に乗りながら遊撃を頼む。必要なタイミングで援護してくれ。マキナは運転を」


 ギルドマスターらしく役割を指示した晃生は指をパキパキと鳴らし、ダイアウルフへと向き直る。


「さて、やろうか。俺達はデカい相手には慣れてるぞ」


 臨戦態勢に入った晃生達を警戒してか、蜃気楼に攻撃してからここまでグルルルルゥゥゥと低く喉を鳴らしながら静観していたダイアウルフだったが、ここで遂に動き出した。


 一息で距離を詰めてきたダイアウルフは上から叩き付けるように前脚を振るう。


 ドガァァァアアアンッッッとアスファルトが激しく砕け散るが、即座に左右へ躱した晃生と勇斗、そして上に飛んだ灯真は3人とも無傷だ。


 既に車を発進させているマキナの運転で女子組は距離を取り、愛奏音が魔力弾を、舞桜が氷柱槍(スティリア)を、木乃香も魔導銃を撃ってデビルウルフを倒していき、隙を見てダイアウルフにも牽制の意味で攻撃を放つ。


 だが思った以上に毛皮が分厚く、半端な攻撃ではダメージが通らない。

 デビルウルフには十分通用するが、ダイアウルフは痒い程度だとばかりに体をブルブルと振るわせる。


「だったらこれはどうだァ?」

 敵の上を取った灯真は熱噴射で滞空しながら複数の火球を生み出し、一斉に放つ。


「その毛皮ならよく燃えんだろ」

 ほくそ笑む灯真の下で、また高い瞬発力を見せたダイアウルフが火球を躱す。

 ボボボボッッと数発の火球が命中(ヒット)するが、予想に反してその純白の毛並みには焦げ目一つ付いていない。


 炎熱耐性、というよりは魔法攻撃耐性そのものが高い感じだ。


「どれだけ硬い毛皮も、アダマンタイト程じゃないだろう」

 火球の爆発に紛れてダイアウルフの死角に回り込み、魔剣を引いて構えていた勇斗が軌道斬り(バーンブレード)を放つ。


 それも脚力を爆発的に発揮して地を蹴ったダイアウルフに躱されるが、その先では回避を読んでいた晃生が待ち構えている。


「良い子だダイアウルフ——おすわりッ!」

 晃生が振るった拳がドォオンンンッッッッッと轟音を上げてダイアウルフを殴り倒した。


 そこへ最初の攻撃よりも威力を上げた木乃香、舞桜、愛奏音の弾幕が追い撃ちをかける。


 なんとなくの直感でそれを分かっていた晃生がすぐにダイアウルフから距離を取り——ズドドドドドドドォオオオッッッッとオープンカーから放たれた3人の遠距離攻撃が命中して土煙を巻き上げる。


 男子組と女子組がそれぞれ『ナイス』と目線を送り合う……その、僅かな油断の隙で——


「さて、ちょっとは弱ったか——」

 灯真が熱噴射を弱めて地に降りながら言う、その台詞の途中でダイアウルフが土煙の中から飛び出して来た。


 ——女子が乗るオープンカーの方へ。


「えっ」


 野生生物が持つ死に際の底力か、これまでよりさらに速い疾駆に魔力砲(キャノン)を装填していた愛奏音が声を上げる事しか出来ない。


「木乃香ぁッ!」

「舞桜ッ!」

「愛奏音ちゃん!」

 

 晃生、灯真、勇斗がほぼ同時に駆け、マキナが操縦する無人の運転席で即座にハンドルが切られるが——


(間に合わないッ——!)


 ダイアウルフの巨大な前脚が振り下ろされる直前、唯一同じ敏捷性(アジリティ)で反応出来た木乃香が一か八か迎え撃とうとしたその時——


 ——ドッッゴォォオオオオオオオオンッッッッ!!!!


 側面から大砲でも撃ち込まれたかのような衝撃がダイアウルフを襲い、その巨体が真横へと吹き飛んでいく。


「何だ今の……?」

 (つぶや)く晃生の視界で、ダイアウルフを()()()()()()チャイナドレスの美女がスタッと着地した。


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