第73話:転入生
リライフ戦後、学園での授業はすぐに再開された。
戦闘技術を学び、将来は武装職に就く学園の生徒であればあの程度の事件でいちいち騒ぐなということだろう。
訓練を始める前にリライフから学園に迎えられた新しい仲間——金髪の美女、獣耳の少女、そして零の3人が皆の前に立たされていた。
ちなみに仁の娘である心穏も晃生の口利きにより無事学園で面倒を見てもらえることになったが、彼女は晃生達より1つ年下なので高等部3年への転入だ。
「さーて、んじゃお前ら自己紹介しろー」
担任のアンナに促され、その隣にいた零が口を開く。
「……零。中川、零です」
『それだけ?』という声が聞こえてきそうだった。なにせこれまで仁の言うことだけ聞いて生きてきた零にとって、紹介する自己など晃生から貰った名前くらいしかない。
だがそれはこれから見つけていけば良い、といった顔をする晃生や木乃香達がパチパチと手を叩き、それに釣られてみんなも拍手した。
次第に拍手が収まると、今度はケモミミ少女が前に出る。
「ティファは誇り高き獣人族の戦士、ティファニー・ラザフォードです。ティファと呼べです。ここにいれば強い奴と戦えるっていうからしばらく居てやるです。アタシより強いとかいう奴は全員かかってこいです」
何人かはリライフから学園への引き継ぎで既に知っていたが、多くの生徒は彼女の可愛らしい見た目に反する好戦的な物言いに目を丸くした。
尊大さと丁寧さが入り混じったような独特の語尾だ。
「ローラです〜。私も元いた場所に戻れるまでお世話になります〜。あ、種族はエルフで〜す」
続いて名乗った金髪の女性はゆったりとした喋り方で、余裕のあるお姉さんって感じだった。
そして驚くべきことにこの2人は今、異世界の住人だと名乗ったのだ。
魔力が溢れてなお、この地球上に獣人やエルフなどという種族は存在しないのだから。
晃生や木乃香達はリライフから学園へ引き継ぐ際の会話でそのことを事前に知っていたが、改めて聞いても未だに信じ難い。
この2人の証言から、晃生達がまだ密林しか見たことのないあの異界に、少なくとも2つの文明が存在していることが明らかになった。
この大発見もあって、麗色は身寄りのないこの子達を学園に受け入れることを快諾したのだ。
正確な年齢が分からなかったから取り敢えず連れて来た晃生達と同じ学年にしたらしい。
よく分からないままこっちの世界に迷い込んでしまったティファとローラ自身も今すぐに向こう側へ渡る手段が無い上、適当なゲートに入っても故郷へ帰るどころかジャングルで遭難してしまう確率が高い為、暫くここで暮らすことに異論は無いようだ。
学園側はいずれゲートが制御出来るようになって異界探索の安全性がある程度確保された時、2人を故郷に送り届けることも予定している。
麗色からしても、未知の文明と接触する際2人に案内役兼橋渡し役となってもらえるメリットがあるからだ。
(そういえばリライフでもこの2人が入ってた部屋は待遇良かったな。鴻上仁も異世界人ってことで扱いは慎重になってた訳か)
「よし。ま、この異世界組の2人は故郷に帰れる目処が立つまでの暫定の生徒だが……先のことはどうでもいい。ここは特殊技能者育成学園だからな。まずは実力を見せてもらう。ついでに、ここまで模擬戦の機会が無かったサファイアとローズもだ」
驚愕の新事実にざわつく生徒達をアンナが鎮めつつ、今回の授業は転入生+サファイア、ローズの5人での模擬戦を行うことになった。
「晃生。お前はあのメイド妹と闘ったんだろ? どうだったんだよ、あの子の強さは」
訓練場内で3人が戦うスペースを開ける為に他の生徒達が離れていく中、灯真が晃生へと問いかける。
「めちゃくちゃ強いぞ。零は複数の覚醒者の能力を引き継いでるからな。強化された脚と眼、それを処理する脳。魔力もその分多いし、俺も引き分けだった」
「身体能力の戦いで晃生君と引き分けって、凄いね……」
隣を歩いていた勇斗も零の強さを聞いて驚いているが……
(サファイアとローズも昼間の人型で弱体化してるとはいえその正体はドラゴンだし超強いけど……あのエルフと獣人からもかなりの魔力を感じるな……)
「一応言っとくが、サファイアとローズ、お前ら光線は撃つなよ? それ以外なら多少の怪我は晃生がいるから問題ない」
(おい問題なくはないだろ)
晃生は心の中でツッコんだ。
「じゃ、後はお前らのタイミングで始めろ」
アンナの言葉でビリビリと闘気を放ち始めた5人が集中力を高めていき——まずは零が動いた。
最も魔力の高いサファイアとローズを真っ先に倒そうと、2人が同時に瞬きした瞬間を狙って超スピードで駆け、魔力を纏わせた魔銀石ナイフを振るったのだ。
だがその高速の斬撃はギギィインッッッと硬い感触に阻まれた。
サファイアもローズも、ノーダメージだ。
人型でも服の下が高硬度の龍鱗で覆われているサファイア達の防御力は生半可な攻撃では崩せない。
「アハハッ! 良いスピードじゃねーかです!」
零の動きを見たティファが楽しそうに嗤い、虎のような鋭い爪で斬りかかる。
持ち前の反応速度で対応した零もナイフで斬り結び、両者共に高速移動しながら斬撃を応酬し至る所で火花を散らす。
(零のスピードに初見でついていってる……!)
生徒達の中で最も正確に2人の動きを捉えており、零の超スピードを体感したことのある晃生が目を見開く。
獣人の少女、ティファは持って生まれた野生の身体能力と戦闘センスだけで人間兵器として強化された零と闘り合っているのだ。
——ギギギギギギギギィンッッッと斬り合いがヒートアップしていくティファと零。
その2人に——ローラが掌を向けた。
「吹き飛ばしますね〜」
直後、そこから放たれたのは圧縮された空気の球。
ギィィンッッと互いを弾いて距離を取った零とティファの中間でその圧縮空気弾が炸裂し、強烈な爆風が2人を吹き飛ばす。
ティファと零は同時に同じ判断をして、衝撃の方向に逆らわずに自ら後方へ跳ぶことで被ダメージを抑えた。
着地と同時にティファが鋭い眼を向けたローラは、風を操って宙に浮いている。
圧縮した空気を足場に自分を押し上げることで極端な突風を生み出さずに空を飛んだのだ。
だがここには天空の覇者、ドラゴンがいる。
「空中は俺の縄張りだ」
翼が無く蛇のような骨格の蛟龍は大気中の魔素を利用し泳ぐように飛ぶため、サファイアは人型のまま風も翼もなしに飛翔し、ローラに突撃した。
ローラは圧縮空気を利用した空中移動法でサファイアを躱しながら同時に炎の壁を作り出して進路を妨害するが——高い魔法耐性を備えるサファイアは燃え盛る炎を無視して突っ込む。
それで不意を突かれたローラに龍爪を振るい——ドガァァアアアンッッッと叩き落とした。
だがローラは咄嗟に圧縮した空気の壁で爪と落下の衝撃を防いでおり、ダメージを受けていない様子ですぐに立ち上がる。
「アレがドラゴン! 面白れーです!」
好戦的なティファが敢えてサファイアに戦いを挑む。
ダンッッッッと地を蹴って跳躍したティファが空中のサファイアに跳び掛かり、そのまま絡まるようにゴロゴロと地面を転がりながらも互いに爪で斬り合う。
その周囲ではボコッ、ボコボコッ、ボコココッと地面が膨れ上がり、その土が兵隊のような輪郭を形作った。ローラの土魔法だ。
「多彩な属性魔法……緋彩みたいだな、ローラ」
「ふんっ、やり合ったら私の方が上なんだから」
武琉に言われ、自分でもやや意識していたローラの戦闘スタイルに対抗心を燃やす緋彩。
ローラの魔力操作によって土の兵隊が取っ組み合うサファイアとティファに襲いかかろうとした時、最初に零のナイフを防いでからこれまで静観していたローズが龍爪を構え、土人形をドガガガガガガァッッッとものの数秒で破壊した。
ローラは一際大きな土の兵士を作り出すが、ドラゴンのパワーに敵うはずもなく、光子を纏った拳によって一撃で粉砕される。
だがその巨大土人形は隙を作る為の遮蔽物。
ローラは今の数瞬で生み出していた複数の水球を圧縮し、バチュンッッッッと散弾のように高速で撃ち出した。
それでも龍の鱗を傷付けることは出来なかったが、至近距離からのショットガンのような攻撃にローズが大きく後退させられる。
そのローラの攻撃後の隙を狙い、背後から零が忍び寄ってナイフを振りかぶった。
ローラも零と自分の間の空間に圧縮空気の壁を作って防ごうとするが——次の瞬間、ローズの魔力がズアアァッッッと膨れ上がったのを感じ取って2人ともそっちを警戒する。
瞬時の判断でローラが操る木の根が地面から突き出てきてローズの足首に巻き付き、動きを拘束するが——
ダメージは無いまでも弾き飛ばされたことで龍の闘争本能に火が点いたローズは右手から膨大な魔力が込められた光子の刃を生み出し、ローラと零を纏めて薙ぎ払うコースで一閃する——!
——ギィィイイイインッッッッ!!!!
あわや他の生徒達までぶった斬りそうだったその長大な光の刃を、咄嗟に飛び出した晃生が同じく龍の短剣から延伸させた光の刃で受け止めた。
ローズにはティファを振り払ったサファイアとこういう緊急時に備えていたアンナが掴みかかって腕と体を取り押さえている。
「危っぶねぇなぁおい。確かに光線は撃つなとしか言ってなかったが、纏めて斬ろうとするやつがあるか」
ローズの腕を離したアンナが教師として叱り、ハッと素に戻ったローズがしゅん……と俯いた。
「悪い先生。闘争心は俺ら龍種に備わる本能みたいなもんなんだ。ローズはまだその辺の制御が甘かったが、こうなった以上、今後はもう暴走しないはずだ。だよな?」
割って入ったサファイアが問いかけると、ローズはコクコクと頷く。
「はぁ……ま、お前ら5人の実力もだいたい見れたし、取り敢えずは良しとするか。晃生もよくやった。そんじゃあこっからは好きな奴と1対1で訓練な。実力が近かったり戦い方が参考になりそうな奴を選べよー」
好きな奴とペア組め授業に何故か毎回ドキッとしてしまう晃生。
そんな晃生が周りをキョロキョロと見渡しているところへ「晃生君、一緒に……」と木乃香が声を掛けようとした時、テンションを上げたティファが飛び跳ねるように晃生の元へやって来た。
「お前! さっきの光る攻撃を止めた時の動き凄かったなーです! アタシと闘れです!」
「お、おお! 君もサファイア相手に素手でやり合ってて凄かったな。じゃあちょっと手合わせするか」
木乃香に気付いていない晃生がペアが出来たとホッとして快諾する。
だが……
「おい晃生! リライフの件の前に俺とやってた訓練がまだ途中だろうが! その剣と勝負させろ!」
「いや、晃生には前に渾身の極光火焔砲を素手で弾かれた借りがあるからなァ。今の俺の炎で晃生を燃やせるか試してやる」
「そう言えば僕も何年か前、晃生君に魔剣を素手で掴まれたことがあったっけ」
「待て皆。俺が思いっきり龍の力を出せる相手は晃生くらいだ。俺にやらせてくれ」
「お兄様の相手は妹の私の役目です」
「オレモマゼロ」
「なんだかよく分からないけど、私も相手してもらおうかな〜」
「待ちなさいローラ! あんたの相手は私よ! 中川晃生、私の相手を奪う気ならあんたから叩き潰すからね!」
「落ち着けガキ共。教師であるアタシの命令は絶対だ。晃生はアタシと闘る」
武琉、灯真、勇斗、サファイア、零、玲旺、ローラ、緋彩、アンナまでもが勝負を申し出てきて、晃生は一瞬自分が人気者になったと勘違いしそうになったが、ハッとあることに気付く。
「ってかお前ら……俺が回復能力持ちだから思いっきり攻撃しても大丈夫とかサンドバッグみたいな理由で選んでるんじゃないだろうな?」
「「「「「…………」」」」」
一部を除いて図星を突かれた全員が黙り込んで目を泳がせるのだった。




