第72話:約束
倒した仁を拘束するでもなく、瓦礫を退けて地下室への入り口を見つけ出した晃生はその扉を開ける。
「どこへ行くつもりだ? 私の研究資料でも掠め取るつもりか」
「……あんたはやり方を間違えた」
仁の問いには答えず、それだけ言い残した晃生は地下への階段を降りていった。
残された仁の元へ……
「操華の言っていた通りだったな。中川晃生か……国やギルドに所属していない能力者の中にまだあんな強者がいたとは」
「ええ。私も現場にいましたが、2年前に現れた識別個体の岩石巨人を素手で粉砕したのは彼ですから」
一凜と操華が歩いてやってきた。
「学園の生徒はまだ発展途上だと思っていたが、さて……」
雑談を中断した一凜が仁に視線をやると、その隣で操華が念動力を発動する。
その辺に散らばっていた細長い鉄材——ビルのコンクリート内部に埋め込まれていた鉄筋がひとりでに浮き上がり、それを拘束具として仁が拘束される。
「相変わらず器用に操るものだな」
自身も鉄をメインに扱う磁力操作能力者の一凜が操華の繊細な念動力を見て感心する。
「まあ、操作するエネルギー特性の差ですね。磁性体を粗雑に動かす出力は貴女の方が上ですし。それより、鴻上仁の身柄はどうしますか?」
「……後処理はうちでしようと思っていたが、彼を見ていると手柄を横取りするような真似をしたくはないな」
「そうですね。その彼はどこかへ行ったようですが……」
そこへ、2人にとっては意外な人物が現れた。
「へぇ〜、お前らなら速攻奪っていくと思ってたが、見直したよ」
学園の教師、吉良アンナだ。
「アンナ……何しに来た?」
「人を泥棒みたいに……貴女には言われたくないわね」
一凜と操華が少し嫌そうな顔をする。
アンナが千金楽麗色に引き抜かれる前は同じ自衛隊にいた操華はもとより、一凜とも昔からよく任務で顔を合わせており、3人とも昔から互いをライバル視しているのだ。
「学園長に言われて晃生達の後詰めで来たのさ。これでもセンセーだからな。可愛い生徒達を見守っといてやらないと」
そう言ったアンナは一部始終を見ていたらしく、晃生がさっき入っていった地下への入り口にチラッと目をやる。
「よく言う。本当は私達を牽制にきたのだろう」
「そんなんじゃないって。お前も相変わらず短気だなー」
否定するアンナだったが、眼を鋭くした一凜はブゥゥンッと磁界を発生させ、周囲の金属を浮かび上がらせた。
「殺気立つなよ。闘りたくなるだろ」
対するアンナもバチバチィッとその身に纏った電撃をスパークさせる。
本来電力も磁力も元を辿れば電磁気力という同一の相互作用で、電磁場を歪めるという空間に関与する能力だ。
だが電気はそこにあるだけでは磁力は起きず、電流が流れることで磁場が生じる。
磁石も磁気は発生させるが電流は流れておらず、コイルに近づけることで初めてコイルの周りの磁場が変化して電流が流れる。
同種にあって非なる能力を持つ者同士、以前から犬猿の仲だったアンナと一凜が数年ぶりに対峙すればこうなるのは必然だった。
我関せずの操華は無言のままだが、アンナと一凜の間ではさらに緊張感が高まっていく。
ゴバァァァッッと質量の大きい鉄塊を磁力で浮かび上がらせた一凜と、筋肉への電気信号を操作してビキビキッッと全身に超常の力を込めていくアンナ。
両者因縁の対決が今まさに始まる——かと思われたその時、
「パパ!」
地下室の階段を駆け上がってきた少女が叫んだ。
「心穏! お前……そんなに走ったら……!」
それは地下の厳重な病室で療養していた高校生程の女の子——仁の娘だった。
「ううん。もう大丈夫。あの人が治してくれたよ」
心穏が振り向いて示したのは、続いて地下から階段を上ってきた晃生だ。
「晃生君……何故……」
「言っただろ。あんたはやり方を間違え過ぎだ。俺の細胞パクって人体実験なんかしなくても、普通に言ってくれればこうやって治したのに」
そう言われた仁は言葉もないといった表情で元気になった心穏の姿を見て——涙を流した。
「あぁ……すまない……ありがとう……ッ!」
仁は痣が消えた心穏の腕に抱かれ、拘束されて抱き返してやれないことを悔やみながらも晃生に頭を下げた。
「……別に。遺伝性の低い疾患だし、最初はあんたの能力を知らなかったから気付くのが遅れたけど、あんたは若くして自分と同じ白血病に罹った娘を救いたかっただけなんだろ」
晃生は地下で見た物騒な資料の中に『がん治療学研究分野における魔力の有用性』というファイルがあったのを思い出す。
「初めは……娘を救いたい一心だった。だが研究が進むにつれ、力に取り憑かれていったのも事実だ……」
「その為に他人や自分まで実験台にするのはやり過ぎだと思うけど、俺も……気持ちは分かるよ。昨日より、さっきより強くなったつもりでも、まだ自分より遥かに強い奴がいて、その背中すら見えないんだからな。まあ……これ以上は俺がとやかく言うことじゃないし、後は大人に任せるけど、ただ……あんたが起こしたギルドや福祉施設に助けられた人もいっぱいいるんだ。それはその娘にも誇っていいことだと思うぞ」
「ああ……君にそう言ってもらえると……救われるよ」
仁は晃生が初めて見た暗い地下室で資料を読んでいた時の表情とは違い、穏やかな父親の顔をしていた。
「パパ。私もパパみたいに困ってる人を助けたい。見て、こんなことも出来るようになったんだよ」
そう言った心穏が両手の拳を握ってちょっと力むような仕草をすると、ズズズズズッと体が分裂していき——最終的に心穏が2人になった。全く同じ見た目のままで。
「これは……一体……!」
「その人に病気を治してもらってから出来るようになったんだ。これで私もベッドで寝てるだけじゃなくて、誰かの役に立てるかな」
心穏は晃生の超回復で多量に魔力を浴びたことがきっかけとなって覚醒したのだ。父と同じ細胞をコントロールできる超克者として。
今2人に分裂してみせたのも細胞増殖能力の応用だ。
「ああ、心穏なら出来るよ。ただ、無茶はしないでくれ。私も罪を償った後は、今度こそ胸を張れるギルドを作る。それまで……晃生君。虫がいいのは分かっているが、娘を見ていてもらえないだろうか。能力者になった以上、学園での教育を受けさせてあげたいんだ」
「え……まあ、この子が覚醒した原因は俺みたいなもんだし、学園長に掛け合ってみるよ。優秀な能力だし、高等部への中途編入くらいはねじ込めるだろ」
「何から何まで……本当に……ありがとう……!」
何度も感謝されて少し居心地が悪くなった晃生は顔を逸らし、動かした視線の先に一凜や操華と顔を突き合わせるアンナを見つける。
「あれ、アンナ先生。なんでここに……」
「よう。お前らの様子を見に来てやったら昔の顔馴染みに絡まれてな。ま、晃生が無事でなによりだよ」
「へぇ〜、3人は知り合いだったんですね。ちょうど良かった。鴻上仁やリライフの後処理は任せても良いですか?」
「おい晃生、良いのか? こいつらに手柄をくれてやるってことだぞ」
「手柄……って言っても、俺は他の人みたいに任務で来たわけじゃないし、流れで仁とこのギルドに喧嘩売りたかっただけなんで。やりたいことは全部やったし、後は任せますよ」
「はははッ、そうか! ならお前ら、後は任せた!」
「貴女は面倒くさいだけでしょう」
「お前は面倒くさいだけだろう」
豪快に笑うアンナに操華と一凜がハモりながらツッコむ。
「中川晃生。お前ならいずれまた任務で私と会うこともあるだろう。その時が楽しみだ」
「はぁ……一凜さん、だったっけ。こちらこそ。まあ俺の能力はそもそも回復系なんで、誰か仲間が負傷した時にでも頼って下さい」
「あの身体能力で回復役……? フッ、面白い」
小さな笑いを漏らした一凜は晃生から仁へと視線を移した。
無言で突っ立っている一凜はこれから連行される仁と心穏とのやり取りを待ってやるつもりらしい。
「さあ晃生、アタシ達も帰るか!」
「はい」
「にしてもお前、やっぱやるなぁ。鴻上仁はみんなが狙ってた大物だったんだぞ。軍団級を倒したとなると、亜凰に続く日本で2人目の総軍級として世界ランクに登録される日も遠くないかもな。そうなればこの国だけじゃなく、世界中にお前の名が知れ渡る。青の六軍にも目を付けられるかもな」
「青の六軍……?」
「躑躅森亜凰を含めた総軍級の6人、世界ランク1位〜6位の奴らをそう呼ぶんだ」
「亜凰以外にあと5人も総軍級がいるのか……! ってか、そのランキングは何を基準に付けられてるんですか?」
「強さや魔力の規模は勿論だが、魔力特性とか魔物の討伐実績とかの色んな要素で判断されるらしい。だから必ずしも戦闘力順って訳じゃ無いし、強くても任務サボってる奴はランクが低くなるが……まあどいつもこいつもバケモンだらけだな。軍団級以下の奴らとは比較にもならん」
「……因みに、そのランキングで亜凰は何位なんですか?」
「確か……2位だったかな。それを抑えて今世界最強の能力者って言われてんのがアメリカのアイリーン・アークライトだ。他にはロシアの『空の支配者』、韓国の『守護神』、後は……忘れたが、中国とドイツが1人ずつ総軍級を抱えてる」
「亜凰より上……想像もつきませんね。アンナ先生もその強さなら世界ランクに入ってるんですか?」
「アタシはそういうの興味ねぇからなー。でもお前の強さには興味津々だし、前の決着、なんなら今ここで付けとくか?」
「……勘弁して下さいよ。今日は疲れました」
「お前疲労も回復出来るだろ」
「精神的に疲れました」
そんなやり取りをしていると、ヒュゥゥゥゥゥドンッッッッと空から何かが飛来し、散らばった瓦礫を盛大に吹き飛ばして着地した。
「おい悪魔。見ての通りリライフは晃生がブッ潰した。俺らがこれ以上闘う意味はねぇ」
「あァ!? ざけんなッ! テメェとは決着付けねぇと気が済まねぇッ!」
落ちてきたのは、晃生達の上空で空中戦を繰り広げていた灯真と大我だ。
バトルを中断することに納得がいかない大我は悪魔状態を解除しないが……
「大我。任務は既に終了した。これ以上の戦闘は規約違反になるぞ」
一凜がそう制すると、「チッ」と舌打ちを1発放って降魔を解いた。
その様子を眺めていた晃生の後方からギィィンッと響いた金属音に振り向くと、そこでは鍔迫り合いから剣を弾いて距離を取った勇斗と雄理が剣を向け合っている。
「……ここまでみたいだね。続きはまた今度にしようか」
晃生の近くで鴻上仁が拘束されているのを見て、勇斗がそう提案する。
「こんなにぶった斬りたいと思った相手は初めてなんだけどな」
あまり感情的になるタイプではない雄理が珍しく食い下がるが……
「お兄さん!」
幼さを感じさせる女性の声が雄理を制止した。
現れたその声の主は……
(幽霊……ッ!?)
目を見開いた勇斗の感想通りその女性は空中に浮遊しており、向こう側が若干透けて見える霊体を持つ、まさに幽霊と呼ぶべき姿形をしていた。
「ひなちゃん……何でここに……」
「何でって、お兄さんが心配で来たんじゃないですか! 予定の時間になっても全然帰ってこないから!」
「あー、ごめん……予想外の邪魔が入って……」
「リライフビルが潰れちゃってるじゃないですか! 何があればこんなことに……」
「それは俺じゃないよ」
霊体の少女——ひなと呼ばれた幽霊の女の子と雄理が普通に会話しているのを見て、勇斗は唖然とする。
その様子に気付いた雄理が、
「この子、うちのギルド員なんだ。アンデッド系モンスターじゃないから斬るなよ」
と、勇斗に釘を刺してきた。
「ギルド員……まあモンスターじゃないのは見れば分かるし、斬らないけど……てか斬れないよ。霊体なんか」
「……どうかな。あんたなら斬りそうだ。ま、迎えが来たことだし、もう行くよ」
「ああ……また会おう」
「お兄さん、帰ったら何があったのか説明して下さいね」
「えー……てかいい加減お兄さんはやめてって言ってるじゃん」
「あぅ……ゆ、雄理、くん……?」
「あー、やっぱりお兄さんでいいや……」
「えっ、なんでですか?」
「なんでも」
などと会話しながら去っていく2人を、勇斗は複雑な表情で見送っていた。
その周囲で乱戦状態にあったエージェントとギルドメンバー達の戦闘も、リライフ側が全員取り押さえられて決着の様相を見せている。
「晃生君! こっちに来て!」
リライフのメンバー達を取り押さえている自衛官の近くから、木乃香が晃生を呼んだ。
すぐに駆け付けた晃生の眼に、木乃香に組み伏せられた克心の姿が映る。
「これは……木乃香が倒したのか?」
「う、うん……私、晃生君を攫った高浪君が許せなくて、ちょっとやり過ぎちゃった、かも……早く治してあげて?」
「あ、ああ」
戸惑いながらも返事をした晃生がすぐに超回復を発動すると、裂傷と出血だらけの克心の身体がすーっと治っていく。
「……晃生君……何故、僕を助けたんですか……?」
「え……何故って、死なれたら困るし……木乃香が」
「僕は君に睡眠薬を盛って拉致し、牢屋に監禁させたんですよ?」
「いや、薬はそもそも効いてないし……拉致されたのはわざとだし……牢屋はすぐに脱獄したし……おかげで前にちょっかいかけてきたのがリライフギルドだって判明して、結果的には叩き潰せたから、感謝してるくらいだけど」
「……甘いですね。敵は完全に潰しておかなければ、後で後悔することになるかもしれませんよ?」
「敵じゃないだろ。お前も仁と同じ、ただやり方を間違えただけだ」
「……?」
「多分だけど、学園で言ってた助けたい人……1つ歳下の幼馴染って、あの子だろ?」
そう言った晃生は、背後で父の鴻上仁と一時の別れの言葉を交わす心穏を視線で示す。
「ぁ……あぁ……心穏……そんな……治ったのか……?」
全身の痣が消え、生命力と魔力に満ち溢れたその姿を見て、克心は信じられないといった表情で心穏を見つめた。
だがそこへ、一凜の部下の1人が手錠を手にやって来る。
「高浪克心だな。リライフのギルドメンバーは全員連行する」
「……はい」
克心はその男の指示に逆らうことなく両手首を差し出した。
「克心……お前の身体能力は世の中に必要だ。あの心穏って子も仁の意向で多分学園の高等部に通うことになる。一緒に待ってるから、出てきたら来いよ。約束だ。また一緒に戦おうぜ」
(晃生君……僕はこんなにも手荒な方法で巻き込んでしまったのに、君は……)
「ええ。ありがとうございます。必ず……また戻ってきます。すみません、お待たせしました」
後半の台詞はここまで待っていてくれた公安の男に向けて言い、克心はそのまま連行されていった。
その背を見つめていると、上空からババババババッとローター音が響いてくる。マキナの遠隔操縦で救護者を学園に降ろしてから戻ってきたオスプレイが滞空飛行しながら近くの平地にゆっくりと降下してきたのだ。
拘束したリライフメンバーを自衛隊と公安に引き渡した緋彩や武琉達もその着陸地点の付近に集まっていて、晃生達もそこへ向かう。
「晃生君、優しいね。やっぱり」
隣に並んで歩く木乃香が晃生の顔を覗き込むような姿勢で話しかけた。
「いや……普通だって」
「ふふふっ、私からも、ありがとね。高浪君治してくれて」
「それは全然良いけど、よく勝てたな。それもあんな一方的に……あいつの身体能力、かなり高かったはずだけど」
「い、一方的じゃないよ! もう超ギリギリの接戦だったし! 晃生君に手出されて怒ってたから不思議な力でパワーアップしたのかも! 相手も調子悪そうだったし、ほんとたまたまっていうか……うぅ〜、引かないでぇ〜……」
「はははっ、引かないって。なんで弱く見られたいんだよ」
「だって……晃生君に怖い女と思われそうで……」
「怖くないから。頼もしいよ。あと、俺のことで怒ってくれて嬉しい。ありがとう」
「う、ううん。私が勝手に怒っただけだから……あっ、そ、そういえばあの妹ちゃんは結局本当の妹ちゃんなのかなっ?」
照れ隠しで話題を変えた木乃香が振り向き、さっきから遠くで晃生を見つめていたゼロの方を見た。
「あー、いや……なんていうか、彼女は仁の研究の被害者なんだ。人体実験でいろんな能力者の部位を継ぎ接ぎされてて、俺の細胞も使われてるらしい。だからなんか、ほっとけなくて……助けたんだけど……」
歯切れ悪く言う晃生の元へ、視線を向けられたゼロがやってきた。
「お呼びですか? お兄様」
「おいゼロっ、その呼び方はやめろっ」
「何故ですか?」
「何故って……変だろ。兄妹じゃないのに……」
「ですが、マスターが兄妹のようなものだと言っていました」
「それは言葉の綾で……」
絶妙に言葉の通じないゼロに晃生が困り果てていると、
「まあ良いじゃん晃生君。可愛い妹ができたと思えば。だってこんなに可愛いんだし!」
と、木乃香が目をキラキラさせてゼロに抱きついた。
(そういえば木乃香ってアイドルの一葉唯花が好きだったり、結構可愛いもの好きだったな)
「いや、そういう問題じゃ……」
「それより、この子ゼロって名前なの?」
「聞いてないし……まあ、ゼロは仁が呼んでた呼び方で検体番号0からきてるっぽかったから、他に名前があった方が良いな。ゼロ、なんか呼ばれたい名前とかあるか?」
「……分かりません」
「……そっか。じゃあ、零って名前はどうだ?」
「はい。ではそう呼んで下さい」
ゼロは何も意見せず、晃生の案に対し即座に頷いた。
「それ、ゼロと変わってないんじゃないかな?」
「縁もゆかりも無い名前だと認識しづらいかと思って……それにこの子、モンスター被害で記憶障害を負ってから、仁とか他人の言うことだけ聞いて生きてきたみたいなんだ。『れい』っていうのはこの世界で1番頭の良い子の名前だからな。これからは自分の頭で考えて、自分の好きなように生きてみろって、ここがお前の零地点だって、そんな意味を込めてみた。あっちの麗色ちゃんがいるからややこしいけどな」
「そっかっ、すっごく良い名前だと思う! 零ちゃん、これからよろしくねっ」
「はい」
抑揚なく返す零だったが、心なしか嬉しそうだ。
「じゃ、一緒に学園に帰ろっ。人型の龍だって入学OKだったんだし、晃生君の妹ならあっちの麗色ちゃんも面倒みてくれるよね」
「そうだな。強いし、逆に大歓迎だろ」
そんなやりとりをしながら皆と合流すると、ちょうど着陸したオスプレイが後部ハッチを開いていくところだった。
(長かったリライフとの戦いもやっと終わりか……)
ヘリで攫われ、地下牢からの脱出。研究室に忍び込み、そのさらに地下階ではゼロと戦い、さらに大我、雄理と歪み合って灯真や勇斗達に助けられながら軍団級の仁との連戦。
夕方から戦い続けて、今はもうビルの合間の地平線に見えるほぼ沈んだ太陽の僅かな光だけが横浜の空を赤く照らしている。
それを見た晃生は何かを忘れている気がして——ハッと気付く。
(ヤッバ!)
今から皆でオスプレイに乗って帰るというタイミングで急に慌てだした晃生は——
「木乃香ごめん! 急ぐぞ!」
それだけ言って木乃香をお姫様抱っこで持ち上げた。
「きゃっ……えっ、ちょっ、晃生君!?」
驚きと恥ずかしさで顔を赤くしつつも木乃香は落ちないよう咄嗟に晃生の首に両腕を回した。
「零ごめん! 皆も……俺たちは2人で先に帰る! 木乃香、掴まっててくれ!」
ドッッッッッと地を蹴って跳び上がった晃生は一軒家の屋上やビルの外壁を蹴ってフルスピードで海岸へ向かう。
東京湾では島が浮かんでいるだけあって魔素の影響で重力の歪みが生じていて、浮遊島だけでなく大小様々な岩や土の塊が宙に浮いている。
それを超人的な身体能力で飛び石のように伝ってオスプレイよりも早く学園島へと到達した晃生は一目散にある場所に向かって駆ける。
最短最速で到達したそこは——学園の近くにあるパンケーキ屋さん。
閉店時間まで後少しだが……まだ『OPEN』のプレートがドアにかかっている。
「ふぅ……間に合った……あっ、ごめん! 急に抱き抱えたりして……!」
「う、ううん。それは……良いよ。けど、もしかして晃生君、このお店に来る為にあんなに急いだの?」
「ああ、用事が終わったら行こうって約束してたから。だいぶ遅くなっちゃったけど」
真顔で言う晃生に、木乃香はなんとなく可笑しくなって笑い出した。
「ふふっ、あはははっ、そんなのまた後日で良かったのにっ。急に抱っこで走り出すから何事かと思ったよもー、あははっ」
「い、いやっ、期間限定の8段重ねモンブランパンケーキ、今日までって言ってただろっ」
「そうだけど、あんなことがあったばかりだし、帰ってゆっくりしなくてもいいの?」
「いいよ。ってか俺も行きたかったから」
「えっ」
「あ、パンケーキなっ。俺甘党だし」
「そ、そっか。私と一緒だね。じゃ、じゃあ……入ろっか」
「あ、ああ。せっかく間に合ったんだしな……」
そうして晃生と木乃香はリライフ戦で暴れた分のエネルギーを、激甘パンケーキを頬張って補給した。
「甘いな……」
「うん……」




