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解離性アストラルレイド 〜異世界大戦〜  作者: Aki
第2章 集う才能
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第66話:人間兵器

 対峙する晃生とメイド姿の眼帯少女、ゼロ。


 鴻上(こうがみ)(じん)が人間兵器の成功例と(うた)ったその少女を晃生が注意深く観察していると……点検出来ていない照明がまた一瞬だけ明滅した——次の瞬間、晃生の目の前に立っていたはずのゼロの姿が消えていた。


 ブシュゥゥゥゥッッと晃生の首筋から血が噴出し、その体がゆっくりと倒れる——かと思いきや、ガッッと踏み出した脚で晃生は体を支えた。


()っぶな……ッ! いきなり死んだかと思った……首……飛ばされてたらアウトだったぞ……!)

 出だしで殺されかけた晃生は瞬時に回復させた首をさすりながら繋がっていることを確認する。


「……?」

 仕留めたと確信したゼロがその無表情を少し崩し、意外そうな顔をして振り返る。


「ほう。総頸動脈を斬られたはずだが……」

 後で晃生の体を自分のものにしようと企んでいる仁は逆にその耐久性に声を弾ませている。


(瞬間移動……いや、超スピードか。にしてもどんな速さだよ……)


 既に傷を回復させた晃生がその姿を見失わないよう改めてゼロを注視すると、その両手にはいつの間にか固定刃のハンティングナイフが握られている。

 ファッション性の高い折りたたみ(フォールディング)ナイフなどとは違い、握り(やす)く壊れ(にく)い、実用的なナイフだ。


 それを見た晃生も背中の鞘から二振(ふたふ)りの短剣を抜き放つ。


(こんなに早く出番がくるとはな……)


 相手の筋肉の予備動作から攻撃のタイミングを見切ろうと、晃生はゼロの露出した脚に意識を向ける。その黒いミニスカートから覗く対照的な白い太ももには、レッグガーターのように見えていたツギハギの縫い跡がある。


「人体実験……移植したのは覚醒者の脚か」


 それは外科手術時の縫合糸を抜糸せず残されたものだ。


「ああ。元の持ち主は交通事故で第2(L)腰椎(2)以下の完全麻痺となった脊髄損傷患者でね。下半身不随から一転、魔力覚醒によって超人的な脚力を得ていたんだが、その速度に脳と眼が追い付いていなかった。それを私が有効活用してあげたんだよ」


 ゼロに視線を向けたままの晃生の言葉に仁が答える。


「彼女自身、もともと感情を失うきっかけとなった臨死体験(NDE)時の走馬灯の中で魔力に覚醒して、運動制御を司る中脳を始めとした中枢神経系が強化されているんだ。その肉体のコントロールはどんなアクロバティックな動作も精緻(せいち)にこなし、高速化した神経伝達速度は自在に知覚加速(オーバーレブ)を実現する。実験体としてこれ以上はない最高の素体だったんだよ」 


 隠すつもりはないのか、仁が語るゼロの情報はさっき晃生が盗み見たファイルの内容と一致している。


「ここに来るまでに報告書を読んだ。それだけじゃないだろ」

「ああ。彼女の美しい碧眼(へきがん)も移植した特別性だよ。単純な視力や周辺視野も当然強化されているが、通常ではあり得ない動体視力を誇るこの眼球と高い神経伝達速度の組み合わせによって超スピードの世界でも彼女は周囲の状況を正確に捉えている。左眼は視神経の接続が上手くいかずに失敗してしまったんだけどね」


 元の持ち主の色だろう——ゼロの右眼の虹彩は日本人では極めて珍しい青色。


「あと、盗み見た報告書でこれは読まなかったかな? ゼロの移植時の拒絶反応を抑える為に使ったのは、()()()()()

「……何だと……どういうことだッ……!」

「そのままの意味だよ。ゼロに他の能力者の強化部位を移植する時の繋ぎ(・・)として君の細胞を使ったんだ。魔力の生体防御機能——免疫機能についてはまだまだ謎だらけでね。被検体同士の魔力の性質を同調させなければ互いの組織が崩壊してしまう。だから適合する魔力特性を持つ人間の細胞が必要だったんだ。私が出資している医療施設でも提供者(ドナー)を募って探していたんだが、どうにも不適合者ばかりでね。研究が行き詰まっていた……そこで現れたのが君だ。回復の魔力特性を持つ君の細胞なら移植側と提供側のどちらの組織にも適応可能だと踏んでいたが、期待以上だったよ」

「……両脚と両眼……その規模の移植に使える細胞を、どうやって俺から()った……?」

「忘れたのかい? 以前君の親しい人間を人質にして無理やり研究に協力させようと刺客を差し向けただろう。それは残念ながら返り討ちにされてしまったが、君は狙撃で千切られた腕を放置した。それを有効活用させてもらっただけだよ。落ちていたんだから拾い主のものだろう?」

「……イカれてる」

「君の腕は実に素晴らしかった。体から切り離され心臓からの血液供給が途絶えているにも関わらず、細胞は通常よりも遥かに長時間活動を続け、腐敗が始まらなかった。まるで生きているかのようだったよ。血液まで新鮮そのものだった。そして珍しいA型のRh(-)という血液型までも奇跡的にゼロと一致していた。運命だった。より適合率を高める為にその血もゼロに輸血したよ。だから遺伝学上では違うにせよ、君とゼロは血族——特に肉親のいないゼロにとっては兄のようなものだ。()()()()()()()()()()()()()


 徐々に興奮しながら語る仁の言葉を聞いて、晃生は絶句しながら改めてゼロを見る。


(最初に俺を見てお兄様って言ってたのはそういう意味だったのか……)


 ゼロは相変わらず感情の読み取れない無表情で晃生を見つめているが、今の話を聞いた後では晃生には何故かそれが悲しげな表情に見えてしまう。


(別に……臓器提供とか献血のボランティアで、それを受け取った人と兄弟姉妹になる訳じゃない。けど……)


 晃生は改めて意識を向けたゼロの魔力にほんの少し、だが確かに自分の魔力と似た感覚を覚えていた。同時に仁に対する激しい怒りも。


「お前は……その子にとって俺が兄のような存在と理解しながら、俺と戦うよう命令したのか?」

「それが何か?」

「——ブッ飛ばすッ!」


 血を分けたゼロを弄んだことに対し怒りを(あら)わにする晃生は仁に向かってダッッと地を蹴って駆け出した。


 だが——


「無駄だよ」


 仁が呟いた直後、晃生の大腿部に冷たい感触が走る。

 ゼロに超スピードで脚を斬られた晃生は転倒しかけて走るのを中断させられた。


「おいゼロッ、そんな奴の言うことなんか聞くなッ!」


 晃生はすぐに回復するが、呼び掛けを無視したゼロがその隙を(のが)さずナイフを振るい、足首——アキレス腱を斬られた晃生は完全に機動力を失う。さらに続く膝裏、鼠径(そけい)部、手首、鎖骨部、側頭部への攻撃に晃生は全く対応出来ない。


 人体の急所(ウィークポイント)——膝窩動脈、大腿動脈、橈骨動脈、鎖骨下動脈、浅側頭動脈を斬られた晃生の全身からブシュゥゥゥゥッッッと派手に血が()き出す。


(くそッ、仁を殴るにはやっぱりまずこの子を何とかするしかないか……!)


 5箇所もの動脈をブチ切られ、普通なら完全に致命傷。だからこそ晃生は仕留めたと思い込んでいるであろう脚を止めたゼロに短剣で斬りかかる。


 だがギリギリ(・・・・)で反応したゼロは余裕(・・)で晃生の短剣を躱した。


 ゼロが持つ碧眼の動体視力は仁が説明した通り周囲の状況を極めて正確に捉え、全てがゆっくり動いているかのように見えている為、反応さえ出来れば対応することは容易い。


 だがそこで、ゼロにとって驚くべき事態が起こる。

 

 全てが止まっていると錯覚する程のスローモーションの視界の中で、晃生の眼がギョロっとゼロの方を向いたのだ。


 それでもゼロはあくまで無表情に攻撃を繰り出すが、晃生はナイフを頬に掠めながらもギリギリで躱し、さらにはゼロを追いかけさえして短剣を振るった。


 ゼロからすれば、自分だけが動けるはずの時が止まった世界で相手が突然動き出したような感覚。

 

 瞬間移動のように掻き消えては現れるゼロの姿を即座に捕捉して追い続ける晃生の肉体も、ゴブリンに神経ごと引きちぎられまくった時や吉良(きら)アンナの電撃を喰らった時の超回復で神経伝達の効率は格段に向上しているのだ。


 両者の反応速度(リアクションレート)はほぼ互角。


 だが動く物体を捉える眼、その情報を処理し肉体を操る脳、奇襲、回避に長けた脚——これらに特化した強化身体を持つゼロは動作速度(モーションスピード)という点において晃生を上回っており、それが現状晃生がゼロに鬼ごっこで勝てない要因だ。


(だったら疲れるまで追い回してやるッ……!)


 疲労による速度低下を狙う晃生は回避時のカウンターで自分が斬られることも構わずゼロに斬りかかっていく。


 通常の斬撃では高密度に強靭化した晃生の筋繊維を断つことは出来ず、せいぜいが皮膚の表面、薄皮を斬る程度だが、超スピードの中で振るわれるゼロの高速斬撃や刺突は晃生の制服と筋肉の鎧を突破してダメージを与えていた。


「良いナイフだな。それ」

「魔力伝導率の高い魔銀石(ミスリル)製のハンティングナイフだよ。魔力武器の性能は使用者が()める魔力量と素材の魔力伝導率の掛け算だからね。ゼロは自分の魔力に加えて移植された2人の魔力も受け継いでいるから、魔力量もそこらの覚醒者の比ではないのさ」

 

 晃生はゼロに話しかけたのだが、高みの見物をしているだけの仁が饒舌(じょうぜつ)に答える。

 それを無視してゼロを追い回す晃生は攻撃を喰らう前から常に超回復を発動し続け、斬られた箇所を即座に回復しながら徐々に筋出力を上げていく。

 機動力を奪おうとゼロが脚を中心に斬ってくれるおかげだろうが……それ以上に晃生は普段よりも高い身体能力を発揮出来ている気がしていた。


 スピードが上がってきた晃生の短剣がゼロのメイド服を(かす)める。


 超スピードの世界でブレる視界、その脳の処理速度の遅れという異常さえ元の状態を超えて回復し、晃生の神経伝達速度が上昇していく。


 超高速の急制動でブチブチと断裂しては回復する脚の筋肉はより強靭でしなやかに最適化され、この鬼ごっこの中で晃生の認識(インプット)から動作開始(アウトプット)までの速度、さらには動作速度までもが徐々にゼロを上回り始めた。


 ナイフを片方投げて隙を作り、晃生の背後に回ったゼロが首を完全に切断しようと速度を乗せた刃を振るうが——その挙動を正確に捉える晃生が短剣でゼロのナイフをギィンッッと弾き飛ばす。


「……!?」

 事ここに至って、ゼロが初めて——少しだけ驚いたような表情を見せた。


「——追い付いたぞ」


「馬鹿なッ!?」

 だがもっと焦っているのは仁だ。自分の最高傑作にこの短時間で対応した晃生の成長速度がよほど計算外だったのだろう。


 だがゼロはあくまで冷静に、メイドスカートを(ひるがえ)して抜いた二丁拳銃を早撃ちする。

 

 それを読んでいた晃生も見張りの男から奪ってズボンの背後でベルトに挿していた拳銃(グロック)を短剣を手放した右手でクイックドローし、左手はそのまま短剣を振るう——ギギィィンッッッ!!


 ゼロの能力を語る度に、晃生の能力を目にする度に饒舌になっていた仁が押し黙り、地下室が静寂に包まれる。


 今、晃生は銃口から予測したゼロの2本の射線に対し、片方は短剣を寄せ、片方は自身の銃口を向けて——2発の弾丸を、銃撃と斬撃で迎撃したのだ。


 弾丸を弾丸で弾き飛ばし、短剣で斬り飛ばした曲芸に晃生自身も驚愕している。


(遂にここまで出来るようになったか……)


「さあ、決着つけようぜ」

 駆け出した晃生に対し、ゼロが狙いを定め直す。


 1発目の銃撃は阻止できないと判断した晃生はスライディングで射線の下に潜って躱し、自分を追って足元へ向けてくるゼロの銃口を両手で左右に弾く。そして瞬時に右手の銃口を向けるが、ゼロは後方宙返りをしながら晃生の銃を蹴り上げた。


(やば、武器を持たれてついそればっか警戒しちゃってたな)


 着地を攻撃して銃撃を妨害しようとした晃生の1歩先、空中で身を捻りながら撃ってきたゼロに体勢を崩された晃生はなんとか避けながらも唯一残った武器——短剣を敢えて投擲(とうてき)しつつ距離を詰める。


 着地と同時に首を(よじ)って短剣を(かわ)したゼロは即座に銃口を晃生に向け——パンッという発砲音と共に発火炎(マズルフラッシュ)(ひらめ)く。

 だが既に肉薄していた晃生が直前で銃口を逸らしており、銃弾は明後日の方向へ。


 間髪入れずに掴みかかる晃生の手を後退して躱しながら銃撃を(つら)ねるゼロ。

 対し晃生は射線から体を逸らし、(ある)いは発砲前に相手の銃口を逸らしてゼロを追う。


 壁際に追い詰められたゼロは壁、そして天井を足場に駆け上がり、頭上から銃撃してきた。

 見上げながらターンして躱した晃生はドンッッと地を蹴って反転しながら跳び上がり、天井に足をついて体の上下をゼロと揃えて2丁の銃を奪いにいく。

 その手を躱しながら銃撃するゼロと、その銃口を逸らして弾丸を消費させる晃生。

 慣性が働く数瞬の間、重力を無視した天井での攻防が続く。

 焦れた晃生が強引に手を伸ばしたところをゼロの強化脚の蹴りが襲い、ドゴォンッッッッと地面に叩き付けられる。

 天井を蹴って迫るゼロの追撃の踏み付け(ストンピング)を転がって避けた晃生は回転脚倒(スターフィッシュ)立起き(キックアップ)でゼロの軸足を()りながら腕の力で起き上がり、さっき蹴られながらも奪い取っていた拳銃と同時に——ようやく落ちてきた()()()()()()()()()()拳銃(グロック)を背面キャッチしてゼロへと向ける。

 ゼロは片膝をつきながらも地に倒れておらず、残った片手の拳銃を晃生へ向け、足払いをかけられながらも拾っていた晃生の短剣を喉元に突き付けてきている。


 互いに至近距離で武器を向け合っている状態。両者の高速バトルの結果は——引き分けだ。


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