第63話:フォトンソード
学園長室を後にした晃生はそのまま訓練場へと向かった。
戦闘訓練の約束をしていたのは魔力武装の使い手、倭武琉だ。
「よォ、良い武器は手に入ったか?」
「ああ。早速慣らしていきたいからな。今日は練習相手頼む」
晃生は麗色に貰った武器をそのまま訓練で使っておこうと、最初は勇斗に声を掛けていたのだが、先に灯真と炎を斬る訓練に付き合ってもらう約束をしてたらしく、武琉に相手をしてもらうことにしたのだ。
「いいぜ。こっちもお前と闘りゃあ良い訓練になりそうだからな。あの躑躅森亜凰に迫った身体能力は面食らったぜ。回復役って聞いてたのによ」
「あれはたまたまだけどな」
言いながら、晃生は制服の内側——背中に隠した鞘から二振りの短剣を抜き放つ。
この秘匿性の高い鞘とベルトも麗色がセットでくれたものだ。短剣の色と合わせた漆黒のデザインになっている。
「おお、それがあの学園長に作ってもらった武器か?」
答える前に晃生は剣に魔力を流し、ブゥゥンッと光子の刃を出現させる。
「ああ。これが俺の武器だ」
それを見た武琉は晃生がそうだったように、羨ましそうに目を輝かせた。
「おおおおッ、なんだそのカッケェ剣は! 俺にもくれ!」
「お前は魔力で剣作れるだろ……麗色ちゃんにも渡したし、蒼玉龍の鱗はもうない」
「ンだよクソが」
妬みから戦闘意欲を増した武琉が魔力を両手に集め、左右の手に太刀を握った。
「叩き折ってやるッ!」
右の太刀を後ろへ、左の太刀を右脇に引いて構えた武琉がダッと駆け出す。
「龍鱗から作った武器だぞ。折られるかよッ!」
晃生は刃の重さが無い分軽い短剣を持ったまま、構えることなく腕を振って走り出した。
右から左へ、二刀で並行に薙ぎ払うような斬撃を、晃生の光子剣が受け止める。
ギィィィンッッッと甲高い音が響き、魔力が衝突したことによって火花のような閃光が散る。
同時に武琉の太刀が大きく弾かれた。
「うおッ!? すげぇパワーだな!」
晃生より大柄な体を持つ自分の方が押し勝てると踏んでいた武琉が驚愕の声を上げる。
だがそれも当然で、普通の筋トレで肥大しただけの武琉の筋肉より、引き締まっていながらも超回復によって筋繊維密度や運動神経細胞等、運動単位ごと強化され続けている晃生の方が筋出力は圧倒的に上だからだ。
「だったらこれでどうだッ!」
武琉は手に持つ太刀ではなく、新たに空中で生み出した大太刀を操作し、手の太刀を振るう動作とともに斬りつける。
晃生は右は順手のまま、左を逆手に持ち替えた光子剣で受け、ギンギンギンギンギィンッと互いの魔力の刃が激しく衝突する。
「まだまだいくぞッ!」
武琉は空中で操作する大太刀を左右1本ずつ増やし、4本の大太刀プラス左右の手に持った2本の太刀、計6本の刀で晃生へと斬りかかった。
「六刀流とは痺れるな!」
だが、晃生の超人的な動体視力と反射神経がその六振り同時の猛攻をことごとく弾き返し、受け流していく。
ガギギギギギギギギギィンッッと連なる剣戟音が鳴り止むが、防ぎ切った晃生は無傷だ。
「お前、それで剣握るの初めてかよ……どんな身体能力してやがんだ」
「どれだけ身体能力が高くなっていっても、それだけで日本最強に勝てるビジョンが思い浮かばないんだよ」
「確かにアレはバケモンだったな」
「任務を間近で見たけど、あの人はまだまだあんなもんじゃなかったぞ」
「マジかよ……」
そんな話をしながらも魔力の刃と光子の刃が交錯し、威力と手数を増していく武琉とそれに身体能力だけで張り合う晃生が衝突する。
武琉が操る大太刀が10本を超えた頃、剣戟の音に混じって肉弾戦の打撃音や魔法攻撃による爆発音が聞こえるようになってきた。
他の生徒達も自主的に戦闘訓練を行なっているのだ。
その中の1組、高浪克心と獅童玲旺がやり合っている様子が、少し不穏だ。
「ヒャッハハハァッ! 貴方のようなケダモノごときがッ、何度やっても僕に勝てるわけないだろうがッ!」
「ガァァァァッ!」
会話の様子から、以前克心に負けた玲旺が再戦を申し込んだのだろうか。
心音を鳴り響かせる克心はその猛獣をも超える身体能力で玲旺の爪と牙による猛攻を掻い潜りながら殴打、蹴打を繰り出し、玲旺をボコボコに打ちのめしていく。
「……ありゃやり過ぎだろ。ちょっと俺が——」
斬り合いを中断して武琉が止めに行こうとすると、無言のままの晃生が先に克心と玲旺の方へ近付いていった。
「ハハハァッ! くたばれッ!」
腹部に強烈な打撃を貰ってうずくまる玲旺に、克心が旋風脚を放つ——
金属バットのフルスイングのような威力の回転蹴りを、割り込んだ晃生がガッッッと素手で受け止めた。
「……なんですか? 晃生君。訓練の邪魔しないで下さいよ」
「訓練に見えなかったから。足りないなら俺が相手になろうか?」
少しだけ凄みながら、既に玲旺を回復させている晃生が克心の脚を離す。
「丁度、猫相手では物足りないと思ってたところだったんですよ。晃生君とも闘り直したいと思ってましたしね」
「……武琉ごめん。今日はここまでで。剣の修行付き合ってくれて助かった」
「ああ。俺も良い訓練になったぜ」
そう言って克心を睨む玲旺を連れて武琉が去って行くのを見送った晃生は、視線を克心に戻す。
「何を焦ってるんだよ。克心」
「……僕が一体何を焦っていると?」
「亜凰とのバトルから……いや、この学園に来た時から、強さに拘り過ぎなんだよ」
「お前に——僕の何が分かるッ!」
興奮状態となった克心がドンッッッと地を蹴り、お得意の突進打撃で奇襲をかける。
車に撥ねられる時のような運動エネルギーが拳に集約して晃生の腹部にズンッッッッと突き刺さる——が、晃生は硬めた腹筋と後ろに引いた右脚で踏ん張り、吹っ飛ばされることなく耐え切った。
「この程度なら避けるまでもないな。まだ心臓が温まってないんじゃないか?」
「……ッ! クソがッ!」
眼が赤く染まり、血管が切れることも構わずドッドッドッドッドッドッと心音のリズムを加速させていく克心が、感情のままに晃生へと殴りかかっていった。
♢
「むぅ〜〜、晃生君、用事ってなんだろ……」
帰りに寄ったカフェの中、ホットカフェオレを冷ましながら木乃香が唇を尖らせる。
「訓練じゃない? うちもとーま誘おうと思ってたけど、訓練場行っちゃったし」
「灯真君は勇ちゃんと訓練してるのよね。炎斬りを完全にモノにするって張り切ってたわよ」
舞桜と愛奏音も男子達が訓練に夢中で心なしかつまらなそうだ。
「そういや、ねこちんと愛奏音ぇはあの2人と付き合ってんの?」
2人に変なあだ名を付けた舞桜が突然そんなことを聞いてきた。愛奏音はそのままだが、木乃香の方は『あまねこのか』でねこちんらしい。
「んぐっ……けほっ、けほっ……!」
猫舌の木乃香がそ〜っと飲んでいたカフェオレが変なところに入って盛大に咳き込む。
「な、なんでそんなこと聞くのかなっ!?」
「いやなんでって……こーき君のこと好きなのバレバレじゃん? むしろ隠してたんだ……」
慌てる木乃香を見て、舞桜が少し呆れたような顔をする。
「わっ、私はそんなっ、晃生君のことなんてっ……いやなんてとか言っちゃだめなんだけど! ぁぅ〜〜……」
「ふふっ、木乃香ちゃん、可愛いわね」
「そう言う愛奏音ぇはどうなん? ゆーと君と付き合ってないの?」
「ええ。付き合ってないわ。勇ちゃんから告白して欲しいし、待ってるの。今の幼馴染の関係も悪くはないしね」
「愛奏音ちゃん大人だ……」
大人っぽさに憧れを持つ木乃香は、自分も愛奏音を見習って余裕を持とうと決意した。
「舞桜ちゃんと灯真君はやっぱり付き合ってるの? あんなに距離近いし」
「んーん。うちも告られたい派だから、意識させようと頑張ってるんだけどねー。最初は恥ずいんだけど、赤くなるとーま見てたらなんか嬉しくなっちゃって、つい揶揄っちゃうんだよねぇ。この前もとーまがっ……あ、えっと……今の忘れて……?」
段々惚気のようになってきたことに自分で気付いて恥ずかしくなり、舞桜は耳を赤くして机に伏せた。
「あんなに積極的なのに、あれ実は照れながらやってたんだ……舞桜ちゃん可愛い……」
そんな恋バナで女子組が盛り上がっていると——ピコンッ、ピコンッと、3人の携帯から聞き慣れない音が鳴った。
電話の着信音でもメールの受信音でもなかった為、気になって全員携帯を見ると……画面にはデフォルメ化されたマキナが表示されていた。
そのマキナの口の動きに合わせて、とんでもない内容の音声が発せられる。
『学園長から通達。中川晃生が拉致された』




