第62話:龍鱗の双剣
サファイアとローズが正式に生徒として認められ、晃生達と一緒に制服を着て授業を受ける日々が続いている。
体術やカースタントを習う人型の龍というのはなんとも珍妙な光景だ。
「はあ、やっと授業終わりか。サファイアは車じゃなくて飛んだ方が速いし、車なんかオモチャに見えるんじゃないか?」
実際にその背に乗ったことがある晃生がサファイアに声を掛ける。
「晃生も走った方が速いだろう。だが晃生の運転は上手いな。なんでだ?」
まだ人型に慣れていないためか細かい動作が苦手なサファイアの横で、同じく運転が下手なローズも同意するようにこくりと頷く。
「俺の場合は車ぶつけても回復させて治せばいいやって思ってるから、思い切りよくアクセル踏めるのかもな」
「ハッ、俺なら放炎加速でもっと速く走れるぜ」
「とーまの車は爆発しそうだし。うちは乗りたくないな〜」
何かと勝負にしたがる灯真とセットの舞桜も晃生達の会話に入ってきた。
「でも、龍に乗って学園に帰ってきた時は驚いたよ」
「本当よね。あの学園長もこの浮遊島の防衛システムを起動させて、魔導砲で撃墜する寸前だったんだから」
「マジかよ……まあサファイアはそんなもんじゃ堕とせないけどな」
晃生が『だよな』という顔を向けるが、サファイアは意外にも首を横に振った。
「いや、何らかの力場で覆われて隠蔽されているが、この島の中心から俺と同等レベルの魔力を感じる。これを向けられていれば晃生とローズを背に乗せていたあの時の俺は逃げただろうな」
(サファイアと同レベルの魔力……? 麗色ちゃん何隠してんだよ……)
どことなく不安を感じる晃生だったが、それ以上は考えるのをやめた。
ちなみに晃生達は入学当初こそ麗色のことを学園長と呼んで敬語を使っていたが、慣れていくうちに6歳も歳下の子を敬うのもおかしな話だと思い直して、今では麗色ちゃん呼びでイジっては怒られるというのが恒例行事となっている。
「ねっ、それより晃生君、この後前見つけたパンケーキ屋さん行かない? 8段重ねのモンブランパンケーキが期間限定で今日までなの」
「あー、ごめん。行きたいけど先にしたい用事が2つあって……その後でもいいか? 終わったら女子寮の前まで迎えに行くから」
「むぅ〜……分かった。じゃあ後でねっ」
「ああ。楽しみにしとく」
灯真や勇斗達にも挨拶した晃生は1人、学園長室へと向かった。
城のような校舎、その最も高い塔部分の最上階にその部屋はある。
長い階段を息も切らさず登った晃生はバロック様式の壮麗な装飾が施された扉をノックし、中からの「入れ」と言う声に続いて入室する。
「失礼しまーす」
中に入ると、こちらも高価そうな机の椅子に着き、なにやらパソコンで作業している麗色の姿があった。その斜め後ろでは麗色と瓜二つの人間酷似型ロボット、マキナがメイド服姿で控えている。
「頼まれてたものが出来たぞ。傑作の奴がな。マキナ、持ってきてくれ」
ニヤニヤ顔でそう言った麗色が指示すると、「入力」と一言呟いたマキナが研究室と思われる隣の部屋から2本の短剣を持ってきて、ゴトッと机に置いた。
刃渡り40cm程の、光沢の無い黒の短剣だ。
「おおっ、これが……!」
「ああ、龍の鱗で作った武器だ」
晃生は以前サファイアから貰った鱗を麗色にみせ、武器を作るように依頼していた。
麗色も珍しい研究素材に目を輝かせ、構造を解析した後でならタダで作ってやると快諾した。
今日はそれを取りに来たというわけだ。
「うおおおっ、かっけぇ……!」
「動きの邪魔にならず、常に持っておける物と言っていたから、短剣にしておいた。背中に挿しておけば服の下に隠し持てるだろう」
「ありがとう麗色ちゃん。最高だ……!」
「麗色ちゃんはやめろ」
「けどこれ、ブルーサファイアとピンクサファイアみたいな龍鱗だったはずなのに、なんで黒くなってるんだ? いやカッコいいから良いんだけど……夜戦仕様か?」
「黒色加工はサングラスの役割だ。この鱗が持っていた光を溜め込む性質はエネルギー変換効率が良過ぎて日中は逆に使い勝手が悪かったからな。魔力を通してみろ」
「え、魔力を……?」
晃生が言われた通りに短剣に魔力を流すと——ブゥンッと光の刃が出現し、刃渡りが延伸した。ちょうど片手剣程の長さまで。
「光子剣。厳密には物体を斬り裂くのは魔力の刃だが、鱗に吸収された光量子を流し込んだ魔力で誘導・収束させて刃のエネルギー密度が増すようになっている。元の素材も一級品だから、当然短剣としても無類の強度と斬れ味を誇るぞ。振ってみろ」
言われる前からウズウズしていた晃生が両手に持った二振りの短剣をビュビュビュビュンッッッと風切り音を上げて振り回す。
逆手に持ち変えれば防御的にも使いやすそうだ。
「馴染んだようだな。光子の刃は発動しているだけで常に魔力を持っていかれるから普通なら到底扱えないが、籠める魔力量に依存して威力はどこまでも上がっていく。無限の魔力供給を受けられる、まさにお前専用の武器だ」
(これまで打撃攻撃しか出来なかったからな。これでリーチも伸びたし、攻撃力アップだ)
晃生はグッと短剣を握りしめた。
「期待以上だ……ありがたく使わせてもらうよ」
「ああ。私も面白い研究が出来た。魔導兵器の応用に使えそうだ」
「何作る気だよ……まあ、とにかくありがとう。後は実戦で使っていくよ」
「晃生。ちょっと待て」
礼を言って出ていこうとする晃生を麗色が呼び止める。
「ん……?」
「躑躅森亜凰——この国で最強の力を体感して、任務を間近で見て、お前はどう思った?」
「どうって……普通にチートだろと思ったけど」
晃生はあの無敵の自動防御や不可視の無限攻撃を思い出しながらそう答えた。
「いずれ、あれを超えられるか?」
意外な質問に対し、晃生は少し黙る。
(そりゃ、俺の能力なら戦うほど強くなれるけど……)
「……何で、そんなこと聞くんだ?」
晃生は質問を質問で返した。
「私がこの学園を作った理由は、強い能力者を増やすためだ。始まりのゲート出現以降、魔物の発生件数、被害者数ともに増加の一途を辿っている。政府は自衛隊に配備する魔導兵器をよこせとうるさいが、それだけでは不十分だ。どれだけ兵士を揃えようと、一定のレベルを超えた敵には意味が無い。必ず、強力な戦士が必要になる時が来る」
(俺は木乃香を守りたいってこと以外には、力を持った責任感みたいなもので何となく人の為に力を使わなきゃと思ってた。けど、麗色ちゃんは大局的に情勢を見てるんだな……)
「晃生。私はお前達に期待しているんだ。お前達なら、いずれ総軍級にまで届くと」
「……さっきの答えだけど、俺は亜凰を超える。亜凰が勝てない敵が来た時、誰かなんとかしてくれではいられないからな。亜凰が勝てない敵っていうのも自分で言ってて想像出来ないけど」
「フッ、頼もしい限りだ。なら1つ教えておこう。最近お前達と同い年で2人、強力な能力者が台頭してきている。既にギルドを起こし、高難度の任務もこなしている奴らだ。これからはお前達も任務に当たることが多くなるだろうから、どこかでぶつかるかもな。その時は蹴散らしてやれ」
「蹴散らしていいもんなのかそれ……」
「任務を妨害しない程度に、徹底的にやってやれ」
「どっちだよ……まあ、会えるのを楽しみにしとく。どんな奴らなんだ?」
「——最強の盾と矛を持つ男と、その身に悪魔を宿す男だ」




