第61話:サファイアとローズ
ムカシオオホホジロザメ。
それはかつて実在した、古代の巨大鮫。
軟骨魚類のため骨格の化石はほぼ残っていないが、唯一残存する歯からその生態が類推され、史上最大の捕食者魚類とも言われている。
その太古の海の覇者は、ティラノサウルスの10倍、18万ニュートン以上の咬合力で鯨を骨ごと噛み砕いて喰い荒らした後、デカ過ぎる歯が並ぶ大口を晃生達へと向けた。
「あー……なあ、あれ……耐えられるよな……?」
「回復してくれていればね。捕まってなさい!」
ガチンッ、ガチンッ、ガチンッ!
晃生達に喰いつこうと巨大な顎を開閉しながら追ってくるメガロドン。
それを亜凰が引力で自分達を引っ張り、ジグザグに躱しながら逃げる。
空気の800倍もある水の密度の抵抗に加え、緊急時に備えて斥力場の強度に魔力を割いた状態では流石の亜凰でも地上と同じ速度は出せないらしく、迫り来るメガロドンの大顎が晃生の恐怖を煽る。
そこへさらなる巨大生物——レヴィアタン・メルビレイが何処からともなく現れ、メガロドンへと襲い掛かった。
旧約聖書に登場する悪魔、リヴァイアサンの名を冠するそれは、かつて古代の海でメガロドンと双璧をなした肉食の鯨。
さっきやられたシロナガスクジラの報復かのようにレヴィアタンがメガロドンに噛み付く。
巨大な尾びれで水を掻き分けて身体をくねらせ、暴れ狂って噛み付きを振り払ったメガロドンと再度その肉を食い千切ろうとするレヴィアタンが旋回しながら対峙する。
この隙に遠ざかろうと方向転換した晃生達の眼に、さらなる海獣の姿が映る。
こちらも白亜紀の海を支配した最強の海生爬虫類、モササウルスだ。
ワニを厳つく巨大化させたような見た目のモササウルスはメガロドンとレヴィアタンの間を切り裂くように登場した後、2体を超える大口を開けて威嚇する。
いずれも食物連鎖の頂点に君臨する覇者同士。
突如として始まった海獣大決戦から逃れる為、亜凰と晃生はさらに深く、海の底へと潜っていく。
「絶滅種が3体も……どうなってんだよこの海は……!」
「これまで船が襲われたケースが少なかったからあまり問題にされなかったけど、思っていた以上に環境が変化してるみたいね……」
徐々に太陽光が届かなくなっていき——今、水深1000m程まで来た所だろうか。
これまで頼りにしていた亜凰の体から漏れ出る魔力光でも周囲が見えなくなってきて、今起きた激闘から静かな暗黒の世界へと一転する。
生命の気配を感じない、まるで宇宙のような場所だ。
まるでこの世界に、自分達以外なにも存在しないような、そんな錯覚がしてくる。
「これはこれで怖いな……」
晃生がそう呟いた時、チカッと、揺らめくような光が下方に見えた。
その光を目指して進んでいくと、さらにチカッ、チカチカッと青白い光が無数に増えていく。
気付けば眼下に星空のような光景が広がり、それこそ宇宙空間にでも立っているかのようだ。
その深海の星空へと近付いて見えてきた光の正体は、ゆっくりと深海を漂いながら発光するクラゲだった。
晃生達が魔力光を頼り出したように、水深200m以深の深海においては人間の目の網膜の光受容体では太陽光を拾えなくなり、暗闇に見えてしまう。
だが実際は水深1000m程まで太陽光は差し込んでおり、それより浅い水深に生息している生物の中には下に棲む天敵に対して影として位置がバレるのを防ぐ為、カウンターイルミネーションと言って自分がいる位置と同じ光量の発光を行うことで姿を隠す種が存在する。
しかしこのクラゲ達、影を隠すどころか差し込む太陽光を遥かに超える明るさで青白く発光しており、まるで俺はここだと言わんばかりだ。
「生物発光……にしても凄い光量だけど、これも魔素の影響か」
自分から位置を知らせているということは、毒か何か、自分を食べに来た相手を返り討ちにする能力があるのだろう。
本来であれば囲まれることは避けなければいけない危険な群れだ。
「ええ。この子達が深海に沈む星空の正体だったのね……幻想的……」
このクラゲの群れの中にいれば周囲が見渡せる。それ程の光量を見て、亜凰は思いついたように人差し指を立てた。
「この星クラゲ達、連れて行きましょうか」
指をくいっとやって光るクラゲ達を自身達と共に引っ張っていく亜凰。
「星クラゲっていうのか」
「今勝手に付けただけよ」
「……まあ、灯りとしてちょうど良かったな」
「綺麗だしね」
深海の星達を引き連れてさらに海底を目指す2人。
現在、深度は約2000m。
星クラゲを照明にして周囲を見渡していると、蠢く巨大な影に晃生がビクッとなる。
ぬうぅっと深海の幽霊のように現れたのは、電車1両分程もある巨大なイカ。
20m超のダイオウイカだ。
星クラゲの灯りに誘われたか、ダイオウイカはその太い触腕で1匹のクラゲを捕獲した。
だが次の瞬間、ビクビクッ、ビクンッとダイオウイカが痙攣し、ものの数秒でプカーっと漂うだけの死体となった。
「なんだ今の……?」
「どうやらこの子達、思っていた以上に強力な毒を持っていたようね。あの巨体を秒殺なんて、頼もしいじゃない」
星クラゲは触手に刺胞と呼ばれる毒棘を持っていた。
それ自体は多くのクラゲと同様だが、星クラゲの毒は既存のものとは比較にならないほど強力なようだ。
だがそれも、より巨大な敵には通用しない。
ビタンッと亜凰のバリアに太さ1mはあろう触手が張り付いた。
斥力に押し返されて留まっているその触手には巨大な吸盤が並び、ウネウネと動きながら収縮している。
「またダイオウイカか……さっきの倍以上あるぞッ……!」
「いいえ、これは……」
深海に潜む悪魔——クラーケンだ。
亜凰は星クラゲを巻き込まないように指向性を持たせた斥力を質量の大きいクラーケンの頭部に向けて放ち、弾き飛ばした隙に距離をとっていく。
亜凰のバリアが壁を張るタイプなら吸盤に吸着されてそう簡単には引き剥がせなかっただろうが、斥力によって押し留める斥力場では吸着のしようがなく、急に衝撃を受けたクラーケンは黒い墨を吐いて晃生達の視界を奪う。
その煙幕代わりの墨が晴れる頃にはクラーケンは星クラゲが照らす範囲外へと去っていた。
「怪物ばかりだな……深海」
「もともと宇宙よりも到達が困難とまで言われる未知の環境だしね。けど、そろそろ海底に着く頃じゃないかしら」
亜凰の言う通り、現在晃生達は水深3500mを超えた。
そこで晃生は違和感に気付く。
(星クラゲの光量が弱く、いや、周りが明るくなってる……?)
「晃生君、気付いてる?」
「ああ。まるで海面に向かってるみたいに明るくなってきたな」
星クラゲのようなチカチカと煌めく光点ではなく、海底を照らす程の、何か強烈な光がある1ヶ所から放たれている。そんな感じだ。
蠢くような光源に吸い寄せられるように、下へ下へと潜って、潜って……晃生達は遂に、海底へと辿り着いた。
そこで目にしたものは——
海岸で出会った、あの蒼玉龍だった。
地上では違ったが、そのサファイアのような鱗は暗黒の海底を明るく照らす程に光を放っている。
その海底に沈む太陽のような輝きに照らされて……番いだろうか——2体目の龍の姿が暗闇に浮かび上がった。
塒を巻く蛇のように長大な胴体を渦状に纏めて動かない方の1体は上顎の先端から左右に伸びる髭がないことや、頭部から後方に向かって枝分かれする氷柱のような角が極端に短い等の相違点から、おそらく雌だろうと考えられる。
雄……海岸で出会った方の1体は雌を守護するかのようにその周囲をゆっくりと泳いでいる。
海岸では見えなかったその全長は今も長すぎて正確には測れないが、目測300m超。
東京タワーと同じレベルの、超巨大生物だ。
あまりに巨大過ぎる龍の遊泳によって海流さえ捻じ曲げられ、渦巻くような水の流れが生まれている。
「なんてスケールだ……」
呟いた晃生の声、その振動がバリア内の空気から水中を通して伝わったか、雄の蒼玉龍がギュルッッッと泳ぎを速め、頭部を晃生達に向けた。
そして禍々しい口を大きく開けたかと思うと、その口腔内にキュィィィィッッッと膨大な魔力を溜め始めた。
咄嗟にヤバいと思った亜凰は、あれが何らかのエネルギー放射の予備動作だと見抜いて引力を全力で発動させる。
口腔が向かう射線上から亜凰達が飛び退いた次の瞬間——
——カッッッッッッッッッッッッ!!!
網膜が焼き切れたかと思う程の強烈な光が海底の闇を消し去り、海水を蒸発させる未知の光線が放たれた。
数瞬前まで晃生達がいたところを一瞬で蒸発させながら、遥か上空の雲までも届き得る光線が彼方へと消え、海底はまた闇に覆われる。
「た、助かった……なんだ今のッ……あれホントに生き物かよ……!」
「直撃してたら、私の斥力場と晃生君の回復力でも死んでたかもね……だけど、すぐに次の攻撃をしてこないところを見ると、もうエネルギー切れなのかもしれないわ」
「確かに……あいつの鱗から出てる光が減って、周りがちょっと暗くなってるな」
今のブレス攻撃は——光子誘導増幅放射。
地上で吸収した光量子を主とした太陽光の電磁波を魔力と共に一気に放つ、亜光速の放射攻撃。
蒼玉龍は質量ゼロの光子に魔力という質量エネルギーを加え収束、放射まで魔力操作でやってのけたのだ。
まさに異次元の怪物……だが亜凰の見立て通り、蒼玉龍は龍鱗に溜め込んだ太陽光を今の一撃でかなり消費してしまっていた。
よく見れば雄が食料として置いたと思われる翼竜や巨大な深海ワームも雌の頭部の周りに散見されるが、どれも食べた跡がない。
そんな異界の龍の体構造など知る由もない晃生だが、エネルギーが枯渇した様子で睨んでくる雄と動かないままの雌を見て、弱っている雌を守っているだけなのかもしれないと感じ取った晃生は2体の龍に手を向け、超回復を使う。
「晃生君!? 貴方何を……っ!」
瞬殺の必殺ブレスを放ってきた龍を突然回復させた晃生の正気を疑い、亜凰が初めて声を荒げて身構えるが……
その雄の龍は、自身の光を吸収して回復し、鱗から光を放ち始めた雌を見て敵意を収めた。
雄と雌は長い胴体を絡めるように寄り添い、頭部をくっつけて喜びを表現している。
「……雌を守っていただけだったのね。晃生君、どうして気付いたの?」
「あー、いや、なんとなくですよ」
強いて言うなら、男だから……なんて言葉が浮かんだが、晃生はカッコつけるみたいで恥ずかしいと思い口にしなかった。
亜凰と晃生がその美しい光景をしばらく眺めていると、雄の龍がやってきてその頭部を2人に向けてきた。
「乗れ、ってことかしら……」
「そう……なのかな」
亜凰はゆっくりと差し向けられた頭部に降り立ち、引力を張って固定する。
蒼玉龍はグルルルルゥゥゥッッッとひと鳴きした後、晃生達を乗せて上へと泳ぎ出した。元気になった雌の龍と共に。
どうやら治してくれたお礼に地上へと連れて行ってくれるようだ。
「まさか龍の背に乗れるとは……!」
「貴方といると驚くことばかりね」
「いや、こっちの台詞なんだけど……」
「晃生君とじゃなきゃこんな体験出来なかったわ」
海中を飛ぶように泳ぐ龍の背から、海面に向かう途中でまた会ったメガロドンに『あんなに小さかったっけ』という感想を抱きつつ、猛スピードで過ぎ去っていく深海での出来事に想いを馳せる。
「亜凰が連れ出してくれたおかげだよ。今度は太平洋に行こう。マリアナ海溝の底まで」
「軽く倍以上の水深だし、今の魔力じゃ無理ね。貴方ももっと強くなりなさい。私を超えるくらいに」
「言われなくても、すぐに追い越しますよ」
「生意気。ほら、海面が見えてきたわよ」
亜凰が視線で示した先、頭上では久しぶりにすら感じる太陽の光が、日が傾いている為か弱いながらも波に合わせて揺めきながら差し込んでいる。
「行けサファイア! このまま空まで!」
蒼玉龍を勝手にサファイアと名付けた晃生が叫んだ直後——ザッッッパァァァァァアアアアアンッッッと海を飛び出した。
地上ではサンセットビーチ釜谷浜の見所でもある日の入りの時間帯。
水平線に隠れながら照らす太陽の優しい光を心地良さそうに浴びながら、蒼玉龍がサファイアのような鱗の輝きを強めていく。
海底ではよく分からなかった雌の龍は雄と違って淡いピンク色の鱗をしており、2匹の龍が飛ぶ軌跡が夕焼けに染まる大空に色彩を加えている。
海面に浮かぶ美しい光の道を龍の背から眺める晃生達も、これには深海の恐怖を忘れさせられてしまった。
光を弱めた陽の光を追いかけるように、日本海上空を旋回する蒼玉龍は高度を上げる。
海上で全長300mを超える2匹の巨大龍に大騒ぎする漁船の船員達を横目に、晃生達は夕陽を眺め……
やがて、日が沈んだ。
蒼玉龍は誰に言われるでもなく陸地へと向かい、晃生達と出会った砂浜で2人を降ろしてくれた。
流石の亜凰も深海の水圧に耐える斥力場を長時間張り続けるのはかなりの負担だったか、ようやく気が抜けて「ふぅ」と一息つく。
「ありがとな。おかげで早く深海から上がれて日の入りが見れた。それも特等席から」
同じく亜凰に回復をかけ続けていた晃生も肩の力を抜き、蒼玉龍の頭を撫でる。
それを見た雌の龍に頭を差し出され、亜凰は一瞬キョトンとなるが、くすくすと笑って同じように頭を撫でた。
すると——
パァァァァアアアアッと2匹の龍が全身を光らせていき、晃生達は眩しくて目を瞑る。
その謎の発光現象は数秒で徐々に収まっていき、目を開けるとそこには——それぞれブルーサファイアとピンクサファイアの綺麗な髪を持つ美男美女が立っていた。
足元には数枚、大皿サイズの鱗が落ちている。
「え? 何が起こったんだ……これ……」
「……驚いた。人型をとれるのね、この子達」
龍が人の姿をとった見た目の年齢など意味は無いのだろうが、パッと見は晃生と同じ19〜20歳くらいに見える。
雄……男の方はフィジーク選手のように鍛え抜かれた屈強な肉体を持ち、女の方は体の凹凸が凄まじくハッキリとした海外のグラビアモデルのような妖艶さだ。
その堂々たる立ち姿と今起きた現象に対する驚きで気付くのが遅れたが、2人は一糸纏わぬ裸体を陽が沈んで人目がないとは言え屋外の砂浜で晒している。
「ちょっ、なんで裸なんだよ!」
慌てて晃生が男に、亜凰が女の方に上着を着せていると……
「俺の番いを救ってくれてありがとう。助かった」
男が、口を開いた。
「……喋れるのか」
されるがままの人型の蒼玉龍に上着を着せ終わった晃生が驚きながら呟く。
「知能の高い個体なら、あり得なくはないわね。もともと精霊の領域にいる魔物なら特定の器には囚われないし、異例だけど、実際に海外では人間社会に溶け込んでいる精霊もいるわ」
「マジかよ……あ、君ら……って呼び名無いと不便だな。さっき咄嗟に呼んじゃったけど、サファイアって呼んでいいか? それとも名前あるか?」
「名前は無い。好きに呼んでくれ」
「ならサファイアで。彼女の方は……ルビーって程濃い赤でもなかったし……」
「ローズよ。イメージぴったりだわ」
亜凰がそう名付けたのは、龍形態の時のピンクサファイアの重なり合う鱗がダマスクの香りを纏う半剣弁高芯咲きの美しい薔薇、ラ・フランスを思わせたためだ。
「お、いいなそれ。ローズで良いか?」
晃生が問いかけると、鱗と同じピンクサファイアの色の髪を揺らしながら、こくり、と頷いた。
(妖艶な雰囲気とは反対に、ちょっと幼い仕草だな……不思議系お姉さんって感じか……)
「こいつにはまだ言葉は難しいみたいだ。まあ恥ずかしいだけかもしれないが。理解はしてるから、よろしく頼む」
サファイアの流暢な喋り方は学習材料にしたからか、どことなく晃生に似ている。
「お、おお。海底じゃ彼女具合悪そうだったけど、もう大丈夫なのか?」
「ああ。おかげで良くなったみたいだ」
「そもそもお前ら程強い龍が何で弱ってたんだよ」
「俺達はもともと極寒の闇に生きる種族なんだが、偶然こっちに迷い込んだ時に陽の光を浴び過ぎてな。番い……ローズの魔力回路が焼き切れちまった。雄は出産が無い分エネルギー効率が少し劣るから逆に俺は耐えられたんだけどな」
(凄いな……太陽光を吸収してエネルギーにしてるのか。極寒の闇に生きる……地球で言えば、極 夜で1日中陽が昇らない北極とかに生息する生物ってことかな。ガチの幻獣じゃん……)
「だから光の届かない深海にいたのね」
おそらく光の吸収率が良すぎるこの龍達にとっては、日の入りで姿を隠し始めたものや、月に反射し減衰した程度の太陽光が丁度良いのだろう。
「ああ。それでもローズは餌も喰わないくらい弱りきってたから助かった。そういや餌横取りして悪かったな。いきなり攻撃もしちまったし……」
申し訳なさそうにするサファイアに苦笑しつつ、晃生が首を横に振る。
「いや翼竜は餌にするために倒したわけじゃないから……まああのブレスは軽く死にかけたけど」
「なのにお前は俺達を助けた。俺達の種族は受けた恩は必ず返す。これから俺達はお前に付いて行く」
「え、いやいいって。地上まで送ってくれただけで十分だ。強いて言うなら……これ、貰ってもいいか?」
晃生が拾ったのは、サファイアとローズが人型に変身した時に落ちた、数枚の鱗。龍鱗だ。
「そんなもんいくらでもくれてやるが……俺達にはゴミだし、恩返しにはならない。命を救われた恩は命を以て返す」
「だからいいって……」
「いいじゃない。この子達他に行く宛もないでしょうし、あの学園長なら生徒として面倒見てくれるでしょう」
「こっちに丸投げですか亜凰さん……」
晃生が敬語に戻りつつジト目を亜凰に向ける。
「……はぁ。まあ、この見た目なら大丈夫か。ライオンの体を持つ生徒だっているわけだしな」
「この体はこの世界で生活するのに都合が良さそうで真似させてもらった。この体表面積なら日中の光を浴びても大丈夫そうだ」
「便利だな。精霊ってのは。じゃあ行くか。あ、亜凰の引力操作じゃなくて、龍の背に乗って学園に登場するのはどうだ? みんな驚くだろ。夜なら龍形態でも大丈夫なんだよな?」
大スケールな悪巧みを子供のいたずらのように考える晃生に、また亜凰がくすっと笑った。
「本当に悪い子ね。それなら私はこのままギルドに戻るわ。また授業でね。晃生君。学園では先生と呼びなさい?」
「はーい」
「ふふっ、よろしい。あ、ローズちゃん? その上着はあげるから、そのまま着てていいわよ。じゃ」
素直に返事した晃生に笑顔を向けた後、異界の幻獣をローズちゃん呼ばわりした亜凰は、ローズがこくりと頷いたのを見て、バシュゥゥッッッッと猛烈なスピードで飛び去っていった。
「よしサファイア! 俺達も行くぞ。学園はあっちだ! 多分!」
翌日、日本列島上空を縦断した巨大龍がニュースになり、晃生は年下の学園長に叱られ、アンナから電撃刑を喰らうのだった。




