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解離性アストラルレイド 〜異世界大戦〜  作者: Aki
第1章 覚醒者達
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第6話:ファーストコンタクト

 動かなくなったホブゴブリンを背後に振り返った木乃香は晃生の元へと駆け——バフっと胸の中に飛び込んで来た。


(えっ、ちょっ……!)


 ゴブリンの大群に囲まれた時以上に慌てる晃生を余所(よそ)に、木乃香はぎゅぅぅっと締め付けるように抱きしめてから背伸びをして顔を近付ける。


「もうっ! 何でこんな心配させるのかな! 自分を囮にするなんてっ……」


 突然スタイルの良い木乃香に抱きつかれ、誰もが羨む美少女顔を近付けられた晃生は心臓をバクバクさせながらも、本当に心配してくれていたことが分かる木乃香の泣きそうな顔を見て、その頭にポンと手を乗せた。


「俺が……巻き込んじゃったから。ごめん。危ない目に遭わせて。守れて良かった」


 近くにある……というか自分から近付いたのだが、ダサい眼鏡が無くなった晃生の顔を至近距離から見つめ、木乃香が顔を赤くする。


(うぅ〜〜っ、ずるいっ。あんなに心配させられたのに、平気な顔で優しくするなんて……ずるすぎるよ……)


「あー、っていうか……最後は天音さんが助けに来てくれたんだけど……」

 スマートに対応出来たかと思えば、木乃香に抱きつかれている現状に改めて照れる晃生。


「ううん。晃生君、すごく強くなってた。もうこんな心配させないって約束するなら、許してあげる」


(俺の事なんか心配してくれてたのか……)

「わ、分かった……もうさせないって」


 それを聞いて満足した木乃香は体を離す。

 至近距離では目を逸らしていた木乃香の顔がニコニコしていることに気付き、自分が照れていることを笑われているのだと思った晃生は照れ隠しの意味も含めて逆ギレ気味に、

「てか、何で俺が許されてるんだ。天音さんこそ絶対戻るなって言ったのに何また来てるんだよ」

 と説教するようなムードで木乃香に迫る。


「そ、それはしょうがないんじゃないかな! そもそも晃生君が無茶するからっ……」

「あの状況じゃあれが最善だったんだよ。天音さんだけは逃さないとっ……」

「晃生君が死んじゃうかも知れないのに最善な訳ない! 一緒に逃げれば良かったじゃん!」

「ゴブリン達が地球まで追ってきたら2人ともやられてたかも知れないだろ!」

「だからって晃生君だけ危険な目に遭うなんて私が嫌なの! 崖から落ちた時だって私を庇ってたしっ……!」

「それは今関係無いだろ! 俺はそれ以上に天音さんが危険な目に遭うのが嫌なんだよ!」

「私の方が嫌だし!」

「俺の方が!」

「私の方が!」


 顔を突き合わせる2人の喧嘩はヒートアップしていくが……そこでふと()に戻った両者は相手が自分のことを想って怒っているのだと思い直り、一瞬冷静になった。


「「ぷっ、あはははははっ」」


 それが可笑(おか)しくて、喧嘩してた(はず)なのに声をあげて同時に笑い出す2人。


「まあ、2人とも無事だったし、最善の結果だったってことで」

「うん。そうだね」


 言い合いが終わって落ち着いた木乃香の眼に、ふと晃生の体が映る。

 さっきはいっぱいいっぱいで気付いていなかったが、ゴブリンの大群にズタズタにされた服の隙間から、引き締まったウエストに浮かぶバキバキの腹筋と一回り肥大した上腕二頭筋や三頭筋、腕橈骨筋のラインがくっきり浮き出た(たくま)しい腕が露出していた。


「わっ、すごい筋肉……」

 木乃香は一瞬目を逸らすが、その後もチラチラと見事な細マッチョになった晃生の体を盗み見てまた顔を赤くしていく。


「え、ああ……ごめん。服がゴブリンにやられちゃって」

 見苦しいものを見せてしまったという気持ちと、恥ずかしいという気持ちの半々で晃生は少し斜めを向く。


「鍛えてたの? 晃生君」

「いや、ゴブリンにやられながら回復してたらこうなった。俺も理屈は分かんないけど……」

「そう、なんだ……あ、そういえば晃生君、ここに来る途中で見たけど、あのゴブリン全部1人で倒しちゃったの?」

「あー、まあ、うん。回復しながら、ゾンビみたいになんとか」

 はははと笑って答える晃生の眼に、まだ生えたままの木乃香の猫耳と尻尾が映る。


「ってか天音さんこそなんだよその耳と尻尾は」

(可愛すぎるだろ……)


「あ、これは……あんまり見ないでぇ……」

 恥ずかしそうに猫耳を両手で押さえて隠しながら後ろを向く木乃香だったが、猫耳隠して尻尾隠さず。その尻尾のせいで制服のスカートが際どく持ち上がり、見ないでと言われて余計に見てしまっていた晃生は慌てて目線を上に逸らす。

 だがそこで晃生は、木乃香の体内にもこの世界に溢れる謎の粒子が含まれていることに気付いた。


「……天音さんも、この光の粒子を感じるようになったのか?」

「うん。私も強くなったよ。晃生君と一緒に戦えるくらいに」

「何があったんだ?」

「それはね——」



    ♢



 木乃香が異界に戻ってきた直後待ち構えていた巨大な黒猫。それは地球最大のネコ科動物、アムールトラよりも大きな体躯とサーベルタイガーのような牙を持ち合わせ、琥珀(アンバー)のような金色の瞳を木乃香に向けていた。


 ドキッとした木乃香が無意識に半歩下がり、そこからはもう地面に縫い付けられたように、足がすくんで動けなくなる。


 のし、のしと迫る大猫の恐怖に木乃香がぎゅっと目を瞑った時、予想に反してその猫はちょいっ、ちょいっと木乃香のカバンをつつく。


「……えっ……?」


 まだ怯えつつもゆっくりと目を開く木乃香。よく見るとその黒猫は肋骨が浮き出る程痩せ細っており、輪郭には何らかの粒子の揺らめきがある。


 さらにその足元には、木乃香のキーホルダーを盗った普通サイズの黒猫も出てきて、木乃香の足元にポトっと咥えていたキーホルダーを置いた。


(親子……? この猫ちゃん、元々こっちの世界の子だったのかな……?)


 まるでこの死にかけの親猫の所に木乃香を連れて来たかったかのようだ。


「お、お腹空いてるの……?」


 迷いながらも、木乃香はカバンからキャットフードを取り出し、袋を開けて大猫へと差し出す。

 すると大猫は興奮した様子で尻尾をピンと垂直に立て、ザリザリとキャットフードを食べていく。それを見た子猫も一緒になって、美味しそうに。


(……どう見ても生肉とか食べそうだけど、まあライオンもキャットフード食べるらしいし、美味しそうに食べてるから良かった)


 自分が食べられるわけじゃないと分かった木乃香は安堵し、体の力を抜くが、同時に晃生のことに対する焦りが蘇る。


「あ、ねぇ猫さんっ、お願い力を貸して! 晃生君が……モンスターに襲われてるの……! 猫さんなら強そうだし……!」


 通じるかどうかも分からないまま、木乃香は(すが)るような思いで大猫に頼む。

 返答こそ無かったが、驚くべきことにその大猫は木乃香の言葉を理解しているようだった。


 だが食べるのを中断して木乃香に近寄ってきた歩き方の(つたな)さから、この大猫が痩せ細っている原因が食糧不足による飢餓(きが)ではなく老衰による食欲の低下だということに思い至る。

 要は寿命であり、この子猫は親の最期の晩餐(ばんさん)に異界の食物を嗅ぎ付けて木乃香を連れて来たのだった。


(寿命……そんな……!)


 困惑する木乃香に対し黒猫はキャットフードをもうひと口食べてから顔を上げ、ニャァーーーっと鳴いた。そして次の瞬間、その体が、光の粒子へと分解され始める。


「えっ、なに……これ……猫さんっ!」


 大猫の姿が見えなくなった後、変換された粒子が木乃香の体へと吸い込まれていった。

 この謎の現象について木乃香は理解できてはいないが、粒子とともにあの猫の感謝の気持ちが流れ込んでくるようだった。



    ♢



「なるほど……それでその力を手に入れたってわけか……」


 木乃香から事の顛末(てんまつ)を聞いた晃生は納得したように(うなず)く。


「うん。おもちのキーホルダーも無事帰ってきて良かったよ。ちょっとだけボロボロになっちゃってるけど」

「良かったな。その子猫の方はどうなったんだ?」

「キャットフードを最後まで食べた後、何処(どこ)かへ行っちゃった」

「そっか……にしても、よくここが分かったな。ゴブリンと戦ってるうちに方向感覚がめちゃくちゃになってたから、俺自身もこことワームホールの位置関係を見失ってたのに」

「猫さんに力を貰ってから鼻も良くなったからね。晃生君の匂いを辿ってここまで来れたの」


 猫の嗅覚は犬程では無いが、それでも人間の数万倍〜数十万倍もの優れた嗅覚を持っている。その能力で木乃香はゴブリンをゲートから離すために戦いながら移動していた晃生の居場所が分かったのだった。


「えっ、俺の匂い……そんなする……?」


 さりげなく木乃香から距離を取る晃生。


「あっ、良い匂いだよっ、安心するって言うか……私は好きだよっ」


(す、好きって……!)

 匂いに対しての言葉とは分かっていても、木乃香のような可愛い女の子の口から好きという単語が出て意識してしまう晃生。


「……あー、取り敢えず、今度こそ帰ろう。俺、とにかくゲートから遠ざかるのに必死で道覚えてないんだけど……」

「私も必死だったけど、匂いを辿れば帰れると思う。付いて来て」


 所々で立ち止まり、目を瞑って嗅覚に集中しながら空中を嗅ぐ木乃香に晃生も続き、しばらく進んだ所で——木乃香が不思議そうな顔で辺りをキョロキョロと見回した。


「あれ、私……こんなにジグザグに進んでなかったんだけどな……」

「……どういうことだ?」

「えっと、猫さんに力を貰ってからはゲートから一直線に晃生君の所に向かってきたはずなのに、匂いがバラけちゃってるっていうか……自分の残り香は元々分かりにくいんだけど、それでもこんなことあり得ないのに……」

「んー……生き物とか風に乗って匂いがちょっと移動しただけじゃないのか? ゲートから来た時の匂いを辿って行けば最終的にはゲートに着くだろうし、大丈夫だろ」


 方角も周辺地理も分からない以上、どのみち今は木乃香の嗅覚に頼るしかない。

 それが分かっている晃生も木乃香を安心させるようなことを言い、2人は改めて先へと歩き始める。


 胸中に若干の不安を残しつつも進んで行くと——視線の先に例の巨大な石造建造物が見えてきた。


「あれって……最初にゴブリンと遭遇した場所の謎の岩だよな」

「うん……おかしいな。ゲートから来た時の匂いを辿って来たのに……」

「まあ、あそこからは崖に沿って行けばゲートに着くんだし結果オーライだろ」

「そうだね。戻れるならいっか」

「俺1人じゃ間違いなく遭難してたし、助かったよ」


 そう言ってまずはその巨岩に近付いていった所で、晃生は驚愕する。


 巨岩に座って空を見上げる——1()()()()に。

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