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解離性アストラルレイド 〜異世界大戦〜  作者: Aki
第2章 集う才能
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第59話:アルバドロス

 高速で飛翔する亜凰と晃生はあっという間に浮遊する学園島が視界内に収まる高度に達し、入学試験の日に見たあのカラフルな街並みが姿を表す。

 生身一つで空にいる今、それはオスプレイの窓から見た時よりさらに大迫力な体験だった。


「すっげぇ……空飛んでる……改めて、綺麗だ……!」

「ええ、私もこの景色を創り出した学園長の感性は素晴らしいと思うわ。けど、今は現場に急行するわよ」

「え——ぅおおおおおおおおおおおおお!」

 

 急発進、急加速の飛翔でまたも絶叫する晃生の声すら置き去りにし、その飛行速度は円錐状水蒸気(ヴェイパーコーン)を発生させる遷音速域(せんおんそくいき)を超えてマッハ2.5へと至る。

 音速の2.5倍——これは自衛隊の戦闘機、F-15J(イーグル)と同じ速度だ。


 衝撃波(ソニックブーム)を発生させながら生身で超音速巡航(スーパークルーズ)を行っているわけだが、晃生はその圧倒的な高速度にも関わらず空気抵抗をほぼ感じないことに気付く。


 断熱圧縮による空力加熱で大気中の(ちり)が燃え、ガス化した分子が発光する様子から亜凰の前方2m付近で大気が押し退けられていることが分かる。


 まるで自身が隕石になったようだ。


 そんなとんでもないスピードでも、10分近く飛んでいると少しは慣れてくるもので……


(マジでどんな力持ってるんだこの人……)

「ふふっ、私の能力が気になる?」

 晃生の心を読んだように亜凰が振り向いて話しかけてきた。


「え、そりゃまあ……闘ってる時も考えてたけど結局分からなかったし」

「私に触れたご褒美に、貴方には教えてあげるわよ。けど、後でね」

「後で?」

「見えてきたわよ。あれが今回の討伐対象」

 速度を旅客機と同じくらいまで落とした亜凰が前方を示す。


(見えてきたって、ここはまだ雲と同じ高度だけど……)

 下の景色を見ていた晃生はそう思いつつも前を見やると——


「あれって……ドラゴン(・・・・)!?」


 超回復によって強化された晃生の視力で見えたのは、前脚と一体化した大きな翼を広げて滑空する巨大生物だった。

 その翼開長は遠目からでは航空機と見紛う程だ。

 ジャックの配下であるダイナより少し小さい程度だろうか。

 

「正確にはドラゴンじゃなく翼竜——個体名アルバドロスよ」

「個体名……識別個体(ネームドモンスター)ですか?」

「ええ。風による速度勾配(こうばい)を利用して数千kmもの距離を休まずに飛び続ける、アホウドリ(albatross)のような長時間滑(ダイナミック)空飛行(ソアリング)能力を有していることから名付けられたらしいわ。加えてその風を自分の魔力で発生させるから、海上や低空でなくても飛び続けられる。食事以外の殆どの時間を高速で飛行し続けてるからこれまで討伐が困難だったけど、政府の魔物探知班が飛行予測ルートを特定したから私に連絡が来たってわけ」


「なるほど。けどなんで俺を連れてきたんですか?」

「貴方、他人の魔力を回復させていたでしょ。貴方達の攻撃が予想以上に強くって魔力を消費したから、回復させてもらおうと思って」

「それは勿論良いですけど……」


 晃生は亜凰に回復能力を使った。


「でもそれならあの場で回復していけば良かったんじゃ……」

「後は、貴方に興味が湧いたから。と言うわけであの爬虫類、叩き落としてきて」


 何が『と言うわけで』なのかは全く分からないが、亜凰はアルバドロスの真上に気付かれないように位置取りし、後方2m地点で引っ張っている晃生を見えない手で掴んでいるかのように振りかぶる。


「落としてきてって……俺飛べないんですけど……」

「行くわよ……せー、のっ!」

「ちょっ、待っ——うぉぉぉぉぉおおおあああああああ!」


 亜凰のピッチャー投げのような腕の振りに合わせて晃生はアルバドロスへと飛ばされる。


(くッ、コイツを……()とせばいいんだろッ……!)


 見えない力で細かく位置を微調整され、精密にアルバドロスの背中へと飛ばされた晃生は着地と同時に(うろこ)を掴んで全力で殴る——!


 ——ドゴォォォォオオオオオオオンッッッ!!!


 突然上空から受けた砲撃のような殴打の衝撃にアルバドロスがゴァァァアアアッッと声を上げ、気流を乱しながら落下していく。


 殴り終わった後も何故か謎の下方向への力が加わってアルバドロスごと落ちていき、晃生は必死で鱗を掴んで空に投げ出されないように耐える。


 ヒュゴォォォォォォオオオオオオオオオッッと飛翔時には聞こえなかった風切り音が鳴り、どんどん地面が近付いてくる。


(あー……これ死んだか?)

 半ば自棄(やけ)になった晃生だが、アルバドロスが地面に激突する寸前、全力で上に跳んだ。


 その超人的な跳躍力は落下の運動エネルギーをある程度相殺し、ズンッッッッッと両足で着地した晃生はトマトみたいに潰れずに済んだ。


 墜落(ついらく)したのは、どこかの海岸の砂浜だ。


「ふぅ……地面が柔らかくて助かった。なんとか、生きてるな」


 アルバドロスという空気抵抗の大きい足場があったとは言え、わた雲が漂う上空2000mから落下し超回復を使うまでもなくノーダメージで着地出来たのだから、『なんとか』という表現は適切ではないかもしれない。


(てか、俺はどこに落ちたんだ……?)

 疑問に思った晃生が砂浜の周囲を見渡すと、最初に目についたのは——風車。

 海岸線に沿って直線的に建ち並ぶ、白く細長いプロペラ式の風力発電機だ。


 海岸を正面にして右側の陸地には1000m級の山々が連なる山地帯が遠くに広がっており、左側の陸地は大きく海側へ突き出ている。


 さらに見つけた遠目に見える建物の看板に書かれた文字は——『サンセットビーチ釜谷浜(かまやはま)


(おいおい……この短時間でここに着いたっていうのか……!?)


 晃生が以前テレビで『日本の快水浴場100選』として紹介されていたのを思い出してピンときた通り、そこは秋田県山本郡三種町にある、釜谷浜(かまやはま)海水浴場。


 北に見えたのは世界自然遺産に登録されている白神山地、南の突き出た陸地は景勝地として指定されている国定公園——男鹿(おが)半島だろう。


 4kmに(わた)って17基もの風車が並んでいるのは、観光名所としても知られる八竜風力発電所だ。

 ユーラシア大陸から太平洋へ向かう季節風を捉えるためか、この時期は海側を向いて直径77mもの巨大なローターが青空の下で回っている。


(東京湾にある浮遊島から秋田県までほぼ10分って……バケモンかよ……)


「わぁ、凄いわね。まさか自力で着地するなんて。殴った後は引っ張ってあげようと思ってたのに」

「え」

 そのバケモンこと躑躅森(つつじもり)亜凰(あお)が重力を無視するかのようにふわっと着地してきて……

「まあ結果オーライね」

 などと脳天気なことを言っている間に翼竜が動き出した。


 ——グルルルルゥゥゥッ——ガァァァァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!


 魔物の言葉が分からずとも、何を思っているのかは一目瞭然。


(ブチ切れって感じだな)

 

 気持ちよく大空を飛んでいた所を突然叩き落とされたのだから当然だ。


「さて晃生君。ご褒美に私の能力のこと教えてあげるって言ってたわよね」

「え、はあ、確かに気になりますけど……今ですか? アルバドロス(こいつ)は……」

「良いから黙って見ていて。私の側から離れないでね」

「はぁ……」


 ゴァァァアアアアアッッという咆哮と共にアルバドロスが巨大な口を開けて晃生達を食べようとしてくるが、そのティラノサウルスのような乱杭歯(らんくいば)は例の謎の力に阻まれて止まる。


(これだ……この防御を俺達も破れなかったんだ……)

「私はね、引力(いんりょく)斥力(せきりょく)を操るのよ。斥力とは同極の磁石が反発し合うような、物体を押し退()ける力。戦闘時は常に私の体に対して外向きのベクトルの力場(フォースフィールド)を展開して身を守っているのよ」


(反則だろそんな能力……)


 絶対無敵の自動防御技。言うなれば——斥力場(リパルサーフィールド)


「勝てないわけだ……」

 暖気(のんき)に説明を受けている間にも翼竜は晃生達を噛み潰そうと口をあぐあぐやっているが、一向に破られる気配がない。


 ガァァァァアアアアアアアアアッッッ!!


 食えないと分かった翼竜が苛立ちながらも諦めて飛び立とうとすると、

「こら。待て、よ」

 犬に芸を覚えさせる時のような調子で亜凰が言い、翼竜に向けた左手で空中を掴むような仕草をする。

 それだけで、翼竜は見えない鎖で繋がれているかのように飛び立つことが出来なくなった。


「これが引力。自分を引っ張れば飛ぶことも出来るし、相手を引き寄せて攻撃することも出来る。結構便利でしょ?」


 便利どころではない。亜凰に相対した敵は斥力によって亜凰に攻撃を当てることは出来ない上、引力で引き寄せられれば逃げることすら出来ないのだから。


(そうか……自分を引力で前に引っ張りつつ前方の空気を斥力で押し退()けてたから、あれだけ高速で飛んでてもほとんど空気抵抗を感じなかったんだ……)


斥力(せきりょく)は掌底とか打撃に乗せて威力を上げることも出来るし、力が働く面積をもっと狭めれば貫通力も生まれるわ」

 そう言った亜凰は左手の掴むような仕草はそのままで翼竜を引き留め続け、人差し指と親指だけを立てた右手を銃のように見立てて翼竜の頭に向けた。


「バン」


 銃声の擬音を口で言うと、ドシュッッと翼竜の頭部に指の先ほどの穴が空く。


 脳の急所をやられたか、逃げようと羽ばたかせていた翼が動かなくなり、アルバドロスはバシャァァァァァァンッッと砂浜の浅瀬に派手な水飛沫(みずしぶき)を上げながら倒れ伏した。


「はい終わり」


 今の技、斥力弾(リパルサーショット)とでも言うべき攻撃は、見た目以上にとんでもないものだ。

 魔力次第だが、装弾数はほぼ無限。風の影響を受けず発砲時の反動による手ブレもなく、有効射程距離も長大。射撃前の予備動作——撃鉄を起こす(コッキング)弾倉(マガジン)交換も必要ない。今の射撃で亜凰は分かりやすく見せる為に手を標的に向けたが、本来は構えすらも必要ないだろう。魔力操作に()けていれば銃口——発射口も増やし放題。

 晃生は以前謎の襲撃犯相手に銃弾を避けて見せたが、この斥力弾(リパルサーショット)は発砲音もせず発火炎(マズルフラッシュ)も見えないため銃撃自体を認識出来ず、弾丸もないため喰らうまで攻撃されたことを知覚すら出来ない。


(これが、最強か……チート過ぎるな……確かに、兵士10万人の総軍も相手に出来そうだ)


「帰ろっか。晃生君、授業抜け出して来ちゃってるしね」

「貴方が無理矢理引っ張って来たんですが……」

 

 その時、海で何かが爆発したかのようにザッッッパァァァアアアアアンッッッと巨大な水柱が上がる。


 降り掛かる水滴は傘いらずの亜凰の斥力場によって防がれるが——水飛沫(みずしぶき)と共に海中から現れたのは——超巨大な海龍(・・)だった。


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