第58話:日本最強
今しがた授業で習った、魔物の中でも最強の存在——精霊。
その精霊を赤子の手を捻るように倒して見せた女、躑躅森亜凰を前にして、晃生は目を見開いていた。
(あの時の……指一本触れずにイフリートを倒した人……こんな所で会うとは……)
前と同じお尻まで伸ばしたロングストレートの艶やかな黒髪。大和撫子っぽいぱっつん前髪と良家のお嬢様のようなピンと背筋が伸びた綺麗な立ち姿勢。そして——心を引き寄せられる魅力と近寄り難い危うさを同居させる、危険なオーラ。
その瞳の奥に宿る自信が、表情が、私は何者にも負けないと、そう物語っている。
「はじめまして、じゃない子もいるみたいだけど、皆よろしく。私は躑躅森亜凰。今日から私が貴方達を鍛えるわ。私の特訓についてこられるのなら、だけど」
——ゾワッ
言い終わると同時、威圧するように放たれた亜凰の魔力のプレッシャーに、多くの生徒が尻餅をつき、晃生達も悪寒を走らせた。
魔力覚醒時に身に付いた魔力を感じ取る第六感ではなく、視覚的に見える青白いオーラが亜凰から放出されている。
可視化する程の濃密な魔力が体内から溢れ出ているのだ。
「躑躅森、亜凰……!?」
「えっ、あの日本最強の……!?」
名前を聞いて健太や他のクラスメイトが驚愕の声を上げる。
「知ってるのか?」
「うん……さっきの授業で言ってた階級の中の最上位、日本で唯一総軍級に位置する、超人の中の超人だよ……!」
晃生の問いに答えた健太は、まだ目の前にいる美人が躑躅森亜凰だとは信じられないといった様子で目を見開いている。
「えー皆さん。ご存知の方もいるでしょうが、彼女はこの国において現在最強と言われるギルド、【蒼鷹】のギルドマスターです。請け負う任務は識別個体や魔素生命体の討伐等で、強力なモンスターが出現した場合にはほぼ必ず彼女が頼られることになりますし、以前は内閣総理大臣の護衛を務め、師団級の異常犯罪者を軽く捻り潰したこともあります。とまあ実績を挙げればキリがないので、ここからの実戦訓練は彼女に代わりますね」
「実戦、訓練……?」
「躑躅森亜凰と……!?」
「じゃあみんな、好きにかかったきて。全力でね」
そう言った亜凰はニコッと可憐に笑うが、その圧倒的な魔力の前に、誰も動くことが出来ない。
「かかってきてって……」
「え、今……? もう始まってるのか……?」
「ほら、どうしたの?」
ただ突っ立っているだけ、隙だらけの自分に攻撃してこいというだけのことに、生徒達が何を身構えているのか分からないと首を傾げる亜凰。
そこへ——
「んだよ。誰も行かねぇなら俺が行くぜ」
この期に及んで1対1の勝負だと勘違いしていた灯真が先陣を切る。
ドウゥッッッッと後方へ向けた灯真の手が火を噴き、ロケットスタートで一瞬にして亜凰へと迫った灯真は火炎を纏った拳で渾身の一撃を放つ——!
「わ。すごい炎。熱いね」
だがその右拳も炎も亜凰に届くことはなく、ちょうど亜凰から1m離れた地点で何らかの見えない力に阻まれ、その炎の熱が亜凰の頬を撫でただけに終わる。
「舐めんなッ!」
灯真はボウゥゥッッッとさらに拳に炎を乗せ、熱噴射加速で謎の防御を無理矢理突破しようとするが——灯真の拳は亜凰に1mmすら近付けない。
「チッ、どうなってやがるッ!」
左拳を握った灯真の背後から、達人の歩法——縮地により、まるで地面が縮んだかのような高速移動で距離を詰めた勇斗が魔剣を振りかぶる。
「オラァァァァァッ!」
「はぁぁぁぁぁぁッ!」
灯真の爆炎拳の連打と勇斗の魔剣の高速斬撃が閃く。
——ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!!
——ヒュガガガガガガガガガガガガッッ!!!
「良い連撃だ。そのまま頼む」
連撃を続ける灯真と勇斗の後ろから、呟いた晃生が跳躍し、上空から全体重を乗せた拳を叩き付ける——!
——ッドォォォォォォオオオオンッッッ!!!
だが——
「君、前会ったよね。こんなに強かったんだ?」
グググググッと押し留められた3人の攻撃は晃生に話しかけてくる亜凰には届かない——ばかりか、晃生を滞空させるその謎の防性力場が逆に3人を押し返し、ブワァッッッと見えない力に突き飛ばされた。
「ぐッ……イフリートの時と同じ見えないバリアか……アレじゃ近付くことすら出来ないぞ」
ザザザザザッと押し退けられつつも地面を滑って体勢を保った灯真と勇斗の傍に着地した晃生が独り言を漏らす。
「まあ、日本最強って言うんだから、そう簡単にはいかないよね」
「ハッ、おもしれぇ。絶対1発入れてやる」
勇斗と灯真も独り言してから構え直し、次はどう攻めるかと思考する。
その間、晃生達と入れ替わるように緋彩、玲旺、武琉、克心が駆け出し、隼矢は魔力矢を展開、唯花は背中から魔力の翼を生やした。
「行くわよ玲旺!」
「ガァァァァッ!」
緋彩の合図で玲旺が前方に火炎放射を吐き、その肩に乗る緋彩も火炎を足し合わせて操作・融合させていく。
焔光が輝くその技は昨日灯真と晃生にも放った合体技、大火炎球だ。
——ゴォォォォオオオオオオオオアアッッッ!!!
本来は周囲の環境ごと焼き尽くす広範囲攻撃だが、昨日の灯真の熱収束波を見て影響を受けたか、緋彩は精密な魔力操作で指向性を持たせて2人分の火炎を亜凰に向け凝縮させた。
「融合魔法が使えるんだ? すごいすごい」
それでもまるで炎自身が避けるかのように、攻撃は亜凰に届かない。
押し退けられる炎で見えた防壁の輪郭は球形で、その範囲内では一切の干渉が拒絶されているのだ。
轟々と火炎が爆ぜる音が収まっていくのと逆に、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッと拍動する心音が響き始めた。
さらにドッドッドッドッドッドッとリズムを速める鼓動を発しながら、克心が弱まる炎の壁を跳び越えて拳を握る。
同時に反対側から駆けていた武琉が魔力武装で生み出した大剣を大上段に構え、さらに魔力を注ぎ込んで剣身を大きく、大きく変形させていく。
武琉が上に伸ばした超巨大剣を振り下ろし、克心は最大まで強化した身体能力による突進の運動エネルギーを足し合わせた最速の打撃を繰り出す——!
そのどちらもが、晃生達がやられたようにブワァッと弾かれて吹き飛ばされた。
「それだけ隙のある攻撃なら、威力はもう少し出さないとね」
「全方位攻撃ならどうですか?」
後方で待機していた隼矢は空中に生成した100本の矢を操って亜凰を取り囲むような軌道で放ち、翼をバサァァッッと羽ばたかせた唯花も矢羽を無数に飛ばして同時攻撃を仕掛けるが——
「んー、君達は逆に1つ1つの攻撃力が弱すぎるね。魔力操作は及第点かな」
その攻撃も全て止められ、消し飛ばされた。
余裕の表情で隼矢と唯花の攻撃を採点する亜凰の背後——猫耳、猫尻尾と共に魔力の爪を出現させた木乃香が暗殺者の如く忍び寄る。
獲物に忍び寄るライオンや、カラス等の外敵から身を隠す猫のように、本来猫科動物は風景に溶け込んで存在を感じさせないことに長けている。
霊猫からその特性を受け継いだ木乃香も自然に、そして完全に気配を消して亜凰の背後を取り、猫爪を振るう。
「嘘っ、これでも……!?」
完全な意識外からの攻撃だったにも関わらず見えないバリアで防がれ、焦った木乃香が声を上げながらも瞬時に後退する。
それと入れ替わるように舞桜の氷柱槍、愛奏音の魔力弾が複数ずつ亜凰を襲うが……結果は同じだ。
「凄まじい連携ね。正直、私のギルド員より優秀よ。勧誘したいくらい」
亜凰は褒めているが、晃生達は12人がかりで一歩も、どころか指一本動かさせることさえ出来なかった。
「くそッ! 無敵にも程があんだろ……ッ!」
灯真はズガンッと炎を纏った拳で地面を砕いて悔しがるが——その灯真達の奮闘、闘志が他の生徒達にも伝播し……
「「「——ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!!!」」」
どこか観客として見ていた他の生徒達が一斉に歓声を上げた。
「あいつら凄ぇぞ!」
「日本最強相手に1歩も引いてねぇ!」
「お、俺も……当たって砕けてやる!」
「俺もだ!」
それぞれ見えない防壁に阻まれながら、魔法攻撃や身体強化による直接攻撃を繰り出していく。
皆に続いて健太も攻撃力に乏しいながら白いポニーを召喚し果敢に突撃し、その様子に感化された千石も巨大な石礫を生成して飛ばす。
「あ? 何だあいつら。急にやる気出しやがって」
「誰かさんを見て火が付いたんでしょ?」
俺の攻撃の邪魔だとばかりに生徒達を睨む灯真に舞桜がツッコむ。
「火が付いたのは良いが、適当に突っ込んでも意味ねぇぞあれ」
「確かにね。うちの攻撃も通る気しないし……」
「昨日掴んだ魔力を斬る感覚でやっても斬り裂けなかった。あのバリア、どういう仕組みなんだ……」
「手数を増やしても意味無かったし……私もお手上げね」
勇斗と愛奏音も最強を前にして頭を抱えていた。
「うぅ〜〜! あんなの反則じゃない! あんたに続いて反則! 反則2号!」
「誰が反則だ。俺はちゃんと勝っただろ」
玲旺の肩の上で喚いて灯真ごと批判する緋彩も亜凰を攻略する手立てがないようだ。
(反則も何も、僕達の弱さを認識させるのがこの訓練の主旨でしょうね)
克心は心の中でそう呟くが……
「確かに反則級の最強能力だけど、限界はあるはずだ。絶対勝ってやる」
晃生は、今ここで勝つつもりだ。
「晃生君、結構負けず嫌いだったんだね」
同じく、意外に負けず嫌いだった木乃香も同意らしい。
「いや、負けず嫌いっていうか、ここで勝ちにいかなきゃいつまで経っても上には行けない気がするしな」
「ハッ、当たり前だろ。バトルで負けることほどつまんねぇことはないしな」
「僕もだ。あのバリア、ぶった斬らなきゃ気が済まない」
「てか、あれはそもそもバリアなのか……? どこか手応えがなくて違和感があるんだよな……」
「謎解きは後で良いだろ晃生。あの防御が何だろうと、全員の全力ブチ込んで魔力削り切りゃ良いだけだ」
「へぇ、とーまにしては賢いじゃん。授業で言ってた精霊の倒し方からそう考えたの?」
舞桜が馬鹿にしたようにそう聞くが、
「授業なんて聞いてる訳ねぇだろ。普通にそう思っただけだ」
「…………」
思った以上に馬鹿な回答が返ってきて舞桜は黙った。
「流石の直感だな灯真。それで行くぞ」
言った晃生はここにいるみんなに能力を使い、魔力を回復させる。
(へぇ……?)
生徒達に集中攻撃されているのを歯牙にもかけず、晃生が他人の魔力を回復させたのを見て亜凰は面白そうな顔をした。
「よしッ、行け晃生! どいてろお前ら!」
叫んだ灯真が前方に手を向け、ほとんどの魔力を変換した炎を球状に圧縮していく。
その迸る焔光は、昨日緋彩に放ち、あわや他の生徒に直撃させかけた極光火焔砲のもの。亜凰に群がっていた生徒達はそれを理解し、たまらず飛び退いていく。
「克心ッ、合わせろ!」
ドンッッッッと、脅威の身体能力を持つ晃生と克心の2人が飛び出し、亜凰へと肉薄する。
(僕は無意識に勝ちを諦めていたのか……くそッ……!)
勝ち目がないと、無意識に勝負から降りていた。そのことを晃生に気付かされて自分に苛立ちを覚えた克心の心音は既にフルスロットルだ。
「血管がブチ切れても俺が回復してやる! 気にせず全力で殴れ!」
「言われなくてもッ!」
——ドガガガガガガガガガガガガガァッッ!!!
超人2人による挟み撃ちの高速連打。
当然の如く防がれるが、晃生と克心は構わず殴り続ける。
(少しでも多くッ、魔力を削れッ!)
「「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」」
「凄い身体能力ね。ちょっと遊びたくなってきちゃったかも」
「え……?」
ここでついに亜凰が動いた。
高速連打を繰り出し続ける2人に対し、亜凰が腕を横に振るうと——
——ブワァァッッッッッ!!!
これまでより一層強烈な『見えない力』で晃生達がブッ飛ばされた。
(ぐッ……! この力、風でもないし、何なんだッ? 強いて言えば操華さんの念動力に近い感じだけど……!)
地面で背中を削られながらもバッと頭の左右に両手をついて後転倒立で体勢を戻した晃生は亜凰に視線を戻すが——さっきまで立っていた場所には既にその姿がない。
(飛んでる……!?)
否、正確には宙に浮いている。
亜凰は推進式飛行装置や翼も無しに空中で静止していたのだ。
(一体どんな能力なんだ……!)
浮遊する亜凰が何かを引っ張るような仕草をすると、吹き飛ばされた克心が今度は逆に亜凰へと引き寄せられた。
胸ぐらを掴まれた克心はそのまま真下へ投げられ、ゴウゥッッッと例の謎の力で加速して地面へと叩き付けられる。
「——届かないと思ったか?」
今の隙に背後から超人的なジャンプ力で跳躍して亜凰に迫った晃生が前宙踵落としを見舞う。
その奇襲はこれまでと違い亜凰の周囲に展開された見えないバリアには阻まれず、ガスッッと脳天を直撃した——
(通った……!)
「残念」
——かに思われたが、晃生の脚は亜凰から2cm程の所で止められていた。
「でもそのジャンプ力には驚かされたわ」
亜凰が反撃の後方宙返り蹴りを放ち、空中で身動きの出来ない晃生はモロに喰らってしまう。
ダンッッッと克心の隣に叩き落とされた晃生はすぐにダメージを回復させて起きようとするが、それより早く急降下してきた亜凰に踏み潰され、ズンンッッッッと克心共々地面にめり込まされた。
「ごっはぁッッ!」
「ぐふゥゥッッ!」
晃生達を中心に地面に入った蜘蛛の巣状の亀裂は、亜凰の体重と落下速度から得られる運動エネルギーでは明らかに計算が合わない規模だ。ただの自由落下ではなく、謎の能力で自身の落下速度を速めて晃生達を攻撃したのだろう。
「晃生君!」
晃生がやられたのを見て木乃香が駆け出し、同時に近接タイプの玲旺、そして空中からは唯花も亜凰へと迫る。
「ガァァアアアッッ!」
咆哮を上げる玲旺と無音で駆ける木乃香の鋭い爪撃が複数の弧の軌跡を描き、唯花も翼の前縁を刃にして斬りつけるが、どちらも亜凰には当たらず、視線を向けられただけで木乃香と唯花が吹き飛ばされた。
「きゃっ……!」
「あうぅッ……!」
翼を広げた空力ブレーキで唯花が静止し、猫のように空中で体勢を立て直した木乃香が校舎の外壁に脚を向けて着地する中、亜凰の掌底を受けた玲旺は猛烈な勢いでブッ飛ばされていった。
豊満な体つきとは言え女性の亜凰が巨大なライオンの体を持つ玲旺を吹き飛ばしたことから見ても、やはり亜凰の攻撃は見た目の衝撃以上の威力を発揮している。
「くそったれッ! これならどうだァ!」
叫んだ武琉の周囲には既にありとあらゆる刀剣が魔力によって生成されており、刀を持った左右の手を指揮者のように振るいその切先全てを亜凰へと向ける。
「僕もいますよ!」
さらに声をあげた隼矢も、昨日愛奏音に味わわされた敗北感、そして先程も自信があった魔力操作を及第点と言われた悔しさから魔力を振り絞り、魔力矢の数をこれまでの倍の200本まで増やして矢先を亜凰に向けている。
「——刀剣乱舞ッ!」
「——一斉射出ッ!」
——ヒュドドドドドドドドドドドドドドドドドドォッッッッ!!!!
迫り来る刀剣と矢に対し、亜凰は慣性の法則を無視したような急激な方向転換と低空を飛行する機動力でその全てを躱していく。
「これでも当たりすらしねぇのかよッ……!」
武琉が歯軋りして焦る横で、勇斗が静かに魔剣を引いて構えた。
「だったら……これでどうだッ!」
——ヒュゴゴゴゴゴゴォォォォォォォッッッッ!!!!
剣身が眼に見えない程の速度で振われた勇斗の魔剣から魔力の斬撃が乱れ飛ぶ。
剣の軌跡の延長線上を斬り裂く軌道斬りの高速連撃。
急上昇した亜凰は訓練場の上空を縦横無尽に飛び回り、三次元的に3人の照準を撹乱する。
訓練場の地面や外壁に的を外した剣と矢が次々と突き立っていき、斬撃痕が無数に生まれていく中、舞桜、愛奏音、緋彩もこれで決めるとばかりに魔力を練って攻撃に参加する。
「——雹嵐舞!」
舞桜が上空に生成した雹弾を嵐の如く降り注がせる。
「——魔力砲斉射!」
愛奏音はゴーレム戦で見せたものよりも一発一発がさらに強力になった魔力砲を並列装填で乱れ撃ち。
「——四元素波状撃!」
緋彩は火弾、水弾、石弾、風弾を同時に生み出し、精密な魔力操作で弾幕を張った。
逃げ場のなくなった亜凰に全ての攻撃が殺到する——!
——ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォォォッッッッッ!!!!!
全員で放った全身全霊の集中砲火。
轟音が鳴り止み、土煙が舞う。
「……これ、やり過ぎたか……? あんなもん喰らったら流石に死ぬんじゃ……?」
武琉が急に我に返ってそんなことを言うが……
「緋彩。準備しろ。お前なら出来る」
「え? 準備って……」
克心を抱えて皆の攻撃範囲から待避していた晃生は油断せず、次に備えて緋彩の魔力を回復させた。
晃生を肯定するように、ブワァァッッッを土煙が吹き飛ばされ、平気な顔で立つ亜凰の姿が顕になる。
「素晴らしかったわ。これなら実際に依頼をこなしていっても問題ないわね」
パチパチパチと手を叩きながら、亜凰は晃生達の方を見やる。
「……問題ないだァ? んな評価いるか。俺達は今、あんたを超える」
亜凰の後ろで、今まで鳴りを潜めていた灯真が言い——
——ドウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!!
極限まで魔力を注ぎ込んだ極光火焔砲を放った。
それに対処しようと亜凰が灯真の方を向いた時——
「——イグニッション・フレアバースト!」
緋彩が、反対方向から同様の技を放つ——!
灯真のように火属性特化ではないことと、溜めの時間が少なかったため灯真のものよりも威力は数段落ちるが、それでも天性の魔力操作で昨日見たばかりの技を再現したのは流石と言える。
生徒達の中で現時点最高威力の同時攻撃。
それを亜凰は——バチィィッッッと片手で弾いた。
それぞれの火砲に対し手の甲で払い除けるようにして。
弾かれた火砲が彼方の空へと消えていくのを見て驚愕の顔をしているのは、灯真よりもむしろ晃生の方だった。
(勇斗がぶった斬って威力が半減したやつを止めるのですら、俺はやっとだったってのに……!)
これだけの能力者の攻撃ですら変幻自在の機動力で躱し、当たっても通用しない。
まさに、無敵。
圧倒的な力の差。それをなんとか埋めようとして、晃生が我武者羅に駆け出した。
「ぉぉおおおおおおおおおッッ!」
「……気概は買うけど、今日はもう終わりにしよ」
——ブワッッッッ!!!
また『見えない力』の波動が放たれ、晃生に直撃する——と同時にガスンッッッと地面を踏みしめた晃生は突き飛ばされずその場に留まる。
「……!」
ここで初めて、亜凰が驚いた顔をした。
晃生は全力の踏み付けで生まれた大地からの反作用と静止摩擦力で、亜凰から放たれる後方への運動エネルギーを相殺したのだ。
亜凰はもう一度晃生を突き飛ばそうとするが、タイミングを読んだ晃生は再度地面を踏みしめて堪える。
——ブワッッッ——ガスンッッッ——ブワッッッ——ガスンッッッ——!!!
亜凰は自慢の機動力で距離を取ることも忘れ、ムキになって何度も晃生を吹き飛ばそうとするが、晃生は何度でも地面を踏み締めて1歩ずつ前へと進み……とうとう、亜凰の前まで辿り着いた。
そこで晃生は、これほど超人的な能力を有していても、相手は美しい女性だったことに改めて気付く。
今まで散々殴りかかったりしておいてなんだが、それはほぼほぼ通らないと思っていたからであり、ここまで接近出来てしまうと晃生も何をすればいいか分からなくなってしまう。
それでなんとなく、ぽんっと亜凰の頭に手を置いた。
「——あっ、えっ……?」
あまりにも害意のない動作に、亜凰は防ぐことを忘れてされるがままにしてしまい、頭に置かれている手を見て困惑する。
「へへっ、やっと届いた」
亜凰はきょとんとした顔で晃生を見つめた。
「あっ……すみません! つい……」
最後の最後で、マグレにせよ最強に手が届いたことが嬉しくて、頭に手を置いたまま笑顔になっていた晃生はハッと気付いてすぐに手をどける。
闘いの中で初めて自分に触れることが出来た猛者がそんな初々しい反応を見せ、亜凰はクスっと笑う。
「いいえ、良いのよ? もっと触っていても」
「えっ、いやっ、それは……!」
晃生が咄嗟に『いいです』と言おうとし、それはそれで失礼になるかもとか考えて慌てていると……
ピコンっ。
亜凰のポケットから何かの通知音が鳴った。
携帯を取り出して画面を見た亜凰は1つ「はぁ……」と溜め息を吐く。
「宮沢先生。討伐任務が入ったので、途中ですがこれで失礼します」
「ええ、分かりました。規定通り、後の授業は私が引き継ぎます。お気を付けて」
「あと、この子を借りていくわ」
ふわっと宙に浮いた亜凰は人差し指をクイっと引っ掛けるように晃生に向け、自分と同様に謎の力で浮き上がらせる。
「え……?」
「それじゃ、行きましょうか」
——バシュゥゥッッッッ!!!
高速で飛翔した亜凰と見えないワイヤーでも繋がってるかのように引っ張られ、晃生も空へと飛び立った。
「うぉぉぉぉぉおおおあああああああああ!!!」




