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解離性アストラルレイド 〜異世界大戦〜  作者: Aki
第2章 集う才能
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第55話:四元素

 巨大火炎弾が灯真と晃生の2人に直撃したのを見た緋彩(ひいろ)が首を(かし)げ、

「もしかして殺しちゃった?」

 暖気(のんき)にそんな事を言う。

 だが……


「大丈夫か? 晃生」

「ああ。灯真の炎のが熱かったな」


 緋彩を含め多くの生徒達の予想に反し、収まってきた火炎の中に見えてきたのは、平気な顔で立つ晃生とポケットに手を入れたままの灯真。

 どちらも軽い火傷すら負っていない。


「……へぇ。どういう手品?」

「ん? どうもこうも俺に炎は効かねぇよ」

「俺は回復役(ヒーラー)だし、回復した。炎は何回か喰らった事があって耐性もだいぶついてきたし」


 面白いじゃない——とでも思っているような笑みを浮かべた緋彩は玲旺の肩から降り、本気で相手をする事を決める。


「やっとやる気になったか」

 灯真がバシッと右の拳と左の掌を合わせる。

「足元(すく)われるなよ」

「ハッ、晃生こそあのライオンに喰われんなよ。助けねぇぞ」

「俺が喰うっての」


 そんなやり取りをしつつ改めて緋彩と玲旺の前に並び立った2人を、緋彩は興味深そうに見ていた。


「あんた達、私の奴隷になるなら可愛がってあげてもいいわよ」


 緋彩がボディラインを強調する黒いドレスに包まれた胸を前腕で持ち上げ、背が低いながらも同級生とは思えない妖艶さで晃生達を誘う。


「……パーティに入れってことか?」

「何で俺らが……」


 学園頂上決戦が始まると思っていた2人が顔を見合わせたところで……


 バキィンッッと灯真の後頭部を野球ボール大の氷——雹弾(ひょうだん)が直撃した。

「とーまのばか! エロとーま! おっぱい魔人!」

 

 晃生も急に襟首(えりくび)を猫掴みされて後ろに引っ張られ、首が絞まって「ぐえっ」と苦しそうな声を上げる。

「晃生君、ああいうのが好きなんだ……」

 木乃香も晃生に冷たい眼を向け、背後に猛獣が見えるような黒いオーラを放出する。


 その直後、玲旺が突然ガチガチと牙を鳴らし始めた。

「玲旺……?」

 不審に思った緋彩が玲旺の視線を追うと、その赤い眼は木乃香を見ている。


 地球では百獣の王であるライオンの魔獣の肉体を持ってしても、木乃香が取り込んだ異界の巨大な黒猫の格を感じ取って怯えているのだ。


 だが晃生達はそれに気付かず、

「い、いや違うって。俺が好きなのは木乃……ッ」

「えっ」

「あ、いや、この状況でそんなこと考えてるわけないだろ」

「む〜〜、怪しい……」

「何でだよ……」

 などとやっている間に()れた緋彩(ひいろ)が玲旺に視線を送る。


 状況的に自身が恐怖を感じた木乃香の参戦はないと判断し、無言で頷いた玲旺がズンッと歩を進め、晃生、灯真が木乃香と舞桜の前に出て改めて戦闘体制に入る。


「気に入らない眼をしているわね。まるで私に勝てるとでも思ってるみたい」

「負けるなんて思ってるわけねぇだろ」

 緋彩を真っ直ぐ見る灯真が答える。


「分かってないわね。私は日本中の能力者が集まるこの学園で頂点に君臨してる。勝てるわけないでしょ。誰も私には勝てないのよ。私の誘いを蹴ったあんた達には少し腹が立ってるから、闘うのならちょっとだけ乱暴なことをしちゃうかも知れないわよ?」


「ハッ、やってみろよッ!」

 ボッッと両手両脚を点火した灯真がドウッッッッと排熱噴射機動(ジェットエンジン)を使って一気に距離を詰め、空中を翔ける中で拳を振りかぶる。


「俺に炎は効かねぇぞッ!」

 緋彩が先程放った巨大火炎球の威力は玲旺との合体技ということを加味しても凄まじい威力だったが、熱耐性を獲得した自分に無効となる炎属性と分かったことで灯真は迷い無く突っ込み、緋彩へと攻撃を仕掛ける——


 ドォォォォオオンッッッッ!!!


 ——その寸前、突如地面から()り上がった土の壁に(はば)まれ、止まりきれなかった灯真が激突した。


「痛ってぇッ……ンだよこれ……ッ!」


「ふふっ、私の属性が火だけなんて言ってないわよ?」


「……土もかよ。けどこんなもんッ——」


 ——ドッゴォォォォォオオオンッッッ!!


 灯真の熱噴射(ジェット)加速させた火炎を纏う拳が土壁を破壊する。


 だがその壁が無くなり、緋彩との間に障害物が無くなった瞬間——ゴウウウゥゥゥッッッッ!!!

 

 台風大国に住む日本人でも体験したことのないような瞬間最大風速の突風が灯真を襲い、まるで車に撥ねられたかの如く吹き飛ばされた。


「うおァッ!?」

 灯真の後方、吹き飛ばされた先には緋彩が発生させた直径5m程の水の球が待ち構えており——バシャァァァンッッッと水中に呑み込まれた灯真は緋彩が操作するその中から抜け出せなくなってしまう。


「とーまっ!」

 勝負を見守っていた舞桜が心配そうな声を上げる。

 その声は届かなかっただろうが、舞桜の不安そうな表情が目に入った灯真は水中で掌を向け、合図を送る。

 『手を出すな』と。


(ごぼッ……くそ……こんなもんッ……!)


 灯真の魔力による炎は通常の酸素供給を必要としない為、水中でも発動可能。

 ジェット噴射の加速力で運動エネルギーを得て抜け出そうとした灯真が、しかしその炎を上手くコントロール出来ない。

 一瞬手から発現するもその炎はゆらゆらと灯真の手を離れ、緋彩の元へ飛んでいく。

 

「可愛いわねぇ。無力な男って」

 奪った炎を(てのひら)の上で可愛がるように踊らせる緋彩は、水中でもがく灯真を眺めながらそう呟いた。


(どうなってやがる……ッ!?)


 緋彩の能力は火・水・土・風の4属性全てを操る、属性魔法系の頂点。

 火に対し水をぶつける等の極めて高い汎用性を持つ他、その高い魔力操作感度は自身が持つ属性に限り他人の魔力で発現された魔法をも操ってしまう。


「炎が使えなきゃ出られないでしょ。どうするの? 今からでもパーティに入れて下さいって言うなら出してあげるけど。って、聞こえてないし、喋れないか」


(くッ、そがッ……ごぼッ……!)



    ♢



(さて、百獣の王はどっちか……)

 陸上の肉食獣において最強の象徴、ライオンの肉体を持つ玲旺と対峙し、晃生が拳をバキバキと鳴らす。


 玲旺も鋭い爪と牙をギラつかせながらノシィッと踏み出したところで——


「ちょっと待って下さいよ。獅童玲旺、申し訳ないが君は晃生君の相手に相応しくない」

 割って入り、玲旺に食って掛かったのは——晃生達と同じ外部入学試験を突破した新入生、高浪(たかなみ)克心(かつし)


「……?」

 低く見られがちな回復役(ヒーラー)の自分を何故か高く評価していることに違和感を覚えつつの晃生が克心(かつし)を見る中、同様に克心に視線を移した玲旺もイラついた様子でグルルルルッと(のど)を鳴らして威嚇した。

「ジャマヲスルナ。カミコロスゾ」


「……猫が。(さえず)るなよ」

 これまでよりも低いトーンで言い放った克心が眼鏡(めがね)を外して投げ捨て、長い前髪をかきあげる。


 その克心の前腕の血管(ハンドベイン)が異常なほど浮き上がり始めた。

 いつの間にかドックン、ドックン、ドックンと離れていても聴こえてきた克心の鼓動に合わせ、首元にも拡がっていくその血管が不気味に(うごめ)く。


「……」

 克心の状態の変化に玲旺が少なからず警戒の色を見せるが……


「コケオドシナラ、オレニハツウヨウシナイ」

 

 獅子の獰猛(どうもう)さを持つ玲旺は依然克心をただの獲物と認識し、ノシノシと距離を詰めて行く。


「狩る側だと思ってるなら、大間違いですよ。仔猫さん」


「——シネッ!」

 強靭な爪が野生のパワーで繰り出され——ズガンッッッと地面を深く(えぐ)る。

「ヒャハハッ!」

 豹変した笑い声を上げ、スレスレで、しかし余裕を持って(かわ)した克心(かつし)は血管の浮き出た腕を引き——ズンッッッッッ!!!


 強烈な右正拳を玲旺の腹部に突き刺した。

「ゴァッッ!?」

 ブッ飛ばされた玲旺の巨体がドッゴォォォォンッッッと背後の壁に激突し、地面へと崩れ落ちる。


所詮(しょせん)はケダモノですね。思った以上に(もろ)い」

 大仰(おおぎょう)に両手を広げてそう言った克心は晃生の方へと振り返る。


(……あの血管の脈動……心臓が強化されてるのか)

 克心の一連の動きを見た晃生は心の中で素直に称賛した。


 晃生の考えの通り、克心のパワーアップの原因は極度の高血圧——そしてそれに耐え()る肉体と共に獲得した循環器系の強化だ。

 随意的にも操作可能となった心筋はその心音が周囲に伝わる程に拍動して一回拍出量が急激に増加。それにより内臓や筋肉等、各体組織の器官に血液を通して酸素、栄養、そして魔力を多量に循環させることにより、克心は全身の機能を大幅に向上させているのだ。


「あの巨体をぶっ飛ばすとは、そんなパワータイプには見えなかったよ。凄いな」

「いえいえ、謙遜しないで下さいよ。晃生君もこれくらいは余裕でしょう?」

「……てか、一応俺が()りたかったんだけど」

「おお、これはすみません。代わりと言ってはなんですが、僕と一戦交えるというのはどうですか? あのケダモノよりは楽しめると思いますよ」

「いや、俺そんな誰でも良いから強い奴と(バト)りたいとかって戦闘狂じゃないんだけど……まあいいや。じゃあ、勝負するか」


 最後の台詞を1トーン低く発した晃生が少しだけ腰を落として構える。


学園(ここ)にいる以上、実戦経験は積んでいかないとだしな)


「ありがとうございます。それでは、本気で闘って下さいね?」


 ニヤッと嗤った克心が、片足を後ろに引いて体幹を前傾させた短距離走(スプリント)のスタンディングスタートのような構えから、ドンッッッと地を蹴り、晃生がやるようなゲームキャラ攻撃——ダッシュ(D)Aボタン(A)のような突進打撃を放つ。


 だが、高速で振るわれた克心の右拳をガッッッと晃生の左手が止める。


 拳を引こうとする克心だが、晃生の万力のような握力に固定されて振り解けない。


 克心はすぐさま左拳を繰り出すが、これも右手で掴み取った晃生が前蹴りで克心を軽く突き飛ばす。


 後転した克心はザザザザァッと滑りながら顔を上げると、既に眼前で殴りかかってきている晃生が——ドドドドドッッッ!!


 一瞬で5回殴られた克心がさらに後方へ飛ばされて玲旺がめり込んだ横の壁に激突する。


「ごッはァッッ! ぐッ……流石に強い……!」

「玲旺って奴、さっきは油断してただけか? それともお前の心臓が疲れてきてるのか?」

 浮き出た血管の脈動と心音が弱くなっていることに気付いた晃生が、言外にこの程度なら玲旺の方が強そうだと言いながら歩み寄っていく。


「フフッ、良いでしょう。本気を出すつもりはなかったのですがね」

 挑発に乗った克心が立ち上がった時、ドッグンッッ!

 一際大きな心音に続き、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドッドッドッドッドッドッドッドッ——眼を血走らせ始めた克心の鼓動はさらにリズムを早めていく。


 心拍出量は一回拍出量(ストロークボリューム)×心拍数(ハートレート)で決まる。

 克心は玲旺との戦いで上昇させていた1回拍出量に、今度は増加させた心拍数を掛け合わせて体内のエネルギー循環を促進させ、肉体の性能をさらに引き上げたのだ。


 通常、運動時でも最大心拍数は1分間に200回程だが、現在克心の心拍数はその倍の400回/分を軽く超えている。

 常人なら失神か死に至る事もある程の頻脈性不整脈だが、逆に言えば克心の身体能力はそれだけ限界を超えて強化されているということ。


「ここからは、もう貴方でも付いて来れませんよ」

 高血圧によって結膜下出血を起こしている為だろう——充血、どころか白目の部分が真っ赤に染まった不気味な目で晃生を睨んだ克心が、最初と同じスタンディングスタートの構えを取り、


(またあの突進か……)


 ——ドンッッッッッッ!!!


 1回目とは比べ物にならない程の爆音と共に地面を蹴立て、一瞬で晃生の眼前に跳んだ克心がその速度と体重を乗せた突進打撃を見舞う。


 ドガァァァァァァアアアアアンッッッッと背後の壁に叩きつけられた晃生に対し、即座に距離を詰めた克心は息つく暇を与えずドガガガガガガガガガガッッッと連打を繰り出し、さらに晃生を壁にめり込ませていく。


「ヒャッハハハァッ! お得意の回復で治したらどうですかァ!?」


 克心が殴り、殴り、殴り、ガガガガガガガガガガガァッと道路工事用の締固め機(ランマー)のような轟音が響き続ける。


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