第51話:上位天使
愛奏音の魔力弾と能天使の浄化弾。
舞桜の氷柱槍と主天使の土槍。
——ドドドドドドドドドドッッ!!
——ガガガガガガガガガガッッ!!
魔法戦が激しさを増す中、力天使を倒した木乃香が能天使の後ろへ回り込む。それに気付いた能天使が振り向きながら弾幕を張って行手を阻むが、ライオンが狩りの時に見せるような高速のジグザグ走行で浄化弾を躱して肉薄した木乃香はザシュッッと通り過ぎざまに能天使を斬り裂き、バックステップで愛奏音の隣——被弾範囲外へと下がる。
「今だよっ」
「ええ!」
愛奏音は今の隙に装填していた複数の魔力砲、その一斉掃射を放つ。
能天使は浄化弾で迎え撃つが、圧倒的なエネルギー量に押し負けた能天使は愛奏音の魔力に包まれて——ドドドドドドォンッッッと爆発とともに破壊される。
その轟音を掻き消すように、ゴバァァッッ、バキバキッと主天使と舞桜が戦い、地形を操作し周囲を凍らせ空間を支配し合う音が響き渡り続ける。
(まさか力天使に能天使まで倒されるとは……主天使の大地の裁きとも対等にやり合っている……)
「それなら……この天の裁きにも対応してみなさい」
不意に、それまで晴れていた空が暗くなった。見れば主天使が手を天に掲げている。その先の上空に分厚くドス黒い雲が目で分かる速度で回転しながら集まっていく。
吹き荒れる強風が木乃香達の服を引きちぎりそうなほどにバサバサと暴れさせ、見る間に巨大な積乱雲へと発達した雲がまるで巨大な生き物のように渦を巻いて蠢いている。
その中心、舞桜達の真上から、激しく回転する暴風が下降気流によって雷雲を巻き込みながら地表へと引き下ろされてくる。
(竜巻を創り出した……!?)
「やり過ぎだぞ詩聖里ッ!」
——ゴロゴロゴロッッと超巨大積乱雲の中で稲光と共に雷鳴が轟く中、落雷に備えて自信が避雷針になろうとバチバチッと電撃を纏うアンナが叫ぶ。
だが、麗色が手でそれを制した。晃生達の対応を見るつもりだ。
「アッハハハハハハッ! これこそ神の御業、その力の一端よぉ!」
いつの間にかシスターから狂信者のものへと目つきを変えている詩聖里が狂った笑いと興奮した声を上げる。
「アレ本当に教師か?」
「タガが外れてやがる」
「目がヤバイね」
人間を吹き飛ばす程の突風に対し、城壁のような校舎の壁に手を突っ込んで体を固定する晃生、風向と反対に熱噴射を発生させて飛ばされないようにする灯真、地面に魔剣を突き刺して耐える勇斗がイカれた詩聖里を見てぼやく。
竜巻の被害状況から風速を推定するFスケールで言えばF4。
瞬間最大風速は100m/sを超え、15t以上あるオスプレイがガリガリガリッッと石畳の地面を削りながら転げ回っている。
「みんな! うちの近くに寄って!」
木乃香と愛奏音を集めた舞桜が氷の壁で自分達を囲んで暴風から身を守る中、竜巻の下端が舞桜達をこの浮島ごと串刺しにしようと迫る。
まるで天界から神が槍を突き下ろしてくるかのように。
——ズガガガガガガガガガガッッッ!!!
主天使が魔力で操るその竜巻はまるで意思と質量を持っているかの如く舞桜の氷壁を削り取っていき、ビキッ、バキバキッと亀裂が徐々に広がっていく。
(割られるっ……!)
「任せて!」
バキィィィィィンッッと氷壁が破壊されると同時に叫んだ愛奏音が竜巻へ魔力を放つ。
これまでのように弾丸としてではなく、魔力をエネルギーの波動そのものとして一定時間放射し続ける新技——言うなれば、魔力放射砲。
直径1m程のエネルギー波が競り合いながらも竜巻を押し返していき、詩聖里の顔が驚愕に歪む。
さらに氷壁が破壊された瞬間、破片に紛れて駆け出していた木乃香が主天使の背後に忽然と現れ、魔爪を振りかぶる。主天使は即座に対応しようとするがその脚には舞桜の氷が張り付いており、1歩も動けないまま——ザンッッッと振るわれた4筋の斬撃に倒れる。
「そ、そんな……主の御使いが倒されるなど……」
主天使が魔力操作で風を収束して発生させていた竜巻が力無く解けていき、愛奏音の魔力放射砲がゴウウウゥゥゥゥゥッと積乱雲を貫いて彼方の空へと飛んでいく。
「ふうっ、なんとかなったね」
霊猫化を解いて猫耳、猫尻尾を消しつつ木乃香が一息つき、愛奏音、舞桜と3人でハイタッチ。
「いぇいっ、見てた? 灯真っ」
「あ、ああ。流石だな。まあ俺の火力なら1発で消し飛ばせるけどな」
「もうっ、いっつも一言余計だし……」
「それにしても、愛奏音ちゃんの最後の攻撃。凄い威力だったね」
「必死だったから。次の勇ちゃんの戦い、楽しみにしてるわ」
「そう言われると緊張するんだけど……」
その時——コォォォォオオオオオッッッと目が眩む程に眩しい光が発生し、周囲を包み込んだ。その光源は2つ。
「……貴方達は、神の創造物である天使を、何だと思っているのでしょう」
さっきの興奮状態はむしろ抑まり、低く、ドスのきいた声になった詩聖里が——静かなる怒りを露にする。
「あーあ、だからアタシは別の奴を試験官にした方が良いって言ったんだ。知らねーぞ学園長」
「フフッ、さらに面白くなりそうじゃないか」
「……あんたも大概だな」
案の定やり過ぎる詩聖里にジト目を向けるアンナの横で、麗色はむしろ面白そうに笑っている。
信仰する神、その神の使いである天使を次々と破壊した晃生や木乃香達が最早悪魔にでも見えているのか、詩聖里は目を据わらせながら新たなる天使を召喚する。
「上位三隊——座天使、智天使」
今の詩聖里の魔力残量では上位三隊の天使の内、同時召喚出来るのは2体まで。
だが発光が収まって見えてきたその天使達は、これまでの召喚体とは似ても似つかぬ異形の怪物だった。
1体は燃え盛る炎の球体に見えるが、よく見ると蠢く炎の輪っかが何重にも重なりながらゆっくりと回転しており、その中に自身も炎を纏う人型の何かが存在している。
もう1体は胎児のように頭部がアンバランスに膨れ、その体長は人が乗れる程に大きい。背には4枚の翼が生え、両手で胸の前に握った炎の剣をどこか祈るように構えている。
「これが……天使……?」
「バケモンじゃねぇか」
勇斗と灯真が見たままの感想を言うと、怒りに震える詩聖里が右手を灯真達に向けて天使に合図する。
「私が神に代わって、天誅を下します」
その言葉と同時に、火球そのもののような座天使が炎の車輪を急回転させて飛び出す。
ガガガガガガガガッと地面を抉りながら、凄まじい高温と猛烈な勢いでの突撃。
それに対し勇斗が静かに居合い斬りの構えをとった。
次の瞬間——ズバァァァアアアンッッッッ!!!
高速回転していた炎の球体が真っ二つになって勇斗の左右を通り過ぎ、魔力へと還って霧散する。
「見事だ」
「綺麗な一閃だったなぁ。剣士としてうちの武琉より強いんじゃないか?」
麗色とアンナが称賛する中、言葉も出ない詩聖里は智天使の方に目を向ける。
智天使は距離も詰めずに炎の大剣を振り下ろし、それで発生した火炎の波動を灯真へと放つが、熱耐性のある灯真はそれを無抵抗で受けた後、排熱噴射機動で瞬時に智天使の眼前へ迫る。
返す刀で即座に振るわれた炎剣の腹をガギンッと蹴って逸らした灯真は両手を構え——ッボォォアアアアアァァァァアアアアッッッッと、鬼との戦いで使ったような超収束高密度熱エネルギー波を放つ。
魔力操作で以前よりも収束し高密度で放たれたそれは遥かに高温で、6,500度を超える白色の炎。
一瞬で智天使を蒸発させたその白炎の波動は世界文化遺産に登録されてそうなお城の校舎を一部破壊・融解させて遥か彼方へと消えた。
(ヤッベ……)
「……バリアで守ってるから全力出しても良いんじゃなかったのか……?」
「ったく灯真は……」
まるで空き地での野球中に他人の家の窓ガラスを割ってしまったかのような調子で言い訳する灯真を見かね、ボヤきながらの晃生が超回復の魔力で周囲を包むと、校舎だけでなく主天使の竜巻の被害や消費した詩聖里、木乃香達の魔力まで元の状態に戻っていく。
「嘘……これは……」
(以前は操華さんの前で隠したけど、まあ、あの時より強くなったしもう良いだろ。そもそもさっきの天使戦で見せちゃったしな……)
「魔力まで回復している……」
上位天使が倒されたことも忘れ、これこそ神の御業とでも言わんばかりに感激した様子になった詩聖里は先程までの怒気を消し去り、晃生をまるで神の子でも見るかのような瞳で見つめている。
「やはり面白いな、あの男」
「ああ。授業にかこつけて闘り合うのが楽しみだ」
麗色とアンナもこの入学試験の内容に満足そうな顔で呟く。
アンナの戦闘狂のような教師らしからぬ発言をスルーした麗色は晃生達の所へ歩いて行き、
「良い戦いだった。全員合格だ。ようこそ私の学園へ」
そう、口頭で合格を伝えてくるのだった。




