第50話:パーティ
(ったく灯真は……かませってんだろ……? ま、俺達だってゴーレムを倒した1年半前の時点で、6人でだけど大隊級のお墨付きを自衛隊から貰ってるんだ。あれからさらに強くなった。腕試しには丁度いい)
「じゃ、お手並み拝見といくか」
灯真は楽しそうな顔で腕を組んで見物の姿勢だ。
「皆さん同時でいいのですよ?」
「いえ、俺達もこの1年遊んでたわけじゃない。自分の力を試したいんですよ」
「……挑戦という言葉を出したのは私です。良いでしょう。行きなさい」
詩聖里がそう命じると、天使が弓を番え、大天使は槍を向けて迫り、権天使は盾を構える。
最初の攻撃は、バシュゥッッッと天使が放った矢——人が行うアーチェリーの矢の速さは200km/hを超える程度だが、その魔力の矢は拳銃弾と同じ速度領域、音速で飛来する。
だが晃生の動体視力、反射神経、握力はそれを容易く掴み取り、天使へと投げ返した。弦の張力もなしに筋力だけで亜音速へと至らせたその矢は、天使を守るために前に出た権天使の美術品のような装飾が施された盾に傷を付ける。
権天使の後ろで天使が2射目を番える中、大天使の槍が人間の槍術のレベルを遥かに超えた速度でヒュゴッッと繰り出されるが、これも掴み取った晃生は槍を力づくで引き寄せてからバォォオオッッと振り回して投げ飛ばし、弓を引く天使へ激突させる。
追撃する晃生に対して権天使が大きな翼を羽ばたかせ、盾を構えたままの体当たりで迎え撃つ。
その盾突撃を片手で止めた晃生は、後ろに引いて構えていた右の拳を高速で突き出す——ッドゴォァァアアッッッ!!!
盾もろとも権天使を破壊した晃生だが、攻撃後の隙を狙われ、頭部に矢、左胸に槍が迫る——!
——ドシュッッッ!
これにも晃生は反応し、首を横に倒して矢は頬に掠めさせ、槍は片手を振って払いのける。
そしてすぐさま脳天締めで大天使の頭部を把持し、さらには天使の顔面をも鷲掴みにしたかと思うと——ドガァアンッッッと地面に叩き付けた。
舞い上がった土煙が風に飛ばされていくとともに、天使達を構成していた魔力が大気中の魔素へと還元されていく。
「……え?」
ものの十数秒で天使達を壊滅させられ、信じられないという表情をする詩聖里から、これまで纏っていた余裕のある雰囲気が消える。
「あ、貴方……回復役ではなかったのですか?」
「嘘を吐いたつもりはありませんよ」
晃生はパァァァッと超回復を発動し、頬のかすり傷を治してみせた。
唯一付けた傷すらも瞬時に回復されたのを目の当たりにして目を見開く詩聖里を横目に、麗色とアンナが晃生の性能を分析しながらも楽しそうな表情をする。
(身体能力一つで近距離攻撃、遠距離攻撃、防御、回復……パーティの役割を全て1人でこなしている……)
(パワーもスピードも尋常じゃない……その上魔力量も相当多いな。アタシなら電撃で麻痺させれば捉えられるけど、回復されればそれで決着とはいかないか……さて、アタシとどっちが強いかな)
「……学園長が直々に出向かれた理由が分かりました。ですが、この程度で終わりではありませんよ?」
ほんの少しだけムキになった詩聖里が再度十字架に触れ、次の天使を召喚する。
「中位三隊——能天使、力天使、主天使」
さっきの召喚時よりも強い光を放って現れたのは、さらに濃密な魔力を纏う天使3体。
「能天使は悪魔を滅する光であり、天地創造に関わった。力天使は奇跡を司り、英雄に勇気を与えた。主天使は神の威厳を知らしめ、最後の審判によって裁きを下した」
詩聖里が自身の信じる天使について語る。
それらの天使は先程の下位三隊と違って武器を持っていないが、荘厳な翼と超越的な雰囲気を持ち合わせている。
「能天使——第6位階より上の天使は我々より4界層も高次の存在。人が勝てるものではありませんよ」
そのセリフにむしろやる気を出した灯真が、次は俺の番だとばかりに前へ出ようとした時、
「これ入学試験だし、晃生君にばかり任せてはいられないよねっ」
「それ! うちもそろそろ活躍したかったし!」
「ええ。次は私達が門を叩かせてもらいましょう」
木乃香、舞桜、愛奏音が同時に割って入る。
普段強気な灯真も女3人には勝てないと思ったか、何も言わずに大人しく引き下がった。不満そうな顔をしてはいるが。
「……祈りなさい。神のご加護があらんことを」
その言葉を合図に、力天使が尋常ではないスピードで飛び出してきた。能天使も自身の周囲に光の弾を複数生み出し、主天使は左右の手を水平に持ち上げて構える。
瞬間、猫耳と猫尻尾を生やした木乃香は霊猫から受け継いだ敏捷性と俊敏性を活かし即座に力天使を迎え撃つ。
——ガガガガガガガッッと手が増えて見えるような攻防で力天使の豪腕を木乃香の魔爪を纏った両手が捌いていく。
光弾を放つ能天使には愛奏音が魔力弾で撃ち合いに応じるが、互いのエネルギー弾がぶつかった時、いつもなら着弾点で小規模の爆発を起こす愛奏音の魔力弾が弾けず、能天使の光弾とともにフッと音もなく消えた。
(相殺……いえ、消滅させられた……?)
「天に刃向かう悪魔を滅ぼす能天使の光は、魔を滅する浄化の光。その浄化弾の前では、如何なる魔力攻撃も意味を成しませんよ」
「……なら、浄化しきれない程撃ち込むだけですね」
キュゥゥゥゥンッと愛奏音が魔力を凝縮し、魔力弾を装填する。その数——40……50……60……その中に魔力砲も織り交ぜながら、まだ、どんどん増えていく。
「さあ、撃ち合いましょうか」
——ドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!!
浄化弾で迎撃しきれなかった愛奏音の魔力弾が能天使へと到達する——その寸前、突如迫り上がった地面が土の壁となって愛奏音の攻撃を防いだ。そこへ手を向けていることから、それが主天使の能力だと分かる。
「大地の裁き——主天使の力は……支配。天地を支配する神の創造物の力の一端を思い知りなさい」
詩聖里の命令で主天使はさらに地面を操り、戦闘中の木乃香、愛奏音をも巻き込む規模で複数の土の槍を発生させる。
「うちに任せてっ!」
これには舞桜が対応し、以前より大きな氷柱槍を生み出して土の槍に向かって放つ——ドガガガガガガガガァンッッッ!!!
平面で起きた土砂崩れのような規模の土槍と雪崩のような氷柱の波がぶつかり合い、木乃香や愛奏音の邪魔をさせない。
大規模な魔力のぶつかり合いを横目に激しい肉弾戦で闘り合う力天使と木乃香。それを見つめる詩聖里は違和感を覚えていた。
(互角……どころか力天使が押されている……何故……?)
召喚時に彼女が言っていたように、力天使は奇跡を司る。その能力は名前通りの怪力だけではなく、運命操作による自身に有利な奇跡の誘発。
だが相手に不吉を齎す木乃香の魔力特性がその奇跡を相殺していた。結果両者ともに純粋な肉体性能のみでの勝負となる。
互いに常人を超えたスピードで広範囲を移動しながら殴り、躱し、斬り裂き、蹴り合って、木乃香は力天使の魔力を削っていく。
(いける……!)
跳躍した力天使が着地するところを狙って木乃香が爪を振るう——が、バサァッと大きな翼を羽ばたかせた力天使は空力ブレーキでそれを空振らせた。そこから翼による機動で急加速して木乃香に突撃しようとする直前——ズドンッッ!
能天使と撃ち合いながらの愛奏音の援護射撃が力天使の翼を貫いた。
「ありがとう愛奏音ちゃんっ!」
言いながら一瞬だけ愛奏音とアイコンタクトを取った木乃香は空中姿勢を崩した力天使に強化された脚力で飛び掛かり——ザンッッッと高速で斬り裂く。
破壊された力天使は魔力を霧散させ、跡形もなく消滅していった。




