第49話:天軍九隊
街の中心にあった塔のある施設が学園だったらしく、その広場に着陸したオスプレイの後部ハッチから先導する麗色とアンナに続いて晃生達も降りていく。
まるでお城——三時代区分法で言う中世、そのヨーロッパの古城のような佇まいで聳え立つ学園に圧倒される晃生達の元へ、3人の人間がやってきた。
「空の旅、お疲れ様でした。私が今回の試験官を務めさせていただきます。天羽詩聖里と申します」
1人は柔らかい笑顔で礼儀正しくお辞儀をしたシスター服姿の女性。
彼女の胸元で、聖職者に似つかわしくない程の大きな胸とともに首にかけた銀色のネックレスが日光を反射しながら揺れる。
それがキリストの磔刑を模した十字架に象られていることから、彼女が日本人では珍しいキリスト教徒である事が分かる。
もう1人は1年半前のゴーレム討伐の際に自衛隊員を率いていた異界方面隊所属の自衛官——近衛操華。
「久しぶりですね。今日は学園長とのコネで貴方達が試験を受けに来ると聞いたから見に来ました。任務ではなくプライベートでね」
「はあ……またいきなり岩をぶつけてこないで下さいよ……?」
「しませんよ……ぶつけても岩が壊れるでしょう?」
(そういう問題じゃないと思うけど……)
そしてもう1人、操華と詩聖里の後ろから現れたのは……
「あんたは……!」
「えっ、あの時の……!」
以前スライムに寄生されて自我を失い、暴れているところを晃生に倒された男——宮沢茂だった。
「やあ。久しぶりだね」
「なんでここに……」
「あの後は一応、2年以下の懲役を言い渡されたんだけどね。執行猶予が付いて、その間はスライムに乗っ取られる事がなかったから、刑は免れたんだ。とは言え前科持ちになってしまったから職を失ったんだが、そこの千金楽君に拾ってもらったんだよ。今ではこの通りスライムと共存できているんだけど、それも彼女の研究のおかげなんだ」
そう言って宮沢は身体の一部、右腕だけを以前の赤黒い状態に膨隆させ、すぐに戻して見せた。
確かに制御できているようだ。以前より魔力量も多くなっている。
「彼とスライムの関係は非常に興味深かったわ。魔力を同調させるのには苦労したけれど。今では彼もここの教師の1人だから、いつか授業を受けることがあるかもね」
「中川君。改めて、あの時は私を止めてくれてありがとう。これでも元は大学院で生物学の教授をしていたんだ。恩返しと言っては何だが、全力で君達のサポートをさせてもらうよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
宮沢が差し出した手を晃生が握った。
「さて、ここからの入学試験は詩聖里に任せるが、お前達がどれ程の力を持っているか、私達もここで見させてもらう」
「本当に詩聖里で大丈夫か? 学園長。アタシか宮沢センセイがやった方が……」
「良い。私が決めたことだ」
「はぁ……ま、頑張れよガキども。アタシの生徒になりたかったらな」
そこはかとなく不安になるやり取りをして離れた所へ移動していく麗色達。
「はい。ですが、試験内容は……?」
「私と戦うことです。」
この学園は魔力による特殊能力、その中でも主に戦闘力を鍛え、卒業後は自衛隊や警察組織、ギルドへの就職を見据える、防衛大学校のような訓練校。
優秀な生徒は学生のうちから異界や魔物関連の任務を斡旋されることもあり、学園そのものがギルドのような側面も持ち合わせている。
そのため入学時に戦闘力を試されることは分かっていたが——
(1人で6人同時に相手するつもりか……?)
非力そうなシスターがナメているとあって、心に火をつける灯真。
「ここは元々戦闘訓練用の広場で、私が発明した魔力場によるバリアが張られているから、全力を出しても構わないぞ」
麗色の言葉が灯真の火に油を注いでいくが、晃生と木乃香は油断せずに相手を見据えていた。
(この人、多分悪魔みたいに強いな……)
(魔力量だけで見れば、今の晃生君より多い……)
「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる——マタイによる福音書、7章7節にある通り、開かれるまで挑戦し続けましょう。今日は私が門番です」
聖書の言葉を引用した詩聖里が、十字架を掴んで祈るように手を組んだ時——魔力が光り、形を成していく。
パァァァァァァァァッと眩しい程の光が徐々に収まっていき、現れたのは——
「天軍九隊——下位三隊」
——3体の天使。
「私の信仰心から齎される魔力——それが生み出す天使達は、私が信じる姿を象ります。神のお告げの伝令役である天使、槍を持って地獄との戦いに赴いた大天使、悪霊からの守護を司る権天使」
その召喚体は、天使より大天使、大天使より権天使と、上位の天使になるほど発する魔力が多く荘厳な光を纏っているが、どれも中性的な人型に翼が生えた姿をして宙に浮いている。
ただ魔力が天使の形を成しただけではない。詩聖里が信仰する天使が具現化した——つまり、人よりも神に近い、本物の天使と呼んで差し支えない存在だ。
(悪魔どころか天使だったとは……召喚能力……どれも高い魔力量だ。ザコじゃない……)
第9位階——天上の位階の中でも最下位に位置するただの天使ですら、ヒト以上の何かを感じさせる強烈なオーラを発している。
「彼女1人で兵士300〜400人相当。1年程前から使われ出した能力者の階級で言うなら、大隊級に分類される強さだ」
麗色が晃生達に忠告する。
「この主の御使い達のように、パーティとはそれぞれを補い合うものです。貴方達はどのような能力で互いを補っていますか?」
詩聖里の言う通り天使は弓、大天使は槍、権天使は盾を持っていて、3体で遠距離攻撃、近距離攻撃、防御と役割を補填し合っている。
「回復」
「炎」
「剣」
「猫」
「氷」
「銃」
晃生、灯真、勇斗、木乃香、舞桜、愛奏音は、簡潔かつシンプルに自身の能力を答えた。
「……猫って能力なのか?」
「し、しょうがないじゃんっ、他に言い方思い付かなかったんだからっ!」
疑問をそのままぶつけた晃生の言葉に、木乃香が顔を赤くして声を荒げる。
「回復等のサポートや援護もしっかり評価されますのでご心配なく」
その言葉を聞き、やる気満々だった灯真が目を閉じてニヤっとした笑みを浮かべ、晃生へと目配せした。
意味を理解した晃生は「はぁ」と息を吐き、
「悪いが先生、俺達は門を開けてもらいに来たんじゃない。強くなりに来たんだ。回復役だろうと関係無い。門をぶっ壊して、自力で押し通る」
そう言って1歩、1人で前に出た。




