第47話:浮遊都市
ゴーレムとの激戦、始業式の日から約2年。晃生達6人は同じ進路を選んだ。
特殊技能者育成学園——通称超人学園。
エスカレーター方式で初等から高等教育まで行っており、魔力に適合した少年少女達を集めて能力の育成を行う、意外な事に国立ではなく私立の教育機関だ。
晃生達が高校2年生の間に設立され、みんなでこの学園への入学を目指してきた。
今日はその外部入学の2次試験の日だ。
この学園から卒業した後は自衛隊や警察組織、そしてギルドに就職する事が多いため、高等教育からの授業は能力にもよるがほぼ戦闘訓練。
入学試験も最低限の教養や人格は1次試験で晃生達が受けた面接で確認され、2次試験は覚醒した能力を見せる場となる。
「ま、俺らなら楽勝だろ」
「灯真は面接で落ちないか心配だったけどねー」
「俺が落ちるわけねぇだろッ!」
舞桜にからかわれる灯真、このいつも通り感に、他の4人が温かい目を向けている。
だがその目も次第に期待、そして驚愕の色へと変わっていく。
試験会場——学園がある場所が見えてきたからだ。
1次試験の面接はオンラインで行ったため、晃生達は今回初めて学園を訪れる。
数ある教育機関の中でも世界で唯一、能力者を育成するその学園は——なんと東京湾上空に浮かぶ巨大な島の上に建っているのだ。
「すっげぇ……!」
「うん。凄い、幻想的……お伽話の世界みたい……!」
感激の言葉を口にする晃生と木乃香、そして言葉もなく他の4人も目を離せずにいるその浮き島は、この世界に漂う魔素粒子が重力場に作用して出来たもの。
学園に通う生徒のため、寮や娯楽施設、飲食店、衣料品店等がひしめき合う、世界でもここにしか無い空中都市だ。
「迎えが来るのってここで合ってるんだよね?」
指定された千葉の木更津港で送迎のヘリを待ちながら、不安になってきた勇斗が確認をとる。
「間違い無いわ。ふふっ、勇ちゃんは相変わらず心配性ね」
そうこうしているうちにババババババッと聞こえてきた音に上を向くと、見えたのはなんと輸送ヘリではなくV-22だった。
それは滑走路を必要としないヘリのような垂直離着陸機でありながら、最高飛行速度はヘリの2倍、航続距離は3倍にも及ぶティルトローター機。
「まさか、これが迎えか……?」
「私立の学園がオスプレイを保有してるって、どうなってんだよ……?」
「……千葉の木更津駐屯地はいち早くオスプレイが配備された場所だけど、何か関係あるのかな?」
ゲート出現からの2年間、様々な経験を積んできた晃生、灯真、勇斗もこれには驚きを隠せない。
オスプレイはその名前の由来にもなったタカ目の猛禽類——ミサゴのように停空飛翔してから徐々に高度を落としてくる。
ゆっくりと着陸したオスプレイは回転翼から発生する風で晃生達の服や髪をバサバサと暴れさせながら後部ハッチを開いていき——
バッッッと、中から突然1人の少女が飛び出してきた。
その子は一直線に晃生へと向かい、逆手に持ったコンバットナイフを高速で振るう——!
晃生は強化された反射神経でそれに対応し、左手で刃を掴み取った。
素手で刃を掴んでいるとは思えないほどガッチリと握られたナイフが抜けないと判断した少女はすぐさま反対の拳で殴りかかるが、それにも反応した晃生は右手でガンッッッと受け、眉を寄せる。
(……?)
その力は少女の細腕とは思えない程強く、度重なる超回復によって超人的な身体能力を得た晃生の全力に迫るレベルだった。
だがギリギリ勝る晃生の力で左右の手が固定され、少女が動けなくなったところで晃生は改めて相手の姿を確認する。
どうみても中学生くらいの年齢のその少女は学園のパンフレットにも載っている制服にメイド服を足し合わせたような格好で、頭にはアップツインテに結われた長い黒髪に映えるメイドカチューシャが付いている。
前髪の輪郭を覆う触覚部分、その右側だけホワイトピンクのポイントカラーが入っていて可愛らしい……なのに……
端正な顔立ちだが、ジト目から覗く眼球の虹彩はカメラのレンズを思わせ、戦闘中にも関わらず無表情なことも相まってどこか無機質さを感じさせる。
(学園の生徒……?)
そう思う勇斗を含め、状況が分からず全員がヘタに動けない中、メイド少女がさらなる追撃を行おうとした時——
「マキナ、もういい」
オスプレイから、晃生を襲った女にそう命令しながらもう1人の少女が降りてきた。
マキナと呼ばれた女はその少女の命令をすぐに実行し、「入力」と抑揚の無い声を一言発したかと思うと現れた少女の後ろに退がる。
「悪いな。この子は私のメイド兼ボディガードなんだが、お前の魔力量を脅威と判断してしまったようだ」
(双子……?)
晃生以外の5人がそう思ったように、新たに登場した少女らしからぬ喋り方の女の子は、後方に控えるメイド——マキナと全く同じ顔と体格をしていた。
だが艶やかで長い黒髪はツインテールにせずそのまま下ろしており、マキナと反対で前髪の左側の一部だけ白ベースの淡い青に染めている。
格好もメイド風制服ではなくスーツを着ているため見分けるのは容易だ。
マキナと同様に中学生程の幼い少女なのでスーツというよりこれもどこかの制服のように見えてしまっているが。
「双子ではない。髪は見分けがつくように敢えて分かりやすい色にさせているがな」
全員の心を読んだかのように話すその少女の中では、晃生を殺しかけたことはさっきの『悪いな』で過去の事になったようで、すぐに次の話題へと移っていく。
「お前達が1年半前の、ゴーレムを討伐したパーティか」
既にナイフで切れた左手を回復している晃生ももうそれは気にせず、
「双子じゃ無い事はさっきの攻防で分かってた。そっちのメイド、人間の感触じゃなかったからな。お前ら、何者だ?」
と、晃生はそう言いながらもマキナよりむしろもう1人の少女を警戒するように尋ねる。
というのも、話す彼女の口調や表情、纏う雰囲気、佇まいが、何より相手の心を見透かすような眼が、全く年相応には感じられないのだ。
大人が中学生の姿で喋っているような奇妙さが、晃生達に言いようのない不気味な感覚を抱かせていた。
「お前とは、口の利き方がなっていないな」
「なってないのはどっちだガキ。先輩には敬語を使うもんだぞ」
一方そういう不気味さや圧力に鈍感な灯真が、年下がナメた態度をとっているとあって突っかかる。
「尊敬語と謙譲語——8世紀頃にはすでに使われていたこの言語表現は、古代の身分制社会において上下関係を明確化するために生まれたもの。今の日本では人間関係の潤滑剤として、もしくは敬う気持ちの表現として使われているが、どちらに当てはめても私が使う理由は見当たらないな」
「あァ? 小難しい話しやがって、最近習った授業で出てきたのか? お年頃ってやつだろ、お前」
「社会的地位の上下関係において私が上だと伝えたのが分からなかったのか?」
長い前置きをした少女は、そこで言い合っていた灯真から全員を見渡すように視線を移し、
「私が特殊技能者育成学園の創設者であり、学園長兼理事長——千金楽麗色だ」
そう言い放った。
「「「……は?」」」




