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解離性アストラルレイド 〜異世界大戦〜  作者: Aki
第1章 覚醒者達
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第46話:退魔

「どう……なってる……奏葉(かなは)……!」

「大我君っ……逃げてっ……」


 その言葉を最後に変身を終えた奏葉の姿は——まさに悪魔(・・)


 生物のものとは思えない、闇のようにドス黒い体色。女性だった面影もない、膨隆した筋肉質な体躯。邪悪に嗤っているように見える、大きく裂けた口とその口腔内に収まりきらない程の牙。分厚く鋭い爪と、蝿のような透明の2枚(ばね)


(奏葉の能力は回復だった筈だろ……!)


 訳が分からず戸惑う事しか出来ない大我から奏葉に銃口を向け直した一凜が間髪入れずに引き金を引く——


「よせッ!」


 ——ドォンッッ!!


 ビシュッッという弾丸が(かす)る音と共に赤い鮮血が舞い、奏葉が呆気(あっけ)なく倒れる。


「ガァァァアアアアアアアッッッ!!!」


 奏葉と叫んだつもりの大我の口は醜く、そして大きく裂け、獣のような咆哮を上げた。


 同時に駆け寄ろうとした大我は足を止める。

 奏葉へと伸ばした自分の手が——()()()()()()()()()()()()()


(は? なんだこれ……!)


 自身の両腕に言葉を失う大我は、さっき塀が崩れたことで露出した民家の窓ガラスに映る自分を見てさらに驚愕する。


 そこに映っていたのは、今しがた奏葉が変異してみせた悪魔の姿だった。


(どうなってやがる……これが、俺……ッ!?)


 反対にさっき悪魔に変身したはずの奏葉は元の人間の姿で地面に倒れている。


「……なるほどな。そういうことだったか」

 奏葉に向けていた銃を降ろした一凜(かりん)が1人納得したようなことを呟く。

 

「森本奏葉の能力は回復でも悪魔への変身でもなかったようだ。おそらく幻影を作り出すような認識操作系の能力だろう。傷を回復するような幻影を見せることで回復能力だと誤認させていたのだ。そして昨日の犬頭(コボルト)三つ首の魔犬(ケルベロス)を倒したのはお前だな。喰代(ほうじろ)大我(たいが)。私は嘘を見破る訓練も積んでいるが、校内で行った事情聴取の際にお前が嘘をついているようには思えなかった。変身中の記憶が飛んでいて自分でも分かっていなかったのだろう。魔力への覚醒についても、無自覚に発現していることは(まれ)にだがある話だ。今の今までお前から魔力を感じなかったのはまだ謎だがな」


 一凜は悪魔状態となった今の大我に理性が残っているかの確認を含めて、状況を整理しながら自身の推理を語る。


「そこに転がっている牛鬼(ミノタウロス)を倒したのもお前だ。そしてその後も悪魔の姿が解けずにいたお前に、森本奏葉はずっと幻影をかけ続けていた。人間に見えるようにな。だから私も彼女が気を失って幻影が解けるまで、お前の真の姿に気付けなかった。お陰で随分と捜査を撹乱(かくらん)させられた。だがそれもここまでだ」


 終始、一凜は冷徹な眼で大我を見つめていた。


「今の話に応答が無かったことで、お前を理性のない怪物と判断して対応せざるを得ない。これが最後の警告だ。悪魔状態を解いて手を挙げろ」


(ざけんなッ……バケモンとして俺を殺そうってのかよッ……こんな訳も分からないまま()られてたまるかッ!)

「ガァァァァッッ!」

 応答しようと思っても怪物のような叫び声を上げる事しか出来ず、手も自由に動かせない。


(くそッ……言うこと聞きやがれッ……俺の体だろうがッ!)

 気合いを入れて何とか両腕を上げることが出来たが、拳を握った両手はそのまま勝手に振り下ろされ——ドゴォォォオオオオオオオオンッッッとアスファルトの地面を破砕した。


「手遅れのようだ。対象の『悪魔』を脅威と断定。抹殺を開始する」


 一凜(かりん)一切(いっさい)の躊躇なく、問答無用で悪魔となった大我に銃撃を放つ。


 ——ドンドンドンッッ!


 亜音速で飛翔した弾丸は大我の左肩、右腿、脇腹にバチバチバチッと命中するが、悪魔が有する硬質の黒い皮膚は少し傷付いただけで大したダメージは与えられていない。


「ゴァァアアアッッッ!」

 

 攻撃を受けた大我、いや、最早大我の意思で体を動かすことは出来ず、悪魔となった存在は今の銃撃に怒ったような叫び声を上げ、一凜へと襲い掛かる。


 一凜の首筋に高速で振るわれた悪魔の爪が迫るが——ガキィィィイイインッッッと突如浮かび上がったマンホールの蓋が盾のように防いだ。


 その盾を煩わしく思ったか、悪魔はガパァァッと巨大な口を開け——ゴォォォオオオオオオオオッッッと高熱の火炎を放射した。


 口から吐かれた猛烈な勢いの炎は盾ごと一凜を呑み込もうとするが——直前で、まるで炎自身が一凜を避けるようにブワッッと割れ、一凜の左右を通り過ぎて行った。


 火炎放射が終わり、完全に捉えたと思った一凜が火傷(やけど)一つ負っていないとあって悪魔が目を細める。


 一凜の能力は磁力操作。

 鉄製のマンホール(こう)がひとりでに浮かび上がったのもそうだが、磁石と反発する反磁性体である炎が一凜を避けて通り過ぎたのも磁力操作による現象だ。


「火を吐くのか。なかなか凶暴だな」


 呟いた一凜がまたチャキッと拳銃を構えたのを見て、悪魔はブブゥゥゥンッッと(ハエ)のような透明の(はね)を震わせるように羽ばたかせて飛び上がった。


 一凜は撃ち落とす為即座にパァンッと銃撃するが、悪魔は紙一重でヒラリと弾丸を躱す。


「……!」


 今の攻撃は飛翔する悪魔の進路を先読みしてその進行方向に弾丸を置くような精密射撃だった。しかも指の動きや銃口の向きを見られないよう抜銃(ドロー)の動作からそのまま腕を振るいながらという曲撃ちで。


 それが躱されたとなると……

 

(この悪魔、亜音速の弾丸が見えているのか……)


 眼や脳が世界の流れを処理する速度——フリッカー融合頻度。


 ゲームでもフレームレートが高い程動画は滑らかになってラグが少なくなるものだが、人間はこの時間分解能が1秒間に60フレーム——60fpsしかない。

 対して蝿等のフレームレートは人間の4倍強——250fps以上。つまり蝿と同等の性能を持つ悪魔の眼は人間の4倍の処理速度で物体の動きを捉える。逆に言えば、蝿がハエ叩きを余裕で躱す理由と同じく世界を速さ4分の1のスローモーションで見ることが出来るということだ。悪魔が持つ魔眼の前では秒速340mの音速(マッハ1)に近い銃弾ですら新幹線程度の目で追える速さでしかない。加えて常人の数十倍の身体能力と高速で飛翔できる(はね)を持つ悪魔であれば、銃弾を目視で避けることも容易い。

 そしてさっきは喰らった銃撃を躱しているということは、悪魔が大我の体を使いこなし始めているということ。大我の意識は徐々に深い暗闇へと呑み込まれていく。


 それを証明するように——ドドドドドドッと連続で放った弾丸も悪魔には(かす)りもしない。どころか最小限の動きで躱しながら一凜へと迫ってくる。


 一凜も銃弾を避ける悪魔の動きはまぐれではないと悟り、磁力で操作するマンホールの蓋に乗って空中サーフィンをするように飛び回りながら悪魔の追撃を掻い潜る。


 空中を飛びながら一凜は自分に有利な場所を探すが、銃撃での牽制を踏まえても空中機動力はまだ悪魔の方が上。


 追い付かれた一凜は道路脇から磁力操作で引っこ抜いた白いガードレールを盾にして悪魔の拳を防ぎ、さらには赤い下向き三角に『止まれ』と書かれた道路標識をぶっ叩くように悪魔に激突させ、ドガァァアアアアンッッッと地面に叩き落とした。


 その隙に高度を上げて周囲を見渡し……


(見つけた……ついて来い悪魔ッ!)


 降り立ったのは町外れにあった廃工場。鉄製の廃材が多く残されている、一凜にとっては武器の宝庫だ。


 撃墜された分の時間差で数秒遅れて飛んできた悪魔もダンッッッと地面に亀裂を入れつつ廃工場の敷地内に着地する。


「ガァァァァアアアアアアッッッ!」


 即座に襲い掛かってくる悪魔に対し、一凜が腕を軽く振るうと——ガコォオンッッと工場内から外れた鉄骨が一凜の手の動きに連動して猛烈な勢いで引っ張られてきて、直撃した悪魔を派手に吹っ飛ばした。


 ガシャァァァアアアンッッッと工場の外周を囲む金網に激突し、盛大にそのフェンスを歪めた悪魔にさらなる磁力の追撃が——侵入者対策としてフェンス上部に設置されていた有刺鉄線がギギギギギギイィッと金網ごと歪んでいき、悪魔へと巻き付いていく。


 一凜の磁力操作は近衛操華の念動力ほど精密な物体の操作は出来ないが、磁性体を動かす出力だけで言えば一凜の方が上だ。

 悪魔自身の暴れる動きも相まって鉄条網(てつじょうもう)が絡まり、悪魔は一時拘束される。


 その隙に一凜は拳銃の弾倉(マガジン)を差し替え、悠々とその銃口を向ける。


 悪魔は鋭い爪で鉄条網を切り裂いてギリギリで体勢を立て直し、亜音速の銃弾を見切る魔眼を向けるが——


 ——ドォオンッッッッッッ!!!


 超音速(・・・)で放たれた弾丸がドシュゥッッと悪魔の左肩を貫通し、背後に消えていった。


 今一凜が撃ったのは魔力を多く含んだ鉄とコバルトを混ぜ合わせた特殊合金製の銃弾。金属元素と魔素粒子が結びついた物質は魔力の影響を受けやすく、加えて元々が強磁性体である鉄とコバルトを使用した特殊な弾丸に火薬の勢いを受けるのと同じタイミングで磁力の反発力を掛け合わせて通常弾とは比較にならない運動エネルギーの弾丸を放ったのだ。


 続けてドォオンッッッ、ドォオンッッッと轟音を立てる特殊弾は悪魔の右腿、脇腹を貫いていく。

 それは、最初に一凜が銃撃して悪魔の硬質の黒い皮膚に弾かれた時と寸分違わぬ位置。


 最初と違い、この銃は最早牽制するだけの武器ではない、という一凜のメッセージだ。


 だが体に複数の穴を空けられたにも関わらず悪魔は異常なタフさですぐに起き上がってきた。

 一凜もそれは想定しており、自身の周囲には既に工場内から()ぎ取った何本もの鉄骨を磁力で浮遊させている。


 それらを飛ばして向かってくる悪魔を迎撃するが、鉄骨ごと吹っ飛ばされるたびに起き上がり、何度でも向かってくる。


(妙だな……磁力の作用が捉えづらいとは言え、亜音速の銃弾を見切れる悪魔がこの程度の速度の鉄骨を喰らい続けるとは……喰代(ほうじろ)大我(たいが)の理性が呑み込まれたにしても、あまりに単調すぎる……)


 微かな違和感を抱きながら、一凜が何度目かの鉄骨を磁力で放った時、驚くべき事が起きた。


 悪魔も一凜の方に掌を向けた途端、鉄骨が空中で止まったのだ。

 いや、正確には双方向から働き続けるエネルギーが鬩ぎ合うように鉄骨が震えている。


(馬鹿なッ……悪魔(ヤツ)の手から、磁界が発生している……!?)


 地球の地磁気——磁場を感じ取る能力は、渡り鳥やクジラ等、意外にも多くの動物が有しているが、一凜も魔力の覚醒と同時にこの第六感を獲得していた。


 自然界に存在する動物達のそれよりも遥かに高性能な一凜の磁覚が、悪魔の手から突如発せられた磁力線と磁束密度を正確に感じ取ったのだ。


 よく見ると鉄骨に向けられた悪魔の掌にはガパァァと裂けたような()があり、そこから一凜と同質の魔力が吐き出されている。


(まさか、私の魔力を喰ったのか……! 鉄骨を喰らい続けたのもその為……だが……!)


 付け焼き刃の磁力操作で一凜(オリジナル)に勝てる道理はない。


 グンッッッと一凜は魔力出力を一気に上昇させ、鉄骨を無理矢理悪魔へと押し飛ばした。


 磁力での押し合いを潔く諦めた悪魔はガシッッッと鉄骨を掴み取り、掌にある口と牙でバギンンッッと噛み砕いた。


「暴食の悪魔か……相当な雑食だな」


(大我から魔力を感じなかったのも、おそらく体内にいた悪魔(コイツ)が魔力を全て喰らい尽くしていたからだろう。面倒な……だがまたすぐに磁力操作を使ってこないところを見るに、喰った魔力特性をコピー出来る訳ではなく喰った分の魔力を吐き出してしまえば終わりらしいな)


 考え終えた一凜の目前に、ブゥゥゥゥウンッッと不快な羽音と共に高速飛翔する悪魔が顔と両手にある口を醜く開きながら迫る。


 その口に噛み付かれる寸前、一凜はマンホール(こう)のような鉄の足場も無しに生身一つで宙に飛び上がった。


 地球が持つ磁性——地磁気と自分自身を反発させたのだ。


 もともと骨や血液は常磁性、内臓や皮膚は反磁性と、人体は非磁性物質ではないが、磁界に強い感応を示す訳ではない。

 だが一凜は魔力覚醒時に磁力に適応しており、自身の体に限り人体であっても魔力操作による磁力を作用させることが出来るのだ。


 悪魔は即座に(はね)を羽ばたかせて上向きに方向転換するが、一凜は作業場にある質量の大きい磁性体——産業機械に自身を牽引(けんいん)して飛び、工場内に戦場を移した。


 まんまと工場内についてきた悪魔を見て、一凜はニヤッと口元を歪めながら磁力を全開で発動させる。


 ——ギギィッ、ギギギギギギギギギギイイィッッッ!!!


 工場全体が歪んでいくような異音があちこちから上がり、バギンッッ、ガゴォンッッと施設を支える骨組みの鉄骨が次々と外れていく。


 一凜の攻撃前に叩こうと悪魔が飛翔するが、ズドドドドドドォォッッッと降り注ぐ鉄骨の雨になす術なく撃墜され、押し潰された。


「終わりだ悪魔」


 一凜が呟いた直後、支柱を抜かれて限界を迎えた工場が崩壊する——ドドドドドドドドドドドドドドドドオオオオオォォォォッッッッ!!!!


 鉄筋、鉄骨、木材、コンクリート、あらゆる建築資材が雪崩となって崩落し、一凜もろとも鉄骨の下敷きになって動けない悪魔を呑み込んでいく。


 大規模な爆発でもあったかのような粉塵が舞い、それが晴れる頃には……工場は跡形もなく倒壊して瓦礫の山だけが積み上がっていた。


 その一角で、鉄材を屋根にして生き延びた一凜が磁力で瓦礫を押し退けて出てくる。


(……魔力が絡む事件に関して超法規の権限が与えられているとは言え、流石にやり過ぎたか。報告書が面倒だな……)


 本部に戻ってからの書類仕事を想像し、先が思いやられるといった顔をした一凜の背後で——ガシャァアンッッッと瓦礫を飛散させながら悪魔が飛び出してきた——!


 勝利を確信し油断したタイミング。

 完全に虚を突かれ、一凜は悪魔に押し倒されてしまう。


「くッ……!」

(鉄骨をッ……いや、間に合わない——!)


 咄嗟に磁力操作で瓦礫をぶつけようと考えるが、それよりも早く悪魔の凶悪な爪が一凜の喉元に迫る——!


 ——ドシュゥッッッ!!


 ぽた、ぽた、と(したた)る血に一凜が反射的に瞑ってしまっていた目を開けると……悪魔自身が、反対の手で自分の爪を受け止めていた。


「ぐッ、ぅぐァァァァッ! 痛ってぇなぁクソがッ……!」

 

 静まり返る工場跡地に響いたのは、悪態をつく大我の声だ。


「お前……意識が戻ったのか」

「ああ……まだ(もや)がかかったみてぇな感じだけどな……」

「フッ、遅いんだよ悪魔が」

「誰が悪魔だ誰が。俺は……俺だ」

「どうでもいいが、とりあえずそこをどけ。その巨体は重過ぎる」

「お前が貧弱過ぎるんだろうが」


 互いに憎まれ口を叩きつつも、大我は言われた通りに一凜の上からどいて瓦礫の上に寝転がる。


 その直後、徐々に悪魔の体が縮んでいき、元の大我の体へと戻っていった。


「……どうして戻って来れた。呼びかけに対する応答も無く、お前の意識は完全に悪魔に呑まれたと思っていたが……」

「なわけねぇだろ。口も体も動かせなかっただけで、ずっと根性で耐えてたっつの。お前、抹殺を開始するとかほざいてたクセに、俺を拘束した決定機に心臓も脳ミソもブチ抜きゃしねぇ。ンな真似されりゃ気合いで起きねぇ訳にはいかねぇだろが」

「フン。だったらもっと早く起きろ。気合いが足りん」

「うっせ。……で? 俺はこっからどうなんだよ。制御出来てなかったらどうとか言ってやがっただろ」

「選択肢は3つだ。悪魔を抑える方法を探して日常に戻るか、私と共に公安で働きながら悪魔の制御法を模索するか、今すぐ悪魔を制御下に置いて何処(どこ)かのギルドに入るか」

「ハッ、誰かの下につくなんざ死んでもゴメンだ。お前ら公安のモルモットになる気もねぇぞ」


 大我は力むような仕草で踏ん張り、ボコォアッと右腕だけを悪魔化して見せた。


「それなら、選択肢4だ。自分でギルドを作れ。その能力を使いこなせるのなら世の中の役に立つだろう」

「世の為人の為とか、ンなヒーローみてぇな仕事、(がら)じゃねぇよ」

「ギルド員はヒーローじゃなく傭兵みたいなものだ。魔物や異常犯罪者相手ならいくらでも強い奴と喧嘩出来るぞ。合法的にな」

「……だから俺は別に望んで喧嘩してる訳じゃねぇんだよ。売られた喧嘩を買ってるだけ——」


 奏葉とも同じような会話したな、と思いつつ大我が反論していると、ゥウーーーーウゥーーーーとサイレンの音が聞こえてきて、程なく到着したパトカーから数人の警官と、警察の回復系能力者に撃たれた傷を治して貰っていたらしい奏葉が出てきて駆け寄ってきた。


「大我君! 大丈夫!? 今度こそっ……殺されちゃうんじゃないかって、私っ……!」


 奏葉は心配してたあまり大我をがばっとその大きな胸に抱き寄せ、ぎゅぅぅぅっと腕で締め付ける。


「ちょっ、おいッ、俺は問題ないってのッ! それよりお前の方こそ撃たれた傷は大丈夫なのかよッ!」


 どういう原理かは分からないが、一凜の磁気加速弾に撃たれた傷は悪魔から大我の体に戻った時に綺麗さっぱり消えていた。悪魔状態で受けたダメージは大我には引き継がれないらしい。


「うん。私も大丈夫。警察の人が綺麗に治してくれたから、後も残ってないわ。ほら」


 ブラウスの(すそ)(めく)り上げて撃たれた脇腹を見せてきた奏葉の手を大我が慌てて止める。


「み、見せなくて良いってのッ!」

「あはは、このくらいで照れてるの? 可愛い〜」


 などとやっている2人の傍に、一凜が拳銃をレッグホルスターに仕舞いながら瓦礫を踏み越えて近寄ってきた。


「森本奏葉。済まない。悪魔ではない貴女に私は引き金を引いた」


 一凜が奏葉に対し、深く頭を下げる。


「い、いえ、幻影で私自身が誤認識させたせいですから」

「それでも、済まない。当然、故意に捜査を撹乱させ、悪魔の存在を隠そうとした貴女は、刑法第103条に基づき犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪に問うこともできる。だが私の謝罪を受け入れてくれたことと相殺し、見なかったことにしておこう」

「……その言い方だと俺は犯人扱いってことじゃねぇか? っつーかお前の立場でンなこと出来んのかよ?」

「任せておけ。国家機密のため詳しい立場は明かせないが、私はただの公安警察ではない」

「ほー。ま、興味ねぇけどな。じゃ、帰るか」

「警官に車で送らせよう」

「いや、パトカーに乗ってるとガチで犯人の気分になって気分が悪そうだ。自分で帰る」

「分かった。では喰代大我。お前には期待している。また戦場で会おう」

「へいへい」


 一凜は大我や奏葉に背を向けてパトカーに向かいながら背中越しに手を振った。


「それじゃ、一緒に帰ろっか。大我君」

「……1人で帰る」

「帰り道一緒でしょ? ツンツンしないの。先生脇腹撃たれたんだから」

「いやさっき治ったって言ってただろうが」

「ふふっ、まあまあ。そう言えば、あの公安の人に期待してるって言われてたのはどうして?」

「あー、ギルドを作ることになった」

「えっ? 大我君が?」

「悪魔を野放しにする条件だと」

「わー、大変だね。じゃ、私も大我君のギルドに入ろうかな」

「危ねぇからやめとけ。ギルド員は傭兵みたいなモンらしいからな。奏葉に(つと)まるとは思えねぇ」

「またそんな言い方して……私が危ない目に遭うのを止めようとしてくれてるんでしょ?」

「なッ、ンなんじゃねぇよッ!」

「私幻影使えるし、結構役に立つと思うけどなー。それにお互い学校辞めて教師と生徒じゃなくなったら私と恋愛できちゃうよ?」

「は、はぁッ? 何言ってんだお前!? っつーかその幻影、自分を悪魔に見せたり俺を悪魔に見せないように隠したり、なんであんなことしたんだよ。下手したら(つか)まってたんだぞ」

「それは……大我君が好きだから」

「……ッ!」


 驚きすぎてとうとう声も出なくなった大我。


「生徒として、ね」

「……ンだよクソが。紛らわしいこと言ってっと置いてくぞ」

「えー? 紛らわしいって何がー?」

「うっせ……もう知らん」


 悪魔を()じ伏せようと、公安のエージェントを退(しりぞ)けようと、1人の女には一生勝てる気がしないと大我は思った。


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