第41話:黒幕
「どう……なってる……?」
安全な檻の中に居たはずのひなのが……命懸けで守ったはずのひなのが……血溜まりに倒れ伏している。
そして、一緒に檻の中に入れて守っていた愛理の姿がない。
何故こうなったのかは分からないが、とにかく確認しようと、雄理はすぐにゾンビ達が転がる地面を蹴り、檻を解除してひなのへと駆け寄った。
「ひなちゃんッ……!」
その流血量を見て、遠目からでもひなのがもう手遅れであることが分かっていたが、居ても立っても居られず呼び掛けた雄理の声に返事は無く、横たわるひなのの体はピクリとも動くことはなかった。
胸には拳ほどの大きな穴が空いていて今も止めどなく血が流れている。そして首には怪力で絞められたような跡も。
ふと、雄理はその遺体の傍の地面に人が通れるくらいの穴が空いていることに気付く。
(ゾンビが地面を掘って侵入したってのか……!)
思い返してみれば、榊のゾンビは車の運転さえしていた。地面を掘る個体がいてもおかしくはない。
守ることに関して最強の力を手に入れたのに、なぜ想定出来なかったのか……そう自責の念に駆られる雄理は縋るように、もう1つの疑問の答えを探す。
(愛理は……ッ!)
その時、倒れたゾンビの体で隠れていた、檻の中のものと繋がっているらしい地面の穴から、
「ぷはっ、お兄ちゃん! 助けて!」
と愛理が出てきた。
「愛理ッ……!」
雄理はすぐに手を掴んで愛理を穴から引き上げる。
「お兄ちゃん! すぐに穴からっ、追ってきてて……怖い……っ!」
「安心しろ。もう大丈夫だ」
抱きついてくる雄理を安心させるように宥める雄理はその地面の穴へと視線を注ぐ。
すると——ガッッと血塗れの細い右腕が出てきて地面を掴んだ。
そのままゆっくりと姿を現したのは、咲和のゾンビ。
「咲和ちゃん……!」
「さ、咲和ちゃんが地面から檻の中に入ってきて……ひなちゃんを殺して……私、その隙に穴に入って逃げて……っ!」
(なるほど……俺を吹っ飛ばしたあのパワーでせっせと穴掘りしたって訳か……とは言え——)
「言っただろ、もう大丈夫だって」
雄理はその言葉の直後、ガシャンッと解除していた檻を再形成して咲和を閉じ込める。今度は地面から逃げられないように足元まで。
どんなに魔力量が多くてパワーを発揮できようと、アダマンタイトを操れる雄理には最早無力だ。
ガァンッッ、ガシャァンッと檻の内側から格子へと激突を続ける咲和は、尋常ではない形相で愛理を睨んでいるように見える。
「お兄ちゃん……愛理怖い……それに、咲和ちゃんも辛そうだよ……早く楽にしてあげて……?」
「……うん」
ザッザッザッと地面を踏み鳴らし、雄理がアダマンタイトの剣を片手に咲和を閉じ込めた檻へと近付いていく。
目の前までやってきた雄理に対し、咲和はそれでも格子を握り締めて愛理を見つめている。
何人を喰い殺したか分からない程血塗れのその口が、ヒトの言葉を発した……ように聞こえた。
——よくも、と。
その言葉の真意は分からない。本当にそう言ったのかも分からない中、
「お兄ちゃん! 早くっ……!」
「…………」
雄理は親友を早く殺せと兄に頼まなければならない妹の悲劇に、そしてひなのを殺された怒りに言葉も出ず、咲和に向けてヒュッと剣を振るう——が、ビタッとその剣が、いや、雄理の体が金縛りにあったように固まる。
「先輩! 待って下さい!」
「——え?」
その能力と言葉で雄理を止めたのは……
「ひな……ちゃん……?」
死んだはずのひなのが、雄理に手を向けて宙に浮いていた。
雄理がひなのの遺体があった方を見ると——そこではまだ変わらず血溜まりに倒れるひなのの体がある。
浮いている方のひなのはよく見ると透けていて、その体の向こう側がうっすらと見えている。
(幽霊……?)
「離れて下さい!」
雄理に向けていた手を下ろして金縛りを解いたひなのの幽霊がそう叫んだ直後——檻に閉じ込めていた咲和が前触れもなくバタッと倒れた。
まるで操り人形の糸が切れたかのように。
(何だ……?)
何が起きたか理解できない雄理の体内で、ボギンッと脚が折られる音が鈍く響いた。
「え——ぐッ、ああぁッ……!」
普段表情の変化が薄い雄理が激痛に顔を顰め、片脚の支持を失って地面に転がる。
「先輩!」
宙を飛んだまま雄理に駆け付けたひなのに対し、
「あーあ、なんでこうなるかなぁ。お兄ちゃんにはサプライズしたかったのに」
普段より低い声でそう言ったのは——愛理だった。
「あい……り……ッ!?」
痛みに耐えながら絞り出すように声を発した雄理に目を向けられ、その雄理の脚を背後から蹴り折った愛理が「あはっ♡」と嗤う。
さっきまで咲和から感じていた魔力を、今は愛理から感じる。いや、咲和の魔力どころではない。何十人、何百人分もの膨大な魔力が愛理に宿っている。
まるでこれまでゾンビになった者達の魔力を全て集めたかのように……
「待っててねお兄ちゃん。もう少しで2人だけの世界が作れるから♡」




