第39話:アダマンタイト
(……ん……痛った……!)
目を覚まし、深い穴の底に落ちてしばらく気を失っていたことに気付いた雄理はすぐに愛理とひなのの顔を思い浮かべ、周囲を見回すと——元の美しいフォルムは見る影も無くひしゃげてしまっている高級車、ベンツのEクラス カブリオレの傍に倒れている2人の姿を見つける。
駆け寄って様子を窺うと、2人とも呼吸で胸郭が上下している。どうやら全員助かったらしい。
(良かった……にしてもどうやって出ればいいんだ……?)
安堵した雄理が後ろに座り込みながら上を見上げると、地上の光が漏れ入る穴の入り口まで軽く20m程。ビルの7〜8階くらいの高さがありそうだ。
さらに今座り込んだ時の違和感——地面が異常な程硬く、尻餅をついた程度の衝撃でも骨まで響くような痛みがあった。
(こんな硬い所に落ちてなんで生きてるんだ……? てか、これ……ニュースでやってた隕石か……?)
どうやらトンネル内の照明が全て故障していたのはこの隕石の影響だったらしい。
穴の底に嵌るように収まっている隕石は元は真球形に近い形だったのかドーム状に盛り上がっており、雄理達が乗っている上部は何故か少し凹んでいる。
まるで空気が抜けて上部が潰れたバランスボールのような形だ。
(これがアダマンタイト……この世で1番硬い物質か……)
雄理が地面に埋まったそれを触り、凹みの縁の部分を掴むと——バキンッ。
「……は?」
普段から感情の表出がやや乏しい雄理には珍しい素っ頓狂な声がこの閉鎖空間に響き渡る。
簡単に、千切るように取れてしまったアダマンタイトの一部をコンコンっとノックするように叩いてみるが、ザラザラの部分が微細な突起の構造をしていたのか、雄理の手の甲に擦り傷ができて小さな出血が起きた。
(いや硬すぎ……)
実は脆いのかと思った雄理だったが、そのあまりの強度にアダマンタイトへの評価を改める。
(じゃあなんでもぎ取れたんだ……?)
もう1度よく観察しながら触ってみると、雄理はその隕石に魔力が宿っており、触れている掌で自分の魔力と反応していることに気付く。
試しに魔力を流し込むように意識してみると、一部がグニャンと飴細工のように歪み、雄理のイメージした通りに変形した。
一部が、というのはどうやらこの隕石の全てがアダマンタイトというわけではなく、ダイヤモンドよりも硬い六方晶ダイヤモンドのような物質に表面を中心としてアダマンタイトが含有された鉱石のような物質だったからだ。
もう一度魔力を流し込んでアダマンタイトが分布する位置を正確に把握し、それらを集めるようなイメージをすると——瞬く間に雄理の前で融合していき、テトラポッドの突起を幾つも増やしたような形の、直径1.5m程の塊が出来上がった。
(魔力操作で浮かせることも出来るのか……)
それは隕石から抽出した、純粋なアダマンタイトの塊。
暗灰色をベースとして部分的に揺らめくような黒の濃淡が散在する不思議な色をしている。
1番硬いとされてきたダイヤモンドよりも硬いロンズデーライトのさらに上、ウルツァイト窒化ホウ素というこの地球上で最も硬いと言われてきた物質があるが、アダマンタイトはそれらとは比較にならない無敵の硬度を誇る史上最硬の物質だ。
この世で魔力が適合した雄理だけが操ることを許された、真の最硬にして不壊のアダマンタイトを手に入れた雄理は、最早ゾンビが何匹襲ってこようと絶対に傷付くことはない無敵の力を得た。
インスピレーションのままに、雄理は変形させたアダマンタイトを鎧のように纏い、さらに剣をも形作る。
(隕石から作った剣……流星剣ってところかな……)
鎧は戦国時代の甲冑や中世ヨーロッパの板金鎧とは違い、全身の体格に合わせたシンプルな装甲でありながらアダマンタイト特有の模様と光沢がないマットな質感で雄理を覆っている。
生身では見た目以上に質量のあるその物質を筋力で動かすことは出来ないが、中の体を動かすのではなく魔力によって鎧を中の自分ごと動かせば驚異的な動作が可能となった。
剣も腕で振るのではなく剣自体を操作することで慣性を無視したような高速連続斬撃を繰り出すことが出来き、その素振りの音がヒュゴゴゴゴゴゴゥッッとあり得ない程の風切り音を立てて周囲に風圧を巻き起こす。
「ん……お兄ちゃん……?」
「……んぅ……」
今の風圧で愛理が気絶していた愛理とひなのが目を覚ました。
「えっ……先輩……ですか……?」
「ああ、俺だよ。気がついて良かった」
頭部も兜で覆っているため、起きた直後に傍に立っていた鎧の男を怖がる様子を見せた2人に魔力操作で兜を解除して見せる雄理。
「……愛理達あの穴から落ちてきたんだっけ……お兄ちゃん……それどうしたの……?」
「ここ、ニュースでやってた隕石のクレーターだ。底にあったアダマンタイトで作ってみた」
「作ってみたって……アレは硬さと重さでまだ撤去すら出来ないって……」
「俺の魔力が適合したんだ。この力があれば、絶対に2人を守れる。もう大丈夫だ」
「先輩……」
「まずはここから出よう。掴まって」
剣を変形させ鎧の一部へ融合させた雄理は校舎から飛び降りた時と同じように2人を抱え、重装備とは思えないほどフワッと跳び上がり、そのまま浮遊するように上へと飛んでいく。
「すごいっ! お兄ちゃん飛んでるよ!」
「飛んでるって言うか、鎧を浮かせてるんだけどな。魔力喰うし、長時間は無理そう」
前は飛び降りたが、今回は2人を首に抱きつかせて上へと登っていき、地上へと辿り着いた時、雄理達に更なる試練が待ち受けていた。
——ガァァァッ、ギェァァッ、ギャァァゥッ、ゴァァァァッッ!!!
数え切れない程のゾンビ達が、クレーターの周囲、360°全方位を囲んでいたのだ。




