第33話:進路相談
「はーい、じゃあ今日のプリントは今週中に提出してねー」
最後列の席まで今配った進路希望調査票が行き渡ったのを見て、担任の藤宮先生がクラス全体に提出期限を伝える。
そのプリントを読む晃生に、隣の席からクラスのイケメン、伊月彗が声をかけてきた。
「な、晃生君。この前俺が体育の授業で怪我した時、治してくれたの君だろ? 言い忘れてたんだけど、サンキュな」
彼はサイドにカールのかかった韓国風センターパートが似合う細身の長身で、爽やかな人当たりにより女子に人気を集めている。
「いや、別に何もしてないけど……」
勝手にやった事だけにわざわざ言う必要もないととぼけてみせる晃生だったが、
「嘘吐くなよ。皮膚が捲れてたのに、保健の先生が付けてくれたガーゼを家でとったらもう治ってたんだ。回復能力なんて君しか聞いたことないし」
簡単にバレて、晃生はばつが悪そうに目を逸らし、後ろ髪をわしゃわしゃと掻く。
「あー、まあ、痛そうだったから」
「もうすぐサッカーの試合もあるし助かった。何も言わずに治すとかカッコいいかよ」
「そんなつもりじゃないって……」
「分かってるよ。とにかく、マジでありがとな。将来は医者とか消防士とか、救急隊員とか向いてるんじゃね?」
彗はそう言い残して前に向き直った。
(わざわざ礼を言ってくるなんて、良い奴だな。イケメンだし、モテるわけだ)
そんなやり取りをしているうちにホームルームも終わり、引退後も後輩の顔を見に部活へ行く者や、下校する生徒達が教室を出て行く。
そんな中、晃生は今の時間で配られた進路希望調査票を見つめていた。
(将来か……)
「晃生君! 何してるの?」
難しい顔をしてプリントを見つめる晃生に、ロングボブの髪をハーフアップにアレンジした木乃香が声を掛けた。
顔を上げると、プリントを覗き込んできていた木乃香の顔が思ったよりも近くにあり、晃生は顔を赤くする。
「あ、ああ……進路、どうしようかと思って」
「私、晃生君の考えてること分かるよっ。この前の学園のこと考えてるんでしょ? みんなに招待状が届いたあの日、行きたいって顔してたし」
晃生の心を見透かしてやったというドヤ顔を炸裂させる木乃香。
実は先日、ゴーレム討伐の件で能力を認められた晃生達6人の元に、特殊技能者育成学園からの招待状が届いたのだ。
特殊技能者育成学園——それは魔力に覚醒した未成年者を育成する訓練校で、なんでも編入学者が殺到しているらしい。
というのも、数ヶ月前に新設されてからニュースで学生達の活躍がひっきりなしに報道されているが、そこは任務の斡旋や能力の向上を目的とした指導を受けられるにも関わらず、ギルドや国の能力者育成機関と違って私立の学園であるため国に管理されないのだ。
そんな学園をわざわざ私財を投じて作った創設者は公には発表されておらず、様々な憶測が飛び交っている。
能力者ならこの学園への入学でなくても、どこかのギルドに所属するか、警察や自衛隊に入るか、もしくは自分でギルドを作るという選択肢もある。
だが晃生は『自身の覚醒した能力を社会に役立てる』ことまでは決めていても、具体的な進路がまだ選べずにいた。
「……まあ、そうかな。いやどうだろ……この紙が配られる前から、この力をどう使うべきか、ずっと考えてる……」
「そうなんだ……凄いね、晃生君は」
「いやそんなことないけど……あー、その、木乃香は? 進路決まってる?」
なんとなく、進路を聞いてしまえば同じ進路に進みたいという自分の気持ちに気付かれるかもと緊張する晃生は歯切れ悪く尋ねた。
「え? わ、私……? 私はその……まだ迷ってるかなぁ」
(晃生君と同じとこに行きたいなんて言えないよぉ……!)
「そっか……」
(この力を持つ俺にしか出来ないことを探したい……でも……木乃香と一緒の進路に進みたい)
お互い普通の高校生のように進路に悩む2人。そこへ——
「なんの話してんだ?」
「多分進路のことじゃない? とーまと違ってみんな色々考えてるから」
「愛奏音ちゃんは頭良いし、良い大学行けそうだよね」
「要領が良いだけよ。勉強なんてやるかやらないかだけなんだから」
灯真と舞桜、勇斗と愛奏音がそれぞれ別のクラスからやってきた。
「みんなは将来のこと、どう考えてる?」
進路に迷う晃生が、ちょうど良かったとみんなに問いかける。
「さあな。バケモン退治で忙しいし、んな事考えたことねぇな」
「僕らもだ。モンスターの出現数は徐々に増えてる気さえする」
「だよなぁ……」
灯真と勇斗の答えも晃生や多くの高校生と同様で、まだ自分の今後の道筋がはっきり見えずにいた。
そこで、
「あっ、私用事があるんだった。ごめんみんな、晃生君。先に帰るねっ」
木乃香がそう言って、自分の机から鞄を取って一足先に教室を後にする。
残った5人で大学への進学や企業への就職について少し話してから、1人で考えたかった晃生も先に帰ることにした。
教室を出て、下駄箱で靴を履き替えながら晃生は思う。
(この能力で、俺にしか出来ない事がある気がする……)
魔力によるほぼ無限のエネルギー、超回復による医療への介入、身体能力を活かしたモンスター討伐。
それらを頭の中で思い浮かべる晃生が帰り道を歩いていると——先に帰ったはずの木乃香の姿が目に留まり、脳内の選択肢が白紙になる。
横に、伊月彗が並んで歩いていたからだ。
(あの2人……)
ダメだと思いつつも、気になって気付かれないように近付く晃生の耳に2人の会話が聞こえてくる。
「木乃香ちゃんってさ、今好きな人いたりする?」
「えっ!? ……うぅー……、うん。いるよ……?」
「……そっか。それってさ……俺だったりしない……?」
その先の答えが聞きたくなくて、晃生の足が止まる。
歩き続ける2人と距離が離れて行き、木乃香が時間を空けて答える。
晃生の耳には、ザザァーーーーっと、ただ葉擦れの音だけが雑音のように聴こえていた。
木乃香と彗は並んで歩いたまま——笑顔で帰って行った。




