第29話:再起動
「マジかよッ……まだ生きてやがったのかッ……!」
「これで死んでないのかよッ……!」
倒したと思っていたゴーレムが岩石の体をボロボロと崩しながらも立ち上がった。
(ヤバいぞこれ……!)
下手に動けば自衛隊員を巻き添えにしてしまう。訓練された銃を持つ兵士とは言え、魔力の覚醒レベルが低ければこの場では何の役にも立たないのだ。
だが動かなければそれこそ全員まとめてペシャンコにされるだけ。
判断に迷っているうちに、ゴーレムの巨大な脚が振り下ろされる。まるで蟻でも踏み潰すかのように。
「退がれッ!」
晃生の叫びと共にそれぞれ魔力で強化された身体能力で瞬時に攻撃範囲から退避するが、氷壁で全員を守る選択肢がよぎった舞桜が数瞬出遅れる。
——ッドォォォォォオオオオオオオオオンンッッッッ!!!!
「くッ、重い……ッ!」
歯を食いしばる操華がゴーレムに向かって手を伸ばしている。おそらく今の一撃を念動力で逸らしたのだろう。
お陰で自衛官達や舞桜は直撃を免れたが、瓦礫が飛散する2次被害が容赦無く襲い掛かる。
ガンッッと石礫が高速で頭部に当たり、舞桜は気を失ってしまう。
「舞桜ぉッッッ!!」
叫ぶ灯真を含め、木乃香や愛奏音達も巨大な散弾のように飛来する瓦礫ですぐには引き返せない中、回復力を活かした捨て身の晃生と共に、勇斗も超人的な剣捌きで瓦礫を弾きながら舞桜へと駆け寄る。
そこへ左腕を引いて構えていたゴーレムの拳が——
「晃生君ッ!」
「ああッ!」
——ゴォォォォォオオオオオオオオッッッと再び迫る大質量の打撃。
晃生はそこへ全力で突っ込み、ゴーレムの拳が加速しきる前に——ッッドゴォァアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!
(止め切れないッ……!)
それでも全速力の運動エネルギーを足し合わせていない単純な殴り合いではゴーレムの大質量の拳を止められず、ズァァアアアアッッと晃生ごと舞桜の方へと拳を押し出していく。
(でもッ……!)
そこでゴーレムの腕の内側へ躱していた勇斗が居合いの構えで魔剣へと全力の魔力を込め、右斜め上へと振り抜く——軌道斬り。
ヒュガァァッッッと空気を斬り裂きながら、刃の軌道の先へ斬撃が飛ぶ。
その半月状の魔力の刃がゴーレムの左肩を高速で通過し、その魔素の腕を体から切り離した。
瞬間、力が込められなくなった腕は慣性だけで舞桜へと迫るが、晃生が減速させていることで灯真が間に合い、舞桜を抱いて熱噴射で後方へ退避し間一髪ゴーレムの拳を逃れる。
ザザザザザァッと晃生を押し込んだ巨大な腕がようやく止まり、ドズゥゥゥンンンッッッと地面に落ちて砂埃を巻き上げる。
「っ危ねぇ……!」
舞桜を抱き寄せる灯真が睨み付けたゴーレムに対し、即座に勇斗と晃生が迫る。
(次の攻撃が来る前に削り切るッ……!)
2人が眼を向けるのは脚の付け根。もう立ち上がれないように、股関節に狙いを付けて跳躍する。
両腕を失ったゴーレムは残った脚で蹴りを繰り出そうと脚を引くが、予見していた晃生達の方が早い。
「今度こそッ!」
「終わりだッ!」
——バガァァァァァンッッッッ!!!
——ザキィィィィィンッッッッ!!!
あれだけ硬かったゴーレムの体が簡単に破壊される。
戦いの中で成長した晃生達の身体操作、魔力操作の練度もあるが、さっきの化学反応で表面が脆くなり、これまでの戦闘でゴーレムが内包していた魔力量が激減していたからだ。
左右の股関節を粉砕・切断されて支持を失ったゴーレムの胴体が落下し、ドズゥゥゥゥンッッッと地に落ちる。
ゴーレムの中に知覚できる魔力が無くなり、ガラガラと人型からただの岩の塊へと崩れていった。
(舞桜……もう大丈夫だぞ……)
緊張感が解け、強く舞桜を抱きしめていたことに気付いた灯真が腕の力を緩める。
「無事ですかっ!?」
そこへ衛生科隊員を連れた操華が駆け寄り、舞桜の容態を診る。
「……衝撃で気を失っているだけのようですね。すみませんでした。市民を守るべき自衛官が何も出来ず……」
「いえ、他の自衛隊員達に飛ぶ瓦礫を念力で防いでいたのは分かってますから」
晃生が答え、衛生兵は不要とばかりに舞桜を回復させる。
スゥゥっと瓦礫が当たった額の傷が消え、舞桜が目を覚ました。
「……んぅ……えっ、あれ……っ」
みんなの前でお姫様抱っこされている状況を認識し、普段は灯真をからかう舞桜が顔を真っ赤にしていく。
「ちょ……何これっ……降ろしてとーまっ」
「おい暴れんなッ」
照れた顔を見られたくない舞桜は灯真の腕の中から逃れ、タタタっと小走りで愛奏音の後ろへ隠れる。
そのやり取りを見て安心した晃生が「フゥ」と一息つき、魔剣を仕舞う勇斗の方を向いた。
「にしても勇斗、よくアレを斬ってくれたな。俺だけじゃ押し込まれてた」
「晃生君こそ、よく止めてくれたよ。氷堂さんが無事で良かった」
晃生と勇斗が互いを労う中、そこへ灯真が近寄って行く。
「……勇斗。ありがとう。お前のおかげで舞桜を助けられた」
「い、いや……出来ることをやっただけだよ……」
「お前の剣は俺達に必要だ。家族のことも、本当はお前のせいなんかじゃないって分かってたのに、受け止められなくて、八つ当たりしちまった。悪かった……」
「……逆の立場だったら、きっと僕も同じだったよ」
一時は拳を振り上げ、刃を向け合った2人が互いを見つめ合い、握手を交わした。
「晃生もサンキュな。やっぱめちゃくちゃだよ。お前の身体能力は」
「いや、最後にその子を守ったのはお前だよ」
晃生とももう一度コツンっと拳を合わせ、灯真は改めて舞桜が助かったことを心の中で噛み締める。
(俺は……まだ弱い……)
舞桜に降り掛かる火の粉は全て払う——その誓いを改めて思い出した灯真は、ギュゥゥッと拳を強く握り締めた。
その後は自衛隊員達が晃生達の前に綺麗に整列し、
「では、この場は私達に任せて下さい。民間のご協力、感謝します」
という操華の言葉の後にバッと全員同時に見事な敬礼をした。
そして手早く後処理に取り掛かるのを見て、晃生達も帰路に就いた。
その帰り道で、
「それにしても、異界方面隊なんてかっけぇもんが出来てるんだな」
と、晃生が誰にともなく呟く。
「勇ちゃん、公安警察に続いて自衛隊にまでスカウトされちゃったわね」
「マジで? 公安にも勧誘されたことあるのか。かっけぇぇ」
「いや、愛奏音ちゃんのお父さんが警視長で、その縁があっただけだよ」
「親が警視長……かっけぇぇ」
「お前……ガキかよ」
「晃生君は中2から成長してないんだねぇ」
さっきから「かっけぇぇ」ばっかりの晃生を灯真と木乃香がディスる。
「う、うるさいなっ! 絶対お前らも思ってるだろ!」
「勇ちゃんは思ってたわよ」
「とーまも絶対思ってるし」
「思ってねぇよ!」「思ってないよ!」
男達はまたからかわれ、女性陣に揃って笑われるのだった。




