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解離性アストラルレイド 〜異世界大戦〜  作者: Aki
第1章 覚醒者達
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第28話:亀裂

「お前……回復あるからって無茶すんじゃねぇよ」

「本当に。でも凄いよ。君がいてくれて良かった」

 灯真と勇斗がそう言いながら拳を突き出し、

「こっちこそ助かった。皆がいなきゃ勝てなかったよ」

 晃生(こうき)もコツンっと拳を合わせた。

 

「もうっ! 晃生君のばか!」

 共闘で芽生えた男の友情に木乃香が割って入り、バンッッと晃生の背中を強く叩いた。

「痛っ! ちょ、今猫パンチ打たなかった?」

「知らない! 心配させないって約束、どれだけ破れば気が済むのかな!」

「心配、してくれてたのか……」

「当たり前じゃん! 晃生君が強いのは知ってるけど、でも……」

「大丈夫だ。俺は必ず無傷で勝つ。前回もそうだったし、今回もそうだろ」

「……それ、治ってるだけで無傷って言わないし……もういいっ」

 ずっとそばで見守るから——晃生には聞こえない小声で最後にそう言った木乃香は少し顔を赤くし、そっぽを向く。


 他の女子2人も無茶のし過ぎとそれぞれ男達にお小言(こごと)しお説教モード。

 岩の巨人を倒せようと男は女に逆らえないものらしい。


「にしてもお前ら、どこでそんな力手に入れたんだ……?」

 お説教逃れのために灯真がそんな話を振ると、それは他のみんなも気になっていたらしく見事に話題が逸れ、各々覚醒時の状況を語り合う。


「へぇ、勇斗の魔剣は異世界で抜いたのか。そんで魔力が溢れて山羊(やぎ)のバケモンが悪魔のバケモンに進化したってことは、強い魔力は生物を強化するもんなのかもな。魔力が溢れてからはこっちの動物とか虫もバケモンに変わってやがるし」


 そこで勇斗が異世界へ迷い込んだ時の話を聞いた灯真がそんな考えを語る中、晃生は少し違和感を覚えた。


「100匹のトカゲ……? 俺達が異世界で襲われたゴブリンは、まさにトカゲが進化したような姿だった。数もちょうど100匹くらいだ……」


(……俺達の帰還時の状況から見て、ゲートはこっちと向こうの時空を繋いでいる。同じ学校に通う俺たちは、同じ日に異世界へ迷い込んでいたのなら向こうでも比較的近い距離に居たはずだ)


 向こう側で互いに出会えなかったことや、晃生達が魔力感知を覚えるまでにそれらのゲートが閉じてしまっていたことは不運としか言いようがないが……そのことよりも、晃生はジャックが自分達に会う少し前に、近くで爆発的な魔力の波動を感じたと言っていた事を思い出す。


(あれは勇斗が魔剣を引き抜いた時の魔力の波動だったってことか……?)


「おい……ちょっと待て。俺の家は虎の牙と牛の角が生えた、火を操る赤鬼に燃やされたんだ。さっきの火の玉に、赤い虎に、肉食の牛ってのはなんだ……?」

 灯真が、勇斗を(にら)みながら言う。


「おい灯真。どこにも確証なんてないッ。勇斗だって剣を抜かなきゃ玉森さんごと殺されてたんだッ」

 晃生が灯真を(なだ)めるが、ヒートアップした灯真にもはやその声は届いていない。


「俺の母さんと妹は、その赤鬼に燃やされたッ!」

 怒りに我を失った灯真はゴォァァッッッとその体に炎を纏う。その熱に他の5人が咄嗟に距離をとった。


「とーま!」

 舞桜が叫び、すぐさま冷気で止めようとするが、それより早く熱噴射(ジェット)で加速した灯真が勇斗へ殴り掛かる。

 勇斗も反射的に魔剣を抜いてしまい、魔剣が推奨斬撃コースを想起させる——ドォォォオオオオオオオンッッッッッ!!!


 魔剣と火拳が激突した——かに思えたが、寸前で晃生が間に入り、双方の攻撃を止めていた。

 ジュゥゥゥッと灯真の燃える拳を掴む晃生の右手は熱傷を負い、左手は勇斗しか持てない魔剣に触れたことによってバチバチバチッと青く激しい放電火花(スパーク)でダメージを受ける。


 それを見た両者はすぐに拳と剣を引いた。


「落ち着け灯真。勇斗も。俺達で()り合ってどうすんだ」


 両手のダメージを治しながらの晃生が2人を(いさ)める。

 それでも怒気を収めない灯真が何かを言おうとしたその時——


 ザザザザザザザザッと統率された動きで素早く晃生達を取り囲んだのは、迷彩服と防弾チョッキ(ボディアーマー)で装備を統一した()()()()()

 歩兵ではゴーレム達に敵わず、要請(ようせい)したアパッチの攻撃範囲から一時退避していた陸自の一個小隊だった。

 その中から中心にいた——自衛隊には珍しいため目立っていた女性隊員が1歩前へ出る。


「能力を解除しなさい。魔力による私闘は厳禁、条例違反による罰則があることは知っていますか?」


 透き通った声で話し始めたその女性隊員は、後ろで纏めた洒落(しゃれ)っけの無い髪型でありながらも整った顔立ちで、長身、細身の体は体幹を鍛えているためか重心を揺らさずに立っており、ピシッと綺麗に背筋を伸ばしている。

 他の隊員を統率していることから、その女性がこの隊の指揮官(リーダー)である事が分かる。肩に光る階級章は下線に星3つ——一等(いっとう)陸尉(りくい)のものだ。


(若い……20歳くらいじゃないか?)


 男女平等社会の中で女性自衛官の活躍も認められるようになっているのは理解している晃生も、そもそも自衛隊内で女性の絶対数が少ない中、この年齢で幹部の座についている事には違和感を覚える。


「魔力に関する法律の立案は追いついていないのが現状ですが、現在国会における審議中です。いずれ成立、公布されるでしょう。この危険な場所で、あなた達は何をしているのですか?」


 晃生達を取り囲む自衛隊員達はまるでこの騒動を起こした犯人を見るような目を向けて警戒していた。

 怪しい動きをすれば携帯している小銃(アサルトライフル)——89式5.56mm小銃の銃口を向けられかねない。


 自衛隊が市民に銃を向けるなんてことは万に一つもあってはならないが、魔力によって暴徒化した市民を自衛隊が秘密裏に処理しているという噂もある。


「まるで犯人扱いだけど、俺達があのゴーレムを倒したんだよ。あんた達の仕事取ったからって、この仕打ちは無いだろ」


 晃生のセリフに、自衛隊員達が驚いた顔をする。


「……今作戦に()いて、我々は207名からなる一個中隊で任務に当たりました。その中には私のように魔力に覚醒した能力者も数名含まれていましたが、あの状況では市民を避難させるだけで精一杯でした。要請した戦闘ヘリまでも撃墜された。にも関わらず、君達はあの怪物達を倒したというのですか? それが本当なら、君達はたった6人で一個中隊を上回る、大隊級の戦力ということになります」


「だったら何だよ。危険だから連行するってか? それよりあんたは誰なんだよ?」

 怒りが収まっていない灯真はさっさと失せろとばかりに強気な口調で言い、勇斗ももしもの時に備えて愛奏音(あかね)の前に出た。


(この少年達……これだけの自衛隊員相手に一切(ひる)んでいない……)


「……申し遅れました。私は近衛(このえ)操華(そうか)一等陸尉。中隊長を任されています。証拠も無く逮捕したりはしませんよ。ただこの場に居合わせた以上、事情聴取はさせて頂きたいところですが」


 その時、晃生達を囲む自衛隊員の中から、

「中隊長! この少年達は先の任務中、私の命を救ってくれた者達です!」

 と、これも若い、男の自衛官が声を上げた。

 それは勇斗達が現場に到着した時、ドラゴンが落とした家に潰されそうだったところを助けたあの自衛官だった。


「……本当ですか?」

「はい! 間違いありません!」

「……ならば信じましょう。ですが、私自らの眼でも確認させて頂きます」

「確認……?」

 嫌な予感を覚えた晃生がその単語を繰り返した時、フワッと、近くにあった車サイズの岩が3つ、まるで見えない手に掴まれたように浮かび上がった。


「私の攻撃を防げたなら、貴方達があの岩の怪物を倒したと信じましょう。それで事情聴取とします」

「中隊長! また貴方はそんな……!」

 操華(そうか)の言葉に、下線に星2つの肩章——二等陸尉の階級からみて副中隊長と思われる男が慌てて声を上げる。


「さっきはならば信じましょうとか言ってたのに……」

「めちゃくちゃだあの女……」

「事情聴取の意味……」

 晃生、そしてガチ喧嘩中だった灯真と勇斗も思わず口を(そろ)えて批判を口にしつつ身構える。


 手も触れず、ゴウウウゥゥゥッッと巨岩を同時に3つ飛ばした操華(そうか)は、念動魔力の覚醒者。

 操作する物体が単体でも複数でも、総合して与えられる運動エネルギーには魔力に依存した限界があるが、その魔力量は現在自衛隊に存在する能力者の中でもトップクラス。この能力により、彼女は若くして一等陸尉の階級を与えられたのだ。


 だが——バガァァンッッ——ドゴォォンッッ——ザギィィンッッ!!


 晃生はシンプルにぶん殴って岩を破壊、灯真は火炎によって威力を増した蹴りで粉砕し、勇斗も魔剣による斬撃で一刀両断した。


「流石です。ではこれはどうでしょうか」

 これは対処されると分かっていた様子の操華だが、あまりにも簡単に防がれたことで能力者としての血に火がついた様子を見せ、次の岩へと魔力を込める。

 それは……家程もある巨大な岩石。ゴーレムから欠けた破片の中でも化学反応の影響を受けていない深層・中心部分の、最も大きな岩塊だった。


「おいおい……アイツ本当に自衛官かッ? これは私闘には入らねぇのかよッ」

「多分な……さっきあの人が言ってた通り、法律が追い付いてないし、向こうは国家権力。立場が違う」

 灯真が至極真っ当な疑問を口にし、晃生も額に汗を(にじ)ませる。


「2人とも手を出すな。ここは俺がやる」

「おい晃生ッ!」

 

 今晃生は高い身体能力を持っている少年と認識されているが、この操華による『事情聴取』が長引けば超回復を使わざるを得なくなるかも知れない。

 そうなれば自身の持つ無限の魔力回復という規格外の力に気付かれるリスクが高くなる。そしてそれは、無限に回復できる『死なない部隊』への軍事利用に目を付けられる可能性に繋がってしまう。


 ただでさえ灯真や勇斗、女子組も高い戦闘力を有しているとバレている中、それは避けたいと考えた晃生は、

「次俺1人で防いだらそれで終わりにしてくれよ」

「良いでしょう」

 と、先に言質を取る。


 ズァァァアアッッと迫る巨岩に対し、助走をとる距離も時間も無かった晃生はダッシュ攻撃(DA)での破壊を瞬時に諦め、ズンンンッッッと両手で受けた。

 少し押されたところで地面を踏みしめて耐え、巨岩を止めることに成功するが、操華の念力によって押されている岩は止めても運動エネルギーがゼロになることはなく、晃生へと迫り続ける。


「ぐッ、ゥゥぁぁあああッ」

 ズンッッと、晃生が1歩、前へと巨岩を押し出す。


 晃生の筋力と操華の念力。双方が生み出せる運動エネルギーはほぼ拮抗している。

 (はた)から見れば後は魔力量の多い方が勝つように思えるが、晃生の能力は超回復であり現在魔力は使っていない。操華もこれが最大出力とはいえ、実戦ではいくらでも工夫の余地がある汎用性の高い能力だ。

 どちらが強いかは、この巨岩相撲だけでは分からない。


 不意に、スッと操華が念力を解き、晃生がドズンンッッッと前方に岩を押し出してしまう。


「……気が変わりました。やはり直接戦いましょうか」

「は……?」

 自衛官らしからぬ言動に晃生が呆気(あっけ)に取られる中、操華が直接晃生へと念力を発動する。

 まるで見えない巨人の手で掴まれるように晃生の体へ強烈な念力が働く——が、晃生はその場に踏み(とど)まっていた。


(え……?)

 まるで巨大ゴーレムに念力を向けた時のような感覚。


(動かせない……!)

「くッ……馬鹿な……!」

 全身に力を入れて魔力操作に集中し、その念動力の魔力出力を上げていく操華だったが、まるで山を押しているような気分になってきて、次第にその力を抜いていった。


「……凄まじい力です。その力であの岩の巨人を()ったのですね」

「まあ、俺だけの力じゃ無いけど……認めてもらえたって事で良いのか?」

「ええ。勿論(もちろん)です。今回の事は失礼致しました」

 綺麗な姿勢で頭を下げる操華に対し、ホントにだよ……と思う晃生達だったが、そこは何も言わずに謝罪を受ける。


「ところで、私は自衛隊内で新設された異界方面隊第16旅団に所属しています。そこでは魔力に覚醒した元々の自衛官の他にも、能力者を積極的に採用しています」

「あー、何を言われるか分かるから答えるけど、まだ今は学生の身なんで。卒業してからの事は、これから考えます」

 みんなの気持ちを代弁し、自衛隊に勧誘されることを先読みした晃生が返答する。


(あんなぶつかり稽古みたいなのが面接じゃ、入ってから何されるか分かったもんじゃ無いからな……)


「……そうですか。あなた方ほどの力の持ち主なら、また私と出会う事もあるでしょう。その時はどうか、力を貸して下さい」

「はあ、それは、こちらこそ……」

「では、私達はこれで——」


 操華がそう言って去ろうとした時——ズズズァァァァァァアアアアアアッッと倒れていたゴーレムが起き上がった。

 頭部を失い、右腕を切断され表面を溶かされ胴体に風穴を開けられながらも。


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